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§転換期の花卉産業
-台湾の現状からみた日本-
奈良県農業試験場
栽培課長 長村 智司
§イチゴ新品種「栃木15号(仮称)」の養分吸収特性と全量基肥施肥
栃木県農業試験場 土壌肥料部
主任研究員 佐藤 文政
奈良県農業試験場
栽培課長 長村 智司
今年の1月,台北近郊で行われた国際鉢物研究会に招かれる機会があり,最近の台湾の花卉園芸事情を垣間みることができた。また,同行したオランダ,アメリカの研究者との交歓,および彼らの現地での反応を通じて,わが国の花卉園芸について少なからず感じるところがあった。これらを概括してみたい。
よく知られているように台湾の面積はほぼ九州と同じで,人口は2千万人強である。ただしサツマイモのような形の縦軸方向,東寄りに山脈が走り,山地を除いた場合の人口密度は世界有数である。1945年時点での人口が約500万人であることから考えると,台湾の人口が急増したことが判る。ちなみに,わが国の明治維新当時の人口が約3千万人で,それぞれ4倍に増加していることになるが,50年と130年の開きがある。
複雑な政治はさておき,経済はわが国に続いて成長し,わが国に類似の経済構造を持つアジアの4つの竜のなかの中心でもある。GNP/人はわが国の3分の1程度であるが,外貨準備高/人はほぼ匹敵している。今後,よりわが国に似た経済構造に近づくとみられる。
花卉産業も第1表にみられるように飛躍的に成長している。現在,総生産額は約200億円で,そのうち切り花が生産額で60%,面積で約50%を占めている。キク切花面積は全体の約23%にあたる。生産額は我が国の約3.5%程度,国民一人あたりの花卉消費額は約500円程度で,わが国の約10%程度ではないかと思われる。

このうち電照によるキクは冬期に約6千万本がわが国へ大量輸出されている。わが国のキク消費の約2%にあたる。
一方,鉢物類の生産は第2表のとおり,大きな産業ではない。ただし,米中心の農業から,園芸作物への転換が積極的に行われており,鉢花の需要ののびも期待されている。自生植物でもあるファレノプシスの育成,株,および切り花はその先駆けでもあり,わが国への輸出の増加は記憶に新しいところである。ラン類に加えてポインセチアの生産が多く,露地への植え込みを含めて,街中至るところでみかけられる植物でもある(写真1)。


前回,約10年前訪問時,最も印象的であったことのひとつに世界中の新しい品種が集められ,栽培されていたととが挙げられる。これは台湾に品種登録制度がなく,国際的な法整備から除かれていた結果で,特にヨーロッパの最新種を観察することができた。多くの観葉植物を始め,ポインセチアなどの新しい品種をみることができた。今回も同様で,育種素材としてパテント品種が自由に利用されている状況であった。ただし,近い将来台湾も国際条約に加盟する方向で動いており,ようやく欧米並みに動きだしたわが国に,近い形になるものと思われる。
前回と明らかに異なっていたのは,外国製の肥料がかなり使用されていたことで,複合肥料,緩効性肥料とも,成分の安定しているものが普及しだしていた。培養土も同様で,海外からのピートモス混合土が輸入されており,急速な変化が感じられた。
一方政府機関の奨励もあって,最近大規模省力型の施設,機器が登場している。台北近郊では花壇苗生産のモデル農場が発足しており,苗生産システムを完備した約2haの栽培が行われていた(写真2)。セル成型苗(プラグ苗)システムも積極的に取り入れられつつあり,大規模苗生産を行っている二例をみることができた。ただし現在のところ苗需要とのアンバランスが生じており,まだ端緒についたところの感があった。

小売りでは,少ないが高級店が街にみられ,センスのよいアレンジが行われている。デザイン教室を併設している店もあって,花の消費は増加しそうである。台北市内で土日に開かれるサンデーマーケットは高速道路下にある(写真3)。相変わらずの盛況であったが,ここを含めて,小売り価格がわが国より少し安い程度で,相対的に高いと感じられた。高級店ではオランダや日本からの輸入品も置かれていたが,価格はわが国とほぼ同様であった。

