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§北海道における平成5年度の水稲冷害と土壌肥料的課題
北海道立中央農業試験場農業土木部
主任研究員 前田 要
§野菜畑土壌の根圏環境
九州大学農学部
教授 松口 龍彦
北海道立中央農業試験場農業土木部
主任研究員 前田 要
平成5年度,北海道における水稲作柄は100年に一度と言われる大冷害に見舞われ,収穫量も10a当たり203kgという散々たる結果で終息した。
北海道稲作の歴史は冷害との戦いぬきでは考えられず,過去においても耐冷性に優れた品種改良等を中心とした栽培技術水準の高度化によって度重なる冷害を克服し,現在の安定・良質化の基礎を築いてきた。
しかし,今回の冷害規模は,長年の試験研究によって確立されてきた寒地稲作の高度な技術水準の範囲をはるかに越えるものであり,あらためて冷害の恐ろしさと現在の稲作栽培技術水準の限界を思い知らされた。
記録からみると,北海道では1884年(明17)から1991年(平3)の107年間に,作況指数90以下の「著しい不良」の冷害に27回(ほぼ4年に一回の割合)も遭遇している(表-1)。幸いなことに,近年は気象条件にも比較的恵まれ「きらら397」はじめ良食味品種の収量・品質も安定していた。

昨年,10年ぶりに発生した冷害は,コメ生産の低コスト・省力化や品質・食味向上などに気をとられつつあった我々を慌てさせ,久しく忘れかけていた寒地稲作の基本技術の重要性を再認識させたばかりであった。
あらためて述べるまでもなく,寒地稲作の安定生産の基本は,寒冷地特有の冷涼な気象条件に対応した各種栽培技術を導入し,水稲の初期生育改善によって有効茎を早期に確保するとともに,出穂期を早めて穂揃性を均一にし,登熟歩合・整粒歩合を高めることがその前提条件となる。
すなわち,具体的な内容としては地帯別適性品種の選定・健苗育成・適性施肥・適切な土壌ならびに水管理の徹底によって良食味品種の優れた特性を十分に発揮させることが不可欠である。
したがって,ここでは北海道における平成5年度の大冷害を中心に,今後の技術的な課題について主として施肥管理,土壌管理の面から述べてみたい。
現在の北海道稲作の課題は,低コスト・省力化に向けた総合技術の開発と良食味・耐冷性の強い品種育成が急務である。また,販売戦略としては,道内各地域において外見的・内部品質の優れた高品質米をいかに持続的に安定生産するかが重要な課題であろう。
そのためには,各種土壌の特長に合致した土壌環境の改善と施肥の効率化など栽培技術の改善を図り,良食味品種の機能を各地域において効率良く発揮させる必要がある。
一方,北海道に分布する水田本地面積は低地・台地併せて約26万haであるが,現在作付けされている栽培面積はその6割程度である(172,600ha)。
道内に分布する水田で最も面積の多い土壌の種類は透排水性の悪いグライ土で,空知管内及び上川管内に広く分布している。次に多い土壌は泥炭土・褐色低地土・灰色低地土で,泥炭土は空知・石狩管内に,また褐色低地土及び灰色低地土は上川・空知管内にそれぞれ多く分布する。さらに,洪積台地土(褐色森林土・灰色台地土・グライ台地土など)は空知・上川管内で,また火山性土は胆振管内に比較的多い傾向がみられる。
それらの水田を地形・立地条件に基づいた透排水性の良否の面から区分すると(表-2),乾田型土壌(透排水性良好)22.0%,半湿田型土壌(同やや不良)31.6%,湿田型土壌(同不良)46.4%で実に全水田面積の8割近くが潜在的な透排水性に欠陥がある。

