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第780号 2026(R8).05発行

Click here for PDF version 第780号 2026(R8).05発行

 

 

山形県内の黒ボク土スイカ畑における
秋マルチ作業時の全量施肥体系

Yamagata Prefectural Agricultural Research Center
園芸農業研究所
松田 晃

Introduction

 山形県のスイカの出荷量は,熊本県,千葉県に次いで全国第3位であり(2024年,出荷量26,100トン),夏スイカ(7~8月)の出荷量では全国1位である。県内の主産地は尾花沢市,村山市,大石田町であり,「尾花沢すいか」は全国的ブランドとして知名度が高い。産地形成の背景には,スイカの生育に適した黒ボク土,寒暖差の大きい気象条件等の要因がある。

 当地域は県内でも有数の積雪地帯であることから,春になってから耕起してマルチ張りを行おうとすると,作業期間を確保しにくく地温も上がらない。このため,前年秋のうちに,翌年の施肥,耕起,ベッドのマルチ張りまで行う,独自の「秋マルチ」技術が普及している。秋マルチ栽培は黒ボク土の膨軟な性質を利用しており,冬期の深い積雪を経ても過度に鎮圧されることが少ない。

 県内におけるスイカの慣行の施肥は基肥(作付け前年の秋マルチ時)と追肥(作付け当年の定植前や生育期間)の分施体系であるが,春先の労力削減等を目的に秋全量施肥体系が要望されている。そこで,スイカの秋マルチ作業時に肥効調節型肥料(被覆尿素)を用いた秋全量施肥体系が生育,収量,品質に及ぼす影響を検討した。

 現在,当地域で慣行の分施体系に用いられる基肥用肥料(地域向け銘柄)には,シグモイドタイプの被覆燐硝安加里(スーパーエコロング100日タイプ)が配合されている。しかし,近年の温暖な気象条件の下では,後半に肥効が切れやすいことが現場から指摘されているため,春に40~70日タイプの被覆燐硝安加里(ロング肥料)等を通路部分に追肥している場合が多い。本試験では,この春の追肥の代わりに,シグモイド100日タイプの被覆尿素(LPコートS100,溶出抑制期間がスーパーエコロングよりも長い)を基肥として施用し,全量基肥施肥とした。

 また,LPコートS100に加え,被膜の崩壊性を高めた被覆尿素製品JコートSE (シグモイド100日タイプ)も参考として供試した。現時点ではJコートの畑作での流通はまだ限られており,本稿はLPコートの利用を想定している。

2. materials and methods

 栽培試験は2024年に尾花沢市内の現地圃場(黒ボク土)で行った。用いた品種(穂木/台木)は‘祭ばやし777’ / ‘FRヘコタレン’(ユウガオ台)である。栽培方法はつる引き栽培,6本出し3果どりとした。株間は90cm,畝間は3.8m(ベッド幅1.6m,通路幅2.2m)とした。

 施肥処理として,以下の3試験区を設けた(表1)。①慣行区は,慣行の基肥と追肥の分施とした。②LPS区は,慣行の基肥とLPコートS100を全量秋施用した。③JSE区は,慣行の基肥とJコートSEを全量秋施用した。これらの試験区の施肥窒素の総量は同じ量(7gN/㎡)に揃えた。

 試験区は1区2畝(2a),単区制とした。2023年10月11日にLPS区にLPコートS100,JSE区にJコートSEを全面全層施用,10月12日に慣行の基肥(3区共通)をベッド内全層施用した。施肥位置の模式図を図1に示す。

 10月17日にベッドのマルチ被覆を行った。定植は翌2024年の4月28日に行った。慣行区の追肥は,定植後の5月上旬に通路部分に表面施用し(この後,同じ5月上旬に全区の通路をマルチ被覆),一部は生育期間中に液肥灌注した。なお,慣行区に液肥を灌注する際は,同量の水をLPS区,JSE区にも灌水した。収穫は8月1日に行った。生育調査は各区15株,果実調査は各区15果(内部調査はうち3果)を対象とした。

Results and Discussion

 LPS区およびJSE区の生育経過は,慣行区と大きな差はなかった(表2,図2)。摘心時期の最長子づる長と節数がJSE区でやや大きかったが,生育経過全体からみれば大きな影響はないと考えられた。

 収穫物調査の結果,果実重は慣行区9.17kgに対してLPS区9.58kg,JSE区9.23kgで,3試験区に有意な差はなく同等と判断された。但し,LPS区とJSE区では果実重の標準偏差や階級別割合からみて,ばらつきが若干大きかった(表3,図3)。

 このばらつきについては,この圃場の生産者は気にならない程度であると評価していた。品質に関する項目はいずれの試験区も良好な値で,すべての調査項目に有意な差はなかった。同様に,果皮厚,糖度にも有意な差はなかった。

