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第480号 1998(H10).01発行

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ねばり強い熱意をもって

チッソ旭肥料株式会社
常務取締役 吉田 俊郎

 明けましておめでとうございます。読者の皆様方におかれましては,本年が幸多い年でありますよう心からお祈り申し上げます。

 昨年をふり返ってみますと,社会面では痛ましい事件,特に低年令者を狙った惨事が目立ちました。政治,経済面では,行政改革,財政改革への挑戦が現実のしがらみの中で悪戦苦闘している状況下で金融業界の経営破綻が続出し,景気の低迷に拍車をかけると共に,国民に不信を抱かせるなど,明るさの少ない年でした。
 本年は,将来に向っての道が見える世相が形成され,明るい年になってほしいと思っています。

 さて,農業をとりまく環境についてみますと,2,3年来の安定した収穫等より米の在庫過多となり,減反問題が大きな課題となりました。
 本年は,3年前に施行された新食糧法の運用について国民的コンセンサスが求められる年となるでしょう。
 また,本年は約35年続いた農業基本法が,見直される運びとなっています。我が国の農業,農家にとりまして将来を見定めることができる指針が示されることを期待したいと思います。

 直面する日本農業の課題は,前述の減反問題,海外農産物との競合問題,環境問題等々山積しております。

 当社におきましては,こうした課題の解消に少しでもお役に立つべく機能製品の開発を進めてきました。「LPコート®」,「ロング®」,「CDU®」,「燐硝安加理®」,「あさひポーラス®」,「与作®」,「グリーンパイル®」などの製品であります。
 当社としましては,さらに製品の改善を進めると共に,用途開発,使用開発等ソフト面の充実に努めたいと考えております。

 情勢の変化と共に,今後,農業,農家のニーズは,多様化し,私達への要請も多岐にわたることになるでしょう。資材の開発,普及につきまして,広巾い視野より,ねばり強い熱意をもって取組む所存であります。

 「農業と科学」は来年には発刊30周年を迎ることになりますが,皆様方とのコミニュケーション,皆様方の情報ソースとして,いささかなりともお役に立つべく,更に誌面の充実を図りたいと思っております。
 本年も,本誌をご愛読いただきますようお願い申し上げまして,新年のご挨拶とさせていただきます。

 

 

十和田のにんにく

十和田市農協 農業技術センター
所長 斗澤 彰

Introduction.

 十和田市農協を紹介します。十和田市は,青森県東南部ほぼ中央に位置し,県都青森市へは北ヘ60km,八戸市へは東へ30km,県南部の玄関口で三沢空港へは20kmの人口約64,000人,面積318km2で,平坦な台地(海抜65m)として国立公園十和田湖の東の玄関口で西に八甲田連峰がそびえ,市の南方を奥入瀬川が流れ,それより人口河川稲生川が東に延び,自然豊かな農業中心都市です。

 その十和田市に昭和47年2月1日に8農協が合併して農家戸数3,500戸の十和田市農協が誕生した。特に恵まれた自然を利用し「米・畜産・野菜」を柱とした複合経営を営んでいる。その中で現在野菜販売額50億円達成に向け取り組んでいる。

 その野菜販売額50億円達成の基幹策目は,ながいも,にんにくである。8年度実績でにんにくの販売実績は全体の25%に達している。更に調整出荷が農閑期に作業できる利点を利用して労働力の分散の意味からも当農協における大きな作物の一つといえる。

 更に青森県の特産物でもある,にんにくについては当農協技術センターでも特段の位置づけをしている。

 当農協技術センターは昭和56年に組合員の営農と地域農業振興の発展のために農業技術開発と種苗供給を目的に設立された。

 講習会,現地検討会講師及び指導,組合員への現地指導,来場者への営農相談を農業技術係,種苗供給係,施設園芸係の職務機構のもと運営している。

 特に種子の供給に当っては当管内農家への供給行うと共に次に掲げる試験を継続調査試験を行っている。

1.農業試験場産由来にんにく種子別,種子重別比較試験
2.住友産由来にんにく種子別,種子重別比較試験
3.住友産由来にんにく種子良品質安定生産施肥量試験
4.住友産由来にんにく種子適正肥料選定試験
5.住友産由来にんにく種子株間試験
6.住友産由来にんにく種子収穫時期試験
7.住友産由来にんにく種子マルチ選定試験
8.農業試験場産由来にんにく種子適正肥料選定試験
9.農業試験場産由来にんにく種子植えつけ時期比較試験
10.農業試験場産由来にんにく種子及び住友産由来にんにく種子作柄作況及び農業気象との関係調査

 このような試験は全てA品率向上,2L,L比率の向上のために行っている。

 A品率向上について次のように考えている。

 変形球を少なくするために植えつけ燐片を垂直に必ず植えつける。
 異常燐片分化を少なくするために地力チッソと全量元肥による安定的なチッソの供給を行う。
 ワレ球を少なくするために生体時の燐片葉が生育中に空気に触れ退化すると考え深植えを進めている。但し,深植えによる越冬前生育の遅れを防ぐため適期の植えつけをしなければならない。

