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第588号 2007(H19).08発行

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農業と科学 平成19年8月

本号の内容

 

 

キュウリのポット内基肥施肥による栽培

埼玉県農林総合研究センター園芸研究所
専門研究員 武田 正人

Introduction

 埼玉県のキュウリ生産量は約57,000トン(平成16年)で全国第3位を誇る本県の重要な品目です。本県の施設キュウリは夏から秋にかけての抑制栽培と冬から初夏までの促成栽培の年2作が中心になっています。この抑制栽培から促成栽培への切り替えは期間が短く,育苗と定植準備が重なり作業が繁雑となります。また,促成栽培は栽培期間が長いために基肥,追肥とも施肥量が多く,過剰な肥料が環境に流出することが懸念されます。

 そこで,肥効調節型肥料を局所施肥することで,現行栽培の収量を維持しつつ施肥量を削減し,また切り替え時の施肥とその後の追肥労力を減らす方法について検討を行いました。

2.ポット内基肥施肥の考え方

 肥効調節型肥料を用いた局所施肥法では,定植時の植え穴施肥がよく検討されています。しかし,本県のキュウリの栽植本数は120~150本/aあり,植え穴施肥法では逆に施肥労力の負担が大きくなります。そこで肥効調節型肥料をポット内に基肥として施肥することにしました。キュウリの育苗期間中(25~30日)の接ぎ木直前のポットに予め施肥し,ここに接ぎ木した苗を仮植し,接ぎ木順化を経て定植苗とする方法としました。そのためには接ぎ木順化中は肥料成分が溶け出さず,ハウスに定植されてから肥料成分が溶出する肥料を選択する必要がありました。

3.ポット内基肥施肥法による育苗試験

 肥料は初期の溶出を抑制した(シグモイド型)被覆燐硝安加里2411(24-1-1 100日タイプと140日タイプ)を用い,不足するリン酸と加里分は熔燐(砂状)と被覆塩化加里(100日タイプ)で補い,各成分が10g/ポットになる様に育苗用園芸培養土と混合し,9cmポリポットに詰めて試験を行いました。試験は2004年~2006年の抑制栽培(7月下旬は種,8月上旬定植,10月末収穫終)と促成栽培(11月上旬は種,12月上旬定植,6月末収穫終)で行い,キュウリ品種は「オナー」(抑制栽培),「ハイグリーン21」(促成栽培),台木品種は「ゆうゆう一輝」を用いました。

 9cmポット内に入る肥料量を測定したところ,N10g分の肥料を入れると,ポット内容積の約18%を肥料が占め,加里肥料が加わると約30%を占めていました(図1)。キュウリの接ぎ木順化中には地温が30℃以上で多湿条件となる期間があるため,ポット内に大量の肥料が入った状態で接ぎ木順化ができるかが問題でした(写真1)。

 接ぎ木活着率は,培養土のみの対照区と差がなく(表1)十分育苗できることがわかりましたが,生育(草丈)が劣る傾向がみられました(図2)。原因は,100日タイプの肥料では育苗中に肥料が溶出し,土のECが高まったために苗の生育が抑制され,140日タイプの肥料では肥料の溶出は僅かでしたが,培養土が乾きやすくなったことが影響していると考えられました。

 培養土が乾きやすくなったことは,根の生育にも影響がみられました。ポット内基肥施肥では根の伸長が遅く,根回りが遅れるため定植時に根鉢をポットから出す際に根鉢が崩れやすい傾向が認められました。ポット内の培養土を10cmの高さから落とし,根鉢の崩れ具合を指標化し(写真2),崩れ具合と根の重さを測定したところ,ポット内基肥施肥では,対照区に比べ明らかに根鉢が崩れやすく,根重が少なくなる傾向でした(図3)。定植の時に根鉢が崩れると植え痛みを起こすため,ポット内基肥施肥での育苗は,慣行より数日間長く育苗して根の回りを確保する必要があると考えられました。

