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§LPワンショット施肥による側条施肥法
鹿児島農業試験場
主任研究員 上村 幸廣
§肥料の来た道,帰る道
12.肥料は何処え
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§’92年本誌既刊総目次
鹿児島農業試験場
主任研究員 上村 幸廣
本県でも省力・省肥・環境汚染軽減の見地から側条施肥法が普及しつつある。側条施肥は施肥位置が根に近く,かつ,部分的には慣行基肥量より肥料成分が多いため減肥しなければ過繁茂になりやすい。
一方,本県水田の約80%を占めるシラス土壌は粗粒質で漏水が大きく,CECが低い。そのため基肥を減肥すると生育後半に養分不足になりやすい。そこで,生育後半まで肥効を持続させるために種々のLPコート肥料を用いて3か年ほ場試験を実施し,ワンショットですむ側条施肥技術を確立したので報告する。
シラスを主な母材とする灰色低地土(中粗粒灰色低地土灰褐系)善通寺統
1区170㎡ 1連制
ヒノヒカリ
移 値 平成3年6月18日(23日苗)稚苗機械植え
クボタ5条植え(70株/坪で設定)
植え付け精度:98.7%
平均施肥量:設定値の96%
栽植密度 24.5株/㎡(13.6×30cm)
穂 肥 8月6日
出 穂 8月24日
収 穫 10月1日

慣行(速効性肥料)区はBB284,慣行(緩効性肥料)区はLPコート100,他の区はLPコートSS100で,45日目頃から窒素が溶出し始め,100日でほぼ全量(25℃の水中)が溶出するタイプの肥料。
第1図に収量調査結果,第2図に収量構成要素を示す。玄米収量は慣行(緩効性肥料)区>側条緩効0.6kg(40%)区>側条緩効0.5kg(50%)区=慣行(速効性肥料)区≧側条慣行区の順となった。


このことは,側条施肥に緩効性肥料(LPSS100)を用いるときは基肥窒素0.6kg/a(このうち速効性が40%)もしくは基肥窒素0.5kg/a(このうち速効性が50%)が適量で,側条施肥に速効性肥料を施用する際は基肥を40%減肥すれば良いことを示している。
千粒重,登熟歩合は慣行(速効性肥料)区が最も高く,LPコート肥料区で若干の低下を認めた。
第2表に白米中の無機成分及び食味指標を示す。また,第3表に食味品質分析計による白米の分析値を示す。側条緩効0.6kg(40%)区の白米中窒素含有率は高く,生育後半の窒素溶出が多かったことがうかがえた。このことは,本試験では初期の窒素溶出を抑えた肥料を供試したことも一因と考える。


食味品質分析計による白米の食味値は全般に緩効性肥料を供試した区が高く,慣行(速効性肥料)区が最も低かった。これらのことから,緩効性肥料を側条施肥しても白米の食味値は低下しないことを認めた。
第3図に水稲体の養分含有率の推移を示す。生育前半における茎葉中窒素含有率は速効性の窒素施用量に対応して高くなる傾向を認めた。収穫期の慣行(緩効性肥料)区及び側条緩効0.6kg(40%)区の茎葉中窒素含有率は最も高かった。これらの結果から,側条緩効0.6kg(40%)区は生育後半の窒素供給が多かったことがうかがえる。

第4図に水稲体の窒素吸収量の推移を示す。窒素吸収パターンを比較すると,慣行(速効性肥料)区の吸収量が穂ぞろい期から収穫期にかけて減少しているのに対して,緩効性肥料を施用した区は増加している。これらのことからも,生育後半に窒素放出が多かったことがうかがえる。

新しいタイプの緩効性肥料を供試してワンショットによる側条施肥試験を実施した結果,玄米重は側条緩効0.6kg(40%速効性窒素)区及び側条緩効0.5kg(50%が速効性窒素)区が慣行区と同等であった。しかも,緩効性肥料を用いても,食味値を低下させることはなかった。
これまでの3か年の試験結果から以下のように要約できる。
(1)側条施肥に速効性肥料を施用する時(シラス水田)は基肥窒素は4割減肥し,穂肥は慣行施用する。
(2)シラス水田において側条施肥に緩効性肥料を用いてワンショット施用する時(慣行施肥が基肥0.6kg/aに穂肥0.3kg/a程度の品種)は次のような施用例が考えられる。
