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§秋の田で
農林水産省 東北農業試験場
畑地利用部
部長 藤井 國博
(前 農業環境技術研究所 環境資源部水質管理科)
§チンゲンサイの生理障害の特徴と発生原因
静岡県農業試験場 土壌肥料部
主任研究員 高橋 和彦
§’93年本誌既刊総目次
農林水産省 東北農業試験場
畑地利用部
部長 藤井 國博
(前 農業環境技術研究所 環境資源部水質管理科)
農業環境技術研究所がある茨城県稲敷台地は,県南部の霞ヶ浦と小貝川の間にほぼ東西に横たわる標高25m内外の火山灰洪積台地である。この台地には,いくつかの中小河川が解析谷を形成しながら流れ,河川の両岸に水田地帯が形成されている。これらの水田でも冷夏で遅れていた稲刈りも終了し,暗渠排水孔が開かれる季節となった。
筆者が農業環境技術研究所環境資源部水質管理科水質特性研究室に昭和60年4月に着任した当時研究室に「中小河川の水質変動要因の解明」という経常研究課題があった。前に所属していた研究機関で下水汚泥の土壌還元に関する調査研究に携わっていた筆者にとってこの課題を具体的にどう展開するかは,すぐには思いつかないことであったが,環境研究の常道といわれるモニタリングから始めることとし,研究所周辺の水域をみることにした。
幸いにも当時水質動態研究室が筑波地区の農業用水と河川水の水質モニタリング調査を実施していたので現地調査に同行させてもらった。何回か調査に同行するうちにおぼろげながら展開の筋道が見え始め,中小河川の水質変動要因の候補として降雨と流入排水を考えた。
前者の降雨については,降雨の採取と成分分析を筑波地区に定点を設定し,開始した。この降雨観測は,後に研究所が地球環境問題への対応を開始するとともに「酸性雨研究」の一環に組み込まれ,現在も観測が継続されている。後者の流入排水の影響に関して展開した調査について今回は報告する。
タイトルにキザな表現を付けたが,この調査で秋の水田と農家の人々が多くの情報を提供してくれたことに感謝の意味をこめてあえて掲げさせてもらった。
筑波地区には幾つかの河川があり,河川沿いの低地には水田地帯が形成されている。このうち霞ヶ浦に流入する桜川の下流で採水されている土浦用水の供給地域における水田のかんがい様式は,ほとんどが「掛け流しかんがい」であり,排出された水は,排水路を通じて河川に流入する。この河川水が再ポンプアップされ,かんがいに用いられている。
このようなかんがい様式がとられている地域の一つである東谷田川の下流部を水質モニタリングの対象河川として選んだ。この川は,つくば市北部(旧大穂町)の田園地帯に源を発し,牛久沼に注いでいる。調査対象地域とした下流域には,旧谷田部町の市街地が両岸にあり,市街地の上,下流域とも水田地帯が両岸に存在する。水田地帯の背後は,台地であり,台地上は畑,果樹園,集落,平地林などが散在する。
水田地帯,市街地とも数多くの排水路が東谷田川に流入している。この流入排水路が河川水質に影響を与えているものと推定し,調査を実施することにした。すなわち,河川本流と流入排水路の河川流入部に水質観測の定点を設定した(図1)。月1回のペースで昭和61年秋から調査を開始したが,本格的な調査は,研究室員が3人となった昭和63年に行った。

この調査からは,多くの情報が収集できた。市街地排水路水中の無機態窒素の形態はアンモニウムであること,水田地帯のそれは硝酸であること,リン濃度は市街地排水路で高いこと,水田地帯の排水路でもアンモニウムと硝酸をほぼ同程度に含有するものがあり,このような水路では集落排水が流入していることなどであった。しかし,最大の発見は,河川水中の硝酸濃度が水田のかんがいが終わる秋に上昇するということであった(図2A~G)。しかも,水田地帯の排水路の中にも同様の結果を示すものがあるということであった(図2 3~19)。

