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第458号 1996(H8).01発行

Click here for PDF version 第458号 1996(H8).01発行

 

 

新しい農業への対応

チッソ旭肥料株式会社
副社長 和泉 明生

 明けましておめでとうございます。年頭にあたり,本年が読者の皆様方に実り多い年でありますよう,心よりお祈り申し上げます。

 昨年をふりかえってみますと,社会面では阪神大震災,地下鉄サリン事件等の大事件が勃発した年であり,経済面では景気の低迷に加え,企業のリストラ等の影響をうけた学生の就職難,失業者増と明るさの少ない年でした。
 このようなことから新しい年には景気の浮揚と明るい社会づくりをしてほしいと思います。

 農業環境では,昨年はウルグアイ・ラウンドの決着にてすでにきまっていたミニマム・アクセスの初年度であり,一方新食糧法が11月から施行されました。今年は,農業においても新しい時代の新しい対応の進展が期待されます。

 いま日本の農業は海外との関係においても,国内の他の産業との関係においても転換をせまられています。土地の集約化,農業法人化,省力化,農業資材費の低減等によるコストダウンが必要と云われています。農林水産省が主宰する農業生産資材問題検討会の中間報告の中の一つに,肥料について銘柄の集約と効率的生産,物流の効率化,施肥の合理化等が課題としてあげられました。私たち肥料メーカーは,農業の転換に側面から協力させていただくことになります。

 それには,肥料のコストダウンは勿論のことですが,加えて農業生産者のニーズに応えた機能商品とその使い方を提供することが大切だと考えています。弊社では長年にわたり開発努力してまいりました機能商品の販売をしております。それは度々本誌紙面に登場しています被覆肥料の「ロング®」「LPコート®」をはじめ緩効性窒素肥料「CDU®」,泡状化成肥料「あさひポーラス®」,打込み肥料「グリーンパイル®」,育苗床土資材「与作®」等々であります。

 これまでもこれらの使用技術について,各方面の方々の研究成果を本誌紙面に掲載させていただきましたが,今後も衆知を集めて,皆様とともに開発してゆきたいと思います。その結果の積み重ねが生産性の向上とコストの低減に貢献できれば真に喜ばしいことであります。

 皆様には,本誌「農業と科学」を長年ご愛読いただき感謝しております。今後更に一層創意工夫をこらして,紙面の充実を図り,いささかなりとも皆様のお役に立てばと考えています。
 皆様のご多幸とご繁栄を心からお祈り申し上げ,新年のご挨拶とさせていただきます。

 

 

夏秋なすも被覆肥料で全量基肥が可能に!

岐阜県農業総合研究センター
環境部 土壌環境科
主任技師 高橋 幸蔵

Introduction

 岐阜県の夏秋なすは主に転作作物として栽培されており,追肥を中心とした多肥栽培が行われているが,追肥の労力的負担,吸収量からみた施肥効率の低下,土壌中無機態窒素濃度の変動による草勢不安定,残存肥料による環境への影響等の間題点がある。

 そこで,作物の窒素吸収パターン等を明らかにし,被覆肥料の利用によりこれらの諸問題を改善する合理的施肥法を3カ年の試験成績をもとに紹介する。

2.現地での傾向と問題点

 岐阜市の北部に位置する山県地域(高富町,伊自良村,美山町)を対象に行った現地実態調査の結果,基肥は緩効性肥料を主体として平均30.6Nkg/10a施用されており,追肥は収穫が盛んとなる7月上旬から9月下旬にかけて中心に行われ,1回当たりの平均施用量は当地の標準約3Nkg/10aに対して約5Nkg/10aであった。

 追肥を含めた総施用量は平均74.4Nkg/10aであり,施肥量と収量との関係を示した図1から,窒素施用量が約60Nkg/10a付近までは増収傾向にあるが,それ以上の窒素施用量では必ずしも増収に結びついていなかった。

