Search Icons

Site Search

Search within product

第426号 1993(H5).04発行

Click here for PDF version 第426号 1993(H5).04発行

 

 

黒ボク土における被覆尿素を用いた
デントコーンの全量基肥栽培

東北大学農学部附属農場
助教授 三枝 正彦

 近年,我国の畜産をめぐる情勢は,牛肉の自由化や国内における畜産物需要の伸びの鈍化等極めて厳しい状況にある。それゆえ,畜産経営の安定化を図るためには,消費者ニーズに対応した付加価値の高い畜産物を生産すると共に生産コストをより一層低減する必要がある。

 なかでも土地利用型農業である乳牛や肉牛を中心とした大家畜畜産経営では,牧草やデントコーン,ソルガム等の自給飼料生産の合理化による生産コストの低減が最も有効な方法と言える。

 大型飼料作物であるデントコーンは,単位面積当りの乾物生産量が牧草の約1.5倍も大きく,またソルガムより耐酸性が強く酸性土壌の多い我国では適応範囲が広い,さらに高エネルギーで生産費が安い,品質の良いサイレージが得られる,牛の嗜好性が高い等の数多くの利点を有し,我国の飼料自給型畜産では“切札”的存在の作物である。

 しかしながら,近年の機械化一貫栽培では後述するように大型作物ゆえに追肥機械の車体の高さの制限によって追肥時期が草丈1m以内の生育初期に限られることやこの時期が東北地方では梅雨期に当たっており,圃場が軟弱化し,機械追肥が極めて難しいと問題点がある。

 また,基肥窒素量を増施しようとしても,従来の速効性肥料である硫安,尿素等では降水量が多く溶脱の激しい我国では施肥効率が極めて低いうえに,発芽時にアンモニアの濃度障害が問題となる。それゆえ,耐肥性の強いデントコーンの多収を行うには,化学肥料と共に堆厩肥の多用が常識化している。

 一般に厩舎に近い圃場では充分な堆厩肥が施用され,デントコーンの生育後期における窒素栄養の大部分は堆厩肥によるところが多いが,全圃場となると必ずしも充分な堆厩肥が確保されるとは限らない。また,極端な堆厩肥の多用は発芽の不揃いを引き起こすとともに,硝酸の蓄積や倒伏を招くことがある。

 これらの問題点を解決しデントコーンの省力安定多収栽培を行なうには肥効調節型被覆尿素による全量基肥栽培が最も有効な方法と思われる。本稿ではデントコーン栽培における施肥上の問題点と東北大学附属農場(厚層多腐植質非アロフェン質黒ボク土)における肥効調節型被覆尿素を用いた耕起・不耕起全量基肥栽培の事例を紹介する。

 供試デントコーン品種としてはパイオニア3352(RM118)を,被覆尿素としてはLP70を用いた。

1)デントコーンの生育特性と追肥時期前後の気象状況

 図1には1988年度における標準栽培(硫安で基肥窒素10a当り10kg,追肥窒素5kg施用)の草丈(出穂後は穂先までを便宜的に含める),乾物重,窒素吸収量の推移を示した。

 デントコーンの草丈は播種16日後の6月3日以降,絹糸抽出期の8月17日まで直線的に増加し,追肥機械の車高から機械追肥の限界と考えられる草丈1mには梅雨半ばの7月8日に達している。

 これに対して,乾物重の増加は7月10日頃より収穫期までほぼ直線的に増加している。また,植物体の窒素吸収量は乾物重の増加曲線よりやや早めに推移している。

 図より機械追肥限界日(7月8日)の乾物重は収穫時(9月27日)の30分の1以下,吸収窒素量は収穫時の10分の1以下に過ぎない。それゆえ,窒素肥沃度の低い土壌では従来の速効性肥料による機械追肥体系ではデントコーンの後期窒素栄養を十分確保することが困難と思われる。

 また本農場における過去21年間(1968-88)の気象を旬別に検討したところ,追肥時期前後の6月中旬から7月中旬にかけては,ほぼ2日に1日の割合で機械追肥に支障のある日降水量1mm以上の日が出現している。また,実際には降雨の翌日も土壌が軟弱で,機械追肥ができないことが多くこの時期の機械追肥は極めて困難といえる。