 2L,L比率の向上については次のように考えている。

 適期植えつけ    :表1
 植えつけ密度(株間):表2
 マルチ選定     :表3
 品種の特性にあった肥効肥料の選定:表4
 農業試験場産由来にんにく種子及び住友産由来にんにく種子作柄作況及び農業気象との関係調査:表5
 など次の表より検討している。

表1結果及び考察

 総収量:早植え20g区 1575.7kgで最も高く,次いで早植え15g 1499.9kgの順であった。
 A品収量:早植え15g区 1229.2kgが最も高かった。
 2L収量:早植え20g区 735.1kgが最も高かった。

 以上の結果
 結果的に見ると,早植え15g・20g区が総収量,A品収量,2L収量ともに良い結果であった。
 また,早植え,遅植えで区別すると,やはり遅植え区の3区が早植えの3区を下回る結果となり,2L収量も低下する。
 やはり,植付時期は適期に行うのが収量アップの条件の一つと考えられる。
 また,遅植えの場合も,最低越冬前に葉数3.5枚以上確保が絶対条件と思われる。

表2結果及び考察

 総収量:スミトモ18cm 15g区の2108.4kgが最も高く,次いで,センタ一種子の15cm 20g1574.1kgの順に高かった。
 A品収量:スミトモ18cm 15g区の1781.6kgが最も高かった。
 2L収量:スミトモ18cm 15g区の1806.kgが最も高かった。

 以上の結果
 総収量,A品収量,2L収量ともに,スミトモ株間18cm 15g区が良い結果であった。
 ただし,15cm 15gで比較すると,試験場産が上回っている。
 よって栽培法を種子のちがいにより変化させる事が必要と思われる。

表3結果及び考察

 総収量:6415マルチの1592.2kgが最も高く,次いでシルバーマルチ1462.1kgの順であった。
 A品収量:6415マルチの1203.7kgが最も高かった。
 2L収量:シルバーマルチの579.6kgが最も高かった。

 以上の結果
 総収量,A品収量ともに6415 15cmマルチが良い結果であった。2L収量では,シルバーマルチが最も高く,次いでグリーンマルチ17cmであった。

表4結果及び考察

 草丈:CDU+ロング100区が最も長かった。
 葉令:CDU+ロング100区が最も多かった。
 茎径:CDU+ロング100区,ロング入りボカシが太い結果であった。
 総収量:CDU+ロング100区が1939.8kgで最も高く,次いで,D社肥料2区1717.9kgの順に高かった。
 A品収量:CDU+ロング100区が1198.8kgで最も高かった。
 2L収量:CDU+ロング100区が1592.6kgで最も高かった。

 以上の結果
 今回の試験では,CDU+ロング100区とD社肥料2区が総収量,A品収量,2L収量ともに,良い結果であった。

 なお,8年度のデータは1年目の圃場での試験で行なった結果,A品率はやはり1166.4kg 92.4%で一番良かった。しかし,地力の低い1年目の圃場であるがため2L球は,59.3kg(4.7%)であったが,2L,L球の合計は814.2kg(64.5%)であった。

 よってにんにくは地力チッソが非常に大きく影響すると考えている。地力を高めるため有機質の肥料が良いと思われるが,さらに地力を高めてからの増収には,CDU+ロング100の体型が良いと思われる,ただし耐性を考えると,有機肥料とロングの混合肥料とCDU+ロングを2~3年サイクルで,交互に使い分けることが連作の上から良いと思う。

 以上の事から
 優良種子の導入,普及すると共に種々の試験成績から安定収量を確保できるよう技術普及に努力したい。

 最後に本県産にんにくも高値販売の中,面積の拡大に伴う,生産増が予想されるため高値での展開は厳しい。更に中国産にんにくも通年だと11月には品質低下で在ったが近年かなり品質向上してきているので最後まで競合すると考えている。更に昨年より目立ってきたアルゼンチン産にんにくはまだ数量的に少ないものの品質的には本県産と似ているため末端では区別ができない。よって今後注意深く留意しなければならないだろう。

 いずれにせよ当農協におけるにんにくの販売シェーアーから考えても特段の栽培技術の向上と優良種子の供給に努力しなければならない。

 

 

生命にとって塩とは何か
-生物と塩との関係史-12

京都大学名誉教授
近畿大学農学部教授
高橋 英一

9 おわりに -塩と生物の共進化-

 生命は今から40億年近く前に海の中に誕生して以来,進化を続けてきた。ところが今から4億年余り前,生物のあるものが上陸を開始し,海からの離脱を敢行した。陸上は海中にくらべて生物にとって過酷な環境であったが,生物はよくこれに適応し,著しい多様化をとげた。

