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第397号 1990(H2).09-10発行

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ブドウの根域制限栽培

広島県果樹試験場
落葉果樹部長 藤原 多見夫

Introduction.

 これまでの果樹栽培は,根を広く深く張らせ,樹も大きく育て,自然環境の変化に耐えうるようにするのが基本とされてきた。そのため,目で確かめることができない根群の状態と樹冠量のバランスは,枝梢の変化を頼りに調整されてきた。整枝・せん定や水やりなど園芸技術がそれである。

 しかし,地下部の情報は園地により,個々の樹により確定できないので,普遍的な技術に高めるには多くの問題が残され,好適な樹相の維持は,未だに経験と勘に頼っているのが現状である。

 根域制限栽培は,根の住みかを意識して一定の範囲にとどめるので,根群の状態が把握しやすく,地上部と地下部のバランス調整は容易となる。

 根を一定の範囲にとどめる様式は,ボックス栽培,コンテナ栽培,有底・無底の畦立て栽培など様々であるが,その狙いは果実品質の向上を第一とし,早期成園化,早期結実,小木化など多様である。

 ここでは,広島県果樹試験場で行なっている方法を紹介し,根域制限栽培の問題点を整理したい。この栽培方法は,繁植,育苗から根域制限ベッドでの肥培管理まで体系化されており,発案者今井研究員の創意工夫が随所に見られる。

1.根域制限栽培による4倍体ブドウの早期成園化システム

1)システムの概要

 図1にシステム概念図を示した。その特徴を列記すると,①巨峰,ピオーネなど4倍体ブドウの有核果生産で,苗木づくりから成木園なみの収量をあげるのに要する期間は,わずかに1年5ヶ月と短い。②10a当たり900本植えの自根苗超密植栽培。③1樹当たりの培土量60ℓの根域制限栽培。④挿し床にロックウールポットを活用して簡易な苗木づくりと移植時の植え傷み回避。⑤肥料袋利用の育苗により,定植時の植え傷み回避。⑥ブドウ樹の水ストレスを配慮した灌水管理。⑦作業性の高い短梢せん定整枝などである。以下に,試験結果から得たシステム構成要素の技術を詳述する。

2)繁殖

 充実した休眠枝を採取し,ビニールで包み,3~5℃で貯蔵する。4月上旬に出庫し,挿し穂を2節に調整し,IBA50ppm溶液に24時間基部浸漬する。それを吸水させた5cm角のロックウールポットに挿し,平コンテナに並べ,サイドレスハウス内で約40日間管理する。その間,4日に1度潅水するが施肥はしない。

3)育苗

 挿し木後40日でポット側面に根を認めるようになるので,ポットのまま肥料袋で作った育苗鉢に移植する。袋には約20個の小排水孔を開け停滞水のないように注意する。培土は,マサ土に容積で25%のオガクズ家畜糞堆肥を混和し,その1㎡当たりにカキ殻粉末1kg,ヨウリン500gを加えて調整する。苗木1本当たりの培土量は18ℓである。

 施肥は,移植時にナタネ油粕50gを施用し,その後2週間毎に尿素-N1gを施用する。新梢伸長量が目標とする270cmに達したら摘心すると共に窒素の施用を中止する。この時期は,早ければ8月中旬,遅くても9月中旬としたい。その間,1日当たり2ℓを手動*ノズル潅水する。
* 育苗の状態をよく観察し,失敗しないためにも自動化しない方が良い。育苗の失敗は1年をむだにする。

4)根域制限の方法

 図2に示すように,塩化ビニールシートの上に2cm厚のウレタンを敷き,スレート板などで50cm毎に仕切る。肥料袋を裂いて各区画に苗木を配置し,培土を補なって定植を完了する(写真1)。

 幅68cm,高さ25cmの畝で1樹当たりの培土量は60ℓである。

 畝間は,1新梢の必要葉数から2.2mは必要で10a当たり909本植えの超密植となる。培土は育苗土と同様で良いが,原土壌,堆肥の種類によって混和量を10~25%の範囲で加減する。このシステムでは,蒸散の激しい7~8月に,日に1~2回潅水装置が作動するので,培土の調整は透水性向上の他に目づまりしないよう配慮する。

 不透水性のシートの上にウレタンを敷くのは,根域制限下の根の活力を長期に持続させるための創意である。ウレタンは重力水によって常に飽和状態にあり,自由水面と同様と考えられる。その直上2~3cmの土壌は過湿であり,根の伸入が制限され,完全な根域制限を成立させている。ウレタンが無い場合には,根がシートまで到達し,1~2週間で褐変~黒変が見られ枯死を早めている。