 このような困難さを伴う機械追肥を省略し,かつデントコーン生育後期の窒素栄養を確保するには被覆窒素を用いた全量基肥栽培が有効と思われる。

 図2には1988年度における積算地地温あるいは積算気温の25℃変換日数に対するLP70からの尿素の溶出量を示した。これを見ると現行の機械追肥体系での追肥硫安の吸収が終了すると思われる7月21日までに被覆尿素の約50%が,また,7月21日以降収穫時までに約30%が溶出しており,被覆尿素LP70はデントコーンの生育中・後期の窒素栄養改善に大きく貢献できるものと思われる。

 また,LP70が80%溶出するのに要する25℃変換日数は地温で約100日,気温で96日と両者で4日の差が見られるものの,被覆尿素からの尿素の溶出量の推定は実用上,気温で十分代替される。

2)基肥窒素施用量とデントコーンの初期生育

 図3には施肥窒素の全量基肥栽培を想定し,速効性の硫安区と緩効性のLP区(被覆尿素LP70の他にスターターとして硫安を窒素成分で10a当り5kg共通に含む)の窒素施用量とデントコーンの生存割合および硫安10kg区(東北地方の標準的基肥施用量)に対する相対的乾物重を示した。

 速効性の硫安区では12.5kg区辺りからアンモニア障害によると思われる生存個体割合,相対的乾物重の減少が見られ,20kg以上の区で明かなアンモニア障害と乾物重の著しい減少が見られた。これに対してLP区では15〜40kgの全試験区で硫安10kg区より高い値を示し植物体も健全な生育を示した。

 このように被覆尿素を用いれば施肥窒素の全量基肥施用は可能であり,施肥量は生育後期の地力窒素の発現量を考慮して土壌タイプ毎に決める必要がある。

3)被覆尿素を用いた全量肥栽培

 図4には1988年度における肥効調節型被覆尿素を用いたデントコーンの全量基肥栽培の結果を乾物収量と窒素吸収量で示した。

 処理区としては窒素の追肥ができなかった場合を想定した硫安基肥区(硫安を基肥に窒素として10kg/10a施用),標準栽培である硫安追肥区(硫安を窒素として基肥に10kg,追肥に5kg施用),LP70区(基肥にLP70および硫安をそれぞれ窒素として10kgおよび5kg施用)およびLP70倍量区(基肥にLP70および硫安をそれぞれ窒素として20kgおよび5kg施用)を設けた。播種密度は72×22cm(6313本/10a)とした。

 窒素吸収量を図4-aにみると硫安基肥区では10a当り13kgの吸収があり,この値を100とすると硫安追肥区で116,LP70区で123,LP70倍量区で133と各処理間で統計上,5%水準で有意な差が見られた。施肥量が同じであるのに,LP70区は硫安追肥区より窒素吸収量が多いのは,基肥として施用する硫安は硝酸化成し流亡しやすいのに対し,被覆尿素LP70は緩効性で利用率が高いためと思われる。

 事実,川渡黒ボク土におけるデントコーン栽培で,基肥硫安の利用率(30〜44%)より基肥LP70の利用率(49〜66%,溶出尿素に対しては56〜78%)が高いことが報告されている(SHOJI et al(1991))。

 全乾物収量を図4-bに見ると基肥硫安区で10a当り1273kgであり,これを100とすると硫安追肥区で110,LP70区で113,LP70倍量区で112と,無追肥区に比べて10〜13%の増収であった。

 一般に植物体の乾物収量と窒素吸収量との間には密接な関係が見られるが,1988年度は窒素吸収量が処理区で有意な差が見られたのに対し,硫安基肥区以外の3区の乾物収量には有意な差が認められなかった。

 この理由としては1988年度は日照が記録的に少なく,光合成産物の生産が十分でなかったことが上げられる。(事実,日照に恵まれた1987年度は無追肥区より追肥区で約20%増収した。)

 また,全乾物重に占める子実重の割合は47〜49%と高くサイレージ用として良質材料であったが何れの処理区間にも有意な差は認められなかった。

 デントコーンの機械化一貫栽培では植物体の倒伏は極めて重要な問題であり,倒伏すると著しい収穫ロスを引き起こす。そこで各処理区の倒伏しやすさを現場での引き倒し法で調べたのが図5である。

 この方法による倒伏個体割合は窒素吸収量の最も少ない硫安基肥区で5%と少なく,逆に従来の標準栽培法である硫安追肥区では33%と最も高かった。これに対して,LP70区とLP70倍量区は窒素吸収量が多いにも拘らず,倒伏個体割合がそれぞれ7%,13%と低かった。また,測定された倒伏の種類としては雌穂周辺で折れる挫折型倒伏であった。

