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第421号 1992(H4).11発行

Click here for PDF version 第421号 1992(H4).11発行

 

 

ウンシュウミカンの根域制限栽培における施肥法

静岡県農業試験場普及課
主幹 大城 晃

Introduction

 食品の消費の多様性などからみかんの過剰生産となり,高品質果実の生産が産地の生存にかかって久しい。

 このような事情から,かつて,ミカン栽培は露地栽培一辺倒であったが,現在,ハウス栽培そして,根域制限栽培(ボックス栽培など),露地栽培に盛夏から晩秋の収穫期まで土面に被覆処理するマルチ被覆栽培が盛んになりつつあります。

 ハウス栽培みかんは消費の時期的なずればかりでなく,露地栽培みかんにない特有な味から,高価格で販売され,その地位を確立しています。

 マルチ被覆栽培は一般的に被覆処理から秋期の土壌乾燥により,糖度1度程度の上昇の果実が得られています。

 しかし,土壌条件やその年の気象条件によって必ずしも好結果ばかりを期待できず,不安定なところがあります。

 さて,根域栽培ではその一つの種類であるボックス栽培ミカンの現地の状況は慣行露地栽培の果実の糖度は糖度10~12度でありますが,13度以上の果実がほぼ確実に得られます。

 一方,ミカンばかりでなく,ブドウ,イチヂク,モモなどを始め,カキに関しても,その様式,根域の大きさなど異なりますが,高品質果生産を目指した根域制限栽培に関する試験研究が始められています。

2.根域制限栽培とは

 静岡柑試の谷口氏は根域制限栽培とは「何らかの資材を使用し,物理的に根系の生育エリアを限定して栽培する栽培法」と定義しています。

 さらに,彼は根域制限栽培を三つに区分しています。

 一つは鉢,箱などの容器を使用し,栽培する方法で土壌水分は重力水の排除,地下補給水の遮断により土壌乾燥が促進させることの可能ないわゆるボックス栽培です。ちなみに,静岡県では60~70Lの容器を使用し,10a当り1,000鉢(ポット)を設置し,収量3,000kgを目標にしています。(写真1)

 二つ目は植穴や溝に透水布を使用し,根系のエリアのみに制限する防根布栽培で,根域を狭い範囲に制限することにより,有効水分を制御する方法です。

 静岡柑試では深さ30cm,幅50cm,長さ100cmの150Lの容量を10a当り333本植えで,糖度12度以上でボックス栽培と同様に収量3,000kgを目標にしています。(写真2)

 三つ目は植穴や溝に不透水シートを使用し,地下補給水を遮断して栽培する高畝,ベッド栽培と称されている栽培です。

 いずれにしても根域を制限することによって樹体をわい化させるとともに,土壌水分を制御すること,特に,秋期に樹体の水分を抑制することにより,より高糖度の果実生産を目指しています。それとともに,早期成園化,軽労働,低コストなどを目標にしています。

 平成2年の調査結果によると,静岡県内にて,ボックス栽培は15ha,防根布栽培は今のところ,1.7haです。

 ボックス栽培,防根布栽培の現地における果実品質の状態は第1,2表のようです。

 いずれも果実の糖度は上がるが,酸もそれに伴って高くなります。しかし,その程度は根域が狭く,樹体への水分ストレスがかかると考えられるボックス栽培で著しい傾向があります。

 ボックス栽培の生産果実は糖度が高いので,酸が高くなっても,酸味はそれほど感じないが,酸の減少が今後の問題でもあります。しかし,反面,根域栽培果実は充実のよい果実が多く,酸も多いので,貯蔵性に富み,長期間の貯蔵も可能です。

3.根域制限栽培における施肥法

 防根布栽培は未だ試験中でその試験結果も少ないことから,ここでは現地でかなり普及が見られるボックス栽培について主として述べます。

1)雨で施肥成分が根域外へ流亡しやすい。

 ボックス栽培では容量6~7Lでほぼ深さ30cmで一度ボックス外に溶脱した養分は再び根域内に戻らないことです。

 一般の露地栽培では30cm以降に浸透しても30cmより深い土壌にも根が少なからず存在し,根による吸収も可能です。また,雨などにより根の分布外へ溶脱しても土壌の乾燥に伴い毛管現象によってまた,根の分布域に戻ることができます。

 そこで,60Lのポットからの肥料成分のポット外への溶脱について特に,年間を通じて施肥量が最も多く,しかも雨の多い夏秋期についての溶脱量を検討した報告によると,施肥した窒素量の少肥で20%,中肥で40%,多肥で60%ほどであったとしています。

