Site Search
Search within product
§黒ボク土壌における「にんじん」の効率的施肥
岐阜県農業総合研究センター
土壌環境科長兼専門研究員
北嶋 敏和
岐阜県農業総合研究センター
土壌環境科長兼専門研究員
北嶋 敏和
露地野菜栽培は多肥集約栽培が行われているが,一般に野菜類は養分吸収以上に多肥であることから,連作に伴う土壌養分環境の悪化及び各種の生育障害の発生の他に,肥料成分の流出による水系汚染等環境への影響もいくつか報告されている。1~3)
こうした中,本県にんじん産地において作物生育障害の軽減により目標収量を確保すると共に,施肥窒素を極力減量することにより窒素利用率の向上を図ること,即ち,営農と環境保全の両面から施肥基準について検討した。
地区は東西に2分され,広く火山性の黒ボク土壌が分布している。東部は中組粒質の表層腐植質黒ボク土で下層は河川の影響を受けており,西部は細粒質の表層多腐植質黒ボク土に分類され,両者とも黒ボク層の厚さの平均は約60cmである。東部は砂質土壌,西部は粘質土壌であり,西部は2層以下のち密度はやや大きく,圃場排水性は東部に比べ不良である。
この地帯は,昭和30年代は麦,甘藷が中心であったが春夏作ビニール栽培が体系化され,全国的にも希な年2作周年栽培が確立された(図-1)。

にんじんの施肥窒素量は一時期多肥栽培がなされたが,現在の栽培ごよみは両作とも1作当り21~22kg/10aの基準量となっている。
調査の結果,作物生産上及びN利用率等の各種問題点は,春夏作に多く冬作で少ない結果が得られたので,以下春夏作を中心に述べる。
春夏作の収量では,アンケートの出荷量と坪刈収量は調査方法の違いもあり,出荷量がかなり多いが,地区別では東部が多収であり,西部は過繁茂生育傾向で「しみ症」(主体はPythium sulcatumを病原菌とする「しみ腐れ病」で,一部,Fusarium solaniによる「乾腐病」)を中心とした土壌病害等の障害発生が多い。
本地区における施肥量は両地区とも21kg/10aであり,基準通り施用されているが基肥1回施用であり殆ど追肥は行われていない。(表-1,2)


両地区とも黒ボグ土壌であるが腐植含量,土性が違うことから化学性は大きく異なる(表-3)。

春夏作収穫時(5~6月)のNO3-N垂直分布は,施肥N溶脱に伴い作土直下に集積しており,西部地区が全層にわたり高濃度である。黒ボク土壌における作土直下の集積については,耕起により作土と下層の透水性に差が生じ,毛管孔隙が切れるため漸移層付近では降雨により滞水,乾燥では下層からの水分が上昇する結果,NO3-Nはこの付近にピーグを持つ分布が出来るとされている。6)
西部は東部に比べ下層の透水係数が小さく,かつ,毛管の連続性が強いため漸移層での集積程度がより大きいものと考えられる。また,N-O栽培では,作土直下のピークが認められないことから,集積しているNO3-Nは当該作の施肥Nと考えられる。(図-2)

両地区の作物体濃度に差がなく,乾物生産量は東部が多いためN吸収量は東部が多く,無肥料栽培吸収量との差から求めたN利用率は,東部がかなり高かった。(表-4,5)


養分吸収量と生育障害との関連において有意な関係が得られた各要因の関連性は,作型では春夏作,地区では西部地区においてのみ認められた。この中で,「しみ症」,過繁茂生育,格外品等各種生育障害の発生,増加は作物のN吸収と相関が認められることから,西部地区における春夏作では,土壌水分の他にN肥効及びN吸収特性が障害発生に関与しているものと推定された(図-3,4)


現地実態調査の結果,施肥効率が低いことの他に過繁茂生育及び「しみ症」等の生育障害の問題点が摘出され,これらの問題は,地区では東部より西部で,作型では冬作より春夏作で多いことが認められた。従って,春夏作の窒素質肥料の有効利用,生育障害の軽減,及び施肥基準について検討した。
各務原市鵜沼地区において,東部,西部A圃場(暗渠無),西部B圃場(暗渠有)の3カ所(表-6)により栽培試験を実施した。春夏作の品種はタ福(S63),向陽2号(平元)で,播種(2上~中)から4下まではトンネル被覆栽培で収穫時期は5下~6中である。