この結果をもとに「農村地帯を流れる河川の水質は,水田の非かんがい期に硝酸濃度が上昇すること,その原因は,流入する排水路の中に高濃度の硝酸を含有するものがあることである」とする成果にまとめ主要成果候補課題として提出した。
が,「水田地帯の河川の定常状態はかんがい期である」という指摘を受けた。これは非かんがい期のことなど重要ではない。主要成果としてふさわしくない。という指摘と受け取り,農業の側から見ればそうであろうが,別の分野から見れば年間4か月の状態を定常状態とするのはどうみても不合理である。けれども,そのような主張が堂々となされることに失望してこの時は取り下げた。
しかし,調査は,非かんがい期に硝酸濃度の高い排水を流している排水路を対象として硝酸の供給源を解明することに向けて展開を図った。
月1回の調査を続けながら排水路を注意して観察した。硝酸濃度の高い排水路は,非かんがい期を通じて水が流れ続けていること,これらの排水路に面する水田の暗渠排水孔は,開放されており,常に水が流れ出ていること,硝酸濃度の低い排水路では降雨後のみ採水が可能なことに気付いた。暗渠排水が供給源である可能性が高い。排水を採水しようとしたが,残念なことにこの地域の暗渠排水孔のレベルは,排水路の水位と同一であり,採水が不可能であった。
この事態に直面して最初に考えたのはなんとかこの地域で採水できる方法がないかということであった。他に相談する人もいなかったので器具納入業者とああでもない,こうでもないと議論したがついに見つからず別の方法を考えることにした。それは,別の場所で暗渠排水が容易に採取できる所を捜すことであった。初めからそうすればよかったのだが。その場所を小野川上流地域で見つけた。分析の結果,硝酸濃度の高い排水と低い排水があることがわかった。
1987年の初秋,暗渠が開放されるのを待って,前年秋に見つけておいた水田暗渠排水孔のうち6孔について9月初めから10月末まで2か月間ほぼ毎日計測した。その翌年(1988年)には,国立公害研究所(現国立環境研究所)に居られた山口武則氏が定員の枠を越えて研究室に配属になり,さらに,茨城県農業試験場(現農業研究所)から松本英一氏が研修に来られた。
お二人に前記水田暗渠排水の調査を担当していただき,前年同様9月の水田落水時から10月末までの2月間の調査を実施した。この成果は,昭和63年度の農業環境分野の主要成果に採用された。また,日本土壌肥料学会広島大会(1989年)において公表した。表1にその結果を示した。

この調査結果が示す事項は以下のとおりである。
①排水中の無機態窒素濃度が1mg/ℓ以下の排水孔(表1AA-7)では,窒素の主要形態はアンモニウム態窒素であり,1mg/ℓ以上の場合は硝酸態窒素であった。
②1988年における暗渠開放後の約2か月間の実測無機態窒素排出量は排水孔によって異なり,水田当たり0.3~162kgとなった。排出量と降水量の比から当該水田のみの水を排出しているとみなされる排水孔の窒素排出量は少なく,降水量の2~27倍の水を排出した暗渠の窒素排出量は,15~162kgと極めて多いことが判明した。
③調査対象地域は水田の背後に畑地が連なるという地形的(土地利用的とした方が良いかもしれない)特徴をもつ(ただし,AS-1は水田と畑地の間に集落と屋敷林が存在する)。降水量以上の水を排出している暗渠は,背後の畑の地下水(土地の人達は「畑のしぼり水」と表現する)も暗渠を通じて排出しているものと見られる。
暗渠AA-6の背後の45.5haの畑地帯と水田地帯の境界に埋設された畑暗渠に連結されており,畑地帯の地下水を排出していることが地元の人々の証言で確認された。この排水孔を通じて排出された窒素のほとんどが背後の畑地帯地下水に由来するものとみなされる。
当該地域の畑地帯には,化学肥料の他に家畜糞尿が施用されており,流出窒素に反映しているものとみられる。下横場地区の暗渠(AS-1及び2)についても畑地帯地下水の排出があるものとみられるが確認されていない(この調査に引き続き実施した1990年の調査時に畑のしぼり水が水田に流入しているとの証言を地元の人達から得て,流入を確認している)。
④以上の結果は,一部地域の調査事例であるが,調査対象とした小野川流域には同様の地形が広く分布し,多量の排水を水田の非かんがい期間を通じて排出し続ける暗渠が存在する。これらの実測を行うとともに集水域を特定する(水脈を探査する)ことによって流域から排出される物質の定量的把握が可能となる。すなわち,暗渠排水の調査により面源負荷の算定が可能となることを示している。
前記④で指摘されているように小野川流域には多量の排水を水田の非かんがい期間を通じて排出し続ける暗渠が存在することを1988年当時把握していた。前記3に続いて実施するのは,流域の暗渠の実態調査であったが,1989年(平成元年)に人事移動があり,室員が3人から2人(室長1,主任研究官1)となり,同時に室長も交代した。これに伴って後続の調査は1990年秋まで実施されなかった。
図3は,1990年秋に実施した小野川流域の一地区における暗渠分布と排水中の硝酸態窒素濃度を示したものである。暗渠番号A-6とA-7は,表1のAS-1及びAS-2に相当する。また,A-10は,暗渠排水孔ではなく,河川の土手に形成された地下水の湧出口である。