4.ハウス栽培での比較試験

 ポット内基肥施肥で育苗した苗を肥料無施用のベッドに定植し,対照区として育苗した苗を慣行施肥のベッドに植えた対照区と生育,収量を比較しました。栽植本数は143株/aとし,慣行施肥量は促成栽培6-3-6kg/a(N-P2O5-K2O:リン酸が蓄積しているため減肥した),抑制栽培2-2-2kg/aとしました。

 生育は抑制栽培ではポット内基肥施肥区と対照区に大きな差が認められませんでしたが,促成栽培では140日タイプを施用した区の初期生育が劣りました(図4)。土壌中の窒素含量を調査したところ,地温が低いために,初期生育時の肥料の溶出が不足していたことが判明しました。そこで,添加する被覆燐硝安加里肥料の100日タイプと140日タイプの2種類を3:7の割合で混合施用することで対照区並みの初期生育が得られました。

 収量は,抑制栽培では100日タイプ,140日タイプとも対照区と差が無く,実用上問題はありませんでした。しかし,促成栽培では140日タイプを施用した区の収量は初期収量が少なくなり,対照区の約12%減となりました(図5)。そこで,前述の初期生育の確保対策と同様に肥料を3:7で施用した区の収量は,対照区と同等になりました。以上の試験におけるアール当たりの換算総収量は,抑制栽培で約600kg,促成栽培で約2,100kgとなり,本県における目標収量をいずれも上回っており,実用性があると判断されました。

5.肥効期間と施肥量

 肥効調節型肥料をプラスチックのアミ袋に入れて,育苗期から同じ土壌条件に埋め込み,定期的に掘り出して肥料の溶出した割合を調査しました。ポット内に施肥した日を0日としてみると,施肥窒素の80%が溶出するまでの日数は,促成栽培時の100日タイプで約80日,140日タイプは約160日,抑制栽培時では100日タイプ,140 日タイプとも約40日でした(図6)。

 100日タイプと140日タイプを3:7で混合した場合は,140日タイプのみの場合より2週間ほど早まる傾向が認められました。本県の各作型の栽培時期でみると,促成栽培の100日タイプでは2月中旬,140日タイプでは5月上旬頃,抑制栽培では100日タイプ,140日タイプとも9月下旬頃とみられ,これは各作型の地温が影響していると考えられます。実際,促成栽培と抑制栽培では平均地温で7~9℃の差があり,最高地温では10℃以上ありました。抑制栽培は収穫期間が短いので溶出終了時期が早まっても収量に影響しませんでしたが,促成栽培では溶出終了後に1~2回の追肥を行う必要があり,溶出終了後の収量に影響が認められました。しかし,慣行の促成栽培では8~10回の追肥作業を行うため,ポット内基肥施肥法は追肥労力の大幅な削減になると思われます。

 また,追肥の回数を削減できたことにより,各作型の総施肥量は促成栽培では3.4-3.2-3.5kg/a,抑制栽培では1.4-1.4-1.4kg/aとなり,窒素・加里肥の施肥量は,促成栽培では慣行の44%,抑制栽培では30%の削減が可能とみられました。

6.肥効調節型肥料の利用率と跡地土壌への影響

 肥効調節型肥料のポット内基肥施肥法で減肥を行っても慣行施肥と同等の生育・収量が得られた原因は,作物が肥料を効率よく利用したためとみられます。この試験で施用した肥効調節型肥料及び慣行施肥(対照区)の利用率を調査したところ,ポット内基肥施肥区の利用率は,慣行施肥に比べ窒素では約70~90%,リン酸では約10%~2倍,加里では約10%~9倍に向上していました(図7)。根の周りに肥料が集まっているために無駄が少なくなるためと考えられます。抑制栽培は栽培期間が短いために利用率向上はあまり期待できませんが,促成栽培のように長期間栽培する作型では,効果が期待されます。

 施肥量が少なくなるため,跡地土壌の残肥も少なくなっていました。特に窒素肥料(無機態窒素)と加里肥料(交換性カリウム)での差が大きく,環境負荷低減が期待できます(図8)。また,将来は作付け前に土壌診断で残肥を測定し,残肥の多い肥料成分は減肥してポット内に施用する必要があると考えられます。

