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§環境問題と農業
鳥取県21世紀むらづくり推進協議会
事務局長 上田 弘美
(元 鳥取県農業試験場長・農学博士)
§根深ネギの被覆肥料を利用した省力・減肥技術
新潟県園芸試験場 環境課
研究員 根津 潔
新潟県農林水産部 経営普及課
専門技術員 長井 隆
(前 新潟県園芸試験場 環境課)
新潟県農林水産部 園芸流通課
副参事 小野 長昭
(前 新潟県園芸試験場 野菜課)
鳥取県21世紀むらづくり推進協議会
事務局長 上田 弘美
(元 鳥取県農業試験場長・農学博士)
農業はもともと環境ともっとも調和した産業であると言える。農業は食料を生産して人間のエネルギーを供給するばかりでなく,国土保全,水資源の涵養,水質浄化,景観維持等の環境保全に極めて重要な産業である。
宇宙から見た地球は青白い美しい惑星であると宇宙飛行士は語っている。私たちはこの地球の環境をまもる責任があり,農業の持つ使命を再認識しなければならない。
人間の文明は地球の豊かな水と土に恵まれた場所に栄えてきた。しかし,最近では地球環境がおかしくなってきている。すなわち,地球の温暖化,オゾン層の破壊,酸性雨,熱帯林の減少,砂漠化,塩類集積や浸食による土壌悪化,水質汚濁等があげられる。酸性雨をとってみても,鳥取大学の調査では,鳥取県内ではpH5.6以下の酸性雨が80%降り,またpH5.0以下の雨は50%降っており,季節ではとくに冬が多いようである。人類は豊富な化石エネルギーを使って発展してきたが,そのつけとしてこの地球の環境を悪化させて来た。
現在地球上の人口は約58億人と言われているが,近年開発途上国における人口増加が顕著で,1年間に約1億人増加し,中位推計でも2000年には63億人,2025年には85億人になると予想される。
一方,作物の単収の伸びも限界であり,耕地面積の増加は期待できないので,1人当たりの耕地面積は次第に小さくなる。また,穀物消費量はやや増加するものとみられている。このように,人口増加に伴い食料不足は必ずおこるものと予想され,農業の重要性は今後ますます高まる。
地球環境問題は国際化しており,1992年にブラジルのリオデジャネイロで国際環境開発会議が開かれ,「環境と開発に関するリオ宣言」及び「アジェンダ21」の行動計画が採択された。米国では土壌流亡や地下水汚染の防止と食料の安全性確保のため,低投入持続型農業の推進が実施されており,EC諸国では環境保全に配慮した共通農業政策が実施されている。
日本は欧米より降水量が多く,森林も多い。また欧米は畑作が中心であるが,日本は水田農業が中心で2000年の連作に耐えてきた。日本農業はもともと環境保全型農業であった。しかし,今なぜ環境保全型農業が話題になるのであろうか。
日本は資源や化石エネルギーの過度な消費があり,化学肥料や農薬を多投入してはいないだろうかとの反省がある。また,家畜糞尿の不適切な処理による環境への悪影響がある。さらに,湖沼や地下水の汚染,残留農薬の健康への影響に関する消費者の関心の高まりなどがあげられる。
平成4年6月,新政策「新しい食料・農業・農村政策の方向」のなかで環境保全型農業の必要性についてふれてあり,農水省では環境保全型農業推進本部を設置し,環境保全型農業を推進しているところである。
鳥取県では環境にやさしい農業に取り組んでいる。環境にやさしい農業とは「有機物を利用した土づくりを基本に,生産性を維持しながら,農薬や化学肥料に大きく依存しない環境に調和した農業」と定義している。
平成4年7月に鳥取県環境にやさしい農業推進協議会を設置し,平成5年5月に鳥取県環境にやさしい農業推進基本方針を策定した。
推進方策としては,次のような事項があげられる。
①農薬等の削減目標
当面,肥料・農薬の1割減,2001年までに3割減
②生産技術の確立・普及
③栽培手引き書の作成
④畜産有機物等のリサイクル利用による土づくり,地域間の需給ネットワーク
⑤リーダーの育成
各種研修会の実施
⑥生産者に対する啓発
栽培基準の作成,展示圃の設置
⑦消費者に対する啓発
鳥取県では現在「クリーンプラン21」の行動計画を策定しており,主要な農作物について,肥料や農薬の具体的な節減計画を策定しているところである。
環境にやさしい農業技術については,試験研究機関の技術確立と,現場における実証試験が必要である。鳥取県が発行している「環境にやさしい農業技術の手引」より,具体的な農業技術の事項について述べてみたい。
土壌診断により,鳥取県耕地土壌の現状を把握し,改良対策を樹立する必要がある。
鳥取県農業試験場では地力実態調査を実施しており,また,普及センターやJA県農とっとり等においても土壌診断を実施している。最近では,鳥取県園芸試験場において,すいかの急性萎ちょう症について実態調査を行い,土壌の不良原因を究明している。
土づくりには,有機物利用による土壌改良があり,有機物施用により土壌の理化学性や微生物性の改良が可能となる。有機物資源としては,なたね油粕,けいふん灰,家畜糞尿等がある。
また,物理性の改良として,深耕,排水改善による土壌の改良が考えられる。深耕では水田は15~20cmで良いが,すいか畑では40cm必要であり,県中部の大栄町では,深耕ロータリ一等により40cmの深耕を実行している。
水田転換畑では,鳥取県農業試験場で開発されたクロス浅層暗渠が有効である。果樹園では,ボーリング排水や畝立栽培により,園内の排水が可能となっている。
化学肥料の削減方法として,緑肥作物の導入が考えられる。水田におけるレンゲの栽培は,地力増進にもなり,景観美化ともなる。水稲には10アール当たり2トン施用すれば良い。
肥効調節肥料による施肥の省力化と肥効率の向上が考えられる。これについては,最近実施された試験結果については後述する。
最近では側条施肥田植機利用により肥効率の向上と流亡防止が行われている。鳥取県では田植え方法で側条施肥田植機利用は14%まで普及している。
病害虫の発生状況に応じた的確な防除が必要である。最近では要病害虫防除水準が策定されつつある。
鳥取県農業試験場で育成された水稲新品種は,このたび一般公募により「おまちかね」と命名され,本年奨励品種に採用された。この品種は母が中国73号,父がコシヒカリであり,良食味でかついもち病に強いのが特徴である。
梨では,農水省放射線育種場で育成された「ゴールド二十世紀」が鳥取県ではかなり普及している。この梨は,品質は二十世紀梨と同様であり,黒斑病に耐病性があり,防除回数が半分に節減できるメリットがある。
このように,耐病性品種の育成は農薬の節減に大きく貢献できる。
果樹園のクリーン栽培は黒斑病の菌の密度を減らすことができる。ハウス栽培では,太陽熱利用による土壌消毒が応用されている。
性フェロモン利用による害虫防除として,ながいものシロイチモジヨトウ防除にヨトウコンSが利用されている。微生物農薬として,コナガ防除にBT剤(細菌の毒を利用)が効果が高い。
その他,ウイルスフリーの利用,弱毒ウイルスの利用が行われている。
鳥取県農業試験場等が開発した専用田植機で,再生紙マルチ栽培を実施している。これによると水稲の除草が可能であり,しかも紋枯病も抑制することができる。また,肥料はなたねあぶら粕の利用により,水稲有機減農薬栽培技術を樹立している。
環境にやさしい農業技術の一つとして,肥効調節肥料の利用が考えられる。この肥料の導入により,肥料成分の流亡が少なく,肥効率が高いために全体として施肥量を節減できることになる。
そこで,平成7年度に鳥取県内の試験場で実施された試験結果の数例について紹介してみたい。
ながいもは鳥取県中部砂丘地の特産物であるが,施肥窒素量は10a当たり40kgと多く,追肥回数は13回にも及んでおり,地下水への環境負荷が心配されている。
そこで,被覆肥料ロング180(13-3-11)及びロング140(13-3-11)により,ながいもの施肥改善試験を大栄町砂丘地砂土畑で実施した。試験区の概要は表1のとおりである。