3.夏秋なすの吸肥特性にぴったり

1)被覆肥料の溶出特性

 ロング肥料を全量基肥とした試験を1992年から3年間実施した試験条件は表1のとおりである。

 3種類の被榎肥料(1993:ロング180タイプ,1994:ロング140タイプ・スーパーロング140タイプ(以下,「Sロング140」とする。))の溶出パターンをほ場埋設法により定期的に取り出し調査した結果を図2及び表2に示した。

 普通タイプは施用直後からほぼ直線的な溶出を示し,収穫終了時(施肥後約210日)での最終溶出率は140タイプがほぼ全量溶出したのに対して,180タイプは約76%であった。また,Sタイプは初期の一定期間(当圃場では施肥後約60日)の溶出が抑えられ,収穫開始時期(施肥後約60日)以降に急激に溶出する,いわゆるシグモイドタイプの溶出を示した。

 また,畝頂上から20cmの深さに土壌溶液採取管(鳥山らの簡易採取装置)を設置し,短期的に土壌溶液を採取し,硝酸イオンを測定(比色法)した結果を図3に示した。Sロング140を用いた両区は追肥開始時期(7月中旬)から収穫終了時まで硝酸濃度が高く維持されており,Sロング140の肥効が安定して供給されていたと推察された。

2)窒素吸収パターン

 夏秋なすの窒素吸収量の推移を図4に示した。定植から収穫始めまでは約3Nkg/10a程度であったが,収穫始めからシグモイド的に増加し,収穫終了時の窒素吸収量は約42~49Nkg/10aであった。

 これは,図5に示した部位別窒素吸収量の結果により,収穫開始時には葉部が全体の63%を占めていたが,収穫盛期を迎えるに従い果実と整枝による窒素の収奪量が増加し,収穫終了時では,果実,整枝が全体の79%を占めたためである。

 図6に示した溶出パターンと施肥窒素吸収パターンより,全量基肥を前提とした被覆肥料の選定には収穫開始時期頃から溶出量が増加するSタイプが妥当である。

 施肥窒素利用率を表2に示した。収穫終了時における施肥窒素利用率は,被覆肥料区が慣行施肥区を上回り,タイプ別では普通タイプに比べてSタイプの方が高くなった。

4.減肥ながらも目標収量10t/10aの確保

 3年間の月別可販収量を表3に示した。180タイプは地温が低下する9月以降溶出が鈍くなり最終溶出量が約76%程度であったため,収穫後期の減収により1t程度の減収となったのに対し,1994,1995の両年では140タイプを用いた区はそれぞれの慣行区に対して2%~6%の増収となった。

 葉柄汁中硝酸濃度の推移を図7に示した(展開第3葉をにんにく絞り器で搾汁し,比色法により硝酸イオンを測定)。慣行区は6月中旬から7月中旬までは高く推移したがそれ以降は急激に低くなり,この時期の安定的な肥料の供給が必要であると考えられた。一方,Sロング140を用いた両区は収穫盛期に当たる8月以降もあまり低下する事なく推移し,特に,Sロング140-45区では2,500ppm前後で安定して推移した。

 5株当たりの月別花柱長別割合を表4に示した。長花柱花数は樹勢を推し量る一つの指標であるが,Sロング140を用いた両区は慣行区に比べて8月以降花数が多く推移し,9月では全花数に対する長花柱花の割合が多くなった事から,Sロング140の肥効が収穫終期まで持続されていたと推定された。

5.環境への負荷軽減

1)主要根群分布

 収穫終了時に畝を横方向に切断し,株元から70cm深辺りまでの土壌断面を調査した結果を図8に示した。畝頂上から約40cm深辺りに鋤床層があり,土壌硬度もこの辺りから急激に高くなった。また,根の分布状況をみると,20cm深までは主要根が密に存在しているが,下層ほど根の張り具合は少なくなり,60cm深以下では殆ど見られなかった。従って,60cm深以下では根域外に当たり養分の吸収はあまり期待できず,この深度での養分は不要であると考えられた。

2)土壌溶液中硝酸濃度の推移

 山県地域内で行った現地施肥改善試験圃の土壌溶液中硝酸濃度の推移を図9に示した。60cm深における土壌溶液中硝酸濃度は,タイプの寒なる土壌条件下において栽培期間を通じて被覆肥料を用いた改善区が低く推移し,下層への養分の流亡がより懸念される礫質灰色低地土においても細粒灰色低地土とほぼ同程度に抑えられた。

