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§トマト・ピーマンの”専用配合肥料”を用いた全量基肥施肥
大分県農業技術センター 化学部
主幹研究員 小野 忠
§砂地のニンジントンネル栽培における全量基肥施肥法
静岡県農業試験場 海岸砂地分場
副主任 渥美 和彦
§鹿児島県奄美地域の重粘土壌に適したジャガイモ施肥法
鹿児島県農業試験場 徳之島支場
土壌肥料研究室長 久米 隆志
大分県農業技術センター 化学部
主幹研究員 小野 忠
栽培期間が数カ月以上におよぶ果菜類の栽培では,長期間にわたって草勢を良好に維持するため,土つくりによって健全な根圏環境を整え,作物への円滑な養水分の供給を図る必要がある。
肥効調節型肥料には養分の溶出パターンや持続性において多くの種類がある。この特徴を利用して果菜類の生育に必要な養分を長期にわたって安定供給を行い,基肥に全量施用する全量基肥施肥栽培が可能となる。そして,施肥の省力化や,肥効の向上により減肥が可能で,環境保全の面でも有効である。
本報では,夏秋作のトマト,ピーマン栽培を対象にし,肥効日数の異なる複数の種類の被覆肥料を組み合せた”専用配合肥料”の特性と,この肥料を上手に使い全量基肥施肥栽培を成功させるための留意点を述べる。
夏秋ピーマンでの被覆尿素の肥効の持続性について,重窒素標識肥料を使い,被覆尿素LP(100)(以下,被覆肥料の肥効日数を( )で示す)を用いた全量基肥施肥法と尿素の分施法を比較した事例を示す(図1)。

果実に吸収された肥料室素の割合は,収穫開始直後には施肥法による差異は小さい。分施法ではその後の低下が大きいのに対し,全量基肥施肥法では7月下旬までほぼ横這いで推移し,肥効が安定して高く維持される。このように,被覆肥料から供給される窒素は肥効が持続し,肥料室素の作物に利用される割合も被覆肥料を使った全量基肥施肥法が分施法より高い。
夏秋ピーマンの従来の施肥法では,基肥に速効性窒素が多く施用されていた。しかし,定植後のおよそ1ヶ月間は株の生長量や着果量が少なく,窒素吸収量も少ないため,多量の速効性養分は不要である。さらに,速効性養分は定植後のかん水で溶脱し易く,多量かん水では,肥料切れを起こし易いので,少量かん水を心がける必要がある。
定植後の少量かん水条件で,ロング(180)と組み合わせて3種類の肥料を施肥し収量を比較すると,CDU配合肥料が速効性より多収であった(表1)。さらに,10aの窒素量で,短期間肥効のCDU配合肥料5kgとロング(180)18kgとのつなぎ肥料として被覆尿素(100)の7kgの添加は,生育が旺盛になる6~7月の窒素溶出量を高め,増収効果が認められた。

粒状肥料を使用することで,生産農家のニーズにあった様々な種類の肥料を配合できる。そこで,専用肥料の配合では,農家へのニーズが高く,付加価値を高めるために以下のことを考慮した。
ピーマン専用肥料の配合では,その肥効期間から30~40日間の肥効を示す有機質肥料を前述のCDU配合肥料に置き換え,肥効日数100日タイプの被覆尿素は,やや肥効日数が長くなるが,尻腐れ果の軽減効果が期待できる被覆硝酸石灰(180)で置き換えた(表2)。

果菜類の栽培では家畜糞堆肥の施用が慣行的に行われるが,多量施用により土壌へのカリの集積が問題となる。カリの集積は作物への石灰の吸収阻害の原因となるため,注意が必要である。10a当たり堆肥5tの標準施用量では約40kgのカリが供給されるので,専用肥料ではカリの量を窒素やリン酸より少なくし,さらに被覆硫加(140)を用いて,収穫が始まり着果量が増える時期にカリが供給されるようにした。このような点で,専用肥料はすでにカリが集積している土壌への施用に適しているともいえる。