また,各土壌型別の水稲生育の特長をみると,水稲の生育進度及び稲体窒素吸収速度は乾田型土壌が最も良好であり,半湿田型土壌,湿田型土壌の順に遅延する。すなわち,湿田型土壌は乾田型土壌に比べると土壌の窒素肥沃度水準が高いにもかかわらず,水稲の吸収する窒素が生育後半に集中するため収量・品質が不安定になる。
このような傾向は,とくに低温年で顕著に出現し,泥炭土及びグライ土のような透排水性不良田では生育後期の窒素吸収過剰が過繁茂による倒伏と登熟歩合の悪化,玄米品質(食味)低下をもたらす要因となっている。
以上述べたように,道内に分布する水田は全般的に透排水性が劣っており,かつ有機質土(泥炭土・黒泥土)が多いなど水稲栽培の立地条件としては多くの支障要因や制限要因を抱えている。
したがって,道内水田土壌の現状からみた今後の冷温対策・品質向上面での大きな課題は,湿田の乾田化を図るとともに,土壌中に豊富にある潜在窒素地力をいかに速やかに,かつ効率良く水稲体へ供給するかがキーポイントである。
水稲の初期生育や生育進度は根圏域の土壌環境・養分濃度・有害物質生成量等によって支配される面が強い。とくに,透排水性の劣る湿田型土壌で稲わらを施用した圃場では移植後に土壌還元が進み,有害物質(2価鉄,各種有機酸,フェノール物質等)の多量生成によって水稲根の伸長や養分吸収機能が低下し,移植後の活着・分げつが著しく阻害される。また,当然のことながら根圏域の温度環境(地温)は水稲の養分吸収速度・乾物生産量を規制する最大の要因である。
ちなみに,初期生育不良地帯の湿田型土壌(中央農試稲作部,グライ土)において,水稲の窒素吸収パターンを平温年(S57),低温年(S58),高温年(S59),さらに大冷害年の平成5年度で対比した結果を図-1に示した。

それをみると,成熟期の稲体総窒素吸収量は各年次とも10a当たりほぼ10~12kgの範囲内で大差はみられない。しかし,高温年では低温年に比べ生育進度が早いのに加え,生育初期から乾物生産量及び窒素吸収量が旺盛である。それに対し,低温年及び大冷害年では平温年に比べると成熟期までの日数が著しく長く,しかも水稲の吸収する窒素量も生育後半に集中するなど,明らかに遅延型冷害を助長する様子がうかがえる。
ただし,平成5年度の大冷害の要因は,単なる生育遅れによる「遅延型冷害」よりも,むしろ幼穂形成期から出穂開花期にかけての異常低温に起因する不稔籾の多発,すなわち「障害型冷害」の影響の方がはるかに大きかった。
次に,土壌中の無機態窒素の年次別推移をみると(図-2),高温年では水稲の初期生育・窒素吸収が旺盛であり,土壌中のアンモニア態窒素も6月下旬には急激に減少する傾向にある。しかし,大冷害年及び低温年では水稲の生育進度が著しく停滞するため,土壌窒素の減少がきわめて緩慢であり,7月下旬に至っても依然として平温年の7月上旬と同程度の残存量である。

さらに,図-3からも明らかなように,土壌間の比較ではグライ土に比べ泥炭土が,また窒素施用量の増加に伴ってその傾向が一層明瞭となっている。

このように,低温年における水稲の窒素養分吸収はきわめて緩慢であり,生育後期に施肥窒素と土壌窒素を集中的に吸収するため,収量及び品質が一層不安定になってくる。
寒地水稲の良質・安定化のために求められる理想的な窒素吸収パターンは,移植から幼穂形成期までの生育前半の生育量は施肥窒素にゆだね,出穂期から登熟期間にかけての生育中・後期以降の窒素供給源は土壌(地方窒素)に依存することである。
水稲の吸収する窒素は施肥窒素と土壌から供給される地力窒素に支配されており,品種特性や気象並びに土壌条件に対応した玄米中蛋白含量の少ない高品質米を安定生産するためには,地力窒素を考慮した適切な施肥窒素量と施肥法の決定が重要である。
窒素過剰施肥が水稲の生育遅延・登熟性の悪化・玄米品質低下をもたらすことは多くの試験で明らかにされている。また,低温年における水稲の窒素吸収過剰が稲体の養分バランスを乱し,受精障害によって不稔籾が多発するなど低温抵抗性が低下するなどの報告も多数みられている。
実際に,大冷害年時における窒素施肥量及び施肥法と水稲の収量性との関係をみると(表-3),窒素施肥量の増加に伴って登熟歩合及び玄米収量が明らかに低下しており,N4kg/10aで最高収量を得ている。また,基肥窒素レベル6kg以上では幼穂形成期・止葉期における追肥は明らかにマイナスとなっている。

