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第432号 1993(H5).10発行

Click here for PDF version 第432号 1993(H5).10発行

 

 

LP肥料を用いた収量・品質向上技術

宮城県農業センター土壌肥料部
上席主任研究員 中鉢 富夫

Introduction

 環境にやさしい農法の確立が求められる一方で水田作は生産コストの低減と,品質食味の向上等が緊急な課題となっている。

 生産コストの低減には多収が最も近道であるが多収のためには籾数確保も必要だし,施肥量も多くする必要がある。しかし,収量と食味品質の両立には施肥量や追肥時期などの制約がある。

 本稿では玄米窒素濃度に影響する施肥法,多収と食味向上が可能なLP肥料利用による省力施肥法等について総括してみる。

2.施肥法と玄米窒素濃度

 図1は施肥法と玄米窒素濃度の関係を見たものである。基肥窒素量は多いほど,追肥時期は遅いほど玄米窒素濃度は高まる傾向が明らかである。

 年次や土壌型等で濃度差に多少の変動はあろうが,傾向は変わらないと見て良いであろう。

 登熟歩合が高いと玄米の窒素濃度は低くなるし,㎡当たり籾数が多い場合は玄米の窒素濃度は高くなる。図でも基肥窒素量が多くなるに従って籾数は増加し,登熟歩合や玄米千粒重は低下した。

 また,多肥適応性がササニシキより高いひとめぼれは追肥時期が遅いほど玄米窒素濃度は高まってはいるが,基肥窒素量3kg/10aでも7kgでも大差ない玄米窒素濃度の範囲であった。

 これは基肥窒素量による籾数や千粒重の変動幅がササニシキよりはるかに小さく,登熟歩合は高位に安定しているためと見られた。

 登熟歩合が高まる場合は澱粉の蓄積量が多くなるため相対的に窒素濃度は低くなると考えられるし,籾数が多い場合は一般に千粒重が軽くなるので澱粉に対する窒素の比率が高まる結果,窒素濃度は高くなると考えられる。

3.基肥肥料と玄米窒素濃度の関係

(1) Testing Method

 重窒素硫安とチッソ旭肥料側に提供戴いた重窒素被覆尿素(以下LPと称する)を用いて,成分溶出のし方や肥効期間の異なる基肥窒素が玄米窒素濃度に与える影響を検討した。

 側条施肥の方法は所定量を医療用のカプセルにいれて,株の側方3cm,深さ5cmに挿入した。

 枠当たり1株,3反復とし,周囲には枠内と同様に移植し,移植後窒素4kg/10aを表層施肥した。

2)試験結果及び考察

(1)玄米窒素濃度

 表2によれば玄米全窒素濃度は0.93%程度で全般に低く区間差も小さく,食味に影響しない濃度であった。基肥窒素のみのためや試験期間中の好天を反映したものと見られる。

(2)窒素吸収量と玄米への移行率

 表3の成熟期の稲体全窒素吸収量は,LP区では施肥量の差が小さいこともあり,吸収量の差は判然としなかった。玄米への窒素移行率(玄米窒素吸収量/稲体全体の窒素吸収量×100)は60%前後で,肥料の性状や施用量による差は小さかった。

(3)施肥窒素吸収量と玄米への移行率

 稲体施肥窒素吸収量は硫安区が施肥量に比例して増加し,LP区は3.6g/㎡前後で硫安区の1.5~3倍となった。全窒素吸収量に占める施肥窒素吸収量の割合もLP区は約37%と硫安区よりはっきり高かった。したがって,土壌窒素への依存度は硫安区よりLP区が低いと言える。この内,玄米への移行率はLP区では50%弱で硫安区より約15%低かった。

 また,LP区の玄米の窒素吸収量は硫安7kg区に比べて13%多く,稲全体の吸収量は63%多くなった。そのため,LP区の玄米への施肥窒素移行率は低い結果となった。

 これはLP区は徐々に溶出し,吸収も長期間継続するため,茎葉に残存する窒素量も硫安の場合より多くなるためと考えられた。

(4)施肥窒素利用率

 施肥窒素の利用率の推移を平均値で図2に示した。硫安区の成熟期における利用率は約30%で,利用率の最高は6月末頃とみられた。

 LP区では6月下旬のLP70の利用率はLP100より約15%高く,溶出タイプの差が明らかであった。

 両肥料とも吸収は穂揃期まででほぼ終了し,LP100の登熟期間中の吸収は僅かであり,成熟期の利用率は70,100タイプとも70%以上となった。この利用率は硫安の2倍以上で,被覆肥料の優れた特徴であり,施肥量の削減や環境保全型施肥法に極めて有望と言える。

