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第477号 1997(H9).10発行

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食味と穂肥

農業環境技術研究所 資材動態部
肥料動態科長 古賀野 完爾

Introduction.

 我が国の暖地稲作における施肥は,高収を目標とした後期追肥重点型施肥が主流であった。これは施肥全量に占める穂肥,実肥の施肥割合が多い点に特徴がある。このため,反収は増加したが,同時に施肥量が多くなってきたことは否めない。このような,多収のための多肥や実肥の施用が,環境保全や良食味の視点から見直されてきたのが最近の稲作である。

 良食味米生産指向のなかで,後期追肥については現場では基本的に実肥を施用しない方向で追肥法の指導がなされているのが一般である。食味への影響については実肥のみで論議されている事例が多い。稲の生育に応じた施肥体系のなかで,穂肥と実肥は関連した施肥となっているため,穂肥についても食味への関与の程度を栄養生理面から確認しておく必要があろう。

(1)穂肥と食味

①穂肥の意義

 論議を進めるにあたり,改めて,穂肥の意義について品質維持との関連でここに示す。

 一般に,頴花分化開始期から分化後期にカ:けて一回目の穂肥が施用される。分化始期の穂肥は,一穂に着生する頴花数の増加と有効茎歩合を高めることで,穂数の増加を見込むとともに,止葉の生長を良好にする。また,分化後期の穂肥は頴花の退化を防ぎ,籾数の維持とともに出穂期の稲体の窒素含量を高めて,稔実に効果がある。

 次の穂肥は減数分裂期に行なう。減数分裂期は出穂前14日頃に相当するが,この時期の追肥は頴花の退化を抑え,頴花数の維持に効果がある。また,この時期の追肥は分化後期の追肥以上に稲体の窒素含量を高める効果があるので,稔実の効果が一層期待できる。

 出穂前10日頃の追肥は止葉期追肥であり,この時期には頴花数は決まっているので,これは登熟歩合や千粒重の増加を期待する施肥法である。

 穂肥を行なう時期は以上のようにいくつかあるが,土壌・施肥条件や生育状況によって,穂肥の回数や施用時期が選択されることは言うまでもない。

②食味と窒素施肥

 穂肥はこのような施用意義を有しているが,食味とは如何なる関係にあるのか,二,三の試験例を基に以下に考察する。

 筆者らは平成2年に北陸地域のコシヒカリで連年多収を挙げている農家の稲の栽培状況を調査し食味と多収とを窒素施肥との関連で検討した。図1はそのコシヒカリの生育期間別の窒素吸収割合と窒素吸収量を示したものである。ここで注目されるのは,B農家における窒素吸収パターンである。即ち,稲が吸収した全窒素量の
うち,おおよそ60%が幼穂形成期までに吸収され,かつ,穂揃期から収穫期までの窒素吸収量が他農家より著しく少ないことに特徴がある。

 ここでは,穂肥,実肥は各一回のみ行い窒素施用量はそれぞれ3kg,1kgであった。地力窒素依存型の施肥体系を組んでいると言えようが,稲作りは幼穂形成期までに高収に必要な窒素量を確保し,幼穂形成期以降は緩慢な窒素吸収推移となるような施肥体系となっている(表1)。

 また,表2に示されているように,他農家と比較して食味性が一段と高く維持されている。北陸農業試験場での作況基準試験では,収量は平年並みであり,その分食味評価値がかなり高くなっているが,これと比較してもさして劣らない良食味性を示している。この場合,玄米生産効率がB農家で極めて高いことが特筆される。この農家の収量は坪刈りで660kgであり,高収・良食味を両立させた事例として注目されよう。

 いずれにせよ,B農家とSの施肥体系をみると,他農家に比べて実肥の回数が少ないことに加えて,つなぎ肥や根付け肥が施用されていないこと,穂肥の回数あるいは総量が少ないことなど,実肥回数や多寡といった単純な要素のみが食味に影響しているものではなく,施肥体系や土壌条件によって実肥の食味への影響の度合いが異なることを窺わせる結果を示しているものと思われる。

 穂肥と実肥との関連についてもう一例を図21)で示す。図中,-20日の穂肥時期は頴花分化期に,-10日の穂肥時期は止葉期にあたるが,このような穂肥時期と実肥の量及び時期との組み合わせが食味に対して異なる影響を及ぼしていることがわかる。