過去における道内水田地帯の施肥実態をみると(表-4),各地域とも現地での窒素施肥量は指導基準値を上回る内容となっており,明らかに窒素過剰施肥の傾向にあった。かつ,施肥法も大部分が全量全層施肥であり,寒地稲作の基本技術である表層施肥・分施を適切に励行している生産者の割合は全般に少ないのが実態である。

このような追肥を含めた窒素多施は,冷害対策面からはもとより良食味品種の評価を左右する最大のマイナス要因となるので是非とも回避しなければならない。
ただし,近年は耐肥性・耐倒伏性の弱い「きらら397」や「ゆきひかり」両良食味品種の急速な普及と側条施肥田植機の導入に伴って窒素施肥量が漸減の方向にあり,倒伏等もほとんど見られていない。
以上述べたように,「きらら397」及び「ゆきひかり」両品種の栽培特性に配慮した窒素施肥を考えると,とくに以下の点に留意すべきである。
①基肥窒素量は標準窒素量の80~90%とし,残りは生育経過及び気象条件を考慮して分施を判断する。
②湿田型土壌(グライ土・泥炭土)及び初期生育不良地帯では側条施肥,表層施肥を積極的に取り入れる。
③沖積土のグライ土では窒素施肥量10~20%程度減肥する。
④有機物(堆肥,稲わら)の連用年数が10年以上経過した圃場では窒素吸収過剰になるので2kg/10a程度の窒素減肥を行なう。
次に,りん酸肥沃度と水稲の耐冷性との関係についてふれてみる。
古くから寒地水稲の初期生育促進・冷温安定化技術の一つとしてりん酸増施が取り上げられていた。しかし,近年の水田土壌のりん酸肥沃度は各地域とも高水準に維持されており,その必要性が軽視される傾向にある。
りん酸施肥法改善の一端として,本田移植直前の育苗箱(中苗箱マット苗)に対するりん酸資材の表面施用が本田移植後の水稲の初期生育並びに収量に及ぼす影響について検討した結果を図-4と表-5に示した。