4.土壌型と追肥時期の違いが玄米窒素濃度に及ぼす影響

 次に,ササニシキにおける追肥時期の違いが収量と玄米窒素濃度に及ぼす影響を,現地4土壌型で重窒素を用いて検討した。

 田植時期や基肥施肥量及び栽植密度は農家の慣行とし,6月中旬に生育を調査し平均値に近い株を選び,枠を打ち込み幼穂形成期,減数分裂期,穂揃期の各時期に窒素2kg/10a相当量を重窒素硫安で施用した。なお,枠外には減数分裂期に枠内と同様に普通硫安で追肥した。

1)試験結果及び考察

(1)全窒素の吸収量と移行率

 収量及び玄米窒素濃度等を図3に示した。追肥時期別収量は幼穂形成期追肥区が高く,次いで減数分裂期追肥>穂揃期追肥の傾向であった。稲体全窒素吸収量は土壌タイプの違いが明らかであったが,玄米への全窒素移行率は60%前後であり,追肥時期との関係は判然としなかった。

(2)玄米窒素濃度

 宮城県のササニシキでは食味に影響する玄米窒素濃度は,概ね1.3%以上と見られている。図3の玄米窒素濃度は各土壌とも食味に影響する濃度にはなっていないが,追肥時期別にみると幼穂形成期<減数分裂期<穂揃期追肥の順に高まる傾向が明らかであった。したがって,グライ土,強グライ土の減数分裂期以降の追肥は年によっては食味低下が懸念され,土壌窒素発現特性に対応した施肥法が必要と見られた。

(3)追肥窒素の利用率と移行率

 追肥窒素の利用率と玄米への移行率は図4に示した。前ら1)は東北地方における追肥窒素の利用率を集計し,追肥時期が遅いほど利用率も低く,吸収期間も短くなるとしている。本試験の追肥時期毎の利用率は幼穂形成期追肥で45%前後,減数分裂期追肥は40%前後,穂揃期追肥は30~36%程度であり遅い追肥程低下する傾向にあり,利用率の土壌型による差は泥炭土壌を除けば殆ど認められなかった。

 出穂期前後は最も気温が高く,藻類等の繁殖も活発であること,根活力の相対的低下,間断灌水の影響等で遅い追肥ほど利用率が低下し,吸収期間も短くなると見られた。

 追肥窒素の玄米への移行率は幼穂形成期追肥で約65%,減数分裂期追肥は約70%,穂揃期追肥は約80%程度で,利用率とは反対に遅い追肥程高くなり,土壌タイプの差はほとんど認められなかった。これは早い追肥ほど茎葉に一時的に貯蔵される期間が長くなるため,その間に稲体維持のために使われる窒素も多くなる結果であろう。

5.肥効調節型肥料による多収と食味向上の両立

 宮城県におけるササニシキの施肥体系は普通化成肥料基肥+減数分裂期窒素1~2kg/10a追肥を標準としている。この体系とLP一発体系を比較したのが,表4である。散布経費を含めた肥料代は両体系間に差はなかったが,L P一発体系区の登熟歩合が高まり収量は4~8%増収し,玄米窒素濃度は0.2%(標準体系比83)低かった。

 慣行体系で多収を狙うと玄米窒素濃度は高まるし,玄米窒素濃度を気にすると収量は停滞する。この矛盾を同時に解決する施肥法として一発体系のメリットは大きいと思われる。

 LP一発体系の場合は登熟期間中の稲体窒素濃度が高めに経過するため,籾数が慣行体系と同じ程度ならば登熟歩合は高まると見て良い。このことが前述の理由で玄米窒素濃度の上昇を抑制しているものと考えられる。