5)結実初年目の肥培管理

(1)施肥

 植え付け後,1樹当たりにナタネ油粕200gを表面に施用する。

(2)潅水

 畝の深さ15cmの部位にセンサーを入れ,指定したpF値*を越えると散水するように自動化する。指定値は生育ステージにより変えるが,現在はpF1.5~pF2.2の範囲で管理している。
 * 植物生体情報により決定した値,4.潅水管理の検討で記述。

(3) 整枝

 単幹で柵上の主枝長を50cmとした短梢せん定方式である(図2)。主枝長を50cmに限定するのは,無効な芽をつくらず,植え付け当年に成園化を実現するためである。

(4)枝梢・着果

 初年目は1樹に6~7新梢を出し6果房(10a当たり5,000房)を着生させる。結実を確認したら12節で摘心し,その後に発生する副梢は1~2葉を残して摘除する。誘引,摘粒などの新梢管理や果実管理は,これまでの栽培管理と同様に行なう。

6)結実2年目以降の肥培管理

(1) 施肥

 収穫後,すみやかに基肥を施用する。窒素施用量は,1果房当たり年間2gを基準にし,樹相により加減する。2年目以降は,1樹に8果房を着生させるので,1樹当たり16gが基準量になる。

 根域制限樹は,一般樹に比べ樹容積が小さく,秋冬季の養分蓄積量は少ない。このことは,展葉から開花期までの葉色が淡いことや,初年目の1果粒重がやや小さいことからも推察される。それゆえ,秋期に重点をおいて,樹体に十分量の養分を蓄積させることが重要となる。

 分施の時期と割合は未だ検討を要するが,潅水間隔が短いことを考え,コート肥料と速効性肥料の割合を工夫し,基肥1回の施用にしたいと考えている。なお,根域制限栽培では,総合微量要素肥料の補給を恒常化したい。

(2)せん定

 新梢の基部1~2芽を残してせん除する短梢せん定方式とする。

(3)枝梢・着果

 2年目以降は,1樹に8~9新梢を出し8果房(10a当たり7,000房)を着生させる。潅水などその他の管理は初年目と同様である。

2.根域制限栽培ブドウ樹の特徴

 一般に,根域制限すると樹勢が低下し,樹の寿命が短くなるとか,根が充満して根域管理に手数がかかるなどと臆測されている。管理精度が異なるので一概に言えないが,根域制限を否定する材料は見当たらず,作業の簡易化,軽量化,結実の安定,品質の向上など有利な点が多い。

1)結実の安定

 巨峰群の結実安定には,開花時の新梢長が比較的短い40cm程度が良く,新梢長と有核果粒着生数との間に負の相関があるとされている(図3)。

 しかし,根域制限樹はそうした相関がみられず,新梢勢力の強いものでも有核果生産が可能で有核果数も多い。これまでの栽培体系では,果実の色や糖はやや強い新梢で優れ,結実は弱い新梢で優れる背反の関係にあったが,このシステムでは,結実の安定と果実品質の向上が同一の新梢で実現できる。

 さらに,4倍体ブドウの有核果生産は不可能とされている短梢せん定整枝法で栽培ができまさに革新的技術と言えるだろう。

 根域制限樹で結実が安定する理由については,未だ明らかでないが,雌ずい中の花粉管生長阻害物質への関与が推定されている。

2)果実品質と収量

 果肉がよくしまり,やや硬さを感じるが日持ち性は非常に優れている。糖度は高く,食味はすこぶる良い(表1)。

 収量は,植付け1年目で10a当たり1.5t,2年目で2tは可能で,十分に早期成園化の目的を達成できる。

3)根の生育

 根域を制限すると細根が多くなるのが大きな特徴である。根の密度は非常に高く,同時に植付けた対照樹に比べ,中根で2倍,細根で6倍の多さである(図4)。

3.培土量の検討

 当初は,培土量80ℓで栽培したが,新梢の勢力から培土量を少なくするか,主枝長をもう少し長くする必要があると考えられた。後者は,基部の芽を活用しきれないので,培土量の調整を試みた。

 1樹当たり培土量を40,60,80ℓに変え栽培すると,生育量や収量など量的形質は土壌容量の大きい方で優れ,果実の色や糖など質的形質は土壌容量の小さい方で優れる傾向にあった(表2)。

 栽培期間3年,土壌容量40~80ℓの範囲では明瞭な違いを見出すことは難かしく,摘心労力や水管理の安定性から60ℓが妥当と考えた。60ℓ区から,管理域の土壌面積と葉面積,樹冠面積との関係を試算すると,1樹当たりの適正土壌管理面積は,葉面積に対して7~8%,樹冠面積に対して20%の範囲と考えられる。