 しかも,第1図にみるように,降雨の少ない時期はかなり窒素の残存が認められますが,降雨の多い時期はそれにより一時的に多量に溶脱し,土壌中の根域内に極めて少なくなり,窒素供給の不足をきたすことが考えられます。

 また,第3表に示すように,交換性塩基のカルシウム,マグネシウム,カリは窒素施肥量を増加するにつれ,溶脱量が多くなります。このことは,硝酸カルシウム,硝酸マグネシウムなどの形で流亡すると考えられます。

 このように,窒素の溶脱はほぼ半分,塩基類も多量に溶脱し,根域の酸性化,塩基バランスの悪化も心配されます。

2)根域内へ多量施肥により濃度障害が懸念。

 第4表にボックス栽培の県施肥基準を示しました。なお,パーク堆肥を植え付け時に容量で3割ほど施用することを奨励しています。

 窒素施肥量は慣行の露地栽培に比較すると単位面積当りに換算した場合,かなり多く施用することになり,10a当りに換算すると窒素60kgほどになります。一般露地栽培の窒素施肥は25~30kgですので,ボックス栽培の窒素施肥は倍ほどになります。

 したがって,ボックス栽培は根城が限られ,そこに多量に施肥することになることから,根の濃度障害も発生しやすいといえます。

3)根域内は細根が多く,施肥効率がよい

 第2図にみるようにボックス栽培のT/R率は著しく低く,細根分布割合が高く,根域全体に細根が分布しています。地上部に比較し,地下部が充実しています。このことは防根布栽培でも同様な傾向があり,根域制限栽培の全体に言える特徴です。

 施肥の観点からすると施肥の方法によっては肥料は無駄なく,効率よく根から吸収する可能性があります。

 また,樹体の栄養状態もその施肥量によっては慣行露地栽培には考えられないほどになります。例えば,第5表のように夏肥に多量に一括して施肥した試験結果であるが,葉中窒素含有率で4.0%前後ないしそれ以上になることがあります。(ちなみに,慣行の露地栽培での葉中窒素含有率では極めて多い状態でも3.5%以上は極めてまれです。)

 以上のことから,ボックス栽培における施肥は慣行露地栽培の3回施肥より,従来の配合肥料及び化成肥料の使用ではややその回数を多めに分施する必要があります。

4)ボックス栽培は被覆型肥料が好適か

 慣行の露地栽培における施肥の概念は次のように考えられます。

 春肥は1年間の元肥で,春の生育に必要な養分を施肥,夏肥は窒素の吸収がこの時に最も多く,樹体の維持に重要である。しかし,9月以降の窒素の遅効きは品質を損なう可能性があります。秋肥は翌年の初期生育のための冬の貯蔵養分の増加を目的にしています。

 このことから,今までに述べたボックス栽培の特徴から効率的な施肥を考えると春を配合,夏,秋肥の追肥を一般の化成肥料の施用では年4~5回が考えられます。

 ここで,被覆型の緩効性肥料の使用を想定しますと,春肥と秋肥の年2回施肥が考えられ,静岡柑試の成績を紹介します。

 それは第6表に示されたボックス栽培における春1回で夏肥を省略する各種の主として被覆型肥料と普通の化成肥料の春,夏の2回施用と比較して検討した結果です。

 土壌中窒素は第3図のように化成肥料は3回の調査でいずれも低く推移し,葉中窒素でも少量,多量施肥とも低く推移した。収量,品質ではその差は認められず,被覆型肥料は春1回,しかもやや少なめの施肥量でもボックス栽培では可能と考えられます。

 慣行の年3回施肥を秋1回施肥のさらなる省力化についての被覆型肥料を使用する試験を静岡柑試で実施中です。

 被覆型肥料を使用することで,省力化と効率的な施肥が可能と考えられ,根域外への溶脱を考えますと,近年,環境への影響に配慮することが求められているなかで,環境保全型農業を目指すにも適当でないかと考えられます。

4. Conclusion

 根域制限栽培における施肥体系は樹体の水分ストレス,わい化などによって慣行の露地栽培と大幅に異なります。ボックス栽培はかなりの現地の実績,試験結果の積み重ねからかなり明らかになっています。

 しかし,防根布栽培の施肥法については今後の研究に待たなければならない状況です。

 年間の吸収量,また樹齢の増加に伴う施肥量いわゆる樹齢別吸収量からの施肥量,品質の面では高糖度果実生産のみならず,酸の抑制,生産量では連年の安定生産などのための施肥法など多くの解決しなければならない課題が残っています。

 

 