結果を見ると,移植直前の育苗箱へのりん酸施用は,本田移植後の水稲根圏域の可給態りん酸濃度を著しく高め,かつ分げつ期の茎数・乾物重も対照に比べりん酸施用の方が勝っている。さらに,登熟歩合及び玄米収量もりん酸施用が対照を上回り,傾向としては平温年(昭57)より低温年(昭58)で増収効果が大きい。
以上の結果から,本田のりん酸肥沃度レベルが高い条件下にあっても,移植直前の育苗箱に対するりん酸施用は水稲の初期生育の向上と玄米生産に有利に作用し,しかも低温年でその効果の大きいことが明らかとなった。
「災害は忘れた頃にやってくる」といわれているが,平成5年度の大冷害はまさにその言葉どおりであった。
一船的に,寒地稲作の栽培技術水準はきわめて高く,低温年における対応技術もほぼ確立されたものと考えられていた。
しかし,100年に一度という大冷害の前にはそれらの勝れた技術にもおのずと限界があり,今後の稲作経営に向けて多くの教訓を残した。
コメの輸入・部分開放が現実的なものとなり,国内のコメ生産情勢も一層省力・低コスト化が求められている。
そのような渦中にあっても,今一度基本技術のひとつひとつを総点検し,手抜きの部分は反省と励行に努め,改善の余地が残されている技術については今後ワンランクアップを目指した技術開発に向けて本腰を入れなければならない。
九州大学農学部
教授 松口 龍彦
集約畑作とくに野菜作では,連作障害が品質・収量低下の最大の要因となっており,著しい場合には産地崩壊さえ招いている。かつて行われた野菜連作に関する調査結果(野菜試,昭59)では,障害の“原因”の70%以上が土壌伝染性病害であるとされた。
しかしその後,多くは作物栄養条件(素因),環境条件(誘因),病原菌や寄生性線虫(主因)の三者がからむ要因複合型障害であることが明かになってきている。土壌条件や作物栄養条件の微妙な差によって,発生の有無や発生程度がまちまちな不定性病害が増加している現状は,この観点から看過できない。
多量施肥や土壌消毒を反復すると,土壌の塩類集積,腐植の減耗が進み,ついには土壌の保水力やイオン交換容量が低下する。その結果,作物の代謝不全や病原菌に対する抵抗力の低下,および根圏の微生物的緩衝力(microbiostasis)の低下などが起こり,これらが病害発生の素因,誘因となる。他方,連作障害を上手に抑えている農家の技術に共通する点として,深耕,減肥,控え目の土壌消毒,消毒後での腐熟堆肥の鍬込みなどが挙げられる。
これらの事実は,集約栽培における根圏管理の重要性を示すものであろう。従って適正な根圏管理のためには,根圏における根,病原菌,他の微生物群集の間の密接な相互作用,およびこれらの相互作用と土壌の養水分条件との間の因果関係などの発現メカニズムの解明と制御技術の開発が不可欠となる。そこで,これらに関する既往の知見にもとずき,私の考えを述べたい。
土壌消毒は現に発生した病虫害の防除には必要止むを得ない応急処置かも知れないが,それによって土壌の微生物群集は“部分殺菌”されて質的,量的に激減し,その微生物的緩衝力が低下する。その結果,ガス抜き・施肥後間もなく,生き残った微生物はそれぞれの性質に応じた速度で増殖しはじめ,1~2カ月以内に生菌数は無消毒土の数倍から数十倍に激増する。その際有機物の分解が促進される。この現象を“部分殺菌効果”という。
従って,土壌消毒を繰り返して行うと,やがて土壌の水分保持力やイオン交換容量が低下し,土壌溶液のEC(電気伝導度)や浸透圧が上昇し易くなる。すなわち土壌の理化学的緩衝力が低下する。
通年施肥量が多く,土壌消毒が反復実施される野菜畑,とくに作土の塩類集積が著しいハウスで,有機物施用による腐植管理が必要な第一の理由がここにある。
土壌の塩類集積や養分アンバランス化は,作物の養水分吸収力に影響して,体内の代謝調節機能に変調をもたらし,ひいては病害に対する抵抗力を低下させる。例えば,塩類集積が土壌水の浸透圧を上昇させて根発達を阻害し,根の吸水力や分泌作用に影響したり,あるいは土壌中のアンモニア態N/硝酸態Nの値が高いとキュウリの斑点細菌病,セルリーの萎黄病,メロンの萎ちょう病などが発病しやすくなる。キュウリでは抵抗性品種でもこの現象が起こることが認められている。
多くの野菜畑土壌では,pHの上昇,可給態Pの集積が進み,有機態Nの無機化,硝化作用の潜在速度が速くなっている。それに土壌消毒を行うと,ガス抜き後N無機化は早々に回復促進されるが,硝化作用は消毒後1カ月余りほぼ停止し,その間,土壌のアンモニア態N/硝酸態Nの値は高レベルで推移する。このような土壌条件では作物病害が発生し易いといえよう。
腐熟堆肥には硝化細菌が豊富に含まれるので,ガス抜き後での施用は土壌の硝化作用を回復促進し,作物の病害抵抗力を回復させる効果がある。作物根圏で生起するこれらの因果関係の解明は畑地力研究の今後の課題であろう。
根および周辺土壌部位,すなわち根圏(rhizosphere)では,根の分泌物や脱落組織をすばやく分解利用できる限られた種類の微生物が,それ以遠の非根圏土壌に比べ数倍から数十倍の高レベルで生息している。
このように,非根圏に比べ根圏の微生物群集は,多様性は小さいが代謝活性や増殖速度は明らかに大きい。従って,根圏は根生長調節や病原菌増殖抑制などの有用微生物の機能を活用できる場である。
有用微生物のなかでも,シデロフォア(Fe3+トキレート化物質)の一種,シュードバクチンを産生する数種の蛍光性シュードモナスは,植物成長促進根圏細菌-PGPR(Plant growth-promoting rhizobacteria)-として大きな関心を集めている。数種の菌株では,コムギの根圏で立枯れ病菌に対する抗生物質(phenazine-1-carboxylic acid)などを生成することも認められている。
蛍光性シュードモナスは桿菌で数本の極鞭毛を持ち,鞭毛のらせん運動により感受性化学物質に向かって水中を泳走する能力,すなわち走化性(chemotaxis)を示す。根分泌物では遊離アミノ酸に対する走化性が強い。しかし,塩類集積や水分不足によって土壌溶液のECや浸透圧が上昇すると根圏定着力が低下する。
これらの環境条件の影響度は他の微生物よりも蛍光性シュードモナスに対して大きく,第1図に示すように蛍光性シュードモナスの中でも菌株間でも異なる。また,塩類集積土壌の根圏優占菌株群は,非集積土壌の優占菌株群が持たない特異な塩類濃度耐性や遊離アミノ酸走化性スペクトルなどを示すことも解明されている。