 即ち,頴花分化期頃の穂肥であれば,その後の実肥の施用で玄米中の窒素濃度は増加するものの食味には大きな影響を及ぼしてはいない。一方,止葉期頃の穂肥を施用した場合,その後実肥を施用することによって食味は明らかに低下している。実肥施用時の稲体の窒素含量や,穂肥施用時以後の土壌窒素の吸収量の多寡により実肥の食味への影響の程度は当然異なるが,条件によっては,このように,穂肥時期の違いが実肥施用の食味への影響を左右することを良く示している。

 図2で注意すべきは,穂肥時期の違いは,実肥を施用した場合,食味に大きく影響しているが,玄米中の窒素濃度にはさしたる影響を及ぼしていないことである。このことは,食味性には,玄米中の窒素濃度のみではなく,他の質的因子が関与していることを推定させる。玄米の窒素含量からのみでは食味の善し悪しを説明しきれないことを示す一事例である。

(3)穂肥時期と食味

①穂肥時期と玄米窒素濃度

 食味性を評価する際には多くの因子を考慮するが,無機要素としては窒素が主に挙げられている。玄米中の窒素濃度は品種によって異なるが,コシヒカリでは窒素含量が1.3~1.4%を超すと食味が急激に低下するとされている。食味に最も影響するとされる実肥施用の適否の判断基準として,出穂期の葉身の窒素濃度が採用されることが多い。

 丹野らはコシヒカリで出穂期の窒素濃度と玄米の窒素濃度との関係を検討し,実肥で玄米の窒素濃度が増加するとの従来の結果を追認したが,同時に,実肥のみでなく,穂肥のみでも玄米の窒素濃度を食味低下限界値にまで高める可能性を示した2) 。穂肥時期がコメの窒素濃度に影響を及ぼす程度はどのようなものか,表3を基にみると,ここで明らかなことは,出穂期に近い追肥ほどコメの蛋白含量を増加させていることである。特に出穂期の追肥が玄米生産量の増加に働く以上に玄米中の窒素濃度を高めることがわかる3)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 一方,穂肥については,頴花分化期の追肥が収量を上げつつ蛋白含量の増加を抑えていることが注目される。普通作の場合,登熟に必要な炭水化物は,出穂後の光合成に7~8割依存していて,2~3割は出穂期までの貯蔵澱粉によって補われているが,窒素含量が高い状態で生育を推移した場合には,籾の炭水化物は大部分を出穂期の光合成に依存しているので,籾数に応じた光合成能を葉が保持していない場合に実肥の効果があるべ従って,頴花分化期の追肥は籾数の増加に効果を発揮するが,籾数に応じ,葉に適正な光合成能が保持されているのであれば,実肥に期待しなくても穂肥でかなりの収量を確保することが可能なことを示している。

②穂肥が食味に影響を与える機構

 穂肥によって吸収された窒素の行方はどうか。図35)に基肥と各追肥時期に吸収された窒素の行方を示す。分げつ期追肥の吸収窒素は,葉鞘+茎から葉へ,葉から穂へとしだいに移行し,基肥窒素と類似したパターンをとっている。しかし,枝梗分化期追肥では,追肥後から早期に穂部へ移行する窒素が出始め,葉身への分布割合が急激に低くなってくる。

 この傾向は穂ばらみ期追肥でも同様となる。出穂期に追肥した場合は,追肥直後から直接穂部へ移行する窒素割合が高くなっていることが注目されるが,これら生育時期別追肥窒素の穂部への移行割合は,分げつ期追肥52%,枝梗分化期追肥58%,穂ばらみ期追肥70%,出穂期72%となる。これらの結果,穂の全窒素含量は穂ばらみ期及び出穂期の窒素追肥によってそれ以前の追肥よりも著しく増加することが認められている。

 このように,頴花分化期の追肥窒素が穂部へ直接移行する割合はまだ少なく,茎葉を経由する割合が多い。即ち,吸収窒素が茎葉の生長に費やされる部分がまだ多いことを示している。穂ばらみ期以降になると穂部への移行が急激に高くなってくるが,このことは,穂ばらみ期以降に吸収された窒素は茎葉の生長よりも穂の蛋白の増加に多くが費やされることを推測させる。