今日では,肥効タイプの異なる複数の種類の被覆肥料と粒状肥料(有機肥料含む)等との配合が可能となり,この種の肥料が様々な作物で導入されつつある。従来の施肥では,生産農家は,被覆肥料や,その他に複数の種類の肥料を基肥として施用しなければならなかったが,専用肥料の導入により,1種類の肥料だけを施用すれば良く,施肥の労力軽減にも役立っている。
トマト専用肥料に配合されている窒素の組成は有機質肥料(菜種油粕,蒸製骨粉等)5%,LP(50)30%,LPS(100)50%,LPS(120)15%で,これに,苦土重焼リン及び被覆カリ(140)を配合し,N-P2O5-K2Oは12-12-6である。10a当たりの窒素施肥量は30kgで,製品では240kg施用を標準とする。
専用肥料を4月上旬に施肥し,1カ月後に着花苗を定植する作型の生育と窒素の溶出パターンを図2に示した。

この作型では,6月上旬に第3花房の果実肥大が始まり,その後,上段の花房に連続して着果し,8月まで着果負担が大きい。よって,栄養生長と成熟生長のバランスがとれる6月上旬頃が窒素の溶出を高める目安となり,その後,8月までは十分に養分を供給する肥効パターンが望まれる。
専用肥料の窒素の肥効は,定植から1ヶ月間の初期の生育には有機質肥料とLP(50)から窒素が,供給され,着果負担が大きくなる定埴後1ヶ月頃(6月上旬)から3ヶ月(8月上旬)にかけてLP(50),LPS(100)およびLPS(120)からの窒素供給量が高まる。
現地での専用肥料を使った全量基肥施肥の実証試験では,CDU園芸配合,シグモイド型ロング(180),被覆尿素配合肥料,ボカシ肥料,菜種油粕等5種類の肥料を施用し,さらに,追肥を行う慣行施肥と同等の収量が得られている。
ピーマン専用肥料に配合されている窒素の組成は有機質肥料(蒸製骨粉,魚粕,菜種油粕等5種類)23%,LP(100)21%,LP(180)37%,被覆硝酸石灰(140)19%で,これに,苦土重焼リン及び被覆カリ(140)が配合され,N-P2O5-K2Oは9-8-6である。10a当たりの窒素施肥量は30kgで,製品では340kg施用を標準とする。
養分の溶出パターンとして,4月上旬の施肥直後に定植し11月下旬まで栽培する作型の例を図3に示した。

