Site Search
Search within product
§水稲の流入施肥法について
チッソ旭肥料株式会社
技術顧問 草野 秀
§市販の肥料入り培土でのロングと種籾の接触施肥による水稲無追肥育苗法
チッソ旭肥料(株)東北支店
チッソ旭肥料株式会社
技術顧問 草野 秀
最近1~2年の農業関係の新聞等に,水稲の流入施肥の記事が時々出るようになった。実際にこの施肥法を知らない人達の声として,「そんな簡単な方法でうまく均一に施肥などできるものか。それは惰農の方法だ。また,排水路の汚染につながる。」などがある。
しかし,一度この方法で施肥した農家は,「追肥は流入施肥に限る」と素直に取り入れ,より上手な方法を自分で検討したりして,実用化している。それは従来の手まきや機械まきに比べ,全く楽で,作業はアッと言う間に終わり,しかも自分達がやっていた施肥法に比べ生育むらも少ないなどのメリットを体験できるからである。
昨年までに展示圃や農家等で実施された流入施肥は,当社だけでも100筆以上で,総面積では数十ha以上であったが,数筆を除いてほぼ好結果が得られた。うまくいかなかった数筆の場合は,田面が平らでなかったなどのためである。田面が不均平やその他,流入施肥に不適な条件の水田もある。しかし,土面が平らで灌漑水は適当量,水持ちは良い,などの条件が良い大部分の水田にこの施肥法は適用できる。
特に規模拡大され1筆が大区画の水田は,機械追肥が届かず問題とされているが,この方法では均質に追肥も可能で,省力,低コストの面からも最良の方法と思われる。
現在,流入施肥用の水溶性の専用肥料は,系統では当社の『くみあいあさひマイクロポーラス』だけである。本誌の本年2月号にこの肥料を使った茨城県の流入施肥の優良事例が紹介された。また,昨年10月農林水産省統計情報部発行の農林漁業現地情報(優良事例集のこと)では,新潟県の1.8haの大区画水田で,あさひマイクロポーラスを用いた流入施肥の事例が紹介されている。
この技術は従来の試験場→普及所→農協→農家のルートでなく,農家↔普及所・農協→試験場確認→普及技術のルートをとる革新的方法の様である。ここではこの方法の手引きや,優良事例,これからの課題などを紹介する。
流入施肥法は,あさひマイクロポーラスのように水によく溶ける肥料を用い,水口流水に肥料を流し込み,流水に任せて急速に溶かし,始めは濃厚な肥料溶液を水田に流し込む。さらに追い水をたっぷり入れ,やや深水状態とした後数日置き,自然の力で均質化した薄い肥料溶液の田面水とし,水の縦浸透で肥料を土壌に吸着させる均質施肥の方法である。
施肥前は土面が出ないように,水深が水口で1~2cm(水尻では5cm程度)となるように潅・排水して,浅い湛水状態とする。
落水状態は土壌に気泡が入り,濃厚肥料溶液が水口付近の土壌に入り込むことになり,施肥むらを起こし易いので避ける。
必要な施肥窒素量に相当する『あさひマイクロポーラス』の袋数を水口そばに用意する。入水を開始後,肥料袋を開け,1袋を1~2分で水口の水とよく混合する場所に流し込む(写真1参照)。