肥料の来た道,帰る道
11.肥料の必要量は何できまるか

京都大学
名誉教授 高橋 英一

 肥料の必要量には人口に対する農地の広さ,農地そのものの生産力,食糧自給の必要度などが関係するが,これらは国によって様々である。ここではほぼ同じくらいの大きさの島国である日本と英国を比較しながら,この問題について考えてみたい。

 日本における化学肥料の登場は英国におくれること約50年,19世紀の末になってからであった。しかし1913年(第1次大戦の前年)には窒素の消費量は英国にならび(ただしリン酸は半分,カリは十分のー),1939年(第2次大戦の年)には窒素の消費量は英国の4.5倍,リン酸およびカリも1.2倍に増加した。

 そしてこの間における化学肥料(とくに窒素肥料)消費量の伸びは人口の伸びの3分の2であったのが,1986年には日本の1.3倍,とくに窒素は2.4倍にもなっている。しかるにこの間の人口増加は日本が1.31倍と英国の1.09倍より明らかに高い傾向を示している。このちがいの原因は自給率にある。

 第9表にみられるように日本の主要食糧の自給率は戦後減少をつづけているが,とくに1970年以降は著しく,1985年の飼料用を含めた穀物自給率は30%に過ぎない。これに対して英国は1970年代から自給率の向上に努め,1980年代に入って自給を達成し,1985年の飼料用を含めた穀物自給率は113%になっている。このちがいは両国の主要農産物の輸出入の上に対照的にあらわれている。

 すなわち日本はコムギ(548万トン),オオムギ(125万トン)の輸入量は世界第3位,トウモロコシ(1650万トン),ダイズ(480万トン)の輸入量は世界第1位であるのに対し,英国はコムギ(412万トン)を世界第6位の輸出,そしてオオムギ(309万トン)は世界第3位の輸出をするにいたっている(1987年の比較)。

 日英の土地生産性を1986年の主要穀物収量で比較すると,英国はコムギでヘクタール当たり6.99トンと世界一の収量を上げており,これは同年の日本のコムギ収量3.57トンの2倍であり,米の収量6.32トン(籾)よりも高い。

 一方労働生産性は,農民1人当たりの耕作面積で比較すると英国の31.3ヘクタールに対して日本は1.2ヘクタールと英国の26分の1にすぎない。ところが日本の農業機械の保有台数は著しく多く(農用トラクターは世界3位,収穫脱穀機は世界1位),そのため農業機械の稼動面積はトラクターは英国の6分の1,収穫脱穀機にいたっては25分の1と著しくせまい。また耕地当たりの施肥量は日本では頭打ちになっているのに対し,英国は日本の9割に迫っており多肥化の傾向がつづいている。これらの数字は農業に対する両国の姿勢のちがいをあらわしている。

 日本の食糧自給率が著しく低いことの裏には大量の農産物の輸入があり,この輸入農産物の中に含まれて入ってくる肥料成分の量もばかにならないことを意味している。これらの肥料成分は農産物を利用した人間や家畜の腹を通って,排泄物として環境中に放出される。

 それらの量を推算すると排泄物由来(その中にはわが国の土壌および施用した肥料由来の分も含まれているが)の窒素とカリは化学肥料消費量とほぼ同量,リン酸は約半分に上っている。この量はわが国における化学肥料の需要や環境の富栄養化への影響からみて,無視できない大きさである。

 一方英国では家畜排泄物由来の窒素,リン酸,カリの量は,飼育頭数からみて日本より多いと推定されるが,還元可能な草地は日本の20倍近くある。また自給を達成し,輸出さえ行なっているので,それらの成分は自国の農地から由来したものであり,また肥沃度維持のために農地ヘ返されるべきものである。

 食糧とともにいま一つの基本的な要素である一次エネルギー(固体・液体燃料,ガスおよび電力)の自給率の過去30年における両国の変化の模様も対照的である。1960年の自給率は英国75%,日本69%で差はさほど大きくないが,1986年には英国の118%に対して日本は11%と著しいひらきになっている。

 日本の一次エネルギ一生産量はもともと低く,過去30年間増えるどころか若干減少の傾向さえ示しているのに,消費の方は5倍に増加した。これに対して英国は北海油田の開発もあって1986年には生産量は2.5倍になり,しかも消費量は1割程度の増加にとどまっており,この数字でみる限り英国のエネルギ一事情は農業と同様日本よりも健全である。

 食糧とエネルギーという最も基本的な問題に対する両国のとりくみ方はまことに対照的である。肥料の必要量は食糧の生産量の函数であらわされる。とすれば日本における肥料の必要量は食糧自給率如何にもっとも左右されるといえよう。

一口メモ
経済大国と食糧自給度

 「1903年から1913年の間,イギリスは国内の穀物消費量の62%,オランダは65%を輸入に頼っていた。だがこの2国は当時経済大国であり,食糧の対外依存に対する不安はまったくなかった。今日では日本がこれと同じような状態にある。」ベルトラン・デルプーシュ著,真下俊樹訳 世界の食糧・農業 農文協 1990年刊より引用。

 

 

岐阜県平坦地における
地力窒素発現特性とワンタッチ施肥法

岐阜県農業総合研究センター
専門研究員兼土壌環境科長
北嶋 敏和

Introduction.

