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§被覆肥料を育苗培養土に混合したセル成型苗利用によるキャベツ栽培(後編)
千葉県農業試験場 北総営農技術指導所
東総野菜研究室
(現在 千葉県農業総合慨センタ一 野菜研究室)
上席研究員 福地 信彦
§我国の稲作施肥の変遷(1)
-江戸時代~明治初期-
ホクレン農業協同組合連合会(JAグループ)
管理本部 役員室
農学博士 関矢 信一郎
§玄米中の無機元素濃度-カドミウムーを定量分析するには
独立行政法人 農業技術研究機構
中央農業総合研究センター
北陸水田利用部 土壌管理研究室
主任研究官 中島 秀治
千葉県農業試験場 北総営農技術指導所
東総野菜研究室
(現在 千葉県農業総合慨センタ一 野菜研究室)
上席研究員 福地 信彦
キャベツセル成型苗の育苗において,育苗培養土へのマイクロロングトータルの混合は,育苗期間中のかん水を液肥に頼らず,無肥料の水のみで管理ができ省力的であるとともに,定植後の初期生育も優れるなどの利用効果があることを,前編において紹介した。本稿では,窒素無施用の圃場で,キャベツを栽培することを目的に,初期溶出を抑えたシグモイド溶出パターンの被覆肥料を,育苗培養土に混合した,キャベツ栽培について紹介したい。
なお,この試験は,チッソ旭肥料(株)の協力をいただき,千葉県農業試験場生産環境研究室,同土壌肥料研究室と共同研究しているものである。
育苗培養士に多量の被覆肥料を混合し,キャベツセル成型苗の定植前後の生育に及ぼす影響について,1995年の夏まき栽培から試験を開始した。
定植後の生育に必要な窒素を,なるべく多く育苗培養土に混合したいが,被覆肥料の混合量が多いと育苗期間中の溶出が多く,苗が育たないことが考えられた。そのため,使用する被覆肥料は,初期の溶出を抑制したシグモイド溶出パターンで,かつ溶出期間が長ければ,初期の溶出量も少なくなると考え,両者の特性をもった’スーパーNKロング203-140’(20-0-13)を供試した。
試験区は,育苗培養士1ℓ 当たり’スーパーNKロング203-140’を100g混合する100g/ℓ 区,混合量を2倍にした200g/ℓ 区(栽植密度4500株/10aとして,Nでそれぞれ約1.9,3.5kg/10aとなる),育苗培養土だけで育苗した無施肥区の計3区を設けた。育苗培養土は’与作N-8’を用い,セルトレイは発泡スチロール製144穴を使用した。いずれの区も,定植圃場の基肥はりん酸のみ8kg/10a施用し,追肥は行わなかった。8月23日に播種し,9月21日に定植を行った。
育苗時のセルトレイ上での欠株は,いずれの区にもみられ,被覆肥料の混合量が多いほど発芽率が低かった。定植時の生育は,100g/ℓ 区が最も地上部重が重く,草丈が高く,葉数が多かった。200g/ℓ 区は100g/ℓ 区に比べると生育が劣り,定植時に根鉢の崩れるものがあり,肥料による濃度障害を起こしているものと思われた。育苗培養土だけで育苗した苗は,生育量が最も少なく,子葉が黄化するものがみられた(表1)。

定植後の活着率はいずれの区も100%であり,200g/ℓ 区でも葉縁の黄化や萎縮などの障害株の発生はみられなかった。収穫時の球重は,200g/ℓ 区が0.93kgで最も重く,次いで100g/ℓ 区が0.86kg,無施肥区が0.19kgであった(図1)。