 写真2は,マスカット・オブ・アレキサンドリアの高品質果実を安定生産している根域制限樹であるが,樹冠面積100㎡に対する根の管理域は,おおむね20%であった。このように,樹冠を拡大して一定に安定させた場合と植え付け時の樹冠を維持する場合の土壌管理面積が樹冠面積の20%になっているのは偶然の一致である。

 場内の成木ピオーネの1樹当たり樹冠面積は100㎡で着果量は500房である。土壌改良は,深さ50cmで樹冠面積の1/2に相当する50㎡に行なってあり,その外側はち密で透水性が低く,根が伸びる環境ではない。根群域の土量は50㎡×0.5m=25m3で,1果房当たりの土量は50ℓ(25m3/500房)と計算できる。

 一方,1樹当たり培土量60ℓの根域制限樹は,2年目以降8果房を着生させるので,1果房当たりの土量は7.5ℓになる。1果房に適正な培土量を理論面から明らかにできなかったが,一つは根域制限栽培における施肥・潅水管理の精度の問題,今一つは,植物が与えられた環境で頑張るという状態を計測する問題が残されているためと考えている。

4.潅水管理の検討

 一般の果樹栽培では,意外な所に根が伸びていたり,予想外に深く直根が伸入している場合が多い。これは,根が好適な環境を求めた結果と考えられ,水分も例外ではない。それゆえ,限られた地点で計測する土壌水分の情報と樹体の水に対する反応が一致しない場合が多い。

 その点,根域制限栽培では,限られた範囲内にすべての根が密集しているので,土壌水分の計測値と樹体内水分の計測値との対応は非常に高いと考えてよい。

 この利点を活用して,土壌水分の変化に対する果樹の応答を詳しく調査し*,樹体の反応から水管理を逆に制御する試みを検討している。これは,根域制限樹だけでなく,一般栽培樹の潅水管理精度を高めるのに役立つと考えられる。
* 歪みゲージ式変位計で茎径,果粒径を連続計測する。

 図5は土壌の乾燥に伴い,ブドウの母枝径,果粒径がどのような日変化の特性を表すかを示したものである。茎径は昼間に収縮し,夜間に回復するパターンを示すが,収縮は体内水分の欠乏を,膨張は体内水分の回復を表している。土壌の乾燥に伴って茎径の収縮(体内水分の欠乏)が大きくなり,回復力も弱くなって行く。

 この日変化推移から判断して,土壌水分張力が150cm・H2O(pF2.2)を越えたころ(7月20日)より茎径の収縮が大きくなっていく様子がみられる。つまり,ブドウ樹が体内水分の欠乏を強く感じはじめた時期である。

 ベレーゾン期のブドウに対して,水分ストレスを与えない栽培をするならば,pF2.2以下での水分管理が妥当と言える。このpF値は,生育ステージにより異なるが,光合成速度との関連なども合わせて検討し,潅水管理基準の精度を更に高めたい。

5.根域制限栽培樹の寿命

 根域制限の様式や灌水管理の精度によって寿命の長短はかなり異なると思われる。

 ここに紹介したシステムでは,ウレタンの活用と植物生体情報に基づく灌水管理によって長く栽培できると考えている。現在,予備試験を含めて8年の実績であるが,新梢勢力から見て,10年は十分に続けられるだろう。

6.根域制限栽培の展望

 1果房に関与する土量が一般樹の1/7以下と少ない,貯蔵養分量が少ない,細根の密度が一般樹の6倍と高いなどが根域制限栽培の特徴であるが,何と言っても,根の状況を把握できる利点が大きい。土量が少ないことは,土壌改良の内容を高めることを容易にし,CECを大きくする改良も可能になる。また,コンテナ栽培での移動性付加にも貢献し,施設の高度利用と結合して新しい作型の誕生も夢ではない。

 根域制限栽培システムを視察された研究者の中には,土壌から遊離した農業を考える方々がおられる。しかし,根の状況が把握でき,肥培管理の適否が鋭敏に現われるこの栽培システムを活用して,高品質果実の安定生産を目指すとき,今まで体験できなかった土壌と果樹の関わりが見えてきて,改めて土の力が分かるように思われる。

 以上,ブドウの根域制限栽培はいろいろな利点や問題点もみられるが,量はもとより,より高品質な果実を生産するのに適している。しかし,土量が少ないだけに,わずかな油断で命とりになりかねない。

 無駄を省いて,大切なところに充分に手をかけ,果実本来の特性を充分に生かしきる栽培法として,今後の展開を期待したい。また,今後は品種のライフサイクルが短かくなる傾向にあるので,早期成園化と結び付く根域制限栽培はますます重視されるだろう。

 

 

カルシウム欠乏による園芸作物の
生理障害の症状と対策及び展望(その1)

チッソ旭肥料株式会社
技術顧問 草野 秀

Introduction.