 本県の水稲単収はかなり低く,過去10年間の平均単収は全国平均より60kg/10a少ない。県内では地域較差が大きく,中山間地は比較的多収であるが,平坦地は415kg/10aと極めて低収である。これに関しては品種・作期等いくつかの原因が考えられるが,土壌肥料面からは地力窒素発現様式及び施肥体系と水稲生育相との関連が指摘できる。

 本県2000年の農業ビジョンの中で平坦地稲作農家について,経営面積20~30ha,単収500kg以上,生産コスト1万円以下の高能率,低コスト稲作を目標としているが,これには単収向上,省力施肥が不可欠な条件となる。

 従って,本県平坦地における地力窒素発現特性及びこれに起因する生育上の問題点,低収要因を整理し,今後一層の普及が見込まれる施肥田植機及びLP肥料によるワンタッチ施肥試験について紹介する。

1.岐阜県平坦地における地力窒素発現特性

 平坦地水田は沖積である灰色低地土及びグライ土が主体に分布しており,これら土壌の湿潤土湛水静置法による地力窒素発現様式は単純型が全体の70%以上で最も多く,生育期間中の発現量は平均約6kg/10aである。また,幼穂形成期以前の発現量が全発現量の80%以上の土壌が全体の80%を占めており,中~後期の発現量が少ないのが共通した特徴である。(図-1)

2.地力窒素発現特性と水稲生育の特徴

 収量構成要素からみた本県平坦地における水稲低収の最大要因は,もみ数が少ないことであり,もみ数の多少は,生育中期の稲体窒素栄養状態の良否が大きく影響し,中後期の地力窒素発現量ともみ数とは明らかな相関が認められる。1)(図-2)

 前述のとおり,平坦地地力窒素発現様式は前半主体の為もみ数が不足し,生育面では初期過繁茂生育と有効茎歩合の低下等秋落ち型の生育相となり易い。しかしながら,出穂約1カ月前の穂首分化期は下位節間伸長期にあたり,この時期の安易な追肥は倒伏を招きやすい。

 従って,この時期に安全に窒素肥効を確保するには生育相の改善が必要であり,これには被覆肥料の利用が効果的である。(後述)

3.LP肥料によるワンタッチ施肥試験2)

 もみ数確保と生育相改善による倒伏回避を図るため,タイプの異なる2種のLP肥料を組合わせ,施肥田植機によるワンタッチ施肥試験を実施した。概要は以下のとおりである。

(1) Testing method

ア 試験場所

 岐阜県農業総合研究センター(岐阜市)

イ 土壌条件

 細粒灰色低地土,灰色系

ウ 供試品種

 白雪姫(星の光×中部52号),耐倒伏性:弱,草型:偏穂重

エ 栽植密度

 20.8株/㎡(3~4本植/株),平成3年5月9日植

オ 施肥方法

 側条施肥(株横3cm,深さ5cm)

カ 処理内容

(2)結果の概要

ア 生育経過

 移植後約40日間のLP区は対照区に比べ,草丈,茎数,葉色とも明らかに小さく,計量診断値(草丈×茎数×葉緑素計値)は対照区の60%程度であった。両者の生育相の違いを反映して,最高分けつ期は対照区の6月中旬に対し,LP区は7月上旬となり約2週間の違いがみられた。

 また,出穂期は両者ともほぼ同時期(8月上旬)であることから,ラグ期間は対照区の約30日間に対しLP区は半減した。以上の生育相の違いは両者の施肥窒素肥効パターンの違いによるものである。(表-1)

イ 収量及び収量構成要素

 精玄米重は両区とも多収であり600kg/10aを上回った。多収要因は両区とも穂数,もみ数が確保され,登熟歩合も高かったことによる。また,㎡もみ数,一穂もみ数ともLP区が多く,これはラグ期の窒素栄養維持によるものと考えられた。(表-2)

ウ 土壌溶液中NH4-N濃度の推移

 鳥山らの簡易土壌溶液採取装置により採取した土壌溶液中のNH4-N濃度は,両肥料の特性をよく反映し,6月中旬までは対照区が高く推移したが以降の減衰が顕著で,最高分けつ期後のラグ期はLP区が高く推移した。(図-3)