以上の結果より,苗の生育量が多く,根鉢が崩れる株がみられるなどの問題点はあるものの,育苗培養士にシグモイド溶出タイプの被覆肥料を100~200g/ℓ 混合すると,窒素無施用の圃場でも1kg弱のキャベツが収穫できることが明らかとなった。
前年の試験結果から,播種から定植までの20~30日間,育苗培養土に混合した被覆肥料からの溶出を極力抑えなければ,この技術は前に進まないと考えられた。
そこで1996年は,水稲の育苗箱全量施肥法(金田,1996)で普及し始めていた’苗箱まかせNK301-100’(30-0-10)を使用し,夏まき栽培で試験を行うこととした。この肥料は被覆尿素と被覆窒素加里化成との配合肥料で,白色および灰白色の球形で形状も良く揃ったものであった。
育苗培養士1ℓ 当たり’苗箱まかせNK301-100’を100g,200g,300g混合し(栽植密度4500株/10aとして,Nでそれぞれ約2.9,5.3,7.3kg/10 aとなる)(写真1),窒素無施肥の圃場に定植した100g/ℓ 区,200g/ℓ 区,300g/ℓ 区と,育苗培養士だけで育苗し,標準施肥で栽培した標準施肥区,同様に育苗した苗を用いて窒素無施用の圃場に定植した無施肥区の計5区を設けた。育苗培養土は’与作N-8’を用い,セルトレイは標準規格の128穴を使用した。標準施肥区の施肥量は10a当たり窒素24.6kg,りん酸29.8kg,加里23.4kgとし,100g/ℓ 区,200g/ℓ 区,300g/ℓ 区,無施肥区はりん酸のみ15kg施用した。8月23日に播種し,9月17日に定植を行った。

発芽率はいずれの育苗でも90%以上あり差がなかった。定植4日前の9月13日から苗の生育に差がみられ始めた。定植時には’苗箱まかせNK301-100’の混合量が多いほど,地上部重は重く,草丈は高く,葉色が濃くなった(表2)。

地下部重は混合量が多いほど少なくなったが,300g/ℓ 区でも根鉢が崩れることはなく,セルトレイから苗を引き抜くことができた。収穫時の球重は,標準施肥区が1.31kgに対し,100g/ℓ 区が1.20kg,200g/ℓ 区と300g/ℓ 区が1.40kgとなった(図2)。