1筆の面積が広く水口が2カ所以上ある場合(例えば1.0haで水口5カ所等)は,肥料も等量に分けて全水口を利用して流入施肥する。これは肥料の拡散均一化を早めるのに役立つ。
流入施肥が終わっても,追い水の潅水を続け,水口で4~5cm以上になったら水を止め,これで施肥作業は終る。深水にした方が肥料溶液の均質化に役立つ。
一般的に肥料溶液は100mの距離でも数時間で水尻に達し,2~4日でほぼ均質化し,減水と共に肥料は土壌中に浸透,吸着される。
施肥後の田面水には肥料が溶けているので,数日後の水尻落水は避ける。落水すると肥料を逃がし,排水路の水質も汚染する。
田を干す場合は自然減水を待って干すか,又は暗渠を開口し田面水を土壌に滲み込ませて落水する。湛水を継続する場合も田面が一部見えるまで自然減水し,肥料を土に吸着させた後,潅水する。
『あさひマイクロポーラス』は水に溶け易いので,大部分はすぐに溶けて田面水中で広がる。しかし,肥料中に数%含まれている石膏など水に溶けにくい成分が,潅漑水の流速に応じて流れの弱まった所に水口から数mの範囲で扇状に薄く沈積する。同程度に水面上には泡面も出来る。これらは施肥後の追い水の潅水で次第に減り,2~3時間後にはほぼ消失する。この現象があっても,また,流入施肥時の潅漑水の肥料濃度はかなり濃いわけであるが,一時的であり水稲に全く障害はない。
潅漑水量と水田面積及び減水深は,湛水するときの条件として相互に関係するので,その条件は単純には決められないが,おおよそ次の目安で良いようである。
水口1基で7m3/時程度以上の給水量が望まれる。この給水量で30a程度の面積まで可能である。目安として1日で5cm程度の水深にできる水量があればよい。
1筆面積30a(100m×30m)で水口1カ所,水口,水尻間の距離が100m程度までは適用可能である。この場合でも水口は1カ所以上が望ましい。さらに前述のとおり1筆面積が拡大しても水口数が比例して増えれば,大区画水田にも適用できる。
形状に凹凸のある水田で,たまり水の起こる所には,肥料溶液が均一に行き渡りにくい。このような場所は後で手まき施肥する等の補正が必要である。また,水田の本来もっている地力差等による生育むらは,この方法では解消しないので,やはり手まきによる施肥で補正する。
水田はなるべく均平で,水口から水尻へ微傾斜し,その高低差が3~5cm程度あるのが望ましい。(日本の水田は平均的にこの程度の差があるとされている1)。)逆に水尻が水口より高い水田には適用しない方がよい。また,基盤整備等で数筆を1筆にまとめ,水尻迄の途中にやや高い(1~2cm)面積部分があると,堤防の役目をして,肥料溶液が水尻側まで届かない場合があり,代かき時に地ならし修正するなど均平化の対策が必要となる。
減水深は15mm/日より少ない水田に適用できる。20mm/日以上では多い程施肥面積が水口側に偏る危険性がある。一般的に漏水田には適用できない。また,常時かけ流し水田では末端排水が水質汚染源となるので適用できない。
流入施肥後はなるべく深水とするので,畦畔の高さは水尻側で8cm以上が望ましい。水漏れを起こすネズミ穴などは,事前や追い水潅漑時に見回り補修する。
粘土等で潅漑水がひどく濁っている場合は避けたほうがよい。パイプラインでは入水初めの水は濁っている場合が多いので,水が澄んできてから流入施肥する。濁り水では肥料が粘土に吸着し,水口付近で沈殿する可能性があり,施肥面積が偏ることになる。
流入施肥法でなぜ肥料が田面水全体に一様に溶解分布するようになるかの機構は,十分解明されていない。しかし,多少調査した結果,次の現象を認めた。
潅漑水に溶けた濃厚肥料溶液は田面水より比重が重く,さらにパイプライン方式の潅漑施設では,潅漑水温(24℃等)と田面水温(30℃等)の温度差による比重の違いも加わり,肥料溶液の比重は田面水より明らかに重くなる。その検討結果の一例を図1に示した。

図から流入施肥1時間後に水口から10mの地点で,田面水の底と水面付近のECの値(mS/cm)は,底部で4.02,水面付近で1.52と明らかな差があり,濃厚肥料溶液は田面水中でも底を伝わって広がる様子が認められる。また1時間で溶液の先端は水口から40mの先まで広がっていることも伺える。
この事実から肥料溶液は底を伝って数時間で水尻まで達し,濃度差及び昼夜の温度差等で上部水と還流混合し,2~4日でほぼ均質な肥料溶液の田面水となると推定される。
流入施肥の主なメリットは次の通りである。
①人力や機械力での施肥が省略できて,著しく省力,低コストとなる。
②慣行施肥と同等以上の均質な施肥ができる。
③肥料による葉焼けや作業による根痛みは無い。
④潅水中の流量が多少変化しても問題無い。
⑤クワイなど湛水栽培の作物の施肥にも応用でき,降雨時でも施肥できる(写真2参照)。