7.今後の課題と発展

 キュウリ栽培で肥効調節型肥料をポット内基肥として施用する施用法を実用化する上の問題点は2つあります。1つは,ポット内基肥施肥は,抑制栽培では追肥なしで最後まで栽培可能でしたが,促成栽培では栽培途中で追肥が必要になりました。このため,180日タイプの肥料を混合施用するなどして追肥無施用で栽培が可能であるかを検討したいと考えています。

 次に,肥効調節型肥料は使用する1~2日前に土壌と混合しなければならず,肥料の配合は手間がかかり,土詰め作業が煩雑になります。これを改善するには,個人作業ではなく,共同育苗場や育苗センターなどで集団で機械(土壌混合機)を利用することで解決できるものと考えています。

 今回は紹介できませんでしたが,ポット内基肥施肥法は機械接ぎ木苗での利用性も検討し,良好な結果を得ています。将来,培養土混合機と機械接ぎ木苗を組み合わせた大量育苗法での利用法を検討すれば,幅広い地域での普及が可能になると考えています。

 

 

ホウレンソウ硝酸含量の寒締めによる低減

(独)農業・食品産業技術総合研究機構
Tohoku Agricultural Research Center
主任研究員 青木和彦

1.野菜に含まれる硝酸

 ホウレンソウなど野菜の硝酸含量は,栽培時の窒素施肥多用に伴い増加することが確認されています(亀野ら1990,目黒ら1991)。野菜に限らず多くの作物は,生長に必要な窒素の大部分を硝酸の形で吸収しますが,生長に使う分を超えた量の硝酸はそのまま体内に蓄積されます。このため窒素施肥が過剰になることで,野菜に含まれる硝酸が増えることになります。

 硝酸は人間が摂取しでも栄養とはならずそのまま排出されます。ただし胃の発達が未熟な乳幼児が過剰に硝酸を摂取した,場合ブルーベビー症と呼ばれる窒息症状を引き起こす場合があります。

 このため飲料水の硝酸濃度に基準が設けられ,さらにEUでは野菜(特に離乳食原料として)についても基準値を設け,低減を求めています。また,摂取した硝酸が体内で発ガン性のニトロソ化合物を生成する可能性も指摘され,一部で危険を煽る報道もされています。

 しかし,ブルーベビー症は乳幼児以外で問題になることはありません。また,ニトロソ化合物と野菜との関連も疫学的には実証されておらず,研究者の見解も分かれています。実際には,野菜に含まれるビタミンなど抗酸化成分が発ガン物質の働きを強力に抑えるため,とくに心配する必要はないと考えられます。

 野菜の硝酸含量を下げるため無理に減肥すると,窒素養分が足りなくなり野菜の生長に支障をきたしてしまい,収穫の遅れや葉色悪化などの問題を引き起こしてしまうので注意が必要です。現在,各地で施肥管理技術の検討や有機物施用などによる野菜の硝酸含量低減の取り組みが進められています。

2.寒締め栽培法について

 「寒締め」は東北農業研究センターの前身である東北農業試験場で開発された,冬の寒さを活用する栽培技術です(加藤ら1995)。ハウス内で収穫可能な大きさまで育てたホウレンソウや菜っぱ類に,積極的に寒さを当てながら栽培を続けることで糖・ビタミン含量を高めます(写真)。

 ホウレンソウに限らず寒さに耐える植物は,低温下で体内の水分を減らし,糖濃度を高めることで凍るのを防ぎ生命を維持します。寒締めはこの能力を利用して野菜の品質を高める手法です。具体的には,まず通常の秋冬作と同様にハウスで保温してホウレンソウや菜っぱ類を育てます。収穫間際のサイズまで生長したところで,扉を開け裾を上げるなどして外気を中に入れ,寒さに当てた状態で栽培を続けます。7日から10 日くらいで糖度が上昇し,ビタミン含量も高まります。低温で伸長が止まっているため,長期間の収穫・出荷も可能です。