上記の’苗箱まかせNK301-100’を使用した試験結果によれば,最終目標であるセル成型苗の育苗培養土に,キャベツの収穫までに必要な窒素肥料を混合することが可能であった。
しかし,翌年の1997年春まき初音において,’苗箱まかせNK301-100’を用いた試験で,育苗期間中に本葉の先端部分が黄化し,根鉢形成の悪い苗が2割程度発生した。この症状の発生要因については,’苗箱まかせNK301-100’が被覆尿素を含んでいるため,急激な尿素溶出によるアンモニア障害(下野勝昭,1987)であるとの結論に達し,今後の試験では被覆尿素を含んでいる肥料は使用しないこととした。
1997年夏まき栽培以降は,被覆尿素の使用をあきらめ,被覆燐硝安で試験を継続している。1997年夏まき栽培は’被覆燐硝安2601’,1998年春まき栽培はセル内施肥用の試作品である’C163(S70タイプ)’と’C161(S110タイプ)’, 1998年秋まき栽培は’C141(S80タイプ)’と’C161(S110タイプ)’,1999年春まき栽培は’917-2(S70タイプ)’を供試した。これらの試作品は,少しずつ改良がなされてきており,収穫時までに窒素の溶出が完了するタイプとなってきている。なお,1998年春まき栽培と1999年春まき栽培の結果については,筆者の報告(福地,1999:福地ら,2000)を参照していただきたい。
この一連の試験を実用化技術とするためには,
①被覆肥料の初期溶出を極力抑制し,かつ栽培終了時までに溶出を終了する製品の開発,
②窒素以外の肥料成分,特にりん酸,加里を含んだ被覆肥料の開発,
③被覆肥料の溶出が温度(地温)に依存するので,播種時期や栽培時期が異なる場合の対処方法,
④定植圃場の地力(無機態窒素,可給態窒素)の評価方法
など多くの問題点も残っている。
この技術は,局所施肥の一つであり,肥料利用率が非常に高く,定植圃場での流亡がほとんどない等,環境保全型農業の確立の一助として大変有用なものになると考えている。また,育苗を必要とするレタス,ブロッコリー,カリフラワー,トマト,ピーマン,ナス,キュウリなど,多くの野菜に適応が可能であると思われる。上記に挙げた数々の問題点を克服し,新しい栽培技術となるよう現在も試験を継続している。
●福地信彦(1999)シグモイド型被覆肥料を育苗培土に多量混合したキャベツ栽培.農耕と園芸.54(2):116-119
●福地信彦・草川知行・斉藤研二・小林広行・宇田川雄二(2000)育苗培養土への被覆肥料の混合がキャベツセル成型苗の生育に及ぼす影響.園学雑69別2:405
●金田吉弘(1996)水稲の育苗箱全量施肥法.農業および園芸.71:802-806
●下野勝昭(1987)肥料の特性と利用(尿素).農業技術大系土壌施肥編.7-①.肥料13.農文協
ホクレン農業協同組合連合会(JAグループ)
管理本部 役員室
農学博士 関矢 信一郎
広々と水田が拡がり,その中に点々と集落がある。鎮守の森が見え,丘には畠があって森へとつながり,遠くに山なみが望まれ,川も流れている。
この様な農村の景観は都会に住む人々も懐しさを覚えるもので,日本人の心の原風景とされている。
今でこそ少なくなったこの様な農村の形は,江戸時代に完成した。ここでは,人力・多労・多肥・集約などのキーワードで示される小農経営が営なまれ,明治・大正・昭和の前半とおよそ300年続くことになる。
戦国時代末期から江戸時代初期にかけ,我国に開田ブームがあった。大名達は戦では最早領土の拡大が不可能になり,領内で農地を増やす努力をした。ここでは築城などの土木技術が,河川改修や水路の整備に役立ったとされている。この過程で,農家の経営は従来の一族による大農制から夫婦を単位とする小農制に移行した。太閤検地に始まる一連の農地の調査は当然人口の調査にもなり,これが小農制の成立を促がした。この結果,我国の人口は飛躍的に増加した。
この動きは地域によって時期の差はあっても,全国に拡がった。近畿や中国から九州や関東・東北ヘ進んだと思われる。
江戸幕府は慶安2年(1649年),農村に対し触書を出した。この慶安御触書は全32条からなり,農民の日常生活,農業経営,農民・村役人の心得などを細かに規定している。これは農民に対する搾取を制度化したものとされているが,ようやく成立しつつある小農制に対するガイドラインとみることもできる。
この触書の特徴の一つは,農業技術についての条項が多いこととされている。例えば,4条に中耕・除草,8条に良質種子の保存,9条に農具の手入れ,10条で肥料の作り方,13条で牛馬の飼い方等々である。
10条の肥料については,糞尿が重要として雪隠の作り方,はきだめ・柴草などとの混ぜ方,作り肥・厩肥の作り方などが細かに書かれている。
江戸時代の農業技術の特徴として,人力耕起,多労・多肥などがあげられる。肥料についてみると,山野から持ち込んだ草肥と人や家畜の糞尿などの自給肥料が主であったが,綿・菜種などの商品作物に対しては鰛や鰊の干物やしぼり粕,菜種や大豆の油粕などの購入肥料も使用されている。
水田には自給肥料が中心であったが,後期になると西日本では購入肥料も施用される様になった。ただ,農書に述べられていても一般的ではなかったとされている。
水田への肥料として最も古くから使用されていた,山野草の利用には二つの方法が認められる。一つは,家畜の飼料や敷料として使用されて後,堆厩肥として施用するものであり,他は春耕時に直接水田に施用するもので,かしき・かりしき(苅敷)等と称されるものである。これには春耕前に田面にばら播いて腐らせてから鋤き込む方法と入水後散布し,人または牛馬が足で踏み込む,ふませがあった。前者は東日本,後者は西日本に多かったようである。
人の糞尿,特に尿を自給肥料として使うことも古くから行なわれていたが,江戸時代の特徴は城下町などの都市の人糞尿が周辺の農地に施用されるシステムが成立したことである。慶安御触書は農村向けのものであるが,元禄前後に出版された農書にはいずれも都市の人糞尿の利用が書かれている。
これは元禄迄に都市の整備が進み,かつ安定したことを示すものである。江戸時代は物質循環-リサイクルが確立した時代として,近年種々な面から再評価されているが,前述の人糞尿の利用システムはその象徴としてよく紹介されている。
さて,人糞尿の利用は最初は畑に対してであったが,後には水田にも施用された。後に紹介する明治初期の調査でもこのことが裏付けられている。