トンネル被覆後の表層(0~5cm)NO3-Nは,対照区が被覆肥料に比べかなり高濃度となるが,これは播種後はトンネル被覆により地温はかなり高目に推移するため,現行肥料では播種後急激に無機化が進行するものと考えられる。そして,この表層の土壌溶液濃度の上昇が,濃度障害及び立ち枯れ病等初期の障害を助長していることが推定される。
これに対し,被覆肥料の各区及び現行肥料の減肥分施区は,栽培期間を通じて変動が少なく比較的安定して推移した(図-5)。

一方,収穫時のNO3-N垂直分布(0~140cm)は,対照区では3層付近(50~80cm)に施肥N溶脱によると考えられる高いピークがみられたが,被覆肥料使用の各区では全層にわたり低濃度であり集積程度は小さかった。また,堆肥施用によりN溶脱軽減効果が報告2)されているが,本試験では被覆肥料使用のためかこの点は明かでなかった(図-6)。

さらに,収穫後40日後では,降雨に伴い1~2層付近が低下し,下層は逆に上昇しており,この傾向は特に東部圃場が顕著で,一旦集積したNO3-Nは砂質土壌が粘質土壌より移行しやすく,前述実態調査結果と一致した(図7)。

可販収量は試験地間で差があり,実態調査結果と同様東部が多収であり,西部では暗渠を設置したB圃場がA圃場を上回った。また,処理間では対照区に対して施肥改善区は4~8kg/10a(19~38%)の減肥であるが,可販収量は一部を除き対照区と同等以上の収量が得られた(表-7)。

施肥改善に伴う増収効果は,東部間場では全収量と可販収量の増加率がほぼ同程度であるのに対し,西部A圃場では全収量に比べ明かに可販収量の増加率が高く,西部地区では施肥改善により生育障害発生が軽減されることを示している(表-8)。

中でも,雨よけ栽培は無灌水のため総収量では対照区の76%でかなり少ないが,可販率は90%と極めて高く,可販収量においても他の施肥改善区と同等であり,最大の障害事項である「しみ腐れ病」は殆ど発生しない。
同区の根圏土壌中Pythium属菌密度は,他区と差がなく,また,圃場排水性の良好な東部試験地及び同じ西部地区でも,暗渠設置圃場では発病が軽減されることから降雨後の多水分条件,特に収穫期に至り地温が上昇してからの降雨が発病を助長しているものと推定され,雨よけ栽培は発病軽減に有力な対策と考えられる。
生育期間中における根群域の推定地力N発現量は,10a当り東部が5.6kg,西部が6.4kgでありその発現パターンは両者とも生育全般にわたりほぼ直線的に発現する。また,この時のN-O栽培吸収パターンは,両土壌とも4中~下旬までの吸収量は僅少で,収穫前約1カ月間が旺盛となり,この傾向は特に西部が顕著で,後半は吸収量が発現量をやや上回った(図-8,9 表-9)。



一方,部位別の吸肥特性は,葉部は生育前~中期,根部は後期が旺盛となるが,慣行施肥ではN供給が前半主体であるため,根部の吸収割合に対して葉部の割合が大きい,いわゆる過繁茂生育であり,この傾向は西部が顕著である。
従って,西部地区で過繁茂生育を回避するには前半のN供給を制限することにより,地上部,地下部のN吸収バランスを保つことが生育障害発生軽減の有効な対策と考えられる。
東部は,透水性が比較的良好なことから,生育障害の発生は少ないが,N肥料の有効利用を図るには,吸収量が少ない前半でのN供給を制限し,後半は地下部の吸肥特性に対応した肥効を確保することが重要となる。
目標収量を確保するには一定量のN吸収量が必要であり,過剰吸収は施肥効率の向上とはなっても,過繁茂,生育障害の発生助長等品質,収量面ではマイナス効果となる。
にんじんは吸収量に対して施肥量が多い作物であり,これはN吸収促進のためには生育期間中ある程度土壌溶液濃度を維持する必要があり,これまで多肥でこれに対応してきたと考えられるが,被覆肥料の様な溶出のコントロールされた肥料を使用すれば減量しても長期間にわたり土壌溶液濃度を保つことが可能となる。
前述の如く,春夏作の吸肥特性は後半主体であり,このパターンに対応した肥効が最も効果的であり,被覆肥料,分施等は後半まで安定したN供給が期待できる。
N利用率は,第1作目は前作(にんじん,さといも)までの残存Nの影響が考えられたので,2作目N-O区吸収量の数値を用いた(表-10)。