(4)適正な追肥と食味維持

 実肥の施用が玄米の窒素濃度を高め,食味を低下させる可能性があることから,実肥を控える施肥法が営農現場では拡がっている。ここで示したように,実肥が食味を低下させる一原因であることは否めない。しかしながら,実肥を減らせばあるいは止めれば食味性が向上するとは必ずしも言えない側面もある。

 特に止葉期追肥は施肥窒素の穂への移行割合が高いため,適正でない場合には玄米の窒素濃度を高め,食味を低下させる危険性をはらんでいると言えよう。また一方,頴花分化期追肥のように早い時期に追肥し,止葉期追肥をしていないような場合には,実肥を施用しても必ずしも食味の低下をもたらさない事例も見られる。

 要するに,出穂期の葉の光合成能が確保されるような的確な生育診断に則った施肥管理,あるいは,高収に必要な窒素を生育の前半に吸収させ,幼穂形成期以降の窒素の吸収を緩慢にするような施肥管理が良食味米生産に適した稲作りと言える。

 以上,追肥窒素が食味に及ぼす影響についていくつかの試験例を示して検討した。食味を支配する要因及び機作の解明については未だ研究途上にある。成分の面からは,無機成分含量の関わりの解明から,蛋白質や水溶性糖類の消長の視点での検討に移っている。さらに,単一の因子のみで食味性を評価しようとするのではなく,物性も加味した理化学的評価法の確立を目指し研究が精力的に行われている。食味の評価を官能評価から客観的評価に変える試みであり,精度の高い評価法が提供されれば,施肥窒素の食味に対する関与機作もかなり解明されるものと期待されるところである。

References

1)佐々木泰之.1989.稲の栽培条件と品質.稲と米-品質を生かす-.農林水産省農業研究センター・生物系特定産業技術研究推進機構.49-66

2)丹野文雄・飯島正光.1991.水稲の栄養診断と予測技術に関する研究.第6報.粒厚及び分げつ別の玄米への窒素集積特性と玄米窒素濃度の予測法・福島県農業試験場研究報告.30.1-10

3)本庄一雄.1971.米のタンパク含量に関する研究.第2報.施肥条件の違いが玄米のタンパク質含有率およびタンパク質総量に及ぼす影響.日本作物学会紀事.40.190-196

4)河野道佳.1987.施肥の個別技術,植物栄養土壌肥料大辞典.604-611

5)折谷隆志・葭田隆司.1984.作物の窒素代謝に関する研究.第18報.水稲の葉面生長,蛋白合成及びsink形成における追肥窒素の利用に関する研究.日本作物学会紀事.53(2).204-212

 

 

生命にとって塩とは何か
-生物と塩との関係史-9

京都大学名誉教授
近畿大学農学部教授
高橋 英一

6 塩と農業 (つづき)

ナトリウム塩の有用性

 前回,作物にとってナトリウムは不用な,あるいは余計なものであるという話をしたが,そうとばかりいえない面もある。というのは農業の現場でナトリウム塩が好んで施用される場合があるからである。ここではナトリウム塩の有用性について述べる。

サトウダイコンとチリ硝石

 チリ硝石は南米のペルー,ボリビア,チリに産し,主成分は硝酸ナトリウムであるが,19世紀中ごろからヨーロッパはこれを大量に輸入するようになり,一時はその枯渇が心配された。しかし,今世紀はじめ空中窒素の工業的固定が成功してからは,硫安がそして硝安,尿素が大量に生産され,チリ硝石は多くの作物ではこれらに取って代わられたが,サトウダイコンやその親類の飼料用ビート(マンゴールド)には依然として使われている。それはチリ硝石に含まれているナトリウムの効用に負うところが大きいと思われる(そのほかにチリ硝石にしばしば含まれているホウ素が,ホウ素要求性の高いサトウダイコンに効果をもたらした可能性がある)。

 一般の作物のナトリウム含量はカリウムの10分の1以下であるが,サトウダイコンのナトリウム含量はカリウムを上回る高さである。そしてナトリウムの施用効果が認められる。ナトリウムは食塩(塩化ナトリウム)や芒硝(硫酸ナトリウム)で与えても効果がある。