 昭和61年10~11月の降水が極端に少なかったため,京阪神の野菜の主産地では62年産のハクサイで6割強が芯ぐされ症となり,痛烈な打撃を受けたところがあった。一方,鳥取県の二十世紀ナシはユズ肌症で毎年10~12%,約20億円の損害を受けている。

 野菜や果実ではカルシウムの欠乏または関与によると思われる不快な症状の生理障害が,多くの種類の作物の目的生産物等に発生し,商品価値を失ったり,減収を招いている。これらの症状は古くから認められており,解明の結果,その組織等のカルシウム含量が少ないことから,カルシウム欠乏や他成分とのバランス問題によると推定されている。

 わが国では高度経済成長の波に乗り,農業部門でも各種資材の利用が増加し,耕地への肥料,改良資材の投入も増加し,ハウス等施設化農業も進展してきた。これらの高度集約的な農業生産の現場でも,前記の障害は多発している。

 土壌に石灰が充分にあっても,カルシウム欠乏による障害が出るのは問題であり,往時の対策としての単に石灰資材の土壌施用,作物への散布だけでは解決しない対応が必要な時期となっている様である。ここではこれら障害の実態と対策及び将来展望について概説してみる。

1.各作物の症状名と症状

 カルシウムの欠乏による障害のでる作物と症状名の主なものを第1表に挙げた。

 表からは作物の種類により症状は共通性があり,果菜類では尻ぐされ,葉菜類では芯ぐされ,いも類では芽つぶれ,果樹,根菜類では肥大表面部の障害,花きでは首の折れ曲り等が主要なものとなっている。また全体的に共通しているのは目的生産物で生長,肥大の急速な部分や芽,生長点等,正に核心的な部位に意地悪く症状が現われ,拡大している様である。まさに農家泣かせの悪玉である。

 カルシウムは作物に吸収され,一度落着くと,体内での再移動はかなり少ないことが知られている。この特性が障害の発生に結びついていることは,容易に想像されることである。これらの点について述べてみたい。

2.各作物のカルシウム要求量と体内での分布・役割

 園芸作物は全般に好硝酸性作物であり,カルシウムは硝酸態チッソとは陽イオン,陰イオンの関係にあるので,相乗的に吸収される。一方,アンモニア態チッソ,カリウム,マグネシウムはいずれもカルシウムと同じ陽イオンであるため,拮抗的であり,反発しながら吸収されている。この点が先ずカルシウムの欠乏症の発生に関与する土壌中での出来事の大きな原因と思われる。

 次に各作物が吸収するカルシウムの量は種類によって大きな差があり,普通作物では少なくて野菜や果樹では多い傾向がある。カルシウム欠乏症の出易い作物ではチッソの吸収量等とのバランスが問題とされているため,障害の出易い作物と通常の栽培法では問題のない作物について,チッソとカルシウムの吸収量を比較した結果を第1図に示した。

 図からカルシウム欠乏症の発生し易い作物は,普通作物に較べて吸収量も多いので,連作の場合はもとより,輪作の場合でもその作付前に吸収量を考慮した量の石灰資材を施用した方が良いこととなる。さらに欠乏症が発生する時期と部位を考慮して,その時期にカルシウムがその部位に有効に吸収される様に,前もって根系や部位へ石灰資材を施用・散布するのが望ましいことになる。

 その理由は,作物体内でのカルシウムの分布や移行,役割等の特性から考えるとはっきりしてくる。その特性を列挙すると次のとおりである。

①カルシウム含量は葉で多く,茎や子実では少ない。葉のうちでは古葉に多く,新葉では少ない。一般に葉の中では広葉の作物で多く,狭い葉の作物で少ない。古葉等で多いのは代謝作用の時に出来るシュウ酸やペクチン酸等有機酸とカルシウムが結合,中和して,沈澱してゆくためと云われている。ペクチン酸カルシウムは細胞壁の中層の主成分である。

②カルシウムは根から吸収されたあと,導管を通って地上に運ばれるが,そこから篩管を通って再移動するとき,その移動性がカリウムやマグネシウムより著しく少なくて,最も移動し難い成分の一つである。新葉や果実で少ない理由はこの性質のためである。

③カルシウムは糖分の移動に関係し,欠乏すると葉で出来た炭水化物が子実へ移行するのが妨げられる。また,細胞間の接着・強度や構造維持に犬ぎな役割がある。このため,少ないと裂果や首折れし易くなる。更に膜酵素のATP分解酵素に含まれており,その働きを通して根のイオン吸収機能に密接に関係している。

 以上からカルシウム要求量の多い前記の各作物では,夫々の相当部位に欠乏症の発生し易いのは当然のことと思われる。