4)被覆尿素による不耕起全量基肥栽培

 諸外国における不耕起栽培は水や風に対する土壌の浸食防止対策として開発されたが,多収を重要視する我国ではこれまで殆ど普及していない。しかしながら,地球的規模で関心を集める環境問題(我国は降水量が多く受食性の高い傾斜地や黒ボク土が多い)や安定した畜産経営のために,飼料生産費の軽減が急務である現状を考えると我国でも積極的に飼料作物の不耕起栽培を導入する必要がある。

 不耕起栽培には本来の浸食防止効果の他に,耕起労力の節約,地耐圧が大きく適期機械作業が可能等の多くの利点がある反面,土壌が堅密化する,幅5cm以内の狭い植え溝であることから従来の速効性肥料では肥料焼けが発生するといった大きな問題点があった。

 そのため,施肥は利用効率の悪い表面施肥や液肥の注入などに限られ,減収の大きな一因でもあった。幸い,我国の黒ボク土は膨軟であり,また前述の如く被覆尿素を用いれば肥料焼けを回避し得るので,除草体系が確立しているデントコーン栽培では多収を維持しつつ不耕起全量基肥栽培が可能と考え,以下の検討を行った。

 処理区としては標準栽培としての耕起AS区(硫安で窒素として基肥に10a当り10kg,追肥に5kg施用),耕起LP区(LP70を窒素として10kg,硫安を5kg基肥に全量施用),不耕起AS区(基肥に硫安を窒素として15kg施用),不耕起LP区(基肥にLP70を窒素として10kg,硫安5kgを全量施用)を設けた。

 この他にカリは被覆加里70で成分として15kg,リン酸は過石でリン酸吸収係数の2%を共通に施用した。また,植え溝は幅5cm深さ5cmとし,3cmの間土,播種,2cmの覆土を行なった。

 栽培密度は72×18cm(7722本/10a)とし,除草剤は播種前にグリホサートの茎葉処理を,播種後にアトラジン-アラクロールの土壌処理をした。

 表1には播種11日後のデントコーンの発芽率と生育状況を示した。速効性硫安を全量基肥施用した不耕起AS区では,硫安による肥料焼け(アンモニア障害)が観察され,標準栽培の耕起AS区より約1割低い発芽率と著しい初期生育の停滞が見られた。これに対して,緩効性の被覆尿素LP70を用いたLP区では耕起,不耕起栽培区とも標準栽培の耕起AS区とほぼ同程度(約90%)の高い発芽率と良好な初期生育を示した。

 表2には1990,91年度におけるサイレージ用としてのデントコーンの収穫時における生育収量を示した。草丈,葉数,雌穂高は各処理区間で両年とも有意な差は見られず,また一定の傾向が認められなかった。これに対して,コーンの長さ,新鮮重,乾物重は発芽時に肥料焼け(アンモニア障害)の発生した不耕起AS区が他の3区より明らかに減少した。

 デントコーンの収量を生重(新鮮重収量)で見ると,標準的栽培である耕起AS区の1990年は10a当り5.88トンであった。これを100とすると耕起LP区で114,不耕起LP区で103と被覆尿素を用いた区でやや増収したが,速効性の硫安を全量基肥施用した不耕起AS区では初期の肥料焼けの影響を受け,93.9と減収した。

 これに対して1991年の生重は天候不順(日照不足)のため,耕起AS区で5.03トンと前年より15%低かった。しかしながら前年と同様に耕起AS区に対し,被覆尿素区はやや増収したのに対し,不耕起AS区は15%程減収した。

 本試験は窒素肥沃度の比較的高い多腐植質黒ボク土で行われ,生育後期に土壌窒素の無機化が起こるため,被覆尿素の施用効果が希釈されているが腐植の少ない黒ボク土や他の土壌型では更に顕著な肥効が期待されるものと考えられる。また,供試圃場が腐植に富む黒ボク土であることを反映し,諸外国で問題とされている土壌の物理性悪化(土壌の堅密化や気相率の低下)による生育阻害は認められなかった。

5)まとめ

 以上のように肥効調節型被覆尿素を用いれば追肥を省略したデントコーンの全量基肥栽培が可能であり,さらにデントコーンは除草体系が確立し,病虫害の発生が少ないこともあって,播種時の作業と収穫時の作業のみという超省力栽培(不耕起全量基肥栽培)も可能である。

 しかもこの体系は施肥窒素の利用効率が極めて高く,その結果,硝酸態窒素の溶脱による地下水汚染が軽減され,また不耕起であるので土壌浸食も回避されることから高い生産水準を維持しつつ,かつ環境に配慮した栽培が可能であると思われる。