①水口側が低い田,減水深の多い田,落水した田,潅漑水量が少ない田,潅漑水が濁っている田,等では水口付近に肥料が溜まりやすく,その部分の生育が過多となる。また,田面に排水用溝を設けた田では,その部分はすじ状に肥料が効くことになる。
②流入施肥はメリットが多いので,畦畔の低い所は補強して高くし,潅漑水量の少ない所は増やす等の対策を立てるのが望ましい。
③流入施肥は水田地表近くに施肥成分が吸着される1)ことが知られている。一方,水稲の幼穂形成期以後の根の伸長は地表付近で多くなることも明らかにされている。2)このため,流入施肥は追肥用として施肥効果は高いと推定され,最適な施肥方法と思われる。
④水稲の基肥としての流入施肥は,前記の表層吸着の理由により,田植え後透水性が落ち着いてから行うのがよい1)と推定される。この場合の施肥効果は前記の追肥より劣る可能性が考えられる。耕起後の半乾状態の土壌での流入施肥では,水口付近の土壌に肥料は吸着され,追肥に比べやや不向きと思われる。基肥に対する流入施肥法の開発は今後の検討事項となろう。
はじめに述べた農林水産省統計情報部の現地情報(優良事例)のうち,新潟県新津市の善道生産組合の「初の試みの水稲の『流入施肥』-大規模模ほ場で省力稲作体系の確立へ-」は,具体的には次のように実施された。
①試験の場所:新津市三輿野地区善道生産組合
②水田の規模:100m×180m=1.8ha
③供試品種:コシヒカリ
④使用肥料:あさひマイクロポーラス
⑤施肥法:N1.6kg/10aの施肥量で,平成5年7月24日に180mの長辺両側計9カ所の水口全部を使用して,各20kgずつをすべて一人で流入施肥した。作業時間は移動も含め25分であった。追肥はこの後もう一回同じ方法で行われた。
⑥生育相:流入後,一時的に一部水口付近の生育が進んだ以外はほぼ均一で,後には全体がほぼ均質の生育となった(写真3参照)。

⑦肥料溶液の均質性:図2のとおりの大体の均質性が認められた。

⑧評価:前年の15時間の労働時聞が更に短縮されることは確実で,関係者は高い関心を寄せている。
⑨連絡先:新津市善道町2-11-29
善道生産組合(電)0250-22-7525
〔備考:⑧評価・⑨連絡先は“現地情報”の原文のままである。〕
流入施肥法は水溶性の肥料であれば全て適用可能と言える3)4)5)。しかし,米の品質が注目されて来た現在では,手軽に追肥ができるからとして,むやみに硫安等窒素質肥料の単肥多量施用は品質を落とすことになり,避けた方がよいと思われる。
あさひマイクロポーラスはこの点でも興味ある肥料で,窒素-燐酸-加里を16-16-10%含み,すぐに水に溶ける泡状の化成肥料である。しかも硝酸態窒素を2.5%(全窒素の15.6%)含んでいる。硝酸態窒素が稲の登熟歩合や稔実を良くすることは,多収穫農家の水稲作の解析等でよく知られている6)7)。また,燐酸の出穂前追肥が収量増加につながることも明らかにされている8)(表1参照)。