 表9はイギリスのローザムステッド試験場で80年以上にわたって継続された長期圃場試験における,飼料用ビートに対するナトリウムとカリウムの施用効果を筆者がとりまとめたものである。飼料用ビートに対するカリウムの施用効果は,ナトリウムを施用しなかった場合は著しい(③-④=6.3トンヘクタールの増収)。しかしナトリウムが施用されているときは,カリウムの施用効果は全く現れていない(①-②=0)。これはサトウダイコンの場合も同じである。

 サトウダイコンや飼料用ビートがナトリウムを沢山吸収し,ナトリウム塩の施用によって生育収量がよくなるのは,作物として変わっているように思われるかもしれないが,これらがホソバノハマアカザやアッケシソウと同類のアカザ科の植物であることを知れば,納得がいくのではなかろうか。つまりわれわれはナトリウムを好む塩生植物のあるものを作物に仕立て上げたのである。

 ナトリウムは植物生理学上は必須元素になっていないが,ビート類が重要な経済作物になっている北ヨーロッパでは,肥料として施用することが奨められている。表10にイギリスにおけるビート類に対する施肥基準を示した。これはわが国で,必須元素でないケイ素(ケイ酸)が,イネに対して肥料として大量に施用されているのと似て面白い。イネはケイ酸を一般の作物の数十倍も吸収するという特異性があり,それによって生育はよくなり,わが国のように多肥(多窒素)集約栽培を行うところでは,実際的効果がある。ナトリウムやケイ酸に対する作物の変わった反応は,作物の栄養特性に根ざすものであり,それを掘り下げて行くといろいろ面白いことが分かる。

作物のナトリウム吸収性とナトリウムの有用性との関係

 筆者らは作物に対するナトリウムの有用性の根拠を明らかにする目的で,カリウムの施用レベルをかえて栽培した多くの作物に対するナトリウムの施用効果を調べた。栽培は土耕と根を調べるための水,砂耕を併用した。土耕にはカリウムの少ないマサ土を用い,水,砂耕では前培養期間中,十分量のカリウムを与えておき,試験期間中のカリウム無施用による極端な欠乏症の発現を避けた。

 試験区としては標準量のカリウムとこれと当量のナトリウムを与えた区,どちらか一方を与えた区,どちらも与えなかった区を,すべての試験に共通して設けた。誠験には20種類の作物を供試したが,その結果次のようなことが明らかになった。

 まずナトリウムの吸収性が供試作物によって大きく異なった。図2,3に代表的な七つの作物の結果を示した。当量のカリウムが施用されているときのナトリウムの吸収は図2のようで,フダンソウ(サトウダイコンと同じ種に属する葉菜)のナトリウム含有量はカリウムの1.5倍と著しく高かった。ホウレンソウ,オカヒジキそれからマツバボタンはカリウムと同等もしくはそれに近い含有量を示した。それにくらべてイネ,コムギ,トウモロコシのナトリウム含有量は著しく低くかった(とくにトウモロコシの場合)。

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 一方カリウムを同時に施用しなかった場合は(図3),フダンソウからマツノボタ
ンまでは(スベリヒユ科のマツバボタンを除きいずれもアカザ科の作物)一様にナトリウム含有量が圧倒的に高くなったのに対して,イネ科の作物の間には大きな違いが見られた。すなわちイネはカリウム不足下では,アカザ科の作物と同じくらいナトリウムを吸収するが,トウモロコシはそのような条件下でもナトリウムを殆ど吸収しない。そしてコムギはその中間に位置していた。

 つぎにこれらの作物の生育に対するナトリウムの施用効果であるが,図4,5に見られるように,フダンソウに対する効果はカリウムの1.5倍と著しく高く,ホウレンソウ,オカヒジキ,マツバボタンに対するナトリウムの施用効果もカリウムのそれぞれ約60,70,80パ一セントといずれもかなり高かった。これにたいしてイネ科のグループでは,イネが47パーセント,コムギが25パーセントそしてトウモロコシが0パーセントと大きな違いを示した。

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 ここに示した7種の作物のほかに13種の作物を加えた合計20種の作物の試験結果から,作物のナトリウム吸収パターンを表11のような五つに分けたが,このパターンとナトリウムの有用性の程度とはよく対応した。