 なお,岩手,宮城の両県では,本研究結果を参考にし,デントコーン栽培専用のBB肥料(LP70を60%含む)が開発されている。

 

 

LPコート肥料を用いた
水稲の全量基肥不耕起直播栽培

東北大学農学部附属農場
佐藤 徳雄

 現今,稲作をめぐる情勢をみると,生産調整,米価の引き下げ,生産資材や農機具の高騰に加えて,消費者の良質米志向による産地間競争の激化,更には米の輸入自由化要請など,国内外とも非常にきびしいものがある。このような状況下において,稲作を発展させるためには一層の生産コスト低減による所得増大を図る必要があり,その先端技術として水稲の不耕起直播栽培技術の確立が要請されている。

 不耕起直播栽培では,畑状態で播種し,出芽・苗立ち後に湛水するため,降雨による表土の土膜形成,固結などを阻止して出芽・苗立ち率が著しく向上する。しかし反面,基肥に施用した速効性窒素肥料の大部分が畑状態中に硝酸化成作用をうけて降雨や湛水時に脱窒・流亡する。その結果,稲体は窒素欠乏状態を示し,著しい生育・収量の低下を招くので,施肥効率を高める施肥法,施肥形態の開発が重要である。

 そこで,水稲の不耕起直播栽培における効率的な省力施肥法として,窒素の溶出が地温に依存し,畑状態でも硝酸化成されにくい肥効調節型被覆尿素(LPコート肥料)を用いた水稲の全量基肥不耕起直播栽培について述べる。

1.これまでの施肥法の問題点

 不耕起直播栽培では移植栽培と異なり,前年水稲収穫後不耕起状態で放置した乾田に点播または条播し,出芽・苗立ち後に湛水する。前述のように畑状態では,施肥窒素が容易に硝酸化成し,湛水とともに脱窒・流亡するため,施肥法,施肥形態などが水稲の生育・収量に大きな影響を与える。

 不耕起直播栽培に対するこれまでの施肥法をみると,寒地では初期生育を促進させ,茎数を早期に確保するために,全窒素量の40〜50%を播種時に,20〜30%を湛水時に施用している。暖地では播種時の施肥は省略されることが多く,湛水時に基肥に相当する量(40%程度)を施用している。

 また,不耕起直播では低節位から分げつが発生し,それが有効茎となるために穂数の確保が容易である。そのため,穂肥は減数分裂期に肥効が発現し,粒の充実を図るために,全窒素の20%程度を出穂の20〜15日前に施用している。さらに,実肥も施すこともあるが,全窒素量に対する穂肥,実肥の割合は暖地の方が高い。

 従来の硫安や尿素などの速効性窒素肥料では,畑状態で硝酸化成し,湛水とともに脱窒・流亡する。また,湛水時の施肥も表面散布となるため,施肥窒素の利用率が著しく低く,肥切れが起きやすいので,移植栽培より20〜15%ほど施用量を多くしている。特に,砂質田や漏水田などでは,土壌中の養分の溶脱・流亡が多いうえ,土壌窒素の無機化量も少ないので,施肥量,追肥回数をふやす必要がある。

 このように,水稲の不耕起直播栽培では,播種時および湛水時に施用した窒素の大部分が脱窒・流亡して窒素不足となり,生育・収量を低下させるので,この時期の施肥窒素の利用率をいかにして高めるかが大きな問題であり,これまでは施肥量と施肥回数をふやすことにより対応してきた。

2.LPコート肥料利用の価値

 LPコート肥料は,被覆材(ポリオレフィン樹脂+鉱物性粉体)でコーテングされた肥料であるため,種子と接触施肥しても肥料やけを起こさない。また,他の緩効性肥料と異なり,溶出は,土壌のpHやEh,土壌溶液のイオン濃度,有機物含量あるいは微生物活性などの影響をうけない。LPコート肥料の溶出は,主として水中温度(水蒸気圧)に依存して起きる。すなわち,透湿量(内外の水蒸気圧差)によって粒子から尿素が溶出し,尿素そのものあるいはアンモニアに変換されたのち水稲に吸収される。

 一般に不耕起栽培では,土壌の通気性,透水性がよいので,肥料の流亡・脱窒が多く,また,無機化窒素の発現量も少ないので,砂質田や漏水田では不適であるとされてきた。しかしながら,地力代替的な肥効を発現するLPコート肥料を適用することによって,これらの土壌においても凋落的な生育を防止し,安定多収が期待される。