 さて上陸後,生物はどのような方向に進んでいったであろうか。塩との関係に限っていえば,植物の多くは陸上の脱塩的環境に適応して塩に弱くなったが,あるものは海中時代にはなかった蒸散作用によって,海水以上に塩分が濃縮される条件にも適応して,いろいろな耐塩性のしくみを獲得した。一方陸上動物の多くは,体内に一定の塩分濃度を保った体液を循環させる方式を発達させていった。こうして陸上には海の衣をまとった動物と,これを脱ぎ捨てた植物の二つの系統の生物が存在するようになった。

 生物の体の中に存在している元素の中で生物にとってなくてはならぬもの,すなわち必須元素はこの二つの系統の生物で共通しているものが大部分であるが,ことなるものも若干ある(表15)。その一つがナトリウムで,動物では多量に必要な元素であるが,植物では必須元素になっていない。しかしナトリウムの兄弟元素であるカリウムは,植物も動物も多量に必要としている。

 この違いを生むにいたったいきさつを追ってみると,生物は海棲時代からナトリウムとカリウムをはっきりと使い分けていたふしがある。海水のナトリウム・カリウム比は28と圧倒的にナトリウムが高いが,そこに生息している生物の体のナトリウム・カリウム比はこれに比べると1あるいはそれ以下と著しく低い。すなわち生物にはもともとカリウムを選択的に取り込む性質があったのである。そして体を構成している細胞の実質である細胞質の中はカリウム型になっている。

 この関係は陸上に進出した生物でも保たれており,ナトリウムが細胞質中にとりこまれることは少なく,大部分が動物では体液中に,塩生植物では液胞液中に存在している。細胞質は重要な代謝の営まれる場であるが,そこで働くのはカリウムであり,ナトリウムは主として細胞の外側にあって浸透圧を調節するなどの役割を果たしている。それは海を離脱した生物の体内環境を整えることへの寄与であり,母なる海にはぐくまれていた時代の名残と見られるのである。

 陸へ上がった植物は,しばしば水の不足と闘わねばならなかった。この場合土壌中の塩分の存在は,それが作り出す浸透圧によって水の有効度を低下させる。しかも水不足の環境は塩分の集積を招来することが多い。ここに海中生活時代にはなかった塩害の問題が生じ,一方植物のあるものがすぐれた耐塩性のしくみを発達させるきっかけができたのである。

 これに対して動物の方は,過剰の塩分を排泄するしくみをもっていたので,自然環境下では塩分の過剰の害をうけることはなかったが,塩分の不足になやまされることは多かった。とくにわれわれが家畜としている草食動物は,食草中のナトリウム・カリウム比が彼らの要求をみたすのには低過ぎるため,ナトリウムの補給につとめる必要があった。草食動物は本能的に塩分の多いところ「塩なめ場」を知っており,人間は家畜に「なめ塩」を与える。

 塩の入手に苦心したのは人間も同じであった。塩は古くから人間の文化,政治,経済の上にさまざまな影響を及ぼしてきた。しかし社会が豊かになり,健康についての関心が高まるにつれて,塩の取り過ぎが問題になってきた。日本人が塩分を取り過ぎる素地は,穀食文化によってつくられたともいえる。すなわちご飯に漬物,味噌汁という食事の基本スタイルである。これは慢性的な食糧不足と食糧獲得のために重労働を余儀なくされた時代の産物でもあった。

 こうして長らくつちかわれた塩分に対する嗜好性は,食糧が豊富になり,労働の大幅な軽減によって塩の必要量が減少してもすぐには変わらない。ここに現在の塩の取り過ぎの問題がある。その上,省力時代の落とし後の一つとしての,スナックやインスタント食品による塩分摂取が輸をかけている。

 今世紀後半になってから,世界人口の増加は大きなインパクトを与えつつある。過去半世紀で二倍となり,つぎの半世紀でさらに二倍の百億に達することが予側されている人口を養うための耕地面積をいかにして確保するかは,真剣に考えなければならない問題である。しかし残された土地のかなりを占める塩類土壌で農業を行うのは容易なことでなく,さらに不過切な灌がいによって既耕地の塩類化が進行し,生産性を低下させている現状である。

 われわれは塩を必要とするが,栽培している作物はとくに塩を必要としないし,塩を好まないものが多い。農業がこれまで海に背をむけてきた背景にはこのような事情があった。しかしながら陸地の塩分の多いところにも植物は生育しており,土の中では微生物も働いている。塩性環境の農業利用を図ろうとするなら,これらについての関心を高め,役にたつ知見をひろいあげてゆく努力が必要だろう。

 恒常性のある環境を与えてくれていた母なる海を離れて以来,生物は塩の不足と過剰の両面を経験するようになり,これを克服すべく進化をとげてきた。それは光合成によってもたらされた遊離酸素の世界への適応にくらべれば目立たないが,塩と生物との共進化の旅はいまなお続いており,われわれ人間にとって開拓すべきフロンティアとして残されている。