 図6はカリウムを施用しなかったときの作物のナトリウム・カリウム含有量比(作物のナトリウム吸収性の指標)とナトリウムのカリウム代替率との関係を表したものであるが,作物のナトリウム吸収性とナトリウムの施用効果の間には,非常に高い相関がみられた。

 これらの結果からつぎのようなことが明らかになった。

 作物に対するナトリウムの有用性の程度は,作物のナトリウム吸収性の大小によってきまる。ここに見られたナトリウムの効果の原因は,アポプラスト(細胞間隙,細胞壁の孔隙,液胞内など細胞質以外の部分)にあるナトリウムイオンの浸透圧による保水力,吸水力作出作用にあると考えられる。それはアカザ科の葉菜類の含水率が,ナトリウム含有率の増加にともない有意に高まることからもうかがわれる。

 植物の細胞外液(アポプラストに存在する液)は動物の体液に相当するが,その浸透圧に関与する無機カチオンに,動物と違って一般の植物ではナトリウムでなくカリウムを用いている。しかし塩生植物ではカリウムよりナトリウムを好んで利用する傾向が見られる。これはナトリウムイオン濃度の高い環境に対する適応の結果であろう。

 塩生植物にはアカザ科の植物が多いが,スベリヒユ科も同じアカザ目に属している。これらの科由来の作物がナトリウムに特別の生育反応を示したことは理解しやすい。しかしイネ科の作物がナトリウムに対して幅広い反応を呈したことは非常に興味深い。はじめに述べたように,わが国の農業はケイ酸を肥料として施用しているのと対照的に,ナトリウムに対する関心は欧米にくらべてうすい。これにはいろいろな理由が考えられるが(たとえば長年にわたる下肥の施用など,下肥には1パーセント近い塩化ナトリウムが含まれており,その連用は土壌の物理性などを悪化させた),農業上ナトリウム塩が有効な場合のあることを,この一連の試験の結果は示している。

 

 

キャベツセル成型苗の苗齢の進行に
伴う根の生理的変化

石川県農業総合研究センター
砂丘地農業試験場
主任技師 福岡 信之

緒言

 セル成型苗において定植時の根の呼吸活性は,定植後の発根力を評価する有効な一指標となりうる3)。根の呼吸と根の炭水化物含量との間には密接な関係があり16),遮光処理によって根の炭水化物含量が低下した苗では,根の呼吸活性が低く,定植後の発根量も少ない4)。苗の発根力の低下は,いわゆる“老化苗”でも同様に認められる現象である7)。ホウレンソウではセル成型苗を長期育苗すると,根の呼吸活性の低下が原因となって,定植後の発根が抑えられる14)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 ところで,トマト苗では苗齢が進行するとC/N比,細胞膜構成物質/炭水化物比の上昇などの生理的変化が引き起こされ,このことが苗全体の活力低下を引き起こし,定植後に発根力が低下するこ告が報告されている15)。また,小さなポットで苗を育成すると,茎葉の生長が抑制されるとともに,茎葉の老化が早まることは良く知られている。

 この現象の解釈については,根域の制限→根量増加の制限→根数増加の制限→サイトカイニン生成量の減少→茎葉のサイトカイニン濃度の低下→葉のプロテアーゼ活性の増大→葉のタンパクレベルの低下→葉の老化の促進というスキームが提案されている12)。セル成型育苗では,慣行のポット育苗に比べて根域制限が早くから引き起こされることは明らかで,根域制限によって植物体全体の活力が低下し,それがいくつかの要因を経て苗の発根力の低下を引き起こすものと考えられる。

 本実験では,苗齢の異なるキャベツセル成型苗を供試し,根の呼吸活性と定植後の発根力,根の炭水化物含量や呼吸活性に影響する酵素活性と根の呼吸活性との関係を調査することによって,苗齢の進行に伴う根の活力の変化が定植後の発根に及ぼす影響を検討した。

材料および方法

 実験は,農林水産省野菜・茶業試験場ガラス室で行った。

苗齢と定植後の苗の引抜き抵抗値との関係

 材料は,キャベツ“松波”を用いた。1994年9月18日に,セルトレイ(128穴)に1穴3粒になるように播種し,播種後7日目に1穴1株に間引きした。培養土は,市販の園芸培養土(ヤンマ一野菜養土)を用い,播種後10日目より園試処方標準培養液の1/5濃度液を適宜灌水した。その他の管理は,慣行法に準じて行った。