この調査では,水田地帯背後の畑地帯に存在する井戸の水質も同時に調査してあるが,今回,そのデータは,省略させていただく。この調査は,筆者自身が一人で行った。
この結果は,表1の調査で得られた結果を裏付けるものであり,畑地と接する水田の暗渠排水中の硝酸濃度(A-2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,19,17,18,21)は,平地林や宅地に接する水田の暗渠排水中の硝酸濃度(A-1,5,6)より高く,10mg/ℓ以上の高濃度を示すものが存在する。
水田に隣接し,排水量の少ないA-15(18ml/秒)の暗渠の硝酸態窒素濃度は1mg/ℓ以下を示している。A-16とA-20については,硝酸濃度に差がないものの畑地と平地林の境界付近に接しており,土地利用の区分が困難である。
これらの水田群のうちA-10の水田の二枚上の水田では畑と隣接する部分に水の湧出が観察されている(この湧出水の硝酸濃度と湧出水の行方については1992年に調査した)。また,A-6の水田の背後は集落になっているが,ここでは田植前に暗渠排水孔が閉鎖されると宅地に隣接する部分に湧水が観察されている。このことから水田に接する土地から地下水が水田の地下に流入し,暗渠を通じて排出されているのはほぼ間違いないことと考えられる。
農家の人々が言う「畑のしぼり水」が湧出,流入している水田が見つかった。しぼり水は,図4に示したように畑側の法面(間に幅員4mの道路がある)の水田地面付近から湧き出している。1992年は,水田所有者が冷水かんがいとなることを嫌って図5のように湧出水を畦により隔離したために採水が可能となった。


また,1992年秋の集中豪雨後には法面の一部が陥没し,粘土層が目視できるようになり,粘土層の上部を地下水が流れているのが確認できた。この地下水を含めて採水し,その硝酸濃度を調べた。図6に示したようにこれら「しぼり水」の硝酸濃度は,10mg/ℓ前後でほぼ安定した濃度で推移していた。隣接するのは,芝畑と家庭菜園程度の野菜畑であるが,それぞれの「しぼり水」の起源は不明である。

図5に示したように湧出した「しぼり水」は,水路に形成された吸込み穴から地中に吸込まれていた。この行方を追跡しようとして10%塩化ナトリウム液1000mlを吸込み穴に注ぎ,水田が隣接する河川の護岸に設置された当該水田の暗渠排水孔と近接する土手に形成された地下水の湧出地点で採水し,電気伝導度(EC),ナトリウム及び塩素の濃度変化を追跡した。
図7に示したように当該水田の暗渠排水については,EC値及びナトリウム濃度の変化は,塩化ナトリウム注入後125分が経過しても認められなかった(図7上段の図)。一方,近接する土手に形成された地下水の湧出地点の湧出水では塩化ナトリウム注入30分後にEC値,塩素及びナトリウム濃度の上昇が認められた(図7下段の図)。

すなわち,水田に湧出した「しぼり水」は,吸込み穴から水田の暗渠に流入し,排出されているのではなく,当該水田から2枚目の水田が接する河川の護岸(土手)に形成された地下水の湧出口から排出されていることが確認できた(図8)。吸込み穴から再湧出地点までの直線距離は,約90mであり,この間を直線で流れていたと仮定すれば,流速は,5cm/秒となる。

