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第460号 1996(H8).03発行

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ナス栽培とスーパーロングについて

JA山梨経済事業連 営農対策課
課長 田中 寿雄

はじめに-ロングとの出合い

 ロング肥料と御縁ができる契期となったのは昭和54年の春,当県のイチゴ栽培において,縁枯れ症状が発生し,その対策に取組んだ、ことに端を発する。

 イチゴの縁枯れ症は,肥料濃度特に窒素の分解と大きな関わりがあることが判明したため,近隣の優良産地を見学することとなった。研修地は県内外に及んだが,その中で目を引いたのが,静岡県富士市内における,長期株冷の圃場であった。早速,施肥設計を見せてもらうとそこにロング肥料があった。農協職員の説明によると,このロング肥料を使うようになってからは,肥料に微妙に反応するイチゴであっても,濃度障害の発生が見られないとのことであった。

 この話に感嘆し,当時の山城農協営農指導員塚田正一氏とともに,本県導入に向けての試験を開始した。

1 ロング普及の経過

 昭和54年より始まったロング肥料の試験は,本会が実施している施肥合理化圃場試験の一テーマとして位置付け,イチゴ,キュウリ,トマト,ナスの果菜類を中心に試みた。(写真1参照)さらに,普及所にも依頼し,同様な試験が並行して実施された。普及所では果菜類の外にカーネーションなどの花き類でも実施され,広がりをみせた。

 当初,ロング肥料は,追肥用の肥料であり,それを基肥施用時に基肥とー諸に施肥するものであって,追肥はしなくてもよいと考え普及を行なっていたが,その時に最も頭を悩ましたのが,ロングの施用量であった。

 イチゴのように追肥量の少ない作物では,前述した考え方がスムーズに導入され,基肥は慣行で使用されている有機配合肥料とし,追肥分をロング肥料(作型により100タイプと140タイプを使い分けた)として施した。

 この結果,56年頃より普及拡大が図られ,58年には,県産イチゴの50%以上に使用されるようになった。

 一方,他の果菜類にあっては,追肥の量が多いことから施用効果面からばかりではなく,普及可能な肥料金額という面からも取り組まざるを得なかった。

 つまり,ロングは追肥の全量をカバーするのではなく,深層追肥という従来ではない形「待ち肥効果」を重視することとした。(写真2参照)このため,果菜類に対する施肥量は,一律的に10a当り100kgとして,普及を図ることとした。

 県内においてのロング肥料の他の果菜類への普及はイチゴに一歩遅れる形で進んだが,キュウリ,ナス,トマトにおいては,昭和60年には,ほぼ全域で使用されるようになり,普及率は,60%を越えた。

2 山梨のナス栽培

 山梨のナス産地は,甲府盆地のほぼ中央部(峡中地区)と南東部(東八代地区)の2地区を中心に形成されている。峡中地区は古い産地で大正の初期から栽培が行なわれ,水田転作の主力作物としても積極的に導入されてきた。

 一方東八代地区では,昭和40年頃より本格的な栽培が行なわれるようになり,果樹への転換にいたる補完作物としても,位置づけられ産地が形成された。主な作型には,夏秋栽培と抑制栽培があり,各々「夏秋ナス(普通栽培)」「秋ナス(抑制栽培)」と区分されている。基本作型と主な作業を図1に示す。

 栽培面積は,峡中地区92ha,東八代地区93ha,その他10haであり,全体では195haである。本会の取扱数量は1万1千tで野菜全体の27%,取扱金額は約30億円で,野菜全体の30%を占め,最重要品目の地位にある。品種は千両2号が主力でトルバム=ビガーを台木とした接木苗が用いられている。なお,台木として岡山農試で開発されたトレロも注目され,試験導入されてきている。

 施肥は窒素で50kgが基準とされ,元肥量30kg,追肥量20kgとなっている。保肥力の少ない圃場では,追肥を中心にさらに増量されている。

施用上の留意事項

(1)元肥に用いる肥料は緩効性のものを主体に施用する。
(2)追肥は収穫開始期に第1回目を行い,その後は20~30日間隔で施用する。
(3)苦土欠乏症が発生したときは,被害程度が大きくならないように5~10日間隔で硫酸マグシウムの葉面散布と土壌灌注を合せて行う。

3 ナスの生理-開花・結実

 「ナスにはムダ花がない」と言われ,花数をいかに確保するかが,収量確保の目安となる。もちろん,ムダ花がないわけではなく,健全な花を着けさせる必要がある。ナスは,一般には自家受粉である。ナスの花は下向きになって開花し,開花時に開葯が行なわれ,そして,花粉は葯の先端から飛散し,すぐそばの柱頭上に落下して受粉が行なわ
れる仕組みとなっている。このため,正常花は,柱頭部分が花柱をとり囲んでいる葯の先端より跳び出している。