○窒素0.6kg/a(LPコート100=80%)
○窒素0.6kg/a(LPコートS100=60%)
○窒素0.6kg/a(LPコートSS100=50%)
○窒素0.6kg/a(LPコートSS100=60%)
○窒素0.5kg/a(LPコートSS100=50%)
京都大学
名誉教授 高橋 英一
産業革命がはじまるまで長らくの間,農業は人間の生活に必要な原材料のほとんどのものを供給してきた。それらは食糧はもちろん衣料,家屋家具,諸道具,灯料,燃料など広範囲にわたるが,いずれも植物に起源をもつものであり,その植物を育てるのは土地であるから,土地こそは富の源泉であった。人間の歴史が土地を求めての争いであったのもそのためである。
しかし人口の増加と文明の発達はこの資源としての土地の深刻な不足を招くにいたった。産業革命は絶対的な土地依存からの脱却をめざしたものであり,その結果としての工業化(土地のもつ生産力によらない生産活動の開始)はいわば歴史の必然であった。
古来土地の生産力を維持する手段の一つとして施肥が行なわれてきた。肥料として用いられたのは主として有機物つまり土地が生産したものであったが,この肥料についても土地依存からの脱却がはじまった。すなわち19世紀には肥料鉱物資源の採掘利用が開始され,それにつづく化学肥料の製造利用となって今日に至っている。
この土地以外からもたらされるようになった植物養分は,過去200年の間に膨大な量にのぼり,人間が利用するバイオマス(食糧など)のキャパシティを拡げるのに貢献した。それはその間における人口の著しい増加が示している。
肥料は17~8世紀ごろから商品化されるようになり,それは農業の活性化に貢献したが,商品としてのスケールの大きさはその流通範囲の広さによる。今日の化学肥料あるいは無機肥料と呼ばれている肥料の有機物肥料との大きなちがいは,貯蔵輸送の上で流通に便であるところである。
無機化学肥料の流通範囲は世界的規模におよんでいるが,一方穀類を中心とする農産物の貿易量も大きくなってきた。この2つは植物養分の国際間移動に役割を果しているが,その流れの方向には国際間の経済力の差がはたらいているところが問題である。
たとえば経済大国の日本はリン酸とカリの全量を輸入しているほか,莫大な農産物の輸入にともなって大量の窒素,リン酸,カリなどの肥料成分が海外からもたらされている。一方インドは緑の革命のおかげで穀物の収量は増えたけれども,貧しい人たちは収入が少ないためにそれを買うことができず,穀物が余り,輸出に回されるという不合理が生れている(ベルトラン・デルプーシュ著 真下俊樹訳 世界の食糧・農業農文協 1990年刊より引用)。こうしてある国の土壌はますますやせ,ある国の土壌は逆に養分の過剰になやまされることになる。
今日化学肥料は農薬と一まとめにされて,資源環境問題の中での悪玉の役割を負わされている。そして農薬や化学肥料を使わないことを目指す有機農業が模索されているが,農業の「化学化」の傾向は中々改まりそうにない。それは有機農業には過去の農業がもっていた労働集約型なところがあるため,省力化路線を進んできた農業の趨勢に中々打ち勝てないからではないかと思われる。
この有機農業の対極にあるのは,アメリカに興った産業としての農業すなわちアグリビジネスである。「アメリカで現在行なわれている農業はもうほとんど農業というものではなくなっていて,むしろ非常に洗練されたエネルギー集約型の高度なシステムとも呼ぶべきものに変貌している。いわば一連の工業製品を,たまたま食べられる別の工業製品にかえる過程になったのである。」
「20年前(1950年代)にはアメリカ農務省はアメリカ本土の3分の1から2分の1の面積を放牧場として分類していた。つまりそこは牧畜以外には役に立たぬ土地というわけだった。しかし牧草地で家畜を飼育するのはあまりにも時間を食うということで,これらの土地はいまや放置され,かわりにアメリカ中の家畜はほとんど飼育場に集められている。飼育場の家畜はさまざまな生産資材を消費するための生きた機械のように扱われる。そこでは10万頭以上の哀れな家畜に,添加物入りの高タンパク飼料がむやみにつみこまれている。家畜飼料工業はいまやアメリカ9番目の産業となった。この方式が牧草地を荒らし,人間向けの穀物を消費させている。牧畜にみられるこの種の消費性は,家畜の糞を肥料として畑にもどさず,廃棄して水を汚染させている。」(スーザン・ジョージ著 小南祐一郎・谷口真理子訳 なぜ世界の半分が飢えるのか 朝日選書 1991年刊より引用)