初期生育には,有機質肥料や3種類の被覆肥料から溶出する窒素が供給され,株が大きくなり,着果量が増加する6~8月とそれ以後は被覆肥料からの窒素の役割が大きい。
専用肥料の施用により,ピーマンの初期の草勢は強くはなく中庸である。その後,気温上昇に伴い,株が急に大きくなり着果量も増大する。これと平行して専用肥料からの養分の溶出が進み,この時期には土壌有機物の分解による窒素供給も増加してくるので,地力窒素の高い土壌では減肥や増収が期待できる。
現地での専用肥料を使った全量基肥施肥の実証試験では,CDU園芸配合,シグモイド型ロング(180),菜種油粕等3種類の肥料を施用し,さらに追肥を行う慣行施肥と同等の収量が得られている。
全量基肥の成否には,土壌管理,とりわけ水管理が重要な鍵を握っており,水管理を失敗すれば,どんなにすばらしい肥料を使っても,その特徴を発揮できない。
当然のことながら,根の生育を阻害するような排水不良,土壌の圧密等の物理性の阻害要因や,土壌の酸性,養分不足等の化学性の阻害要因,有害線虫や病原微生物等の微生物的な阻害要因の対策を行うことが必要である。
トマトは,定植後の生育初期に窒素肥料が効きすぎると窒素勝りとなり,過繁茂になり易い。最近は,若苗定植やセル苗直接定植等の育苗の省力栽培が普及しつつあるが,未開花の苗が本圃に定植されると栄養生長が旺盛となり,これを制御するため極端な水切りが行われる。定植後の水切りは,土壌の深層への根張りを促す。しかし,作土は乾燥し,作土の根の生育を抑制するほどの水分状態となる。
3段花房の果実肥大が始まる頃から,最も着果負担の大きい時期を迎え,養分の吸収を促すための本格的なかん水が必要となる。また,水分や養分を吸収するためには,作土中の根の回復が大きく関わってくる。さらに,梅雨期に入ると日照不足になり,蒸散量が低下することで養水分の吸収が抑制され,トマトは1年間で最も厳しい状況に置かれる。
夏秋栽培では,8月下旬~10月の出荷量が減少し単価が上昇する傾向がある。9~10段花房(収穫8月下旬~9月)が形成される時期は,梅雨の終わる頃で,この時期は日射量の少ないのに加え,株の着果負担が大きく,着果が不安定になり易い。
このように,トマトの生育や着果状態には,定植後の水管理による根の分布変化,着果負担の増大,梅雨期の日照不足と着水分の吸収阻害が相互に関連しあっている。よって,定植後でも最小限のかん水ができるような,初期溶出を抑制した肥料が望ましい。
ピーマンは,生育が進むと次々に分枝して着花し,水分と栄養条件さえ整えば,極端な落花や生育抑制はなく,果実は20~30日で収穫に至る。よって,根の生育に支障のない物理的に良好な土壌条件をつくり,安定した水分状態と養分供給を確保することが重要となる。
図4には,かん水チューブの設置位置に対し,基肥と追肥の施肥位置と施肥窒素の果実への吸収量の遣いを示した。基肥窒素をかん水側に重点施肥すると,全層や非かん水側に重点施肥した場合に比べて窒素の吸収が劣る。追肥についても,かん水側に重点施肥した場合も同様である。施肥後に果実に窒素が吸われる速さは,かん水側に追肥を行った場合が最も速いが,かん水により肥料窒素が溶脱し易く窒素吸収量は最も低くなる。

このように,速効性の窒素肥料はかん水によって溶脱され易く,定植後のかん水回数が多い場合はピーマンへの吸収量は少なくなる。そして,定植後1カ月間位の株が小さい間は,目立った草勢の低下は見られないが,生育が進み着果量が多くなると草勢が低下する。草勢の回復のためにかん水と追肥が繰り返されると,追肥量が増えて多肥傾向になり,塩類集積の原因となる。
よって,定植後には根の伸長を促すため株元かん水とし,その後のかん水は,土壌の水分状態を見ながら行う必要がある。黒ボク土の例では,定植時に畦内の土壌水分が適湿な状態では,2週間程度はかん水が不要であるが,簡易なテンションメーターを使ってpF2.2~2.3の値をかん水の目安とすると良い。1回のかん水量は土壌が過湿にならないように注意する必要があるが,土壌の保水力を考慮し,5~7mmの間でかん水量を調節する。
なお,土壌表面での水の広がりが悪く,保水力の小さい土壌では,かん水した水が畦に広がらずに下層が過湿になり湿害を受けることがある。このため,適度の水分状態で十分な砕土を行い,さらに,局所的に過湿を防ぐため,畦に二条のかん水チューブを設置するのも有効である。
今日,野菜産地の農業者の高齢化や後継者不足が進み,また,輸入農産物の攻勢も加わり,生産コストの低下と高品質,生産性の向上,そして,農作業の省力化等が求められている。
慣行栽培での施肥やかん水に要する時間を調査した事例では,ピーマンで約180時間, トマトでは約110時間であった。自動かん水を導入することで,既設のかん水機材を使い,精度の高いかん水が可能となり,専用肥料の全量基肥施肥を組み合わせることで,かん水と施肥と省力化が図られる。
自動かん水では,水分出力が可能な水分センサーを用いて,かん水出力値をpF2.2~2.3とし,かん水時間帯と1回当たりのかん水時間(かん水量でピーマン5~7mm,トマト1~3mm)を設定する。
ピーマンでは,栽培の全期間にわたりほぼ完全な自動かん水と無追肥栽培が可能である。トマトでは気象条件の影響で生育が変動し易いため,かん水量やかん水点を調節する必要がある。