エ LP肥料の溶出特性

 ほ場埋設法によるLP肥料の溶出特性は,LP30号タイプは最高分けつ期までにほぼ全量が溶出し,同SS100号タイプは施用後50日頃までの溶出は僅少で,これ以降速やかな立上がりとなり,ほぼ成熟期まで継続した。これらのことから両タイプの肥効は最高分けつ期頃を境に引き継がれることとなり,施肥窒素の供給はほぼ相定通りと考えられた。(図-4)

オ 地力窒素発現様式

 湿潤土壌を温度3段階で湛水培養し,経時的に測定したNH4-N量と生育期間中の実測地温から,金野氏の速度論的方法により解析した結果,発現様式は単純型が最もよくあてはまった。

 当地域を代表する灰色低地土の地力窒素発現特性は前半の発現割合が高いのが特徴である。今回の結果においても,全生育期間中の発現量は7.8kg/10aであるが,このうち幼穂形成期までに全体の75%が発現したものと推定された。(図-5)

カ 施肥及び地力窒素供給パターン

 LP肥料の溶出特性及び地力窒素無機化特性から,LP区の稲作期間中の窒素供給量は,LP由来が10a当り6.7kg(30号タイプ3.4kg,SS100号タイプ3.3kg),土壌由来7.8kg,計14.5kgと推定され,このうちSS100号タイプから約3kgがラグ期以降に供給された。(図-6)

キ 作物体窒素濃度及び吸収量

 葉中窒素濃度は移植後約1カ月は対照区が高かったと推定されるが,以後,幼穂形成期過ぎまではLP区が明らかに高く,また,この時期窒素吸収量もLP肥料が多いことから,穂肥無施用ではあるが中期の肥効維持が認められ,前述のLP肥料溶出特性を反映しているものと考えられた。(図-7,8)

summary

 本施肥法では全量LP肥料の為,移植直後の窒素供給は地力窒素のみで,施肥からの供給は少なく初期生育は大きく抑制された。しかしながら30号タイプの溶出に伴い生育量は旺盛となり最高分けつ期に至ったが,初期生育の抑制と肥効特性から最高分けつ期は対照区より2週間程度遅れたものの出穂期は変わらないため,この分ラグ期が短縮された。

 また,最高分けつ期以降はSS100号タイプ。からの供給に切り変わり,ラグ期の短縮と併わせ同期の稲体窒素栄養が良好に維持された結果,もみ数確保が容易となったものと考えられた。

 一般に,出穂30~40日前の窒素肥効は下位節間の伸長を増大させるが,当施肥法では初期生育の抑制が最高分けつ期を遅らせ,生育量が抑えられている故に,この時期の窒素供給は主に上位葉の伸長と茎数増に費やされたものと考えられた。

 ワンタッチ施肥は供試品種にもよるが,分施の様に基肥,穂肥の明確な肥効分離は困難であり,中期の肥効は倒伏の危険性を増大させるが,肥効パターンを変えることにより前期の生育ステージが後半へシフトする結果となり,安全な生育相が確保できる。

 本県平坦地では現在,基肥に広く速効性肥料が利用されているが,本施肥法の場合は移植1カ月後までの窒素吸収量は2kg/10a程度であり,この時期までに約3kgの地力窒素が期待できるため,速効性の窒素は特に必要としない。

 以上のとおり,本県平坦地の様な地力窒素発現が前半に集中する土壌条件では,基肥に溶出タイプの異なる2種の被覆肥料を用いることにより,初期生育過繁茂-ラグ期間の長期化-ラグ期の窒素栄養不良-もみ数不足,の暖地における最大の問題点が回避できるため,安全な省力施肥技術として期待できるものと考えられる。

At the end.

 良質米生産が求められている中で,出穂期以降の過大な窒素肥効は品質低下の原因となるが,食味計による結果ではワンタッチ施肥の玄米中アミロース,タンパク含量は分施区より若干低く,食味値は良好であった。また,当品種はその特性から心白粒が発生しやすいが,被覆肥料によりその発生程度が軽減され,品質面においても効果的と考えられた。

 本試験では窒素成分以外は化成を移植前に全量全層施用としたが,成熟期の穂中加里濃度は追肥区を下回り,生育上は特に問題はみられなかったものの,現場技術としては加里の緩効的肥効が必要と考えられ,現在検討中である。

works cited

1)岐阜農総研 1986 昭和61年度水稲の計量的生育診断調査成績書:108~118

2)岐阜農総研 1991 平成3年度土壌環境試験成績書:76~85