農業試験場等での解析的調査がないため,本文でデータとしての提示はできないが,あさひマイクロポーラスを流入追肥すると,止め葉が大きくなり,しかも立ち上がり,稔実が良くなり,収量も慣行と同等以上となる現象は,前述の茨城県の例を始め数箇所で認められた。これらは今後の事例の集積から,より明らかにされるものと期待される。
肥料を容器で溶解後,水口で滴下,流入施肥する方法は農業試験場等で約30年程前からテストされ3)4)5),現在でもごく一部の篤農家で実用化している。しかし,本文で述べた肥料を直接水口に投入する流入施肥法は,必要に迫られた農業の現場で作られた方法であり,イグサ,レンコン等で農家は実施していたようである。このため未解明の課題は多く,試験場等による早急に解決を要する諸問題の解析的試験研究の実施が望まれる。
その主なものは,①流入施肥の適用可能な水田等の諸条件,②肥料の均質分布の有無,③肥料の利用率,④収量・品質への影響,⑤基肥や他作物への利用の可否,⑥水質汚染の有無等である。
但し,この施肥法は大区画の水田ほどメリットがあり,農業試験場の場内小区画の圃場試験にはむかない性格もあり,現地での実証試験として進めるのが妥当な方向と思われる。一方,展示圃等現場での解析には,肥料溶液の移動,分布,残存量等を直接測定できる電気伝導度計(ECメーター)の利用で最適である。その活用でより良い技術の開発も可能と思われる。
5~10年後には,この施肥法が相当実用化していることを期待しながら,筆を置く。
1)石居企救男・秋本俊夫:水田における液肥の利用:土肥誌,38,43(1967)
2)川田信一郎:イネの根,p.26農文協(1982)
3)山崎欣多・久津那浩三・瀬川篤忠・上森晃:水田に対する液体肥料の流入施用に関する研究(第1報):土肥誌,36,380(1965)
4)石居企救男・秋本俊夫・石上忠:肥料農薬の水運施用に関する研究:埼玉農試研究報告,32,35(1969)
5)西川康之・渡部富男:水稲の流入施肥の方法:農業及び園芸,65,38(1990)
6)諸岡稔・葛西善三郎:幼穂形成期に与えたNO3–15NとNH4–15Nの水稲による吸収と移動:土肥誌,43,377(1972)
7)清野:水稲多収栽培における硝酸態窒素利用の意義:近代農業における土壌肥料の研究,p.109,養賢堂(1970)
8)三宅靖人:水稲の生育収量に対するリン酸の追肥効果:農業及び園芸,67,1119(1992)
チッソ旭肥料(株)東北支店
東北地方でのコーティング肥料は昭和60年以降から,水稲関係ではLPコート,畑作関係ではロングが普及している。
特に,水稲関係での普及は山形県での省力的な1回追肥技術がLPコート70号,40号1)2)で,基肥関係では当時東北では画期的といわれた岩手県での全量基肥一回施肥技術3)~8)がLP100号で開発され,普及が始まった。この2つの施肥技術はその後,東北各県での普及の基礎となっている。また,田植え同時施肥としての側条施肥技術でもコーティング肥料の肥効特性が有効に活用されている。
このように,最近の水稲作で,コーティング肥料が幅広く普及し,農家の省力栽培と安定生産に貢献している。現在では更に省力的な施肥と地力発現パターンへのより良い適合を目指したシグモイドタイプ(LP-S100号)の本田施肥技術9)10)と,不耕起移植栽培11)12)での応用的な施肥技術も開発され,一部地区では普及が始まっている。
東北地方は,寒冷地であるため,水稲では特に本田移植後の初期活着が大事にされているが,この場面でもロングが苗箱施用技術として各県(青森,岩手,宮城,秋田,山形)で発表され,既に13)幅広く普及している。
本技術は化成の育苗用肥料(N:1.0g)とロング424-M100(N:7.0~10g)とを組み合わせて床上混合の条件で使用すると,ロングが育苗期間中徐々に安定しで溶出するため,追肥が省略でき,且つ追肥を確実に実施したのと同程度ないしはそれ以上の養分濃度の高い苗が得られる。
また,溶出残の肥料分が本田移植後に苗の根元で徐々に溶出することも相まって初期活着が良い。この初期活着の良さが東北での安定稲作では大変大事な点であり,その効果が現地で評価14)15)され,平成5年度での東北での使用実績は約1,000トンに近い量となっている。
東北地方の水稲育苗でのロング施用の開発経緯と普及状況については,本報の平成4年1月号と2月号で報告している。その内容は無肥料の土(水田土,山土,無肥料市販培土など)を使用した上記の施肥内容(育苗用肥料とロングの併用)のものであり,市販の肥料入り培土への適応は未開発となっていた。
今回は市販の肥料入り培土でのロング施用の省力的な施用技術の開発とその効果を紹介する。
前回報告の床土混合と今回紹介する肥料入り培土での種籾接触施肥での効果とメリットは,基本的に同じであり,その内容は次のようである。
ロングは徐々に溶出するため,慣行栽培基準の追肥成分量に見合う溶出量となるロングの現物量を施用すれば,育苗期間中苗の養分吸収に合った肥料分の供給が可能となり,追肥が不要となる。
育苗期間中ロングから肥料分が徐々に安定して溶出するため,苗は必要とする養分を必要なだけ無理なく吸収でき,それによって苗の養分含有量が安定且つ,高めに保持できる。
また,硝酸態チッソ含有量が高く発根力の強い苗づくりができる。
育苗期間中のロング424-M100の肥料分の溶出率は約30~40%程度であり,残りの約60~70%は本田に持ち込まれ,且つ苗の根元に施用された状態で徐々に溶出するため,局所的な施用での弁当肥としての効果がある。この効果と上記(2)の効果が相まって初期活着が良くなる。
慣行の追肥を行う育苗の場合,追肥時期の判断の不適切,追肥量の間違い,追肥ムラ,肥料焼けなどの問題を起こすことがある。これらは農家の判断の誤り,作業上での間違い,作業精度の違いなどに起因するものである。
追肥作業は農家の育苗管理の中でも特に神経を使う作業であり,その適,不適が苗のでき上がりの良し悪しに関係しており,且つ適切な温度管理や水管理と合わせて,良い苗作りのため大事な作業である。この農家が神経を使う作業を省略でき且つ良質の苗が得られることはまさにコーティング肥料を用いてはじめて達成できる技術ともいえる。
市販の肥料入り培土を使用する農家は省力を目的として購入しているので,苗箱に床土を充填する前に培土にロングを混合する手間を嫌うのは当然である。但し,市販の培土は育苗後半に肥料の効きが弱くなるので,良い苗を育てるには追肥が必要である。
市販の培土の場合でもロングを施用すれば追肥を省略できることは,前述の床土混合内容からも明らかであるが,いかに簡便に施用できるかが解決されないと普及性がないといえる。本報告では,この点を解決できる施用方法が見出されたので紹介する。
現在普及している無肥料床土での育苗用肥料とロング併用の床土混合施用の場合,種籾とロングの位置関係は次のようになる。