専用肥料は,1種類の肥料を施肥すれば良い等省力効果も大きいが,土壌診断を施肥設計の基本に進めて来た産地では,窒素,リン酸,カリの集積状況に応じた施肥設計ができない等の問題がある。このため,専用肥料を導入するには,収穫後に窒素,カリおよびリン酸の集積が起きないような対策が必要である。
土壌中に窒素養分(主に硝酸態窒素)が多く残存するのは,追肥の過剰や有機物の多量施用が,また,カリが集積するのは,前述したカリを多く含む家畜糞堆肥の施用が原因である。この対策として,作物の養分吸収特性に合った肥料の選定(専用肥料),肥効を高める施肥技術,適正な水分管理,有機物の適正量施用等がある。土壌診断の結果,養分集積が認められ,専用肥料を導入できない場合には,被覆尿素等の単肥を使った施肥設計を行うのが良い。
専用肥料の施用により窒素の肥効が高まり減肥が可能であるが,減肥を確実にするには,条施肥や植穴施肥等の局所施肥が有効である。
条施肥では,畦を作る前に畦の中央部に条撒きし,その後に畦を作る。植穴施肥は,定植時に植穴に肥料を入れ,土壌と少し混和した後に,苗を定植する。
ピーマンでのCDU配合肥料,被覆硝酸石灰およびロングを使った局所施肥では,条施肥により3割減肥を行っても全層施肥に比べて増収する傾向が見られた。専用肥料でも同様な効果が期待できる(表4)。

静岡県農業試験場 海岸砂地分場
副主任 渥美 和彦
静岡県西部地方の遠州灘,駿河湾沿岸では,海岸砂地地帯が広がっており,日射量が多いことや排水性が良いこと,土壌粒子が均一なことなどのメリットを活かしてイチゴ,スイカ,メロン,トマトなどの果菜類やカンショ,ダイコン,ニンジンなどの根菜類の生産が盛んです。このうち,小笠郡大東町を中心とする地域は古くからニンジンの主要産地となっており,ニンジンを11~12月に播種,翌年4~5月に収穫するトンネル栽培が約50haで行われています。
当地域のニンジントンネル栽培では,1~2年前までの主力品種である「紅天2号」を例にしますと,基肥と追肥2回の施肥体系が普及していますが,追肥作業は幅1.5m程度のトンネル内に腰をかがめて行うため,作業強度が大きいものとなっています。また,肥料としては主に有機入り化成が用いられますが,かん水量が多いため,栽培期間中に多くの肥料が下層ヘ溶脱していることが考えられます。さらに,3月中旬頃にトンネル除去された後,それまでトンネル内に蓄積した肥料成分が降雨により溶脱し,暗きょ排水中の窒素濃度が高くなることが報告されています1)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
そこで,砂地のニンジントンネル栽培において,追肥労力の軽減と,溶脱量の抑制をねらった窒素施肥量の削減を目的とし,ロング,スーパーロング(以下Sロング)などを用いて全量基肥栽培を検討しました。
ニンジン「紅天2号」を,トンネル幅1.5m,条間20cm,株間10cmの6条撒きで栽培しました。肥料の種類,追肥の有無,窒素施肥量を変えた処理を表1のように設定し,1処理区6㎡,反復なしで試験を行いました。