以上のような経過で筑波地区の河川水中の硝酸濃度が水田の非かんがい期にかんがい期より上昇することの原因が硝酸を含有する畑地帯の地下水が隣接する水田の暗渠を通じて排出されるためであることを現場の調査を通じて明らかにした。しかし,まだまだ,状況証拠の域をでていない。
農家の人達は言う。「暗渠を開けておかないと田が水浸しになる」と。農家の人達の証言を疑うわけではないが,畑地の地下水の水脈が水田の暗渠に繋がっていることを立証する必要がある。これには,地下水脈,それも地層の浅い部分に形成される小さな水脈の探査手法の開発が必要である。これが今後の課題である。
探査手法が開発されれば厚生省が立法化を目指して準備を進めている「水源保全法」(水源周辺農地における肥料の使用制限が盛り込まれる予定)に的確な対拠が可能となるものと考えている。すなわち,水源の周辺全ての農地について対策を立てるのではなく,水源に汚染物質を供給している農地のみで負荷削減対策を立てればよいことになる。
「働く」は「はたらく」と読む。これを関西風に解釈すれば「はた(側,周囲)が楽になる」となる。これは,農業研究センター水質保全研究室の尾崎室長の恩師であられる元大阪大学の橋本将先生の言葉である。なるほどと感銘を受けた。私ども水質管理科が働けば土壌肥料分野の人達は多忙になりそうに思う(思い上がりかもしれないが)。多分,「窒素,リンは終わったのだ,なにをいまさら」といわれるかもしれない。
しかし,水を介して農耕地と周辺環境を考えると問題は依然として窒素,リンである(小泉前国立環境研所長からも農業環境技術研究所研究推進懇談会の席上指摘された)。過去には,ここで紹介した調査結果に対して「供給源が不明である」と指摘されたが,当時は「それを解明するのは我々の仕事ではない」と考え,反発していたが,この点に関しても自分たち水質管理科で踏み込まなければならないと考えている。それには関連する分野の方々のご協力が不可欠である。
お騒がせしますが,どうぞよろしくご指導の程お願い申し上げます。
静岡県農業試験場 土壌肥料部
主任研究員 高橋 和彦
静岡県におけるチンゲンサイの栽培は,県西部の水田土壌地帯に昭和50年に試作導入されたのが始まりである。簡易なパイプハウスで周年栽培ができ,収穫物も軽量なため,主婦や高齢者を主体とした営農の中で注目された。昭和54年には本格的な生産・出荷が始まり,間もなく全県下に普及している。現在の栽培面積は,県内の施設野菜の中ではメロン,イチゴに次いで第3位であり,静岡県の主要野菜の一つとして定着している。

チンゲンサイは定植後の栽培日数が約20~40日と短いため,年間に8~10作の連作栽培が行なわれている。また,育苗も従来の地床育苗にかわってペーパーポット育苗やプラグ育苗が導入されているため,本ぽでは収穫後も休むまもなく次の作が定植されている。
チンゲンサイ導入後10年以上を経過している主要な産地では,のべで100作以上もの超連作栽培がされていることになる。しかも,ハウスの回転率を上げるために除塩処理はほとんど実施されていない。ビニールの張り替え時に,降雨にあてる程度である。クリーニング・クロップの栽培などは労力がかかるため,婦人や高齢者を中心とした営農の中では取り入にくい事情もある。

このため,産地では土壌中の養分集積傾向が明らかであり,夏期を中心に様々な生理障害が多発している。それらは養分の欠乏や過剰が原因と考えられるが,様々な症状と原因との関係が整理されておらず,対策を考える上で混乱を生じているのが実情である。
ここでは,水耕栽培によって再現した養分欠乏症状や過剰症状を中心に,チンゲンサイの生理障害の特徴と産地での発生原因について述べる。
第1表に再現された主な欠乏症状の特徴と発症時の養分含有率を示した。これらの症状は園試処方1単位の水耕液を対照として,それぞれの養分を欠除させた水耕液で栽培して再現させたものである。