苗箱の中で床土以外の場所で作業上,できるだけ手間をかけずにロングを施用できる場所は,種籾がある部分である。つまり,種籾と接触させて施用する方法である。
ロングと種籾を接触させて施用する場合の相互の位置関係は次のようになる。
種籾とロングが同一層となる場合であり,種籾とロングを混合した後に箱に播くとこの状態になる。

種籾とロングを別々に苗箱に播くと次のように2とおりの状態になる。実作業では慣行の播種機械にロングを播くためのホッパーを新規に付けなければならないので,大規模農家向けといえる。
イ 種籾の後にロングを播く方法

ロ ロングを先に種籾を後に播く方法

ロングは化成肥料を被覆しており,肥料の溶出が徐々であるため,種籾と接触しても発芽や発根に悪影響を及ぼさない。この点は肥料に大変敏感ないちごのポット育苗での使用実績からも既に証明されているといえる。
この溶出特性を生かし種籾とロングを混合状態または,接触状態で施用することができる。育苗での使用量は1箱当たり,ロング424-M100が現物で50~70g程度であり,且つ育苗期間でのチッソ溶出率は30~40%程度であるため,育苗期間に溶出するチッソ量は,次のようになる。
(50~70g)×0.14×(0.3~0.4)=2.1~3.9g(注:ロング424-M100の成分:14-12-14)
育苗期間は通常,稚苗の場合25日,中苗の場合35日であり,その期間に上記の量が徐々に溶出するので1箱の1日当たりの溶出量は0.15g以下と少ない量である。この量からも種籾と接触しても肥料焼けを起こさないことが理解できよう。
上記3-2(1)の種籾との混合状態での施用について,その試験の内容と結果を紹介する。3-2(2)の種籾とロングを別々に施用する方法は,播種機械でロングが均一に播けることを確認しているのでここでは,省略するが,肥効内容は同じと考えてよい。
市販の肥料入りの培土は肥料分の含有量がメーカーにより違いがあること,また,ロングを種籾と接触施肥した場合の最適施用量がどの程度であるかなどの確認が必要である。
試験は農家の実作業で行い,次の内容を検討した。
イ 培土の肥料量の条件
ロ ロングの施用量の条件
試験は平成4年度と5年度に実施した。
a 市販培土
チッソ含有量が箱当たり1.5gのものを使用し試験区で1.0gの場合は同じ会社の無肥料培土を混合して調整した。
b 品種と播種量
ひとめぼれ催芽籾で箱当たり130g
c 育苗方式
ハウス無加温,中苗(35日間育苗)
d 種籾とロングの混合
催芽籾とロングの設定量を50ℓ容量のプラスチック容器に入れ,容器を回転させ均一に混合した(写真1)。