全量基肥区では,施用直後から肥料が溶出するロング424の70日タイプや,施用後初期の溶出を抑制し,後期に多く溶出するSロング424の70日タイプ(溶出抑制期間:20日),100日タイプ(溶出抑制期間:35日)を単独で,あるいは有機入り化成と組み合わせて基肥とし,窒素施肥量は慣行より20%削減の17.5kgN/10a,40%削減の13.1kgN/10aとしました。また,基肥に有機入り化成とSロング70を施用し,追肥として有機入り化成を1回施用する処理(窒素施肥量17.5kgN/10a)も設定しました。なお,リン酸施用量は25.1kg/10a,カリ施用量は21.9kg/10aとし,BMようりんやケイ酸カリ等を用いて全ての処理区を慣行の場合に揃えました。そして全区に苦土セルカ2号を100kg/10a施用しました。
耕種概要は図1のとおりで,11/21に播種し,翌年3/28までトンネル被覆を行い,5/8に収穫を行いました。かん水はかん水チューブで3日間断15mm(15L/㎡)を目安に653mm行いました。なお,降雨量は基肥施用からトンネル被覆前とトンネル被覆除去後から収穫までの合計が237mmでした。

ニンジンの生育を追肥時期(1/22,2/22),および収穫時(5/8)に調査し,ニンジンの葉と根を乾燥,粉砕後,全窒素をケルテックオートで分析して窒素吸収量を求めました。また,栽培期間中にはトンネル内の気温と深さ10cmの地温をデータロガーで1時間毎に計測,記録しました。
収穫時の1本当たり根重は,慣行を100とすると全量基肥区で59~78とやや劣りましたが,80(C+SL70:緩効の80%施用量,以下同様),80(SL100),80(SL70+SL100)では収益性の高いLクラス(150~220g/本)相当の根重となり,全量基肥栽培は可能であると考えられました(図2)。

追肥1回を組み合わせた80(C+SL70+追肥)では,窒素施肥量を20%削減しても慣行と同等の根重となりました。全量基肥施用は根重が劣る点がまだ改良すべき施肥法ですが,Sロング70を用い1回の追肥を行えば窒素施肥量を減らしても慣行と同等の根重が得られるようになりました。
ロングの種類や溶出期間での違いについては,80(C+L70)と80(C+SL70)を比較するとSロングの施用で,80(SL70)と80(SL100)を比較すると100日タイプの施用で根重が優れる傾向でした。また,窒素施肥量の全量をSロング70とした80(SL70)よりも,窒素量で有機入り化成を20%,Sロング70を80%とした80(C+SL70)で根重が優れる傾向でした。
収穫時の窒素吸収量は,根重と同様の傾向を示し,慣行と80(C+SL70+追肥)で最大となり,全量基肥区の中では80(SL100),80(SL70+SL100)で大きくなりました。窒素施肥量から窒素吸収量を差し引いて求めた未利用窒素量は,慣行を100とすると全量基肥民で65~138となり,肥料の種類,窒素施肥量によっては慣行より大きくなりましたが,80(C+SL70),60(C+SL70),80(SL70),80(SL100),80(SL70+SL100)で慣行と同等ないし小さくなりました。未利用窒素は,下層へと溶脱してゆく可能性が高く,この量を減らすことができる施肥法は環境負荷軽減につながる技術と評価されると考えられます。なお,未利用窒素量は80(C+SL70+追肥)で最も小さく,慣行に対しほぼ半減となりました(図3)。

トンネル被覆によりトンネル内気温,地温は上昇し,露地に対して気温で平均4℃,地温で平均5.7℃高く推移しました(図1)。基肥施用から収穫までの積算地温を日平均地温から求め,これを元にSロングの溶出期間を「日数×25℃」で簡易に推定すると,70日タイプでは基肥後30日に溶出し始め130日頃までに,100日タイプでは50日に溶出し始め170日頃までに80%が溶出すると算出されました(図4)。