 このような花を長花柱花といい,容易に受粉がされる。柱頭と葯の先端が同じ長さの花のことを中花柱花。柱頭が葯筒内にかくれてしまうような花は,短花柱花と呼ばれ,受粉もスムーズに行なわれず,特に短花柱花は,落花するものが多い。

 ナスで収量を得るためには,長花柱花を着花させる必要があるがこのための条件としては,温度光,水分そして肥料養分の3条件があげられる。

 温度条件としては,着果をよくするためには,20℃以上を確保することが大切であり,かつ,高温障害も起こしやすいので,35℃以下とすることも必要だといわれている。

 光も重要な要素であり,光度が低下すると短花柱花の発生が多くなり,自然光の25%になると全く着果しなくなったという事例もある。

 さらに水分,特に土壌水分は条件から除くことが出来ない。「ナスは水で作る」という言葉があるくらいである。このため本県の産地は,前作が水田の圃場を利用する例が多く,収穫も長靴をはいての仕事となり,重労働を伴なう。

 肥料養分の必要性は無論であり,養分不足となると短花柱花の発生が多くなり,着果が悪くなる。このため,樹勢を低下させないように,ダニなどの寄生害虫を防除すること,肥切れを加こさないように,追肥を行なうことが重要となる。

4 スーパーロングとナス栽培

 前述したように,本県におけるロング肥料の利用の基本は,追肥分であり,有機質肥料や緩効性肥料に上乗せるという方法をとってきた。(表2参照)

 しかし,初期生育の旺盛なトルバム=ビガーが台木として利用,拡大されるに従って,初期の過繁茂が問題視されるようになってきた。このためロング施用量が減少し,本来のロング肥料の施肥効果も低下してきた。

 この時に登場したのがS字型タイプのロング,後のスーパーロングであった。この肥料の資料を手に入れた時は,まさに,待ちに待った肥料だと小踊りしたものであった。

 早速,従来のロングからの切換えとともにロング未使用産地への普及活動を開始した。このスーパーロングを普及するにあたっては,初期生育の過繁茂が大きな障害となるナスとトマトに限ることとし,従来のロング肥料の普及を図った時と同様の体制で実施した。

 施肥量も10a当り100kgとした従来のロング肥料と同量にした。なお,溶出期間を表わすタイプは,当然ながら従来のロングと同ーのものとした。

 県内各地で実施した試験結果の一例を以下に紹介する。土壌におけるスーパーロングの溶出量を測定したが(写真3参照),その結果は図2のとおりで,みごとに理論どおりとなったばかりか,同時に調査した草丈や収穫量もほぼ満足できるものとなった。(表3,4,図3参照)

 特に,表4の慣行区にみられるような中途での着果量の減少,すなわち成り疲れ症状の発生(8/2,9/12)がほとんど認められなかったことや,9月以降の着果が低下しなかったことは,スーパーロングの特性による根域の拡大が大きく影響した結果であることを再確認した。(写真4参照)この結果から普及にはずみがかかっている。

 現在の基本となる施肥基準(表5)は,ロング140を使用した夏秋ナスのもので,県下統一のものである。

 なお,スーパーロング使用にあたってはつぎの注意事項を併記している。

①施肥後約30日頃から効き始め,40日で約40%溶出し,約100日間効果が続くこと。
②元肥施用時に他の配合肥料や化成肥料と組み合わせること。
③ロング肥料の特性を考慮して,追肥量を調整すること。

むすび

 スーパーロング肥料は,初期の溶出をおさえ,しかも,長期間均一的にコントロールできる他に類をみない肥料であることから,今後さらに利用場面は拡大できるものと思われる。また,本県における果菜類の栽培様式を考える時,施肥から定植までの期間が長いことから,施肥後50~60日に溶出を開始する長期S字型溶出の新しいロングの開発を希望して,むすびとする。

 

 

パーティクルガンによるイネへの遺伝子導入法

石川県農業短期大学農業資源研究所
教授 島田 多喜子

Introduction

 一昨年の5月,遺伝子組換え技術によって育成された日持ちのよい完熟トマトが商品化され話題となった。これは遺伝子組換え作物の初めての市場化であり,歴史的なことであるかもしれない。このトマトは,果実が熟すにつれて軟らかくなるという遺伝子が働かないように遺伝子組換えされたもので,したがって完熟しても軟らかくならず,輸送保存による傷みが少ない。

 遺伝子組換えということで消費者の拒否反応が危惧されたが,スーパーマーケットに売り出されるとすぐに売り切れたということである。優秀な品種の良い点はそのままで,欠点のみを改良できるという遺伝子組換え技術は,これからどんどん実用品種を生み出していくことになるだろう。