鉢物産業を振興するために政府主催のもとで開催されたが,学会,生産者との連携が強く,結束の強さが感じられた。これはわが国の現状と大きく異なっており,参考にしなければならない点でもあった。
そのなかでの眼目は先進技術の吸収,および亜熱帯地域における気象条件の克服で,特に高温対策であった。欧米からの話題提供では,主に遮光による昇温抑制が強調されていたようである。夏期高温が対照になりやすいわが国の技術紹介は,欧米以上に興味が持たれたところであった。
ただし鉢物に関連して,自動潅水システムでは耐暑法として毛管を有効に利用する方法を被瀝し,腰水(エブ・アンド・フロー)方式が高温状態では問題点が残ることを指摘したが,欧米の流行でもあり,また,自動潅水が当地で一般的でないこともあって,理解されていたかどうかは心許ない。
園芸先進国における花卉産業の発展は戦後の経済成長と歩調を併せてきたといってよい。このなかには欧米とともにわが国を入れることも可能である。それぞれの地域が同様の経済状態のもとで花卉産業を育ててきたわけで,技術的な交流もほぼ同時進行してきたと考えてよい。しいて違いを指摘すると,アメリカ,オランダに代表されるような大規模型,またはプランテーション型と,わが国における既存の農業形態の延長型の違いが挙げられよう。わが国の品質に対する執着性や,品種を含む植物の多様性も欧米とは少し異なる点かもしれない。
しかし,経済的にそれより遅れて発展した諸国では,現状と,先進技術の間のギャップが大きくなる。中間の発展過程がないともいえよう。花卉園芸でも同様で,端的な例が今回見聞したセル成型苗にあてはまるかもしれない。先進国では既存の安定した需要,およびその伸びとシステムの定着が連動しており,それらがさらに新しい需要を作ってきた経過がある。
台湾の生産事情や街の風景の点描から,当地の花卉産業が発展途上で,ビジネスチャンスがかなりあると思われた。先進国の例から判断すると,販売価格は今後着実に低下するものとみられる。鉢物生産農家でも,従来のわが国の生産者がそうであったように,温室内の植物の種類が多く,また開花期を揃えてローテーションを高めるといった発想からはほど遠いと感じられた(写真4)。低コスト化,大量生産,および高品質化などの観点からは大いに改良の余地がある。

しかし,このような状態は少し前までわが国でも見られたもので,需要に見合った現状,形態であり,かえって,幸せな段階ともみることもできる。生産と消費が拡大していく過程ではビジネスチャンスは多い。ただ,生産能力が上がり,一方で需要にかげりがみられるようになると,競争の激化が生じる。これは先進諸国一般にみられる現象で,展望がますます厳しくなる。これは事情が少し異なるものの,オランダ, アメリカ,わが国とも意見が一致した点でもあった。このように,台湾の現状からわが国の至り来たった道をみることができた。
第3表は少し統計が古いが,各国の花の消費額を示している。先進国といわれる地域での消費が大きく,とりわけ北国にその傾向が強いことが読みとれる。また,イギリスが意外と少なく,園芸文化の程度と消費額が必ずしも一致していないことに気がつく。

それでは台湾は,またわが国の花卉産業はどのような経過をたどるのだろうか。経済発展の時期にいくらかのずれがあるものの,いずれ台湾にも花卉消費の増加が見込まれる。ただし,四季がはっきりしているわが国とは少し異なった傾向になるかもしれない。台湾は,緑に恵まれた土地であり,緑がしたたり,年中街のあちこちに花が咲いている。かえって,都市による環境破壊が大きな問題点であり,この点ではわが国とよく似た状況にあるともいえる。
最近アメリカとコロンビアの間で,切花の輸出入に関して問題が生じている。流通の国際化は当然の成りゆきであり,消費,生産とも成熟した先進国では国際間の軋轢,園内生産の再編成が生じる。ただ,花卉産業の特徴として,製品が多様であることは救いであるかもしれない。特にわが国では用途,品質とも受け皿が多様であり,国際商品化した花卉類を含めて,次の時代が生まれる可能性を秘めている。
さらに,蛇足に近くなるが,生活,文化と緑のかかわり合いを示す指標として,消費高はそのひとつに過ぎないように思われた。台湾の生活レベルの高さや伝統,それにも増して感じた街の活力は,我々が失ってはならないものに違いない。
栃木県農業試験場 土壌肥料部
主任研究員 佐藤 文政
栃木県のイチゴ生産は,栽培面積約600ha,粗生産額約200億円と全国一を誇っている。現在「女峰」は,本県を中心として全国的な主要品種であるが,女峰よりも大果で食味が良く収量性も高い新品種「栃木15号」が,平成3年に栃木農試栃木分場で育成され,平成8年産で約44haが栽培された。今後は,女峰に替わる品種として,栽培面積の拡大が期待される。
栃木15号の肥培管理については,養分吸収量等の具体的データがなく,生産農家の経験により栽培が行われている状況にある。そこで,時期別の養分吸収量や,施肥量と収量との関係等について調査し,さらに全量基肥施肥法について検討を行った。
速効性と緩効性窒素肥料の種類,量を変えて平成7年産と8年産の栽培試験を行った(表1)。2か年とも,7月に採苗・仮植し,8月下旬から9月上旬まで夜冷処理を行い,直ちに定植(畝間100cm,株間21cm,2条高畝)し,11月より翌4月まで収穫を行った。緩効性窒素肥料として,平成7年産は,NKロングの100日,140日,180日夕イプを使用した。
平成8年産は,ロングの100日と180日タイプを使用した。平成8年産については,JA栃木グリーンから製造販売されている女峰専用BB肥料と同じ緩効性窒素肥料の配合割合(100日:180日=1:4) とした。施肥は定植の3日前に行った。