 これまでに岩手・青森・秋田といった北東北を中心に普及が進んでいますが,現在ではさらに北海道や南東北,関東など他の地域でも活用が進められています。

 寒締めホウレンソウは通常品に比べ葉色が濃く甘みが強く,食味が良いと好評ですが,有害成分といわれる硝酸やシュウ酸も多くなっているのでは,との懸念が寄せられました。

そこで今回,寒締めによるこれら成分への影響を調査した結果を紹介します。

3.寒締め後の硝酸・シュウ酸含量

 東北農業研究センター(岩手県盛岡市)で2003年から2005年に掛けて栽培試験を行い,ホウレンソウ(品種名:まほろば)の硝酸含量を他の品質成分と共に調査しました。

 その結果,いずれの年度においてもホウレンソウの糖度および糖含量は寒締め開始後,また収穫前の温度が低下する1月から2月にかけて増加しましたが,逆に硝酸含量は低下することが明らかとなりました(図1)。

 さらに,ホウレンソウの糖含量は収穫前の温度が低いほど増加する(図2・青木ら2005)のに対し,硝酸含量は逆に温度が低いほど減少することも明らかになりました(図3)。

 また硝酸と同じく増加が懸念されたシュウ酸含量(えぐみ成分)は寒締め後,乾物当たりの含量は減少する傾向が見られたものの,水分含量の低下に伴い,生重当たりでの含量低下には至りませんでした。しかし,糖含量のように低温で大きく増加することはありませんでした(図4)。

 なお,寒締めに限らず,冬に収穫したホウレンソウの表面にザラザラした結晶が見られることがあります。農薬かと誤解されることがありますが,これはシュウ酸塩の結晶で,ホウレンソウ体内のシュウ酸が外へ排出されたものです。食べる際の洗ったり茄でたりする過程で簡単に除かれるので,全く問題はありません。

4.硝酸含量と低温との関係

 寒締めの低温により硝酸含量が低下するメカニズムとして,筆者は現在,以下の仮説を考えています。

 前述の通り,ホウレンソウは土壌から硝酸など養分を吸収しながら生育しますが,寒締めにより温度(特に地温)が低下すると土壊からの養分吸収は制限されてしまいます。

 当然,硝酸の吸収も抑えられますが,ホウレンソウ自身は低温下でも生命活動を続けており,光合成のエネルギーを元に,糖,アミノ酸,タンパク質などの合成を続けます。実際に,寒締め後もホウレンソウの乾物重はゆっくりと増加し続けます。

 このため,体内に蓄積していた硝酸を生命活動に必要な窒素分として消費し,寒締めホウレンソウの硝酸含量は低下していったと考えられます(図5)。

5. Conclusion

 以上のように,寒締めにより収穫前の温度が低くなるほど,ホウレンソウの硝酸含量は大きく減少することが確認されました。

 東北農業研究センター(盛岡市)の栽培試験で,ホウレンソウの他の品種(コンバット,リード,朝霧,など)やコマツナなど菜っぱ類でも同じ傾向を確認していますが,硝酸および、シュウ酸の含量はそれぞれ品種・品目により異なります。

また土壌の窒素肥沃度や施肥量によっても当然これらの含量は影響を受けますが,いずれの場合でも収穫前に充分寒締めを行うことで低減が可能です。

 近年,輸入野菜の増加などで生産現場を取り巻く環境は厳しくなっています。一方,消費者からは良食味・高栄養・安全な野菜の要望が高まっており, これに対応した生産出荷が求められています。

 「寒締め」は冬の寒さを活用するだけの低コストな栽培法です。糖・ビタミンの増加に加え硝酸含量を低減し野菜の品質を高めるメリットを生かし,今後さらに活用していただければと思います。

References

●加藤忠司・他(1995)
 日本土壌肥料学雑誌,66(5):563-565

●青木和彦(2001)
 農業技術大系野菜編追録26号 第7巻 p.112

●亀野貞・他(1990)中国農研報6 p.157-178

●目黒考司・他(1991)
 日本土壌肥料学雑誌62(4)p.435-438

●青木和彦・他(2005)
 日本土壌肥料学会講演要旨集第51集 p.107

●青木和彦・他(2005)
 日本土壌肥料学会講演要旨集第51集 p.250

●農林水産省 消費・安全局野菜中の硝酸塩に関する情報
 http://www.maff.go.jp/syoku_anzen/syosan/index.htm