追肥はひき肥などとして農書には必ず出ていて,草刈り後・分けつ期・出穂期などの施用が紹介されているが,一般的ではなかったようである。
江戸時代の三要素の施用量は,10a当り窒素6~12kg,リン酸4~5kg,カリ10~15kgとの報告がある。現在からみてもかなりの量であるが,収量が200kg前後なので生産効率は高くない。
明治維新によって江戸時代農民を拘束していた諸制度がなくなり,農民も移住や転職が可能となった。土地の私有も認められ,明治6年からは,地租改正によって年貢から税,物納から金納になった。
しかし,これらによって農業生産が急速に進展したのではない様である。明治10年前後の水稲の収量は10a当り185kgで,江戸時代の192kgよりむしろ低下している。また,年貢制度の崩壊によって米の流通が混乱し,米質の低下が問題となった。このため,各地に米の検査機構ができ,後に国営に統一される。
技術の方も民間主導の形で種子交換会や農談会等が各地で開かれ,政府もこれを奨励した。明治14年には政府主催の全国農談会がもたれた。また,明治4年の北海道の試作場開設にはじまり,各地で同種のものが設置された。同11年には東大農学部の前身,駒馬農学校で土壌分析と肥料試験が始まり,前後して内務省で地質(土壌)調査が開始された。これは後に農商務省に移管された。
明治政府は農業に関する種々な調査を行なっている。稲作については明治12年(1879)に勧農局が出した各府県の「稲作耕作慣習法」がある。
黒川氏がこれを地域別にとりまとめているのでその概要を以下に述べる。
苗代は通し稲代で,移植後夏迄の間に刈り敷き・生草・堆厩肥を施し,秋に数回耕起する。春の播種前に下肥と木灰を施す。一部で油粕を使うが魚粕は使っていない。
本田では堆厩肥・柴草・下肥が主で,大豆を反当り3~5斗使う例が多い。購入肥料としては,油粕は使うが魚粕は使っていない。
苗代は一般の苗代で,春に下肥と草木灰を施す。
本田は堆厩肥・刈草,下肥が主で一部に干鰛が追肥に使われている。油粕も同様である。
苗代には下肥が使われている。
本田でも下肥が多く,堆厩肥も使われ,干鰛,鰛粕が盛んに施されている。
苗代には例外なく下肥が使われ,他に刈草・堆厩肥が施されてる。
本田では野草が多く,下肥や堆厩肥も使われている。油粕・荏粕・酒粕などが販売肥料として使われ,石灰を基肥や追肥に施す所もある。
苗代には下肥,とくに尿が使われ,魚肥を粉末にして使用している。
本田に下肥を使う所が多く,山つきの地では木の若葉や刈草が施されている。販売肥料では粕類が広く使われ,石灰も施されている。施用量は水田により異なっている。
苗代には下肥が多く,刈草も広く使われている。一部では油粕,干鰛や鰊粕を用いている。
本田では堆厩肥・下肥・刈草・木灰など,自給肥料だけの所もあるが,多くはこれらと共に油粕,干鰛・鰊粕を使い,石灰も施用している。追肥も行われ,数回の所もある。
苗代には下肥の施用が多く,細断した青草や堆厩肥も使用している。
本田では堆厩肥,刈草・干草・若木の葉,下肥を使っている。元肥重点で追肥は分けつ期に施している。総じて自給肥料の割合が高い。
苗代には下肥,魚粉,刈草,草木灰を使っている。
本田では堆厩肥,下肥,販売肥料としては油粕,酒粕,干鰛,糠等を相当量施している。追肥も行われている。
苗代には下肥が共通で,堆厩肥や刈敷・青草が使われ,一部では油粕も使われている。
本田は地域による差が大きいが,堆厩肥,刈敷の他,魚粕・油粕・酒粕・焼酎粕が使われ,一部では大豆粕も施用されている。福岡では秋大豆を春播し,青刈緑肥としている。
苗代は東北や山陰の一部では通し苗代※で,春から秋にかけて種々な有機物を入れて踏み込み,耕起しておいて春の播種前に腐熟下肥や草木灰の様な即効性肥料を施している。
※註 苗代専用の水田の事
他の地域では本田を利用しているが,早春に下肥,刈草,厩肥を施し潅水・踏み込み何度も耕起する。速効性肥料としては,下肥・家畜尿,粉砕した魚粕を使っていることが多い。
本田の施肥には地域性が大きい。東北・北陸・山陰・南九州や山間地域では,本田も苗代同様自給肥料だけの所が多い。他の地域でも元肥には自給肥料が中心で,販売肥料は追肥に使われる。
全体に販売肥料・石灰の施用は西日本で多い。
以上の様に,使われている肥料は地域による差はあるものの,江戸時代の慣行が殆んどそのまま残っているものと思われる。しかし,西日本や都市周辺では輸入されたグアノなどの使用例もあり,変化のきざしがうかがえる。