石灰欠乏症状の特徴は,まず心葉から内葉じかけての葉色が濃くなるという前兆症状から始まる。次に心葉の生育が阻害され始め,内葉には微小な白色の斑点が葉脈間に生じる。最後には心葉が先端部より壊死し始め,心葉はほとんど葉柄だけになる。内葉の斑点は次第に大きくなり,葉縁に近い斑点は褐色に変化する。また,根の伸長も阻害され,心葉の葉柄の内側に亀裂褐変が生じることもある。亀裂褐変はホウ素欠乏症状でも生じることがあり,注意を要する。
これらの症状が発生した時の葉中の石灰含有率は,心葉から内葉では約0.4%であった。
苦土欠乏症状の特徴は,まず心葉から内葉にかけての光沢がやや強く感じる程度の前兆症状から始まる。次に心葉の光沢が強くなり,内葉の葉脈聞には薄い白斑が生じる。この白斑は次第に黄斑に変化し,最後には葉脈間全体が黄化,褐変する。内葉の症状は心葉にも広がり,心葉も葉脈間全体の黄化にまで至る。
これらの症状が発生した時の葉中の苦土含有率は,心葉から内葉では約0.1%であった。
ホウ素欠乏症状の特徴は,石灰欠乏症状と同様に,心葉の葉色が濃くなる前兆症状より始まる。その後の症状の進行もほとんど心葉で生じ,生育にも変化が少ないため重症になるまで気がつかないことが多い。症状が進行すると,心葉の葉脈の伸長が阻害されるため,萎縮矮化が生じ葉が奇形化する。
実は,後で述べるホウ素過剰症状でも萎縮矮化が生じる。ただ,ホウ素欠乏症状の場合は,外見ではわからないが株を分解してみると,未展開葉の生長点部分に壊死が生じている点で区別できる。また,心葉の葉柄の内側や外葉の葉柄の外側に亀裂褐変が生じることもある。
これらの症状が発生した時の葉中のホウ素含有率は,心葉では約10ppmであった。
マンガン欠乏症状は,マンガンを欠除した水耕液によって栽培しても再現できなかった。ただ,産地では心葉から内葉にかけての葉脈間が弱く黄化する症状が発生したことがあり,マンガン欠乏症状と推定されている。
第2表と第3表に再現された主な過剰症状の特徴と発症時の養分含有率を示した。これらの症状は園試処方1単位の水耕液を対照として,それぞれの養分を過剰にさせた水耕液で栽培して再現させたものである。


ホウ素過剰症状の特徴は,心葉から外葉にかけての葉縁のうち葉脈の先端に相当する部分に,ごく小さい褐色小斑点が生じる前兆症状より始まる。この小斑点は次第に葉縁の淡い黄化から褐変へと進行するが,葉縁の変化は葉脈の先端に相当する部分を中心とした狭い範囲に限定される。従って,葉縁の褐変自体にはなかなか気づかない。
しかし,葉縁の組織が損傷するため葉は上向きが下向きに巻き,いわゆるカッピング症状を示す。また,心葉から内葉にかけて,ホウ素欠乏症状と同様に葉脈の伸長が阻害され萎縮矮化が生じる。
ただし,ホウ素欠乏症状と異なり,未展開葉の生長点部分は正常である。
これらの症状が発生した時の葉中のホウ素含有率は,心葉で約50ppm,内葉から外葉にかけては約90~140ppmであった。
マンガン過剰症状の特徴は,ホウ素過剰症状の場合と同様に,内葉から外葉にかけての葉縁のうち葉脈の先端に相当する部分に,ごく小さい褐色小斑点が生じる前兆症状より始まる。しかし,ホウ素過剰症状の場合と異なり,心葉は正常である。
次に,鉄欠乏症状に類似した葉縁の黄白化が明確に生じる。黄白化は次第に褐変へと進行し,これらの葉縁の組織の損傷にともなって葉は上向きか下向きに巻き,カッピング症状を示す。重症の場合は,外葉の葉脈間にも禍色小斑点を生じる。
これらの症状が発生した時の葉中のマンガン含有率は,前兆症状の生じた内葉で約1,000ppm,葉縁の黄白化および褐変の生じた内葉から外葉で約2,000ppm,葉脈間の褐色小斑点の生じた外葉で約3,000ppmに達していた。
石灰欠乏症状は産地で最も発生の多い症状であり,「しんなし症」,「しん腐れ症」,「チップバーン症」などと呼ばれている。
チンゲンサイは周年栽培されているが,6~8月の高温乾燥時に最も発生が多い。また,静岡県内の産地の土壌は中粗粒褐色低地土や中粗粒灰色低地土が多く,保水力が小さく乾燥しやすい傾向がある。土壌の乾燥が発生を助長していると考えられる。
チンゲンサイの一作当たりの窒素施肥量は10a当たり10kg程度であるが,年間では80kg~100kgとなる。有機物は牛ふんオガクズ堆肥や豚ぷんオガクズ堆肥などが主に施用されている。一作当たりの施用量は少ないが毎作施用される傾向があり,年間の施用量は10a当たり10~30tにも達することが多い。このように,チンゲンサイの栽培土壌の窒素投入量はかなり多く,連作の進行にともなって硝酸態窒素は蓄積傾向にある。
第4表に園試処方1単位を基本とした水耕栽培で,窒素濃度16me/lを硝酸態窒素あるいはアンモニア態窒素で32me/lに上乗せした場合の石化欠乏症状の発現経過を示した。