 遺伝子組換え作物の育成には,2つの要素があり,1つは遺伝子の単離であり,他は遺伝子の導入である。農業上有用な遺伝子,例えば耐寒性,耐病性,多収性などに関与する遺伝子を単離することは容易なことではない。しかし,ウイルス病に抵抗性の遺伝子,耐虫性に関する遺伝子,除草剤抵抗性遺伝子等いくつかの遺伝子が単離され,それらが導入され新しい野菜や穀物が育成されつつある。また,研究は日進月歩であり,これからもどんどん農業上有用な遺伝子が単離されていくだろう。

 次に,これらの遺伝子をどのようにして植物に持たせるかという問題がある。こちらの方は,かなり有効な方法が開発されてきている。ここでは,イネに遺伝子を導入する方法として,比較的新しい方法であるパーティクルガン法について紹介する。

2.遺伝子を導入する方法

 植物細胞に異種の遺伝子(DNA)を導入する方法として,アグロバクテリウムという土壌細菌を介する方法と直接細胞に遺伝子を挿入する方法とがある。イネでは,現在のところどちらの方法でも異種遺伝子を導入した植物体(形質転換体)を得ることができる。

 イネなど単子葉植物はアグロバクテリウムに感染することが困難であるためアグロバクテリウムを介する方法を用いて遺伝子導入することはできなかった。ところが一昨年日本たばこ産業株式会社の研究者達は,工夫を凝らしてアグロバクテリウムを用いてイネの形質転換に成功した。かなり効率的で,再現性もあり,これからのイネの形質転換系として重要な位置を占めると考えられる。

 直接遺伝子導入法としては,2つの方法がある。植物細胞は動物細胞と違い,堅い細胞壁に守られている。そのため細胞内に遺伝子を機械的に挿入することは困難であった。そこで細胞壁を酵素で溶かし,裸の細胞「プロトプラスト」にして,それに遺伝子を導入する方法が開発された。現在までイネではこの方法が最も広く使われてきている。

 しかし,プロトプラストを用いる方法には,主に2つの難点がある。1つは,イネの品種の中にはプロトプラスト培養が困難な品種があり,この方法が使えない品種があるということである。他の点は,プロトプラスト培養など組織培養によって突然変異が生じやすく,稔性のある正常なイネを得る効率が低いことである。

 プロトプラストにしないで細胞壁のある細胞に直接遺伝子を導入する方法として,パーティクルガン法が開発された。金あるいはタングステンの微粒子(1~2μm)に遺伝子をまぶし,それを細胞壁を貫く強い力で発射して細胞内に導入し,遺伝子も一緒に細胞内に入れようというものである。イネでは品種によってプロトプラスト培養が難しいものがあることを述べたが,プロトプラスト培養が困難な植物種は多い。例えば大変重要な作物であるコムギ,オオムギ,ダイズなどがそうである。それらの植物では, パーティクルガン法で形質転換体が得られるようになってきている。この方法について次節で詳しく述べる。

3.パーティクルガンによる遺伝子導入の原理

 1987年,米国Sanfordらは,遺伝子をコーティングした金の微粒子を弾丸にぬりつけ,銃によって遺伝子を細胞壁のある細胞に導入することに成功した。現在では,パーティクルガン装置は改良され,図1に示すように銃とは想像もつかない形になっている。また,当初は火薬の爆発によって発射していたが,我々が使っている装置(図1)はBio-Rad社から発売されているもので,圧縮ヘリウムガスの圧力で発射している。広島大学森川弘道教授が開発したエアーライフル式の装置もある。

 パーティクルガンの模式図を図2に示す。遺伝子をコーティングした金の微粒子を発射体であるフィルムに塗り付けてセットする。ヘリウムガスの圧力でフィルムは強い力で発射されるが,すぐ下にある金網のストッピングプレートで止まる。しかしフィルムに塗り付けられた金粒子は網目から飛び出しターゲットの組織細胞に撃ち込まれ,遺伝子も細胞内に入ることになる。

 金の粒子と共に遺伝子も細胞内に入り,うまく遺伝子が染色体に組み込まれた細胞を選抜して,それから植物体を再生させる。この点に関してはプロトプラストに遺伝子を導入する方法と大きな違いはない。ただパーティクルガン法の場合,生長点の細胞に遺伝子を導入して,直ちに形質転換した芽を獲得できる可能性がある。ダイズ等では,生長点にパーティクルガンで遺伝子を導入して形質転換体を得ている。ただし,この場合は遺伝子が組み込まれている部分とそうでない部分がキメラになっている可能性がある。