栽培試験は,栃木農試栃木分場(土壌:細粒灰色低地土,灰褐系(金田統))で行った。供試土壌は,7月中の湛水除塩後に採取したが,その土壌の化学性を表2に示した。供試土壌の分析結果より,窒素の施肥試験を行うのに適正な土壌と判断された。跡地土壌では,7年産では処理問の差は認められなかった。8年産では,窒素施用区で施肥窒素が土壌中に残存していると思われる。


月別収量(可販果収量)を表3に示した。2か年とも収穫初期は,窒素施肥量と収量との間に有意な関係は認められなかったが,年明け後は,無窒素区で収量が低くなった。しかしながら,平成7年の20kg区と40kg区,平成8年の20kg区と30kg区で収量に有意差は認められなかった。

このことから,収量から判断される適正施肥量は20kg/10a前後と考えられる。
平成7年産の地上部及び地下部と平成8年産の地上部の時期別窒素吸収量を図1-2,2に示した。地上部の吸収量をみると,7年,8年産とも,収穫開始前までは,地上部の成長に伴い「葉身+葉柄+クラウン+花梗等」の部分の吸収量が直線的に増加したが,収穫開始後は,「葉身+葉柄+クラウン+花梗等」の吸収がほぼ一定になり,収穫果実より吸収量の増加が大きな割合を占めるようになった。地下部吸収量(根の窒素含有量)をみると,11月下旬までは,窒素施用区と無窒素区で差は認められなかったが,12月以後は,無窒素区で低くなった。しかし,20kg区と40kg区との差は判然としなかった。


地上部の全窒素吸収量は,窒素の施肥量の多少にかかわらず約20kg/10aであり,その内,収穫果実による吸収量は約60%を占めた。このことから,収量の増加には果実肥大期以降の窒素の安定供給が重要なポイントであると考えられる。また,栃木15号の吸収パターンは,女峰とほぼ同様であり,窒素の肥培管理は女峰に準じた方法で良いと推察される。
りん酸の施肥量は,平成7年産が30kg/10a,平成8年産が24kg/10aであったが,無窒素区を除くと栃木15号が女峰より吸収量が多く推移した。窒素施肥量の違いによるりん酸吸収量の差は,認められなかった。収穫果実が占めるりん酸吸収量の割合は,窒素吸収と同様に60%以上を占めた。(表4)

平成7年産の施肥については,加里成分の一部にNKロングを使用し,平成8年産は,すべて硫加を使用した。平成7年産の栃木15号-40kgは加里の施肥量が他の3区より多かったが,吸収量には影響を及ぼさなかった。また,女峰と栃木15号とで差は認められなかった。平成8年産の栃木15号では,窒素施肥量に応じて加里の吸収量が多くなる傾向にあった。全吸収量のうち,収穫果実の占める割合は,窒素,りん酸と同様に高く60%以上を占めた。(表4)
栃木15号では,平成7年産,8年産ともに,窒素施肥量が多いほど,カルシウムの吸収量は多くなった。全吸収量のうち,収穫果実の占める割合は,約30%であり,窒素,りん酸,加里とは傾向を異にした。(表4)
無窒素区で吸収量は低かったが,窒素施用量の多少によるマグネシウム吸収量の差は認められなかった。(表4)
平成7年産の,葉身,葉柄,クラウン,根について含有率の時期別変化を調査した。(図2-①~④)栃木15号と女峰の品種間差が認められたのは,根とクラウン部分で,ほぼ全生育期間中,栃木15号が低く経過した。窒素施肥量20kgと40kgとの違いが,含有率に及ぼす影響は認められなかった。無窒素区では,根は生育初期から窒素施肥区に比べて含有率が低かったが,クラウン,葉柄,葉身に影響が現われるのは,1月下旬以降であった。

このことから,栃木15号は吸肥力が強いため,無窒素区でも生育初期には窒素施肥区と遜色ない生育,収量を示したが,生育後半になると,緩効窒素肥料からの窒素の安定供給により窒素施肥区で無施肥区より窒素吸収が優ったと推察され,生育後半の窒素の安定供給が増収のキーポイントと育後半の窒素の安定供給が増収のキーポイントと考えらえる。
2か年の試験結果から,窒素全吸収量は窒素施肥区では,施肥窒素量の多少にかかわらず約20kg/10aであり,施肥量の差による収量への影響も認められなかったので,窒素施肥量は20kg/10a前後が適正と考えられる。また,窒素吸収パターンは,女峰と同様なので,いままでの女峰と同様の肥培管理を行えばよいと考えられる。
7年産,8年産とも全量基肥施肥で6t/10a(可販果収量)以上の収量が得られた。全量基肥施肥は,追肥を省略するという労力的な低コストの面だけでなく,品質・収量の面から果実肥大期以降の窒素の安定供給という非常に理に叶った施肥法と言える。溶出試験の結果から,溶出タイプ別の配合割合については今後の検討課題が残ると考えられる。
さらに,加里についても,約30kg/10aの吸収量があるので,緩効性加里肥料の検討が必要と考えられる。