平成4年度の試験設計は次のとおりであった。
ロングは424-M100 の現物施用量で示した。
①培土N1.5g 床土混合ロング50g(対照区)
②培土N1.5g 種籾混合ロング50g
③培土N1.5g 種籾混合ロング40g
④培土N1.0g 種籾混合ロング50g
⑤培土N1.0g 種籾混合ロング40g
平成5年度は上記の検討結果に基づき,再現性と施用位置によるロング施用量の差異を確認するため,次の試験区とした。
ロングは424-M100 の現物施用量である。
①培土N1.0g 床培混合ロング50g(対照区)
②培土N1.0g 種籾混合ロング40g
培土(N1.5g/箱,N1.0g/箱)
↓ タチガレエース8g/箱混用
苗箱に先填
↓
散水
↓(写真-1)
播種←種籾ロング(催芽籾+ロング)
(170~180g) (130g+40~50g)
↓(写真-2,3)
覆土


培土のチッソ量が箱当たり1.5gの条件でロングの施用量を50として,床土混合と種籾混合を比較した結果は表-1のとおりである。ロングの現物量は50gと,床土混合の場合の標準量に合わせ設定した。

育苗終了時の苗の形質の調査結果をみると,種籾混合の場合,床土混合に比較して,草丈,乾物重,全チッソが高かった。この理由としては種籾混合の場合,ロングと種籾が接触か近接しているため,溶出した肥料分の利用率が高いことによると考えられる。
苗の生育に及ぼすチッソ量は培土のチッソ量とロングのチッソ量であり,その相互の関係をみたのが表-2のとおりで,その結果から次のように判断された。

培土のチッソ量1.5gの場合,ロングの量の差異が苗の形質の差に現れていない。この事は培土中のチッソ量の影響の方が大きいことを示唆している。
培土のチッソ量1.0gの場合,ロングの量の差異が苗の形質の差に現れており,ロング40gの量では50g施用に比較して,苗全体の形質値は小さい傾向であった。
上記a,bの結果から種籾混合の場合は,種籾とロングが接触または近接しているので肥料の利用率が高いため,床土混合と同じ施用量では苗の草丈が多少長めになり,且つ養分濃度も高くなりすぎることが判明した。この結果より,種籾混合の場合,床土混合に比較してロングの施用量を少なくしてもよいといえる。
上記の点を確認するため,平成5年度には,床土混合施用と種籾混合でのロングを減らした次の条件で比較した。
①床土混合(培土N1.0g)+ロング424-M100 50g
②種籾混合(培土N1.0g)+ロング424-M100 40g
苗の試験での結果は表-3のとおりである。苗の仕上がりば種籾混合の方が多少小さい結果であり,床土混合と同等の形質とするには45kg程度の施用量が適当と判断された。