その結果,被覆肥料使用による減肥(雨よけ栽培を除く及び現行肥料の分施は,いずれも慣行施肥を上回り,これらの施肥法はにんじんの様な栽培期間の長い作物に対して,生育全般にわたり安定したN供給が得られる結果,収量性確保が容易となり,N利用率は向上する。
現地改善試験における収量調査から,両地区とも総収量は10a当り4tとされる。この目標収量における,被覆肥料を使用した場合のN基準吸収量は両地区とも10kg/10aで両地区のN-O栽培における吸収量との差は,10a当り東部6.7kg,西部は5.8kgでこの分を施肥Nに依存することとなる。
一方,平元春夏作における被覆肥料使用区のN利用率は,西部Aの排水不良圃場では27~36%(平均28.6%),西部Bの暗渠設置圃場では32~41%(同36.2%)であり,頭部は40~48%(同44.3%)であった。
また,S63春夏作ではN利用率が低かったが,これは試験開始1作目であり前作までの残存肥料が吸収されたことが影響しているものと考えられたので,平元作におけるN-O栽培の吸収量を用いて算出すると,各々,西部A32~42%(同36.2%),西部B39~46%(同42.7%),東部は39~52%(同43.6%)となる。
現地では現在の暗渠整備率は西部地区を中心に約20%程度であるが,今後も設置が推進される方向にある。さらに,現地試験の結果から安定生産のためには,排水対策の実施が前提条件と考えられるので,両地区の基準N利用率は,東部45%,西部40%と考えられる(表-10)。
従って,目標収量を確保し,かつ,地下水への流入負荷を軽減するための,被覆肥料利用による基肥1回施肥法は15kg/10aが基準量と考えられ,現行施肥量の27%減となり,1作当りの残存量は10a当り東部8kg,西部9kgであり,現行の60%以下に軽減される。
原稿肥料を利用する場合は,基肥と追肥2回の組合せにより,被覆肥料基肥1回施肥とほぼ同等の肥効が期待できるものと考えられる(表-11,12)。


ここでは現状での作付体系を前提に生産上問題の多い春夏作を中心に検討したものであり,冬作については東部,西部とも比較的生産が安定している。これは,冬作の収穫期は気象的要因から「しみ腐れ病」の発生が少ないこと,さらに,春夏作の収穫後は植物被覆がなく冬作の中期までは根系の発達も少ないこと等により,溶脱が促進されやすい時期である。
このため,前作残存肥料が比較的少なく,併せて後期は降雨量も減少することから,過繁茂生育とはなりにくい。また,N吸肥特性の面からは,前中期に旺盛で後期に鈍化するパターンであり,現行のN供給で問題が少ないこと等により,春夏作に比べ生産が安定しているものと考えられる。
しかしながら,施肥効率の面では改善の余地があり,周年栽培における施肥基準について検討中である。
一方,その他の営農対策としては,地域内の暗渠排水からは50ppmを越える高濃度のNO3-Nが検出されており,暗渠設置により浸透水を圃場外ヘ排出することは極めて有効な対策となり得るし,さらに,今後とも,露地野菜産地として高品質,安定生産を図る上では連作障害の回避が不可欠でありクリーニングクロップを組み入れた輪作体系の検討が必要と考えられる。
1)河村精・木村進・川口菊雄:砂質地帯におけるかんがい用水の実態と水質保全に関する研究(第1報),静岡農試研報,26,51~57(1981)
2)小川吉雄・石川実・吉原貢・石川昌男:畑地からの窒素の流出に関する研究,茨城農試特別研報,No41~70(1979)
3)日高伸・伊藤信・柴英雄・増島博:埼玉県櫛引台地地下水の水質変動と解析,土肥誌講演要旨集,27,158(1981)
4)各務原市地下水専門調査連絡委員会:各務原市地下水専門調査報告書(ダイジェスト版),1989
5)岐阜農総研センター:昭和62年度土壌環境調査事業成績書,13,96~141(1988)
6)中司啓二:集約野菜生産における肥料分集積問題,農及園,63,44~48(1988)
7)渡辺和彦:生理障害の診断法,農文協,1986
8)岐阜農総研センター:昭和63年度土壌環境調査事業成績書,12,76~138(1989)
9)豊田一郎・伊藤敏彦・山田良三・沖村逸夫:畑地からの栄養塩類の流出(第1報),根浦地区における事例調査,愛知農総試研報,13,467~476(1981)
10)桜井善雄:農地排水による河川及び地下水の汚染,農土学会誌,43,518~524(1975)