6.総合考察

 以上,夏秋なすにおける全量基肥施肥には,初期溶出抑制タイプのSタイプが夏秋なすの窒素吸収特性と合致する上,窒素利用率も向上することが認められた。Sロング140を用いる事により,収穫盛期以降も花数,葉柄汁中硝酸濃度が慣行施肥を下回る事なく樹勢を保ち,収量も同等程度以上得られる事から,30%程度の減肥が可能となり,追肥の省力,施肥効率の向上が期待できる。

 また,本施肥法によれば,慣行施肥体系に比べて主要根域外への養分の流亡が抑えられ環境への負荷が軽減されると考えられた。

 なお,収穫期間が長期に及ぶ夏秋なすの簡易な栄養診断法としては,展開第3葉における葉柄汁中硝酸濃度の測定が有効であり,その指標値は,7月上旬から8月上旬までは3,500ppm~6,000ppm,8月中旬~9月上旬までは2,500ppm~3,500ppmが適当である。

7.利用上のポイン卜

 被覆肥料(Sロング140)の利用に際しては以下の点に留意する必要がある。

①平坦地の灰色低地土における輪換田において適用する。

②気象条件や栽培形態等により被覆肥料の肥効条件が変動する事も想定されるので,全面マルチで施肥から定植までの期間が1ヶ月以内とし,マルチ内地温が低い場合や活着不良の場合は速効性肥料の併用や,10月から11月にかけての収穫,いわゆる「秋なす」による増収効果を期待する場合には,樹勢に応じて追肥の検討も必要である。

③慣行使用肥料に対してコスト面での問題点がある。

 

 

ニラの施肥について

福島県園芸蚕糸課 特産加工係
係長 沼田 光夫
(前 福島県農業試験場野菜部)

Introduction

 ニラは作型・栽培型により株養成法や収穫時期が違い,それぞれの作型における施肥量や施肥法についてはかなり幅がある。しかしながら,多肥栽培すると増収の傾向があることが生産現場の経験から知られており,古い産地や連作地における収量低下の対応策として施肥量を多くする傾向があり,多肥栽培になりやすい。

 また,ニラは栽培期間が2~3年にわたり,施肥回数も多いため(図1参照),施肥量の適正化と合理的な施肥を行う必要があると考える。

 そこで本稿では,ニラハウス栽培における窒素の施肥量とその吸収量及び収量の関係,並びに施肥法に関し,いくつかの試験をふまえて整理してみたい。

2.ニラの施肥量と生育収量

(1)株養成期の基肥と追肥の関係

 定植時の基肥を,10アール当たりの窒素成分換算で20kg及び40kgとし,1年目の株養成期の追肥量をそれぞれ0,15,30,45,60kgの区を設けて収量に及ぼす影響を調査した。

 その結果,図2に示したように基肥量の影響は比較的少なく,追肥量を多くすると収量が多くなる傾向であるが,その影響は比較的小さかった。

 次に,2年株の株養成が始まる前の春肥について,窒素無施用区と20kgの区を設け,それぞれの追肥を1年目の時と同様に0,15,30,45,60kgとした。

 その結果,図3に示すように窒素の追肥量を多くするに従って収量が多くなり,追肥量の影響が大きいことがわかった。

 以上の結果,ニラの株養成においては,基肥より追肥の方が収量に及ぼす影響が大きく,特に2年目の株でその効果の大きいことがわかる。その理由は,ハウスニラの収量が秋期における根及び鱗茎への養分の蓄積の多少によって大きく左右されるため,春先の基把よりも夏秋期の追肥量の影響を大きく受けるものと考えられる。

 また,1年株に比べて2年株における影響の方が大きい理由は,1年株では植物体自体がまだ小さく,肥料の要求量も少ないのに比べ,2年株は株も大きくなり,肥料の吸収量が大きいためと考えられる。