上記の2年間の農家の実作業での結果から,市販の肥料入り培土の場合も,ロングと種籾の接触施肥が可能であり,既に普及している床土混合でのロング施用と同等の効果があることが明らかになった。
検討の結果,さらに次の点が確認された。
施用方法としては次の2とおりがある。
①種籾とロングを播く前に混合し,施肥,播種する方法。
種籾とロング242-M100の粒形はほぼ同じであるため,混合は均ーとなる。且つ,播種機のホッパー内で分離することもない。この方法は慣行の播種機をそのまま使用できる利点がある。
②ロングを種籾と別に施用する方法
この方法は種籾とロングを混合する手間を省けるが,播種機の改造を必要とする。つまり,ロング用のホッパーを新設しなければならない。この方法は大規模栽培農家向きといえる。既に一部の農家では実用化しており,大変上手に作業ができ,揃いの良い健苗が得られている。
市販の肥料入りの培土はチッソ量として,1.0g~1.5g程度のものが多いが,検討結果よりチッソ量との関係でロングの施用量を変える必要がある。
苗の仕上がりの形質が慣行の苗(慣行の追肥体系またはロングの床土混合施用)と同等程度とする前提で判断すると,次のような組み合わせが適当である(箱当たりの量,ロングは現物施用量)。

以上,市販の肥料入り培土を使用してのロングの種籾との接触施肥無追肥水稲育苗法を紹介したが,本施肥法は他の作物へも応用できるものである。
つまり,コーティング肥料の最大の特長である徐々に溶出する特性を最大限に生かせるのは,種や作物の根と接触しても肥料焼けを起こさないという点である。接触施肥を行えば当然のことながら作物の肥料吸収率(利用率)が高くなり,またそのため,自然界への流亡量は小さくなろう。
今後,農業を行う上で,環境問題を考慮した耕起,施肥方法や肥培管理の開発の必要性が高まっており,本報告で紹介した接触施肥法は肥料の環境負荷低減策の一つとして有望な施肥法といえよう。
(佐藤健)
1)水稲に対する被覆肥料を利用した省力的追肥法:田中信幸 山形農試研報20:31-48(1985)
2)山形県における水稲の成育収量に対する地力窒素の意義と溶出調節型肥料による省力的追肥技術の確立:田中信幸
3)寒冷地における緩効性窒素肥料の利用に関する研究
第1報 被覆尿素入り肥料利用による水稲省力栽培の可能性 ・千葉泰弘,君成田陛,遠藤征彦,高橋和吉 「東北農業研究」37号53~54(1985)
4)同上
第2報 県南部沖積土でのササニシキに対する被覆尿素の肥効 ・小野剛志,清原悦郎,伊藤公成 「同上」37号55~56(1985)
5)同上
第4報 多湿黒ボク土における全量基肥稲作の生育と養分吸収 ・千葉泰弘,新毛晴夫,島津了司,遠藤征彦,小管裕明 「同上」39号57~58(1986)
6)同上
第5報 被覆尿素を利用した全量基施一回施肥稲作の収量 ・新毛晴夫,島津了司,宮下慶一郎,小管裕明,遠藤征彦 「同上」40号73~74(1987)
7)同上
第6報 被覆尿素を利用した側条施肥の水稲の生育・収量 ・島津了司,千葉泰弘,新毛晴夫,小野剛志 「同上」40号75~76(1987)
8)同上
第7報 水稲ササニシキの追肥省略稲作における緩効性窒素配合割合 ・小野剛志 「同上」40号77~78(1987)
9)水稲に対する緩効性被覆肥料(LP100,LP-S100)を利用した全量基肥施肥技術 上野正夫 その1.理想的窒素吸収パターンとシュミレーションについて 「農業と科学」11月号6~8(1990)
10)水稲に対する緩効性被覆肥料(LP100,LP-S100)を利用した全量基肥施肥技術 上野正夫 その2.窒素吸収シュミレーションに及ぼす土壌窒素並びに施肥窒素の利用率について 「農業と科学」12月号1~4(1990)
11)八郎潟干拓地における水稲不耕起移植栽培 金田吉弘 「農業と科学」1月号9~12(1993)
12)超省力不耕起田には“弁当肥”を 金田吉弘 「グリーンレポート」No.196 8~9(1993)
13)(硝酸系被覆複合肥料)ロングの育苗箱施用による健苗育成試験成績書(第1集:東北地域)平成2年7月 全農 肥料農薬部 肥料技術普及課
14)東北地方でのロング施用による水稲無追肥育苗法の普及状況 その1 佐藤健 「農業と科学」1月号10~16(1992)
15)同その2 佐藤健 「農業と科学」2月号7~14(1992)