 処理区として播種後16,22,29,38日目に野菜園芸培養土(クレハ園芸培土)を詰めた5号素焼き鉢に定植する4区を設けた。定植時に茎葉・根重を,定植後4日目に苗の引抜き抵抗値を測定した。苗の引抜き抵抗値の測定は,オートグラフを用いて行い,地上部1cmの茎部をクリップで固定後,垂直に12cm/分の速度で引き上げた際の最大抵抗値を引抜き抵抗値とした。

苗齢と根の呼吸活性との関係

 苗の引抜き抵抗値の測定の際に供試した播種後16,22,29,38日目の苗について,定植時に根の呼吸活性を調査した。根の呼吸活性の測定用材料は主根から生じた側根部とし,酸素電極法5)に準じ,25℃下の酸素消毒量を測定,乾物当たりの呼吸速度を算出した。

苗齢とインベルターゼ活性との関係

 1994年11月21日,11月30日,12月7日の3回に分け,セルトレイ(128 穴)に“松波”を播種した。11月21日播種では播種後46,56,72日目に,11月30日播種では37,47日目に,12月7日播種では30,40,55日目に各区20個体ずつ採取し,根中のインベルターゼ活性を調査した。インベルターゼ活性の測定用材料は,主根から生じた側根とし,新鮮根0.5gについて前報4)に準じて測定した。

苗齢と炭水化物含量との関係

 1994年10月18日と11月9日の2回に分けて,セルトレイ(128穴)に,“松波”を播種した。10月18日播種では播種後63日目,11月9日播種では41日目の12月9日に各区30個体採取し,根の炭水化物含量を測定した。糖の測定用材料は,主根から生じた側根部とし,新鮮根1gについて80%エタノールで糖液を抽出後,高速液体クロマトグラフィーでスクロース,グルコース,フルクトース含量を測定した。デンプンは,上記で得られた残さをジメチルスルホキシド(DMSO)で加水分解し,遠心分離後,上澄液をグルコアミラーゼで3時間反応させ,遊離したグルコースをSomogyi-Nelson法で比色定量した。

結果

苗齢と苗の引抜き抵抗値との関係

 実験期間中の茎葉・根重は,苗齢の進行に伴い直線的に増加し,播種後38日目の苗では16日目の苗に比べて茎葉重で5.1倍,根重で3.7倍の値となった(第1図)。苗の引抜き抵抗値は,播種後29日までは齢の進んだ苗で顕著に大きく,播種後29日の苗の抵抗値は200gfと16日目の苗の約2倍の値となった(第2図)。しかし,播種後38日目の苗の抵抗値は,29日目の苗の抵抗値と大差なく,苗齢の進行による抵抗値の増加は認められなかった。

苗齢と根の呼吸活性との関係

 根の乾物当たりの呼吸速度は,播種後16,22,29日目の苗でいずれも8mgO2・g1-dw.・hr-1前後と高かった(第3図)。これに対し,播種後38日目の呼吸速度は,播種後30日目以前の苗の約1/2の3.9mgO2・g-1dw.・hr-1と顕著に低かった(第3図)。

苗齢とインベルターゼ活性との関係

 根のインベルターゼ活性は,12月7日播種では播種後30日目で22μmol・g-1fw.・hr-1,39日目になると50%程度にまで急速に低下し,55日目には9μmol・g-1fw.・hr-1前後となった(第4図)。11月30日播種では,播種後39日目で,13μmol・g-1fw.・hr-1,47日目では約45%活性が低下し8.4μmol・g-1fw.・hr-1となった。播種後日数が45日以上であった11月21日播種では,活性は播種後日数にかかわらず9μmol・g-1fw.・hr-1前後と低かった。