一方,ニンジンの生育はその窒素吸収量が基肥後70日(播種後60日)頃から急増し,収穫は180日頃で行われるので,ニンジンの窒素吸収パターンにより近い供給パターンが得られるのは,栽培期間後期まで溶出の続くSロング100日タイプであると考えられました。ロング70日タイプは図示していませんが,ニンジンの窒素吸収量の少ない施用直後から溶出していて,かん水によって下層へと溶脱する量が大きくなると考えられます。
秋冬作の野菜栽培では,ロングなどの被覆肥料を使うと,低地温のため溶出が遅くて,収量減を招いたり,気象の年次変動による生育変動が大きくなる場合があるといわれています。しかし,トンネル栽培では,地温が高いため肥料の溶出が早く,また,生育ステージに合わせて換気,かん水が行われて,生育環境の年次変動が比較的小さいので,被覆肥料を利用することの有効性が高いものと考えられます。
最近の1~2年で当地域の主力品種は,根色が鮮やかで糖度の高い「ベータリッチ」に代わりつつあり,これに伴って現地では基肥と追肥1回の施肥方法が普及し,窒素施肥量も14.6kgN/10aに変更されてきています。しかし,「ベータリッチ」の窒素吸収パターンは「紅天2号」とほぼ同様ですので,Sロングを用いた全量基肥栽培が可能であると思われます。
「ベータリッチ」のような少肥品種の採用や,施肥方法の改善により,施肥窒素のうち作物に利用されずに環境負荷となる量が軽減されてゆくことが期待されます。今後は,環境負荷量の評価について,作物の施肥窒素利用率だけではなく,地下ヘ浸透していく窒素溶脱量を把握する必要があると考えられます。現在,当分場では現地ほ場における窒素溶脱量の把握手法を検討中であり,得られたデータを施肥方法の改善などに活かし,環境への負荷を減らした持続的な農業の推進を目指していきたいと考えています。
1)望月康秀・戸田任重・川島博之:暗きょ排水組織を敷設した海岸砂地畑における窒素溶脱量の推定.土肥誌,71,512-519(2000)
鹿児島県農業試験場 徳之島支場
土壌肥料研究室長 久米 隆志
鹿児島県の奄美地域は,琉球諸島東北部の北は北緯28度31分,南は北緯27度01分,東は東経130度02分,西は東経128度24分の海域に位置する島島からなっている。有人島には奄美大島,喜界島,徳之島,沖永良部島,与論島があり,南西約162km,南北約168kmの範囲内に飛石状に連なっている。気候は亜熱帯海洋性に属し,四季を通じて温暖多雨である。年平均気温は22℃前後で,日平均気温が10℃以下になる日はない。年間降水量は3,000mm程度で,雨天日は梅雨期と1月から3月にかけて多い等の特徴がある。
本地域の土壌は,琉球石灰岩風化土壌が耕地面積の48%,粘板岩風化土壌が34%を占める。いずれも重粘土壌で,水分が多いと粘りが強く,乾くと硬くなる。一般に粘板岩風化土壌は強酸性を呈し,排水不良になりやすい。石灰岩風化土壌はアルカリ性を呈し,保水牲に乏しく,透水性が大きい等の特徴がある。
また,本地域には河川が少なく,農業用水,飲料水を地下水に依存している島々も多く,地下水の窒素汚染は今後の水利用に極めて深刻な事態を招くおそれがある。島という閉鎖系ゆえに,汚染の進み方も速いが,投入窒素量を減ずることで,汚染の防止,修復も容易にできると考えられる。
そこで,鹿児島県農業試験場徳之島支場では,環境負荷軽減を目的とした肥培管理の確立を目指して,本地域の基幹品目であるサトウキビ,野菜ではジャガイモ,花き類では露地電照ギク等に対して,被覆尿素肥料を活用した減肥栽培や効率的施肥法について試験を実施している。
奄美地域の農業は,サトウキビが主体で農業粗生産額の約32%を占めており,ついで野菜25%,花き21%の順となっている。
平成11年度におけるジャガイモの栽培面積は1,546ha,生産額は43億円に達し,サトウキビに次ぐ基幹品目で,「赤土バレイショ」として市場評価も高い。本地域のジャガイモ栽培は,本土産の種イモを10~11月の秋に植え付け,2~3月の春先に出荷する栽培体系である。また,ジャガイモ用の専用肥料は,本土での試験結果をもとに,肥効調節型窒素肥料の配合がなされているが,農家は過剰施肥の傾向にあり,収穫後も肥料が残っている実態が多々みられる。
平成11年度におけるジャガイモの栽培面積は1,546ha,生産額は43億円に達し,サトウキビに次ぐ基幹品目で,「赤土バレイショ」として市場評価も高い。本地域のジャガイモ栽培は,本土産の種イモを10~11月の秋に植え付け,2~3月の春先に出荷する栽培体系である。また,ジャガイモ用の専用肥料は,本土での試験結果をもとに,肥効調節型窒素肥料の配合がなされているが,農家は過剰施肥の傾向にあり,収穫後も肥料が残っている実態が多々みられる。
ジャガイモ栽培時期が冬季ということと,環境保全を考慮した肥効調節型肥料を活用するためには,本地域での窒素溶出特性を把握した肥料の開発および施肥技術を確立する必要がある。
表1にジャガイモ栽培の試験区の構成を示す。現在使用されているジャガイモ専用肥料は,窒素量の40%がLP70で,残りの60%が硫安等の速効性肥料である。この肥料の慣行施用量を対照に,被覆尿素肥料の種類をLP30に変更し,総窒素量を2割減肥して,被覆尿素の窒素の割合を20,40,60%に変えた区を設置して試験を実施した。実施場所は鹿児島県農業試験場徳之島支場内のほ場で,土壌条件は,琉球石灰岩風化土壌(細粒暗赤色土)の重粘土壌である。ジャガイモの品種は農林1号,畦幅80cm,株間20cmの1条植えで,平成12年11月13日に植え付け,翌年2月26日に収穫した。