もともと牧畜は穀物の栽培に適さない土地を草地として家畜を飼い,人間が食べられない草を家畜の肉や乳にかえて利用し,さらに家畜の排泄物で耕地を肥やすというすぐれた生態系利用の生産システムであった。
上述の例はこれを全く無視したものであり,土の生産力を利用せず,集中化,大規模化によって生産の効率化をはかるという工業の特質をよくあらわしている。しかし自然の中で自然の力を借りて営まれてきた農業にこのような方式をとり入れれば,生態系にいろいろな問題が生じるのは当然である。
現在の農業には,農業を生業としてとらえ,地域レベルで考えてゆこうとする有機農業と,農業を産業としてとらえ,それを拡大化することによって国際的な経済力と政治力を築いてゆこうとする巨大アグリビジネスとの2極分化のきざしがみられる。肥料の歩む道もこの両者の間を曲折しながら進んでゆくのではなかろうか。
本来施肥とは土から得たものは利用したあと土にかえし,再びそこから必要なものを得るという行為であった。それは人間が自然から学んだ循環再生の知恵であった。この知恵は農業が生業から産業へと姿をかえてゆくにつれて見失われ勝ちになったが,今ようやくそのことの重要さに気づきはじめたようである。
科学技術の急速な進歩によって地球がせまくなり,同時に土地も資源も有限であることがひろく認識されるようになった現在,かつて国力発展のため,土地と資源をもとめて海外に植民地を拓いていったヨーロッパの列強とは対照的に,せまい国土に閉じこもって自給自足の生活をしながら,見事に独自の文化を開花させた江戸時代の日本が,欧米の識者の注目をひいている。
食糧の消費によって解放された養分を再び集めて生産に利用する技術や流通システムの模索が,これからの課題の一つにならないだろうか。それこそが施肥の本来の姿であったのであり,長い旅をしてきた肥料の帰るべき道なのではなかろうか。
これに関連して昨年(1991年9月26日)アメリカのアリゾナでBiosphere Ⅱという面白い実験がはじまった。これは1.3ヘクタールの敷地の中に,熱帯有林,農地,海,砂漠をそろえ,地上はガラス,底の部分は金属板で外界から遮断された閉鎖空間の中で,男女8人が2年間生活をつづけるというものである。
Biosphere Ⅱという命名は地球を第1号としたことによっている。第1号の生態系を破壊しない人間の生き方を探るために,第2号で実験研究しようというのが目的である。Biosphere Ⅱには3,800種の植物や小動物,250種の昆虫を生息させ,人工の装置で波がおきる海には魚が放たれ,この中で人間は生態系の一部になって生活し,食物と排泄物は循環再生されるという(1991年9月27日のJapan Timesおよび9月28日の朝日新聞による)。
このような実験からいろいろ興味ある結果がでてくるにちがいない。2年先が楽しみである。そしてその時に肥料のあり方に対する考え方も多少かわるかも知れない。(完)
<1月号>
§農業の変革期を迎えて思うこと
チッソ旭肥料株式会社
代表取締役社長 早水 清
§三浦ダイコン産地では何故ダイコン萎黄病が見られないのか?(その1)
野菜・茶業試験場久留米支場
病害研究室長 小林 紀彦
§茶園における芽出し肥「アサヒポーラス」の施用試験
静岡県茶業試験場
研究主幹 岩橋 光育
§東北地方でのロング施用による水稲無追肥育苗法の普及状況
(育苗肥料とロングの併用による追肥省略での健苗技術)
その1各県(宮城・山形・岩手・青森)の普及技術内容
チッソ旭肥料(株)東北支店
<2月号>
§水稲での重窒素LPコート試験
岩手県農業試験場
環境部施設改善科長 小野 剛志
§肥料の来た道,帰る道
3.江戸文化の生んだ商品肥料(1)