石灰濃度0.2me/lではほとんど影響はみられないが,0.4me/lでは窒素の過剰が石灰欠乏症状の発現を促進している。
これらのことから,土壌中の硝酸態窒素の過剰蓄積も発生を助長していると考えらえる。
また,石灰欠乏症状の発生には品種間差が認められている。従来からの主要品種である「青帝」は発生が多く,「夏あおい」などの夏用品種は発生が少ない傾向がある。第5表に,夏期の収穫時期に2日間ハウスを密閉して灌水も行なわず高温乾燥状態にした場合の,石灰欠乏症状の発生状況を示した。明らかに品種間差が認められ,夏用品種では発生が少ない。

「青帝」は葉数が少なめで,生育の旺益な夏期には節間が伸び徒長しやすい傾向がある。夏用品種は,この節間が伸び株のしまりが悪くなるという主に品質面のマイナスを防ぐ目的で育種されている。従って,葉数が多く夏期でも徒長しない。
これらの特徴から,「青帝」は夏期に収穫適期をわずかでも過ぎると徒長が著しくなり,外葉が肥大し心葉を覆ってしまう傾向がある。このため,心葉の蒸散が少なくなり,蒸散流によって移動する石灰は大半が蒸散の激しい外葉へ分配されてしまい,心葉では石灰が不足するものと考えられる。
逆に,夏用品種では徒長しにくく草姿も開き気味のため,心葉が外葉に覆われることもない。また,外葉もあまり大きくならず,心葉に分配される石灰の量も比較的多いのではないかと考えられる。
ホウ素欠乏症状は,海岸線に近い砂丘未熟土地帯で発生が時々みられる。これらの地帯では土壌中のホウ素が流亡しやすい上に,乾燥によって更に吸収されにくくなる。また,連作の進行にともなって石灰が蓄積傾向にあることも発生を助長していると考えられる。
最近,発生が多くみられるのがマンガン過剰症状である。しかも,マンガン資材の施用や,可溶性マンガンを富加させる蒸気消毒の経過のないハウスにおいて発生している。
第6表に,産地において,マンガン過剰症状の発生した土壌の,深さ別の化学性を示した。このほ場は,平成元年までは小麦,キャベツ,シロネギ栽培の露地畑であった。ところが,平成2年に施設(ハウス)化してチンゲンサイ栽培を始めたところ,次第にマンガン過剰症状が発生するようになった。土壌は中粗粒灰色低地土で,過去にマンガン資材の施用や蒸気消毒の実施の経過はない。なお,表中のハウス外土壌とはハウス化以前は同一ほ場であった土壌である。