また,ジャガイモ栽培期間にあわせて,LP30およびLP70を市販のお茶パック(ポリエチレン,ポリプロピレン等からなる複合繊維)に包み,土中深さ10cm位置に埋設した。それらを経時的に取り出し,残存している全窒素量から窒素溶出率を算出した。その時の地温も測定した。
さらに,別途ライシメーター施設を用いて,LP70の慣行施肥量とLP30の2割減肥施用下でジャガイモを栽培し,自然降雨による浸透水中の硝酸態窒素濃度および窒素溶脱量を比較した。
表2にジャガイモ収穫時の生育,収量を示す。被覆尿素肥料30日タイプを用いた②LP30-40%・2割減肥区,③LP30-60%・2割減肥区の草丈は,被覆尿素肥料70日タイプを用いた①対照(現地慣行)区の草丈を上回った。茎葉重については,②LP30-40%・2割減肥区,③LP30-60%・2割減肥区が優り,被覆尿素肥料の混合割合の少ない④LP30-20%・2割減肥区が下回る傾向にあった。塊茎個数,塊茎重,1個あたり塊茎重についても茎葉重と同様に②LP30-40%,③LP30-60%区が優った。

表3にジャガイモ茎葉及び塊茎の全窒素含有率および茎葉,塊茎合計の全窒素吸収量と窒素利用率を示す。茎葉,塊茎の全窒素含有率は,①対照区が最も高く,次いで,②LP30-40%,③LP30-60%区の順で,速効性肥料割合の高い④LP30-20%区が低い傾向であった。茎葉および塊茎の合計の全窒素吸収量は,③LP30-60%区が最も高く,次いで②LP30-40%区,①対照区の順で,④LP30-20%区が低かった。窒素利用率については,③LP30-60%,②LP30-40%区の順に高く,次いで④LP30-20%区で,①対照区が最も低かった。

①対照区の窒素利用率が低かった原因としては,施肥量が多いことに加え窒素溶出期間が長いタイプの被覆尿素肥料を用いたことによる窒素の土壌残存が考えられる。これに対して,④LP30-20%区については,速効性肥料割合が高いことから,生育初期からの窒素流亡によるものと考えられる。
このように,溶出期間の短い被覆尿素を使用し,2割減肥栽培したジャガイモの生育,収量は現行肥料栽培と同等以上であった。
施用窒素中の被覆尿素割合を20%にすると生育,収量がやや劣り,60%に高めると肥料単価が上昇することから,被覆尿素の配合割合は現行の40%で良いと考えられる。
図1に本ジャガイモ栽培時期に合わせて埋設したLP70およびLP30の窒素溶出率を示す。ジャガイモ収穫時期までの窒素溶出率が80%を越えたのはLP30で,LP70は50%程度に留まった。また,そのときの地温を図2に示す。ジャガイモ植付時期の11月の地温は20℃前後で,その後徐々に低下し,収穫時期では15℃前後である。南国奄美地域といえども冬季の地温は低く,被覆尿素肥料の窒素溶出は緩慢になるといえる。