独立行政法人 農業技術研究機構
中央農業総合研究センター
北陸水田利用部 土壌管理研究室
主任研究官 中島 秀治
土壌汚染対策地域1)をかかえている農業試験研究検査機関などでは,多量の玄米検体中無機元素のプロセス定量分析が行われ,各種営農対策が採用されている。特にcodex委員会では,玄米中カドミウムの規制値を,cd100~200ng g-1(ppb)にする論議2)がなされており,わが国内の食品流通上の規制値である400ng g-1よりも,はるかにきびしい規制値となっており,論議の動向次第では,国内の米産地においては,重大な影響で出現すると推察される。このような社会的情勢から,玄米中cd50~500ng g-1バンドのプロセス定量分析業務が増大してくると推察される。
しかし,現在使用されているプロセス定量分析業務で用いられている分析法(従来法)3)は,ラボ定量分析方法として確立されたもので,農業生産現場に最も近い実験室で,多数の玄米検体中無機元素(重金属)濃度のプロセス定量分析操作として,活用するには,限界がある。それは玄米試料を酸加熱分解し,有機溶媒抽出を行って,原子吸光測光法で測定する手法が用いられているからである。
この手法は各種無機酸や有機溶媒を使用するため,加熱分解時の酸性ガスや有機溶媒抽出時の溶媒ガスの揮散による分析作業者の健康への影響,あるいは,実験廃ガスや廃液等の処理は,分析点数が増加してくると無視できないのである。
また,定量分析作業工程が煩雑で学識と熟練を必要とし,作業能率も良いとは云えない。
これらの状態を解決するには,定量分析業務に含まれているラボ定量分析操作とプロセス定量分析操作を,目的別に明確区別することが重要である。ラボ定量分析(Analyst)は,主に試験研究機関で用いられる。業務としては,分析化学に用いる化学反応理論を研究すること,ある化学反応理論を様々な研究分野で定量分析に活用できるように,応用手法を確立すること,そして確立された新しい手法に基づきResearchして,新しい知見を得ることなどが考えられる。他方プロセス定量分析(Determinator)は,主に検査機関等で用いられる。業務としては,現地の疫学的調査や,生産物の管理分析のために日常的業務分析として,多数の検体を定量分析することなどが考えられる。両者の関係については表1に示した。