Summary

 ササニシキに対する基肥や追肥の窒素が収量及び玄米窒素濃度に及ぼす影響を検討したが,玄米窒素濃度には追肥窒素の影響が大きかった。

 早い追肥は玄米への移行率は低かったが,倒伏が懸念された。
 LP一発体系は多収と食味向上の両立が可能な施肥法と見られた。今後は籾数過剰を防止するための滅肥率など土壌の窒素発現量に対応した施肥量の検討を進める。

works cited

1)前忠彦,庄子貞雄:Ⅲ東北の土壌肥料における最近の諸問題とその研究 1.重窒素を利用した東北地方の稲作に関する研究.東北の農業と土壌肥料.日本土壌肥料学会大会運営委員会.77-93(1984)

 

 

セル成型苗を利用した
ホウレンソウの連続栽培技術

熊本県阿蘇農業改良普及所
田中 修作
(前 熊本県農業研究センター高原農業研究所)

1.産地の概況と技術の必要性

 熊本県の高原地域を代表する阿蘇郡では,夏の冷涼な気象条件を生かしたホウレンソウ栽培が行われており,栽培面積は延べ220haと九州を代表する産地である。

 しかし,標高400~700mの高原地域とはいえ,盛夏期の栽培はホウレンソウの生理生態上不安定な面が多く,高温・乾燥による発芽不良,連作による立枯病等の発生により収量低下を招いている。このような問題を解決するため,各地でセル成型苗を利用した移植栽培による生産安定技術の開発が進められているが,コスト・労働力等の面から実用化されている事例は極めて少ない。

 しかし,熊本県農業研究センター高原農業研究所(標高543m)では平成4年度にホウレンソウの移植栽培技術を確立し,農家へ普及させるに至ったので,以下その内容について述べていく。

2.技術の具体的内容

1)育苗における技術

 セル成型苗利用によるホウレンソウ栽培を考えた場合,問題点として,
①直根・浅根性であるため一般に市販されているピートモス,バーミキュライト等を原料とした育苗床土では根鉢の形成が難しく作業性に問題がある。
②面積当りの植付株数と作付回数が多いため床土の経済性が重視される。
 があげられる。

 従って,セルトレイの選定と床土の生成が必要となる。先ずセルトレイであるが,上述したようにホウレンソウは根鉢の形成が難しく,苗を掴んでの抜取りが出来ないため,底面の開いた底から押し出す方式のマメトラ農機のセルトレイ(商品名「マメトラ畑用苗箱(No.203-35B)」,128穴・1穴容量約40ml(35mm×35mm×32mm),写真1)を使用した。材質は硬質プラスチックで耐久性に優れる。

 育苗床土に関しては経済性と入手容易な点を重視し,バーク堆肥を選定した。これを水分70%のレベルに調節し固め,根鉢の形成不可能な欠点を克服した。バーク堆肥に配合する肥料としては,過燐酸石灰(粉,成分17%)をパーク堆肥1g当り成分2,000mg(実量約12g)施し,燐酸処理を行った。

 一般的にバーク堆肥だけによる育苗は難しいと考えられているが,この燐酸処理により健全な生育を得ることができた。また,pHはホウレンソウの生育に合わせ,消石灰で6.5~7.0の範囲に調製した。

 問題は窒素肥料であるが,省力化と技術の簡素化を考慮した場合,
①1穴容量40mlのセルトレイに均一に混入できる粒の小さいもの
②育苗途中での液肥施用の必要のない肥効期間の長いもの
 の条件を満たすものが必要と考えられた。

 これには「くみあい微量要素入り被覆燐硝安加里マイクロロングトータル201(成分:窒素12%・燐酸10%・加里11%,以下「マイクロロング」と略す)(写真2)」の40タイプを用い, バーク堆肥1g当り窒素成分で240mg(実量2g)投入し,独自の床土を作り出すに至った。経費は1株当り0.75円と1円未満に抑えることができた。

 床土はセルトレイ容量比40%増で詰め込み,深さ8mmの穴に播種を行う。覆土はバーク堆肥と別の目の細かい土で行い,十分な灌水を行う。播種後3~4日で,ほぼ100%発芽する(第1表)。