 以上から,LPコートを用いた秋全量施肥体系で生育に大きな影響はなく,慣行並の収量と品質が得られた。また,LPコートの代わりに,溶出日数の同じJコートを用いても,生育,収量,品質は概ね同等であったことから,被膜の崩壊性が高いJコートの今後の利用も期待された。

4.秋マルチ作業時の全量施肥体系の概要と留意点

 秋マルチ作業時の全量施肥体系の概要と留意点は,以下の通りである。

1)施肥体系と概要

 上記の栽培試験結果より,スイカ栽培の秋マルチ作業時に,追肥相当の肥料としてシグモイド100日タイプの被覆尿素肥料(LPコートS100)を用いて秋に全量基肥を行っても,春に慣行の追肥を行った場合と同等の生育,収量,品質が得られた。

2)被覆尿素の溶出時期

 秋の基肥時期に施用したLPコートS100は,ベッド部分では5月中旬以降に,通路部分では6月上旬以降に多く溶出した(データ略)。通路での追肥の肥効発現はベッド内よりも若干遅くなった。ベッドと通路の溶出時期の差は,定植後まで(10~4月)のマルチ被覆の有無による地温の違いによると考えられた。

3)導入効果

 秋全量施肥体系によって,春先の施肥作業を省略できる。また,表層施用でなく全層施用できることから,溶出の安定化も期待される。さらに,2025年度の肥料価格によって肥料費を見積もったところ,上記の栽培試験では,秋全量施肥体系によって,肥料費は慣行の80%となり,2割削減された。

4)施肥位置

 基肥相当分の施肥位置は,慣行通りベッド内とする。追肥相当分の施肥位置は,(畝立て前に)全面施用とするか,(畝立て後,通路成型前に)通路のみ施用とする。上記の栽培試験は全面施用の結果である。被覆尿素を通路のみに施用の場合も,施用後に混和し,通路成型作業を行う。

5)施肥量の調節

 品種,土壌条件,栽培時期は圃場によって異なる。上記試験での施肥量は事例である。導入に際しては,各圃場において慣行の施肥量を基に,追肥部分の施肥量を置き換えて施肥設計を行う。初年目は小面積で試験的に栽培して確認すると良い。天候等の影響で草勢が弱い場合,液肥等を施用して草勢を維持させる。

6)窒素以外の養分

 追肥相当の肥料が窒素単肥となる。リン酸とカリについては,量は多くないが減肥されるので,土づくり資材(堆肥やケイ酸カリ肥料等)や基肥肥料によって必要量を施用する。

6. Conclusion

 以上より,スイカの秋マルチ作業時に,追肥相当量の窒素をシグモイド100日タイプの被覆尿素を用いて秋に全量施肥すると,春に慣行の追肥を行った場合と同等の生育,収量,品質が得られ,春先の施肥作業を省略できた。

 同じシグモイド100日タイプで,被膜の崩壊性が高いJコートSEを用いても,慣行並の収量,品質が得られた。なお,LPコートS100については翌2025年にも現地試験を行い,施肥位置を通路のみの施用としたが,おおむね再現性のある結果が得られている(未公表データ)。

 なお,今回の検討はシグモイド100日タイプのみで行ったが,栽培時期(定植時期,収穫時期)等によっては,溶出期間のより長い被覆尿素(シグモイド120日タイプ等)も選択肢となりうる。

 

 

促成トマトにおける全量基肥施用
新肥料「促成トマト一発40」の適用性

Fukuoka Prefectural Agriculture and Forestry Experiment Station
西山 雪乃

Introduction.

 トマトは福岡県内では令和5年度野菜産出額で第4位を占める主要な品目である。一方,産地では生産者の高齢化や後継者不足に伴い,生産戸数および栽培面積が年々減少している。今後,産地の維持や各生産者の経営規模拡大を図るうえで,可能な限り管理作業の省力化が必要である。

 トマトの促成栽培は,収穫期間が8か月に及ぶ長期の作型であるため,草勢を維持するための追肥が必要である(福岡県農林水産部 2019)。加えて,追肥作業は,地表に展張したマルチを持ち上げながら施用する必要があるため労働負荷が大きい。作業の省力化の方策としては,全量基肥施肥法が挙げられるが,本県ではナスの促成栽培で技術が確立されている(森田ら 2020)ほか,他県ではトマトの夏秋栽培(小管ら 2001),半促成栽培(佐藤 2019)などでの事例も報告されている。

 そこで,促成トマト用に配合されている「促成トマト一発40」を用いた全量基肥施肥栽培を慣行栽培と比較して,省力効果と収量性を評価した。

「促成トマト一発40」について

 「促成トマト一発40」の肥料成分含量は,N-P2O5-K2O=16-16-8%となっており,そのうち窒素はCDU態13%,LPコート態(LPS100:LPS160=19:10)87%で構成されている。カリについては全量に硫酸カリコートが用いられており,促成トマトの栽培期間である9月から翌年6月まで約10か月間肥効が持続する基肥一発肥料である。