苗齢と炭水化物含量との関係

 根のデンプン含量は,播種後41日目の苗で3.34mg・g-1dw,61日目の苗で3.29mg・g-1dw.といずれも低かった(第5図)。根の主要な糖は,スクロースとグルコースであった(第5図)。根のこれら糖濃度は,播種後41日目の苗でそれぞれ13.4mg,6.3mg・g-1dw.と低く63日目の苗では前者の2倍程度に高かった。

consideration

 一般に,苗齢が進んだいわゆる“老化苗”では,短期育苗のものに比べて発根力が弱く,定植後の生育も緩慢である2,15)。定植苗の引抜き抵抗値の測定は,定植後の発根量を評価する一指標で,定植後に根重の増加量が大きく,根群が深く分布する苗ほど高い値を示す3)。本実験では,まず苗齢と定植後の発根力との関係を調査したが,定植4日後の苗の引抜き抵抗値は,播種後29日目までは定植苗の苗齢が大きいほど大きくなった。しかし,播種後38日目の苗の抵抗値は,29日目のものより若干小さくなり,38日目の苗で発根力が低下することが認められた。老化苗の定植後の生育遅延は,長期間の育苗によって根が鉢土内に充満し,根域が機械的に制限されたことが原因であるものと考えられる7)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 Richards12)は,小さなポットで苗を育成すると茎葉の生長が抑制される現象について,根域制限による根数の増加制限が,茎葉のサイトカイニン濃度を低下させ,このことが葉のプロテアーゼ活性の増大や葉のタンパクレベルの低下を引き起こした結果,葉の老化が促進されたことが原因であることを指摘している。根群域の狭いセルトレイによる育苗は,慣行のポット育苗に比べて苗齢の進行に伴う根域制限が早くから引き起こされることは明らかで,齢が進んだ苗では葉の老化の進行が植物体全体の活力を低下させ,それが幾つかの要因を経て,苗の発根力の低下を引き起こすものと考えられる。

 定植後の生育に密接に関与する苗の発根力は,定植時の根の呼吸活性と関係があり,根の呼吸活性が低いと発根量が少ない14)。根の呼吸活性と根の細胞の老若との間には密接な関係があり1),齢が進んだ苗の根では,根の呼吸活性が低い10)。本実験では,根域が制限された苗の根では,側根を含めた根全体の活力が一律に低下するものと仮定し,側根の呼吸活性を根全体の呼吸活性として便宜的に評価した。根の呼吸活性は,播種後29日目までは高かったが,播種後38日目の苗では前者の1/2程度にまで低下していた。

 前段で,齢が進んだ苗では植物体全体の活力が低下し,発根力が低下することを述べたが,その要因の一つに根の呼吸活性の低下が挙げられるものと推察する。通常,キャベツセル苗における根の炭水化物の蓄積形態はスクロースが主体で,これを分解するインベルターゼが呼吸活性に影響する酵素の一つとなっている4)。本実験では根の呼吸活性と同様に,側根部のインベルターゼ活性が根全体の活性の指標となるものと仮定し,苗齢とインベルターゼ活性との関係を調査した。

 根のインベルターゼ活性は,播種後30日目の苗では顕著に高く,40日間育苗することによって約1/2,60日間育苗した苗では1/4程度にまで低下していた。インベルターゼ活性は細胞の老若と関係があり8),根では生長が停止した古い部位で低く,生長が活発な若い部位で高い11)。インゲン葉身部ではインベルターゼ活性が低下すると,スクロース含量が急増するとの報告があるが8),本実験においても播種後40目前後の苗と60目前後の苗では後者は前者に比べてスクロース含量が高かった。また,ヘキソース含量もスクロースと同様に齢が進んだ苗の根で高かった。

 通常,根の呼吸活性は,根の炭水化物含量が高い場合に高くなる16)。本実験において,根の炭水化物含量が高まったにもかかわらず根の呼吸活性が低下したことは,苗齢の進行によってインベルターゼを含む呼吸活性に影響する酵素活性が全体的に低下したことが一要因となって,炭水化物の呼吸系への利用が抑えられたためであるものと推察する。

 本論では,セル成型育苗は通常のポット育苗に比べて長期間の育苗による機械的な根域制限が早期に誘起され,このことが根を含めた植物体全体の活力低下を引き起こし,定植後の発根が抑えられるものと考えた。長期間育苗した苗で根の活力が低下したことは,根の呼吸活性に影響する酵素活性が低く,炭水化物の呼吸系への利用が抑えられ,根の呼吸活性が低下したことから推察できる。

works cited

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