4.パーティクルガンによる形質転換イネの育成

 実際に,どのようにして異種遺伝子を組み込んだ形質転換イネを作るのか,我々の行っているパーティクルガンを使った方法を述べる。

 遺伝子を導入する組織としてイネ完熟種子の胚の胚盤組織を用いる。種子を滅菌し,2,4-D(2mg/ℓ)添加した培地上で培養する。約1週間後に発芽するが,胚盤組織が肥大してくる。その時期に胚を取り出し,芽の部分を取り除き,胚盤組織を上にしてシャーレに並べる(図3a)。そこに遺伝子をまぶした金の粒子をパーティクルガンで撃ち込む。

 イネに導入したい遺伝子として,耐冷性に関係あると考えられているシロイヌナズナの脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(Fad7)とする。外来遺伝子が組み込まれた細胞を選抜するためのマーカー遺伝子として,ビアラホス(除草剤ハービエースなどの成分)に対する抵抗性を付与する遺伝子(bar)も同時に導入する。それぞれの遺伝子を含んだプラスミドを混合して金の微粒子(1.6μm)にコーティングし,パーティクルガンでイネ胚盤組織に撃ち込む。

 その後,ビアラホスの含まれる培地上で胚盤組織を培養すると,約2ヶ月後にビアラホス抵抗性の細胞が増殖してくる(図3b)。この細胞塊を再分化培地に移植すると植物体が再分化し,形質転換体イネが得られる(図3c,d)。幸いなことに,この除草剤抵抗性形質転換イネの半数以上は,目的のfad7遺伝子も組み込んでおり,目的の形質転換体が得られる。

 100の種子を処理して,10個体以上の除草剤抵抗性イネが得られ,そのうちの半数以上が目的の遺伝子を組み込んでいることになる。形質転換効率としては5%程度といえる。これは,決して低い率ではないと考える。また,プロトプラスト培養が困難で遺伝子組換えが難しかったコシヒカリでも形質転換体が得られた。さらに形質転換イネの大部分は正常で稔性があった。このように,パーティクルガン法はプロトプラストを用いる方法より優れている点が多く,簡便な形質転換法として定着してきている。

5.パーティクルガン法の問題点

 パーティクルガン法は,プロトプラストを用いる方法より優位な点が多いが,決して理想的な形質転換法とはいえない。

 異種遺伝子が多く(多コピー)植物中に組み込まれると,遺伝子の不活化が起こりやすく,後の解析が複雑になるため,1コピーのみを組み込んだ形質転換体が望ましい。ところが直接導入法であると,多コピーを組み込んでしまうことが多く,組み込みを制御することができない。アグロバクテリウムを介する方法では1コピーのみを組み込むことが多く,この点でより優位である。

 パーティクルガン法は,プロトプラスト培養を経ないため培養変異が比較的回避できると述べたが,培養過程を全く経ないというわけではないので,やはり低頻度でも培養変異は生ずる。また,培養能力の低い(培養細胞からの植物体の再生能力の低い)品種では,当然パーティクルガン法でも形質転換体を得るのは難しい。この点は,アグロバクテリウム法でも同じ制限を受ける。生長点へのパーティクルガンによる遺伝子導入では,培養過程を経ない(カルス培養しない)ので培養変異および品種による制限を回避できるだろう。ただし,キメラの問題がある。

 パーティクルガン法の場合,パーティクルガンという装置が必要である。商品化された装置がいくつか販売されるようになり,価格も下がってきでいるが,まだ高価である。さらに,この装置を使って得られた作物で商品化した場合,特許料を支払わなければならないという特許の問題がある。しかし,特許に関しては,この導入装置だけでなく,他の方法にもかかっているだろうし,遺伝子にも,形質転換体を得る色々な個所に特許がかかっていると聞いている。したがって,とりたててパーティクルガン装置のみの特許を問題にすることはないのかも知れない。

6.これから

 イネへの異種遺伝子の導入方法が改善され,以前からは考えられないくらい簡単に形質転換イネが作られるようになっている。昨年10月に,フィリピンにある国際イネ研究所で国際イネ遺伝学シンポジウムが開催された。そこでは,遺伝子組換えに関する発表が非常に多かったが,大部分はパーティクルガン法によるものであった。しかし,次の有望な方法としてアグロバクテリウム法が注目を集めていた。上に述べた問題点を解決するような理想的な独自の遺伝子導入法の開発と農業上有用な遺伝子の単離が相まって,我々の日常の食卓に遺伝子組換えイネのご飯が登場することになるのだろう。

(編集部注解)

 キメラとはギリシャ神話に出てくるライオンの頭,ヒツジの胴,ヘビの尾を持つ怪物。生物学では二つ以上の異なった遺伝子型の細胞などから作られた一個の生物個体をいう。