 この肥料は地温から各肥料単体の溶出量を推定し,配合した肥料の肥効発現パターンをシミュレーションすることで,トマトの養分吸収パターンに適合する組み合わせを追求したものである。緩やかな肥効が持続するため,急激な草勢の変化を伴うことなく,高い肥料の利用効率が期待できる。

 「促成トマト一発40」の肥効発現パターンをシミュレーションした結果が図1である。3種類の緩効性肥料を組み合わせることで,栽培初期から栽培後半まで肥効が山谷無く安定して発現すると推定されるため,追肥の省略が期待できる。

test procedure

 試験は2021年度と2022年度の2か年で実施した。供試品種は穂木「桃太郎ホープ」(タキイ種苗(株)),台木「がんばる根トリパー」(愛三種苗(株))を使用した。基肥は,全量基肥施肥栽培が「促成トマト一発40」を167kg/10a,慣行栽培が有機配合肥料(N-P2O5-K2O=6-7-5%)を225kg/10a施用した。また追肥は,慣行栽培のみに基肥と同じ有機配合肥料220kg/10aを8回に分けて畝肩に施用した。試験は1区8株の3反復で実施した。定植日は2021年度が9月27日,2022年度が9月28日で畝幅130cm,株間40cmの一条植えとし,吊り下げ誘引で管理した。

土壌中の硝酸態窒素および交換性カリの動態

 生育期間中において,全量基肥施肥栽培の土壌中の硝酸態窒素含量は,慣行栽培より低く推移したものの,急激な低下はなかった(図2)。これは,全量基肥施肥栽培では慣行栽培に比べて,用いた一発肥料のCDUやLPコートによる窒素溶出が9月~5月下旬まで緩やかに発現したためと考えられる。また,この硝酸態窒素含量は,報告のある診断指標値5~10mg/100g(荒木ら 2005)と同程度からやや低い水準であり,窒素過剰を回避できていると考えられる。

 圃場における全量基肥施肥栽培の交換性カリ含量は,作付け前が46mg/100g,作付け後が42mg/100gであり(表1),診断指標値15~20mg/100g(高橋ら 1980)を大きく上回っているため,十分にカリが供給される条件であったことがうかがえる。

生育および収量性

 生育初期のトマトは,多かん水や高地温などが原因となり,窒素が吸収されるスピードが急激に上昇することがある。体内が窒素過剰になると,草勢が強くなり,障害果の増加や誘引,整枝作業に支障をきたす状態に陥る。生育初期は地温が高い時期であり,窒素溶出量の急激な増加が懸念されたが,全量基肥施肥栽培は慣行栽培に対して土壌中の硝酸態窒素含量が上回ることなく,茎径は同程度,すなわち同水準の草勢で推移した(図2,3)。

 収量性について,全量基肥施肥栽培は栽培期間を通じて,慣行栽培と同等の商品果数および商品収量を得ることができ,商品果率や平均果重についても同等であった(表2)。

収益性

 全量基肥施肥栽培は,慣行栽培に比べ10a当たりの施肥量を278kg減らせる。また,8回の追肥が不要となるため,追肥にかかる労力と作業時間32時間/10aが削減できる。さらに,肥料代は慣行栽培の83,000円に対して,全量基肥施肥栽培が58,000円と30%削減できる(表3)。

 以上のことから,全量基肥施肥栽培は慣行栽培と比べて生育や収量を低下させることなく,追肥作業に係る労力と時間および肥料代を大幅に削減できる省力的で低コストな施肥体系といえる。

さいごに

 本肥料は生産圃場での堆肥や土壌由来のカリ供給を考慮しつつ,肥料コストを抑えるためカリ含量が低く抑えられている。ここで紹介した事例は,十分なカリ供給力を有した土壌における試験である。作付け前の土壌診断を踏まえたうえで,カリの少ない圃場ではカリ肥料の増肥を検討する必要がある。

works cited

1)促成トマトの養液土耕栽培における窒素施用量とかん水量の違いが収量,品質に及ぼす影響.(2005)荒木ら 福岡農林試研報 24:16-22.

2)福岡県野菜施肥基準.(2019)福岡県農林水産部 p.1-131.

3)トマト栽培における肥効調節型窒素肥料を利用した全量基肥施肥法.(2001)小管ら 土肥誌 72:621-626.

4)全量基肥施肥栽培における単為結果性ナス「省太」の収量および品質.(2020)森田ら 福岡農林試研報 6:48-53.

5)リン酸が蓄積した半促成トマト栽培圃場における全量基肥栽培技術の開発.(2019)佐藤広幸 農業と科学 707:2-7.

6)作物の要素欠乏過剰症.(1980)高橋ら 農文協 p.244.