ラボ定量分析とプロセス定量分析は,異質な性格を持つ手法であるが,特に玄米中重金属定量分析においては区別されて,農業生産現場で用いられているとは限らない。したがって,農業生産現場に最も近い実験室で使用される定量分析法はプロセス定量分析(Determinator)が採用される必要がある。
近年の高周波プラズマ発光分光分析装置(ICP)の進歩により,プラズマ炎色炎の長軸方向から測光するアキシャル型が開発され,従来のラディアル型(標準型)4)に比較して5~10倍も測定感度が向上している。さらに,スペクトル検出は,半導体検出器を採用し,多元素・多波長をバックグランドを含め同時に測定し,分析値を瞬時に補正できるシステムとなり,分析データの3次元解像力,再現性,情報処理能力が従来のラディアル型より格段に良好となった。
このICP装置を活用して,玄米中各種元素濃度をプロセス定量分析する手法5)を確立したので紹介し,そして,現在のラボ定量分析とプロセス定量分析の差別化を進める。玄米品質管理にプロセス定量分析を導入し,玄米中異常に高濃度を含む金属元素と一般的濃度の玄米の差別化を企る。そして,用途別に玄米を分類,出荷することにより,更なる付加価値の付いた玄米が出荷され,また,異常値を示す玄米については,加工処理することにより,安全で良質な食品として供給可能となると推察される。
1)酸加熱分解・原子吸光測光法分析手順の概略は表2に示した。手法はラボ定量分析法として確立されている。この手法の開発時期の時代的背景は,酸加熱分解-有機溶媒抽出-分光光度法(ジチゾン吸光光度法など)から,酸加熱分解-有機溶媒抽出-原子吸光測光法への過度期であったといえる。当時としては,多量の試料を酸加熱分解し,有機溶媒抽出・濃縮にすることにより測定感度が向上し,化学干渉が少なく,良い手法であった。

2)炭化・酸加熱分解・原子吸光測光法分析手順の概略は表3に示した。この手法は,多量の試料を酸加熱分解する時,多量の硝酸や硫酸試薬を使用しないで灰化分解することにより,分解試薬を節約し,分析作業者の廃ガス被爆を防いでいる。また試料液分取操作を省略しているので,分析誤差が少なくなり,分析操作の迅速化が可能となった。

3)酸加熱分解・タングステン炉原子吸光測光法分析手順の概略は表4に示した。この手法は,玄米を粉砕することなく,ケルダール分解ビンに試料を採取し,少量の硫酸と過酸化水素で分解して,試料液を調製する。そして,オートサンプラーを用いタングステン炉原子吸光測光装置に試料液を導入して測定する。この手法により,分解操作時間の短縮・簡便化が可能となった。また,有機溶媒の使用もなくなり従来法3)と比較して自動化が進んだ。しかし,元素によっては測定レンジ幅が小さく,元素によっては濃縮や希釈操作が必要である。タングステン炉に試料液を導入してから,乾燥,灰化,原子化操作があり,原子吸光測光法より測定時間がかかる。

4)1M塩酸抽出・ICP法,分析手順は表5に示した。本法は,電子天秤,分注器,コンピュータ一等の計器類の操作を習得すれば,十分定量分析ができる。従来法は,ドラフト室や精密実験室等が必要であるが,本法はそれらを使用しないので簡単な分析作業室で十分である。しかし,本装置の設置費の問題がある。