 次に,2年株において,基肥・追肥ともに施肥量を多くした時の影響をみると,株が過繁茂になって梅雨期や秋期の降雨により倒伏することが多く,その場合は茎葉の再生に養分を使うために,株が消耗して減収する原因となる。

(2)追肥の回数と施肥量

 年内どりにおける株養成期の追肥と生育収量についてみると,図4に示したように,追肥を早くから開始し,回数を多くした方が収量が上がった

 この作型は,地下部の養分蓄積が最も盛んな10月~11月に地上部を捨て刈りし,収穫を開始するので地下に倒伏部への養分蓄積が十分でない。このため,収量を上げるには早くからこまめな追肥を行って茎葉を倒伏しない程度に繁茂させ,出来るだけ早くから株を充実させることが重要である。

3.多肥の影響について

 ニラは,連作になるほど多肥する傾向にあることを先に述べた。そこで,多肥栽培の影響をみるため,施肥した窒素の量と吸収量,植物体内硝酸含有量,クロロフィル含有量及び収量の関係を示したのが図5である。

 ニラの株養成期の窒素施肥量を,10アール当たり換算で0,16,32,60,120kgとして栽培した結果,植物体内全窒素含量(T-N),硝酸含量,クロロフィル含量のいずれも施肥量が増えるに従って増加し,特に,硝酸は極端に施肥量の影響が現れた。但し,収量については,60,120kg区では茎葉が過繁茂となり株養成期に倒伏し,収量は32kg区を上限として減収した。

 これらのことから,窒素施肥量を多くすると窒素の吸収量は増加し,硝酸濃度に著しくその傾向が表れた。ネギ類は,本来植物体内の硝酸含量は少ない方であるといわれているものの,多肥するとかなり多くなることが明らかとなった。食物として,硝酸含量が多くなることは好ましいことではないと思われ,必要以上の窒素施肥はさける必要があると考える。

 次に,施肥量と収穫物の品質の関係についてみると,表1に示したように,多肥栽培のほ場からの収穫物は,収穫後の水分の減少が速く軟弱でしおれやすいことがわかり,この点からも適正施肥が望ましい。

4.ニラ栽培における施肥の考え方

(1)施肥量について

 ニラ1tを生産するのに必要な地上部の3要素吸収量は,10アール当たり,窒素5.4kg,リン酸2.4kg,加里6.5kgとされている。これらの肥料の利用率を考慮して施肥量を推定すると,ニラ1tを生産するのに必要な施肥量は窒素が10.8kg(利用率50%の場合),リン酸が12.0kg(利用率20%の場合),加里が10.81kg(利用率60%の場合)となる。収量4tを想定すると,窒素では43.2kgとなる(表2)。

 先の試験結果から推定される適正窒素施肥量もこれらのこととほぼ一致し,必要以上の施肥は収穫物を軟弱にし,土壌及び植物体内への過剰な蓄積を招くものと思われ,適正な施肥が望まれる。

(2)施肥法及び時期について

 ニラの施肥は,基肥を多くするよりは追肥の回数を多くする方が効果的であり,その結果,安定した肥効を確保することによって適正に茎葉を繁茂させ,収量を多くすることができる。

 ハウス栽培の場合,根株充実のために重要な時期は9~11月であるが,この時期までに充実した株を養成するため,夏からの施肥管理が重要である。特に秋冬期の年内どりの作型の場合,早めに株を養成する必要があり,追肥を早くから行うことが効果的であると考えられる。

(3)被覆肥料の利用による施肥体系

 ニラの施肥に当たっては,長期にわたって持続的,安定的に肥効が期待でき,かつ施肥量が過剰にならないように省力的に施肥できる肥料が求められている。その対応策のひとつとして被覆肥料の利用技術が導入されてきた。

 表3は,福島県内主産地の施肥事例を示したものである。従来の施肥体系に加えて養分過剰対策あるいは省力施肥体系として普及されてきており,適正施肥と省力化に向かった新しい動きのひとつである。

5. Conclusion

 ニラの増収技術として,多肥栽培は手近な道となりがちであるが,品質や土壌の化学性への影響も考え,合理的な施肥管理を進めたいものと考える。

<参考文献は省略>