標準区は慣行の施肥法で,肥料はながいも複合,尿素燐加安等で施肥窒素量は10a当たり40kg,施肥回数は13回とした。被覆肥料ではロング140の1回施用では窒素20%減と30%減の処理区を設け,さらにロング180(基肥)+ロング140(追肥1回)でも窒素20%減と30%減の処理区を設けた。
試験結果の概要は表2のとおりである。

ながいもの収量調査結果をみると,ロング140の1回施用では慣行である標準区よりも窒素が2~3割少ないためか収量はかなり低下した。しかしながら,ロング180(基肥)+ロング140(追肥1回)施用区では,窒素30%減でも収量は慣行と同等であり,しかもながいもの品質も良好で,大きさもL以上の比率がもっとも高く87.4%であった。
窒素肥効率をみると,標準区は追肥回数が13回にもかかわらず,肥効率は49.5%と低く施肥窒素の半分は流亡したことになる。N肥効率がもっとも高いのは,ロング180+140 N30%減区で肥効率は64.6%であった。
この試験でながいもの施肥改善と窒素流亡防止に,被覆肥料の効果が高いことが実証された。
7年生のゴールド二十世紀梨に対する被覆肥料の効果について,場内の表層腐植質黒ボク土の果樹園で試験を行った。
試験区の設計は表3のとおりである。
慣行区は高度化成等を年4回施用した。窒素施用量はどの区も6.2kg/10aとした。被覆肥料はLP50及びLP70の2種類とし,年2回の施用とした。