最近,腐熟堆肥施用により根圏での蛍光性シュードモナスの増殖が促進されることも明かにされている。一方,蛍光性シュードモナスが生産するシュードバクチンは,Fe3+キレート化活性が大きいが,K+,Mg2+,Ca2+などが共存すると拮抗阻害を受け,その程度はCa2+で大きい。
このように蛍光性シュードモナスの根圏定着力やFe3+キレート化活性は土壌水分含量,土壌溶液のEC,浸透圧,イオンバランスなどによって異なるので,土壌の施肥・水分管理は全て蛍光性シュードモナスの善玉効果の出方を左右する。
蛍光性シュードモナスなど,生物的防除用有用菌の根圏定着力の向上が緊急の課題となっているが,有用菌を最も必要とする場所が野菜栽培ハウスであることは明白であり,有用菌には有用機能だけでなく,塩濃度耐性も不可欠であろう。
作物根圏には,その他役割未明の各種微生物も生息し,根圏微生物群集の構成員となっている。従って,病原菌や有用菌も群集が示す微生物的緩衝力の影響下にある。
このような根圏微生物群集を作物生育との関係で評価するためには,特定の有用,有害微生物の挙動だけでなく,微生物群集の全体像の解析も必要であろう。そして,群集生態と病害発生の難易との間に,作物や病害の種類を超えた次元で共通する関連性を見い出すことができれば,それは連作障害対策のための根圏管理技術を考える上でヒントとなろう。
各種畑作物の根の菌糸態糸状菌群集と根張りとの関係を示した第2図によれば,作物の種類を問わず,糸状菌群集の多様性と根張りの大小との間に正相関がえられ,また作物間では,連作障害が出にくい作物ほど根の糸状菌群集の多様性も大きい傾向を示した。

両者間にどのような因果関係があるかは今後の解析に待たれるが,これらの結果から,根圏というミニ生態系でも微生物群集の構成員が多様なほど相互作用が著しく多元化し,緩衝力の大きな生態系が形成される,という推定が成り立つ。
前述の,土壌病害の素因や誘因に関する諸知見を考慮するならば,“最近の”土壌病害は,腐植の減耗,それに伴う保水力,CECの低下,多肥による土壌の無機養分集積・アンバランス化,土壌水の浸透圧上昇,およびそれらによって起こる根圏の微生物的緩衝力や作物の病害抵抗力の低下など,土壌消毒・多量施肥の反復に起因する地力の低下と密接に関係している。そこで,この“地力の低下”と“土壌病害の発生”との因果関係を第3図に示した。

集約栽培畑では,地力維持のために堆肥の施用が勧められている。しかし,実際には原料の質や腐熟程度,すなわち品質に大差があり,連作障害に対する施用効果も正負さまざまである。このことが堆肥の評価を混乱させてはいないだろうか。
連作障害に対する効果を求めるならば,前項で述べたように,土壌のECや養分バランスの適正調節,および根圏の微生物的緩衝力の強化に有効でなければならない。すなわち,前者に関しては,有機コロイドに富み,かつ土壌無機態Nバランスの上から硝化促進効果が大きいことが,後者に関しては,根圏微生物群集の種類構成を多様化し,かつ蛍光性シュードモナスなどPGPRの根圏定着増殖促進効果を持つことが,それぞれ要求される。もちろん,作物根伸長阻害物質を含むものは避けなければならない。
腐熟堆肥は,未熟堆肥や新鮮有機物資材に比べても,これらの条件を遥かによく具備している。そこで,腐熟堆肥による地力回復と土壌病害抑制の過程を第4図に示した。

以上のことからわかるように,有用菌,病原菌のいずれにせよ,作物の根圏における生態・活性は,土壌の理化学的条件,根圏の微生物的緩衝力,作物栄養条件などとの密接な因果関係の上に成立している。つまり,土壌病害は連作障害の“主要な原因”というよりも,“主要な症状”であるという認識と対応こそ重要ではなかろうか。