表5に依り,環境庁国立環境研究所の玄米粉体標準試料(NIES No10)を供試し,各社製ICP装置で玄米中無機元素を定量分析し,分析値の信頼性を求めた。
結果は表6,表7に示した。K,Mg,Ca,Sr,Cr,Mo,Mn,Fe,Ni,Cu,Zn,P等が定量分析ができ,Al,Ba,B,Si,Pb,Sなどが定性分析ができた。本法は,試料液をICP装置に導入すれば,数十元素濃度が瞬時に測定されるが,測定値のすべてが信頼性の高いデータが得られるとは限らない。


また,分析データの互換性を向上させるには,測定に際し,毎回測定時に,既知の玄米中元素濃度の低および高濃度試料(標準化試料)より試料液を調製して,装置の取扱い説明書に従い測定値を求め最適条件の設定を必ず行う必要がある。表8に玄米中カドミウム定量分析値を示したが,両者は良く一致した。

本法検討用玄米粒試料を用いて,玄米中カドミウム定量分析値を比較検討し図1に示した。測定検体数12点で直線回帰(Cd10~1300ng g-1)が得られ,100ng g-1以上の両者の値はよく一致した。

本法検討用玄米粒試料を用いて,玄米中カドミウム定量分析値を比較検討し,図2に示した。測定検体数22点で直線回帰(Cd20~1,300ng g-1)が得られ,両者の値は,よく一致した。

本法の分析精度を求め,表9に示した。変動係数(CV)は2~4%であった。プロセス定量分析において,現地圃場調査に十分活用できると推察される値となった。

本法検討用玄米粒試料75点を用いて,試料液を調製しICP装置を販売している6社に配布して依頼分析をお願いし,分析データを返送していただいた。日本ジーレルアッシュ社(IRIS-AP Advantage型),リガク社(SPECTRO FLAME MODULA S型)およびセイコーインスツルメンツ社(AP5000型)の定量分析値を図3に示した。3社の定量分析値と玄米試料番号の順番における濃度と測定順位傾向はよく一致した。

生産現場で玄米中各種元素濃度管理定量分析に使用する手法は,研究目的に試験研究機関等の実験室にて使用されるラボ定量分析とは,目的,分析値の信頼性,検体数,および測定項目の種類が全く違う。
従来法はラボ定量分析としては十分であるが,生産現場実験室で使用するには無理がある。玄米試料を小型粉砕器で粉砕し,1M塩酸で抽出し,試料液を軸方向測光高分解型ICP装置に導入して,玄米中各種元素濃度をプロセス定量分析する手法を提案する。
表10に1M塩酸抽出・ICP法の分析所要時間を示した。土壌汚染対策地域をかかえている農業生産卵暴において,出穂後10~20日目6)に1haにつき1点,約100検体を調査するとすれば,出荷時期までには100haの玄米中各種元素濃度が明らかになるので,迅速な玄米品質管理が可能となる。

今回提案した1M塩酸抽出ICP法は,農業生産団地等の玄米品質管理基準に活用するプロセス定量分析値を得ることができる。しかし,公的な分析データの公表や法的処置を採用する定量分析は,別途,農林水産省令3)により定量分析を再度行う必要がある。
1)土壌汚染に係る農用地土壌汚染対策地域の指定要件(昭和50年4月4日,農林省令第103号),(1975)
2)淺見輝男:米のカドミウム基準値に関する国際動向,土肥誌69,657(1998)
3)農用地土壌汚染対策地域の指定用件に係わるカドミウムの量の検定を定める省令(昭和46年6月24日,農林省令第47号),(1971)
4)上野山英雄:軸方向観測ICP-AESについて,第35回プラズマ分光分析研究会講演要旨集,17-24,(1995)
5)中島秀治:玄米中カドミウムのプロセス定量分析-1mol L-1塩酸抽出・ICP法-,農及園75(12),1314-1318,(2000)
6)中島秀治,亀川健一:1mol L-1塩酸抽出・ICP分析法による玄米中微量元素のプロセス迅速定量分析-カドミウムを中心に-,土肥学会関東支部講要,平成12年,(2000.9)