試験結果については,表4のとおりである。
LP50では,慣行と比較して収量がやや低かったが,LP70では収量や品質は慣行区とほぼ同様であり,効果が認められた。

慣行の収量水準を維持しながら,施肥窒素量の軽減を目的として被覆肥料のLPD-80(14-14-14,LP100の窒素を80%含む)の効果について試験した。
試験区の概要は表5のとおりである。
試験地は県東部河原町の中粗粒灰色低地土の水田で,品種はヤマヒカリ,5月20日に移植した。

慣行施肥区は窒素施用量が10kg/10aで,基肥が窒素5kg,穂肥は2回で窒素3+2kgであった。LP肥料は基肥一発施用で,窒素8kgと9kgの2区を設けた。
水稲の収量調査結果等は表6のとおりである。
これによると,被覆肥料で窒素施用量が慣行の2割減でも,慣行とほぼ同様の収量をあげ,窒素の利用率は52.4%と高かった。被覆肥料は基肥一発施用でも,効果があることが明らかである。

水稲不耕起乾田直播栽培における施肥法を検討するために,鳥取農試において細粒灰色低地土・灰色系の水田で,品種ひとめぼれの不耕起乾田直播栽培の試験を実施した。
試験区の概要は表7のとおりである。
化成区は基肥-灌水肥-穂肥1-穂肥2の4回施用し,LP区は基肥一発施用とした。

収量調査等の結果は表8のとおりである。
被覆肥料LP100の表面施用では,窒素施用量が10kg/10aと慣行より少なくても,慣行の化成区よりも収量が高く,窒素利用率も高まった。また,LP100の播種溝施用では,さらに収量が高まった。LP40+100の播種溝施用区がもっとも収量及び窒素利用率が高かった。

今後省力栽培として期待されている水稲不耕起直播栽培では,被覆肥料の基肥一発肥料の施用効果が高く,窒素利用率も高いので流亡は少なく,環境にやさしい施肥法と考えられる。
地球環境保全のためには,農業の使命は極めて大きいものがある。日本は従来はむしろ工業優先の政策で,環境保全には比重が軽かった。今後は天然の資源をうまく利用し,自然の生態系を重視し住みよい地球とするため,環境にやさしい農業を推進していく必要がある。
新潟県園芸試験場 環境課
研究員 根津 潔
新潟県農林水産部 経営普及課
専門技術員 長井 隆
(前 新潟県園芸試験場 環境課)
新潟県農林水産部 園芸流通課
副参事 小野 長昭
(前 新潟県園芸試験場 野菜課)
ネギは現在やわ肌ねぎというブランド名で出荷されており,新潟県のブランド品目として位置づけられている主要露地野菜である。
栽培面積は年々増加しており,平成5年度の調査では800ヘクタール余りとなっている。新潟県のネギはブランド名にあらわれているように,軟白を作った根深ネギである。根深ネギの栽培は,ネギが生育するにつれ株元に土を寄せ軟白を形成させる。新潟県での作型は図1のようになっているが,ネギは栽培期間が長く,在圃期間中に4回から5回の追肥をおこなうため比較的施肥量が多い。またそれに伴う土寄せなどの労力も非常に大きい。

そこで,本県での施肥例を表1に示したが,この施肥レベルよりも20%の減肥と,追肥労力の削減を目標に試験を行った。

まず追肥量の削減の可能性を探るため,慣行4回の追肥を3回,2回と少なくして検討した。ネギ栽培はその特性上土寄せという作業を伴う。そのため,ある程度土壌が肥沃であれば追肥回数を減らしても,土寄せにより肥沃な土壌が供給され生育を維持できると思われる。追肥のパターンは表2のようにし,無追肥の期間が2ヶ月以上にならないように設定した。3回追肥の区については栽培前期の追肥パターンを変えて検討した。

表3のように収穫時の生育調査では,当然ではあるが追肥回数2回よりも3回のほうが生育がよかった。2回追肥区のA区とB区を比較するとA区のほうが1本平均重が重く,草丈も大きかった。C区とD区については,C区よりD区のほうが1本平均重量が重く,草丈も大きかった。