これまで現地慣行肥料に使用されていた70日タイプの被覆尿素肥料は,本作型では,窒素溶出が遅く,ジャガイモの十分な生育が望めない。このことが,農家の多施肥傾向を助長していたと考えられる。さらに,ジャガイモ収穫後,春先の暖かくなってから残存窒素が溶解し,地下水ヘ流出し,環境汚染を引き起こすことが考えられる。
図3にLP70の慣行施用量とLP30の2割減肥栽培とでジャガイモを栽培した場合における浸透水中の硝酸態窒素濃度を示す。LP70を用いた慣行施肥量栽培での浸透水中の硝酸態窒素濃度は,生育初期に8.0mg/Lに達した。これに対してLP30を用いた減肥栽培の硝酸態窒素濃度は5.0mg/Lに留まった。栽培期間中ならびに栽培終了後も硝酸態窒素の溶脱が認められるが,いずれの時期も,LP30減肥栽培がLP70慣行施肥量栽培より低く推移した。

第4表に施肥窒素に対する硝酸態窒素の溶脱量および溶脱率を,栽培期間中ならびに収穫後3ヶ月ごとに示す。窒素溶脱量は各区画の浸透水中の期間中の硝酸態窒素総量から同期間中の無窒素区画の浸透水中の硝酸態窒素総量を減じて算出した。窒素溶脱率は,施肥窒素に対する窒素溶脱量の割合で示した。ジャガイモ栽培期間中の窒素溶脱率は,LP70慣行施肥量が高く,LP30減肥が低かった。収穫後も同様の傾向であった。時期別には,収穫後3~6ヶ月の梅雨時期の溶脱量が最も多かった。

被覆尿素肥料の利用に当たっては,生育初期の窒素溶脱を軽減するとともに,収穫後の窒素残存量はできるだけ少なくする必要がある。
本ジャガイモ栽培においては,窒素溶出が現地慣行肥料の70日タイプより短い30日タイプの被覆尿素肥料を利用して,しかも,窒素量を2割減肥することで,施肥窒素の地下水への溶脱が軽減された。
以上のように,現地慣行肥料より窒素の溶出が速いタイプの被覆尿素を使用して窒素量を2割減肥することで,ジャガイモの生育,収量は現行肥料栽培と同等以上となった。また,この施肥法でジャガイモ植物体の全窒素吸収量および窒素利用率が向上し,地下水への窒素流亡が抑制されることが明らかになった。
栽培期間が短い品目や冬期の栽培においては,生育初期の肥料過多による障害や降雨による窒素流亡,収穫後の窒素残存等を考えると窒素溶出の短いタイプの肥効調節型肥料の活用が,作物の増収,環境保全におおいに寄与すると考えられる。
奄美地域のジャガイモ栽培に対しては,結果的には,肥効調節型肥料のタイプを見直すというわずかな変更で,地域に適した環境保全型施肥法が確立された。平成13年産のジャガイモ栽培では,こうした結果に基づいた施肥法で,普及センターを中心に現地実証に取り組んだところである。また,これまで試験した栽培体系は,比較的遅植での結果であったため,試験場では追試験として,地温がやや高い時期の早植(10月植)での検討,肥料としての三要素のバランスを考慮して,窒素だけでなく,リン酸とカリウムを減肥した栽培にも取り組んでいる。今後,こうした成果を踏まえ,奄美地域に適合した環境にやさしいジャガイモ専用新肥料が誕生する予定である。