ハウス内土壌のpHは著しく低く,硝酸態窒素は全体に多かったが特に表層ほど多くなっている。マンガン含量はいずれの形態のものも著しく多く,しかも交換性のほとんどは水溶性であった。
ハウス外土壌もpHはかなり低く,マンガンも易還元性のものはかなり多かった。しかし,硝酸態窒素含量は著しく少なく,交換性や水溶性のマンガン含量も著しく少なかった。
これらのことから,マンガン過剰症状の発生したほ場は,母材などからマンガン酸化物含量の多い土壌であったのが,施設化とチンゲンサイの連作にともないマンガンが可溶化され吸収されやすくなったものと考えられる。可溶化の原因としては低pHや硝酸態窒素などの肥料成分の表層への集積が推定される。
以上のように,産地でのチンゲンサイの生理障害の発生原因には,土壌および作物体の水分条件が関与し,連作による土壌中の窒素や石灰などの過剰集積がこれらを助長していると考えられる。従って,土作りとチンゲンサイの吸収に見合った肥料や有機物の施用が重要である。
<1月号>
§変化の中で,更なる発展を
チッソ旭肥料株式会社
常務取締役 治田 哲男
§コシヒカリに対するワンショッ卜施肥法について
福井県農業試験場土壌環境課
研究員 伊森 博志
§八郎潟干拓地における水稲不耕起移植栽培
秋田県農業試験場
農林水産省土壌肥料指定試験地
専門研究員 金田 吉弘
<2月号>
§淡路島における土地の高度利用
(その発想と展開)
あわじ島農業協同組合企画監理部
部長 古東 英男
§寒地水稲に対する被覆肥料の肥効特性
北海道立中央農業試験場農業土木部
主任研究員 前田 要
<3月号>
§庄内砂丘メロンに対する被覆肥料(ロング,LPコート)を用いた全量基肥施肥法について
山形県立砂丘地農業試験場
研究員 中西 政則
§山形県JA金山
“おかれた状態からの稲作技術普及”
(主の足音を聞かずも稲は育つを目指して)
JA金山農協
営農指導係長 沼沢 道也
<4月号>
§黒ボク土における被覆尿素を用いたデントコーンの全量基肥栽培
東北大学農学部附属農場
助教授 三枝 正彦
§LPコート肥料を用いた水稲の全量基肥不耕起直播栽培
東北大学農学部附属農場
佐藤 徳雄
<5月号>
§新しい器材を利用したイチゴの棚式育苗システム
福岡県農業総合試験場 園芸研究所
専門研究員 伏原 肇
§廃鉱坑道内の冷気を利用したトルコギキョウの促成栽培
長崎県総合農林試験場
花き科長 北村 信弘
<6月号>
§イチゴの周年穫り新作型の開発
岐阜県農業総合研究センター
野菜科長 羽賀 豊
§水田における土壌窒素の評価と今後の研究展開
石川県農業総合試験場
農業研究専門員 北田 敬宇
<7月号>
§積雪寒冷地の畑土壌におけるLPコートの溶出特性
山形県立農業試験場
研究員 冨樫 政博
(現在 山形農業改良普及所)
§超深耕による畑土壌の改良とその維持管理
北海道農業試験場企画連絡室
主任研究官 吉野 昭夫
(前 愛知農業総合試験場豊橋農業 技術センター畑地土壌研究室長)
<8月号>
§球根養成スカシユリに対するロングの施用効果
-窒素溶出状況を中心として-
新潟県農業試験場(前 新潟県園芸試験場)
専門研究員 笠原 敏夫
新潟県園芸試験場
主任研究員 本永 尚彦
新潟大学農学部
教授 五十嵐 太郎
§平成5年度農業観測の概要について
農林水産省大臣官房調査課
河本 幸子
<9月号>
§今後の農業生産振興と担い手について
(「地域農業の展開方向等に関する調査」結果より)
農林水産省大臣官房調査課
調査専門官 藤村 博志
§特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律について
農林水産省構造改善局農政部就業改善課
課長補佐 佐藤 速水
<10月号>
§LP肥料を用いた収量・品質向上技術
宮城県農業センター土壌肥料部
上席主任研究員 中鉢 富夫
§セル成型苗を利用したホウレンソウの連続栽培技術
熊本県阿蘇農業改良普及所
田中 修作
(前 熊本県農業研究センター高原農業研究所)
<11月号>
§露地野菜と窒素の施肥位置
全農 農業技術センター肥料研究部
部長 森崎 鉄兵
§イチジクの根域制限栽培と被覆肥料
愛知県農業総合試験場
山間技術実験農場
農場長 井戸 豊
園芸研究所環境研究室
技師 池田 彰弘
<12月号>
§秋の田で
農林水産省 東北農業試験場
畑地利用部
部長 藤井 國博
(前 農業環境技術研究所 環境資源部水質管理科)
§チンゲンサイの生理障害の特徴と発生原因
静岡県農業試験場 土壌肥料部
主任研究員 高橋 和彦
§’93年本誌既刊総目次