表4に規格調整後の収量を示した。収量はD区が多く,慣行とほぼ同等の収量だった。追肥2回のA区とB区は慣行区よりも収量がかなり少なかった。

これらの結果より,A区とB区の施肥体系のちがいが定植後の追肥の有無であることから,この追肥が収量に影響していると思われた。しかし,3回追肥を行うと2回の場合とは異なり,定植後の追肥がなくても収量に影響は見られなかった。このため少ない肥料の場合,初期成育のちがいが大きく収量に影響すると思われるが,ある程度十分に肥料が供給された場合,無追肥の時期があってもその後の回復期間が長くなるほど収量に及ぼす影響は少ないものと推察される。
植物体を分析した結果が図2である。窒素についてみると6月15日の時点で各区に差はあるものの7月5日になると追肥の有無によるちがいがはっきりと現れる。6月15日に追肥をしたA区及びC区は,追肥のなかったB区,D区に比較して窒素濃度が高く推移している。

その後も追肥を行うと植物体中の窒素濃度の上昇が見られたが,B区については初期の追肥の影響が大きく,収穫までに窒素濃度はA区並にはならなかった。D区では6月5日に追肥がなかった影響で7月5日に窒素濃度が下がっているが収穫時には慣行並となった。以上のように,植物体中の窒素濃度を慣行並に推移できれば収量もそれに近い値となると思われる。
次に,生育期間を通じて安定した窒素供給ができる肥料として被覆肥料を用いて検討した。用いた肥料はLP140とロング140である。窒素施用量は,すべて統ーした。被覆肥料は,長期間肥効を維持できるほかネギ栽培には欠かせない追肥作業を省略できるという大きなメリットがある。
又,同時に被覆肥料の施用法として,全層施用と溝施用の場合を検討した。全層施用は,畑全面に肥料を散布し全層混和するやり方で,作業の簡便化が図れる。溝施用は,ネギの植え溝に部分的に施用するやり方で,肥料の利用効率を高めるといわれている。いずれの方法にしろ追肥が不要であるため労力の軽減が図れることは共通である。
この試験の収量結果は,表5のようになった。慣行栽培の区が最も収量が多く,ついでホワイトエース(注)区であった。慣行栽培区はほかの区より収量がやや多かったものの,A品収量は他の被覆肥料区と同等だった。
(注)ホワイトエース…くみあいCDU入ロング複合,18-13-11,窒素のうちスーパーロング140の窒素を55%,CDUの窒素を12%含む。

施用法を変えた試験では施用法のちがいによる生育への影響が認められた。定植1ヶ月後の生育は全層施用の方が草丈が大きく,初期生育がよかった(表6)。規格別収量調査ではA品に占める2L,Lの割合で差があった(図3)。


全層施用の方が溝施用に比べ2Lの割合が大きく,溝施用のものはLの割合が大きかった。総収量については,慣行栽培区が他の区に比べ多かったが,A品の収量は各区に差はなかった。
このようにネギ栽培では,被覆肥料を利用しても慣行並の収量を確保できることがわかった。また,被覆肥料を全層施用した区は土寄せなど他の要因も考えられるが,初期生育がよく,慣行栽培と同時期に収穫した場合,2Lの割合が多くなる傾向だったため,初期生育の差が規格のちがいにあらわれたと思われる。
最後に,現在県内でも普及しているチェーンポットと呼ばれる連結ペーパーポットで育苗した苗を使用して,全層基肥1回施用ができるか,そして当初の目標である減肥を被覆肥料の利用で可能であるか,この2点について検討した。
チェーンポット苗は慣行の地床苗と違い幼苗で定植するため,本圃での栄養状態が地床苗よりも生育に大きく影響すると思われたからである。またチェーンポット苗は,育苗培土ごと定植するため根の痛みが少なく養分吸収が初期から旺盛なことが予想された。
定植1ヶ月後の調査では,苗質により生育のちがいが認められた(表7)。若苗で定植するポット苗の方が地床苗よりも生葉数が多く草丈が大きくなる傾向があった。また慣行施肥よりも,ホワイトエースによる全層施肥の方が,草丈が大きくなる傾向だった。しかし,収穫時の生育では,苗質及び施肥の違いによる生育への影響はほとんど認められなかった。

mあたりの収量では,ポット苗は密植の影響でM規格や規格外が地床苗よりも多かった。施肥のちがいによる収量への影響は見られなかった(表8)。

本試験結果より,被覆肥料の利用により全量の基肥施用と全層混和が十分に可能であり,これにより作業の簡便化が図れると思われる。また,被覆肥料は肥料の利用効率が高まるため,施肥窒素量の削減が可能であることが示唆された。
今後は,ネギ以外の作目についても被覆肥料の利用が普及してくると思われる。ネギ栽培では,肥料を全層混和したが,これは土寄せ作業があり施肥後の土壌攪拌があるためと,ネギの根の酸素要求量が大きく,根が上部ヘ向かって伸長するためである。しかし他の作目については,より利用効率をよくするために植え溝施用などの方法を考える必要があると思われる。