 育苗は作付回数の向上を図るため,生育速度の遅い本葉4枚までとした。育苗期間は比較的冷涼な春・秋で15日, 長日期の6月と高温期の7~8月が20日前後であった。育苗中は乾燥による生育障害回避のためかなりの灌水を行ったが,マイクロロングの肥効の低下は認められず,全ての栽培で良好な生育を得ることができた。(写真3)

2)本圃における施肥・管理技術

 定植適期となった苗は本圃へ移植していくが,施肥設計はこの栽培の独自の技術を生かすためCDUS555(成分:窒素・燐酸・加里とも15%)を用い,10アール当り成分で窒素25kgを投入した(燐酸はBM苦土重焼燐を加え35kg/10aに調整)。

 栽植密度は畦幅120cm,条間15cm,株間8cmの6条植(62,500株/10a)とし定植していくが,床土が固まっているため土中に埋め込まず置いていくだけとする。これにより定植の労働力の軽減とともに,根を浮かせることでより確実な土壌病害の回避ができる。定植に要する時間は,1,000株当り50分前後であった。

 定植後は乾燥しないように十分な灌水を行うとともに割繊維不織布(商品名「シルバータフベル3,000」,遮光率30%)で遮光した。遮光資材の設置は天候・生育に応じて調整できるようハウス内にカーテン方式(写真4)で行った。

 一般に夏のホウレンソウは生育前半は遮光が必要であるが,収穫前は浴光させた方が葉肉の充実が得られる。ハウスビニル上に被覆し固定すると雨天が続いた場合,取り外しができず軟弱徒長を招くことになる。

 定植後適切な管理を行えば3~4日で完全に活着するが,一度萎れさせると回復が困難なため十分な灌水が必要である。本圃での生育期間は育苗期間とほぼ同等と考えてよい(第2表)。試験における収穫は草丈25cmを基準に行ったが,生育の揃いが優れ,一斉に収穫ができる。

 次に1作目収穫終了後の2作目の定植であるが,前作の床土をそのままにしておき,2作自の苗をその中間に置いていくだけでよい。(写真5)同様に3作目の苗も2作目終了後,1作目の横につければよい(第1図)。

 従って,整畦・追肥不要で3作連続の栽培が可能となる。この点が前述した“独自の技術”であり,単なる移植栽培とせず,“連続栽培”と呼称する理由である。そのため,CDUS555を窒素成分25kg/10a投入することが必要となる。3作終了後は再び同量施肥し整畦するが,この時バーク堆肥も鋤込み土壌改良資材として再利用する。

 平成4年度は連続3作までの実証にしか至らなかったが,この施肥技術は既にこの栽培法を取り入れている農家でも問題なく実行されている。(写真6)

3)品種

 在圃日数は短縮されるが,播種~収穫までの総日数は直播栽培より若干長くなるため,この栽培に用いる品種は時期別の適応品種の中でも晩抽性のものがよく,長日期の5月下旬~6月下旬までは「オリオン」に限定した(第2図)。しかし,盛夏期の品種の切り替えは適切に行わないと,第2表8作期のように大幅な収量低下を招く。

4)収量と作型モデル

 第2表に示した※印は同ーの畦で9作連続的に栽培した作期を示す。従って,この栽培を行うことで,第2図に示したように年間10~11作の作付が可能となる。さらに1作当りの収量は土壌病害の発生もなく10アール当り1t以上となるので,現行の直播栽培と比べ年間3倍の収量を得ることが可能となる。

3.今後の課題

 以上,平成4年度に実施したデータを基にホウレンソウの連続栽培技術について述べてきたが,今後さらに普及を進めるため,取り組まねばならない課題も残されている。

 そのため本年度は,
①省力化を図るための機械化
②本圃の施肥技術の確立
 の2点を中心に検討している。

 ①に関しては技術内容からも明らかであるが,定植機の導入が当面期待できないため,床土のブロック化,播種作業の自動化を目指している。②については,CDUS555を対照にCDUS222やロング等のコーティング肥料を用い,連続栽培の延長・年間不耕起栽培の実証を行っている。

 最後にこの栽培試験に際し,快くご協力頂いたチッソ旭肥料株式会社に誌面を借りて謝意を表し終りとしたい。