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§東北地方でのロング施用による水稲無追肥育苗法の普及状況
(育苗肥料とロングの併用による追肥省略での健苗技術)
その2使用実態の調査結果と応用的な使用方法及び新技術の開発展望
チッソ旭肥料(株)東北支店
<3月号>
§施肥防除作業の機械化について
全農農業技術センター
農業機械研究部長 佐藤 功
§肥料の来た道,帰る道
江戸文化の生んだ商品肥料(2)
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§園芸床土,園芸培土の調査および育苗試験成績
大分県経済連肥料農薬課
参与 津野 林土
<4月号>
§被覆硝酸石灰利用によるトマト「尻腐れ果」対策
岐阜県農業総合研究センター
土壌環境科長 北嶋 敏和
技師 小川 靖史
§肥料の来た道,帰る道
産業革命と肥料革命
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§茶樹の栄養生理・栽培特性と施肥(Ⅰ)
鹿児島県経済連 茶事業部
技術主管 藤嶋 哲男
<5月号>
§イチゴに対するロングSの施肥改善効果について
香川県農業試験場 三木分場
主任技師 近藤 弘志
§肥料の来た道,帰る道
工業化社会の幕あけと鉱物肥料の登場
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§茶樹の栄養生理・栽培特性と施肥(Ⅱ)
鹿児島県経済連 茶事業部
技術主管 藤嶋 哲男
<6月号>
§熱帯におけるインド型水稲におよぼすLP肥料の効果(その1)
(株)日本工営(前・国際稲研究所)
和田 源七
§肥料の来た道,帰る道
7.工業化社会の幕あけと鉱物肥料の登場(続)
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§土壌中の窒素濃度診断に基づく施肥技術(Ⅲ)
鹿児島県経済連 茶事業部
技術主管 藤嶋 哲男
<7月号>
§西南暖地における緩効性肥料の効果的な施用法
熊本県菊池地域の稲作事例調査から
熊本県農業研究センター
農産園芸研究所 矢部試験地
主任技師 坂梨 二郎
(前・菊池農業改良普及所)
§肥料の来た道,帰る道
8.肥料工業と農事試験場の誕生
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§熱帯におけるインド型水稲におよぼすLP肥料の効果(その2)
(株)日本工営(前・国際稲研究所)
和田 源七
<8月号>
§平成4年度農業観測の概要について
農林水産省大臣官房調査課
河本 幸子
§肥料の来た道,帰る道
9.戦争と肥料の奇妙な関係
京都大学
名誉教授 高橋 英一
<9月号>
§稲作を中心とする土地利用型農業の構造と経営の展望について
農林水産省大臣官房企画室
室長補佐 矢野 哲男
§肥料の来た道,帰る道
10.昭和元禄と肥料の多様化
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§大豆に対するLPコートの下層施肥技術
新潟県農業試験場
主任研究員 高橋 能彦
<10月号>
§土壌埋設型センサ一利用による茶園の施肥管理技術
静岡県茶業試験場
研究主幹 岩橋 光育
§チャに対するロング施用試験
京都府立茶業研究所栽培課
技師 藤井 孝夫
<11月号>
§ウンシュウミカンの根域制限栽培における施肥法
静岡県農業試験場普及課
主幹 大城 晃
§肥料の来た道,帰る道
11.肥料の必要量は何できまるか
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§岐阜県平坦地における地力窒素発現特性とワンタッチ施肥法
岐阜県農業総合研究センター
専門研究員兼土壌環境科長
北嶋 敏和
<12月号>
§LPワンショット施肥による側条施肥法
鹿児島農業試験場
主任研究員 上村 幸廣
§肥料の来た道,帰る道
12.肥料は何処え
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§’92年本誌既刊総目次