 また,大区画水田で水稲の不耕起直播栽培を定着させるためには,追肥を省略した全量基肥施用法の確立が不可欠であり,このためには地力窒素的肥効を示すLPコートなどの肥効調節型肥料の果たす役割がきわめて大きい。

 さらに,LPコート肥料は,作物の要求量に応じて徐々に溶出するため,溶出する窒素の利用率が高く,脱窒や流亡による大気や水質の汚染も少ないので,環境にやさしい肥料といえる。

3.不耕起栽培におけるLPコート肥料の全量基肥施用の肥効特性と水稲の生育・収量

 不耕起直播水稲に対する最も理想的な施肥法は,水稲の生育に必要な施肥窒素の全量を播種時に施用し,追肥を省略しても生育後期まで肥効が持続して安定多収が得られるようにすることである。

 LPコート100は,25℃田面水温の積算日数で全窒素の80%が溶出するのに100日かかるように調節された肥料である(第1図)。その溶出は,水中温度に支配され,地力窒素の無機化と同様に,作物の生育が旺盛な高温時に溶出量が増大する。

 不耕起直播時に施用されたLPコート100の窒素の溶出は,水稲の出芽・苗立ちするまでの畑状態中は少ないが,湛水開始後は施肥位置の地温の上昇に比例して少量ずつ溶出し,登熟後期まで持続する(第1,2図)。

 このため,生育のごく初期の生長速度はおそいが,湛水開始後には生育が旺盛になり,㎡当たり穂数やもみ数が増加するとともに登熟歩合も高まって高収量となる(第3,4,5図)。

 LPコート100を㎡当たり窒素成分で8gを全量基肥施用による稲体の窒素吸収量は10.13g(施肥窒素5.06g,土壌窒素5.07g)で,硫安の基肥と追肥に同じ窒素量を施用した場合より53%ほど多い(第2図)。LPコート100全量基肥施用の窒素の利用率は65%弱となるが,速効性の硫安では畑状態中に大部分が硝酸化成され,湛水とともに脱窒・流亡するので,利用率は10%以下と著しく低い(第1表)。

 このため,稲体は窒素欠乏状態となり,穂数,もみ数の確保が不充分となり,著しく減収する。また,LPコート肥料の溶出窒素量に対する利用率を計算すると約80%であり,脱窒や流亡による環境汚染はきわめて少ないといえる。

 一般に不耕起直播水稲は,草丈が短く,主稈葉数も少ないが,分げつの発生が旺盛で,低節位からも分げつが発生するため,穂数の確保は比較的容易である。また,不耕起直播水稲は,穂長が短く,1穂もみ数は少ないが,穂数の増加がもみ数の減少を補って㎡当たりもみ数は多くなる(第5図)。

 このように,不耕起直播栽培では穂数の確保が容易なので,従来は粒の充実をよくするために穂肥を施用することが推奨されている。これに対してLPコート肥料を用いた全量基肥不耕起直播栽培では,通気・透水性がよく,施肥窒素の溶出が生育期間中安定して持続するために稲体は正常で,充分な根張りが行われるので,施肥窒素とともに土壌窒素の吸収量が増大する。その結果,もみ数の増加と粒の充実が図られ,移植栽培に劣らない高収量が得られる。

4.LPコート肥料の全量基肥施用量と肥料タイプの選択

 昔から,「米は地力でとれ」という諺があるように,水稲の収量に及ぼす土壌窒素の役割は大きい。移植栽培では水稲による土壌窒素の吸収量は全吸収量の3分の2を占めるが,無機化量の少ない不耕起直播栽培では2分の1程度である。また,従来の表面施用では,施肥窒素の利用率が著しく低い。このため,土壌窒素の供給を補完するものとして,地力代替的な肥効を発現するLPコート肥料の利用が有効である。

 窒素の施用量は,品種や気象,土壌型のちがいなどによって異なる。一般に,玄米100kg生産するのに2.2kgの窒素を吸収するので,目標収量,600kg/10aとすると13.2kgの窒素が必要である。土壌から半量の6.6kgが供給されるとすると,LPコートの施用量は,その利用率を65%とすれば,窒素成分で約10kgとなるが,施用量については,さらに検討を要する。

 LPコート肥料は,生育の旺盛な高温時に肥効が高まるので,稲の草姿を乱すことが少ないばかりでなく,肥効の持続性によって登熟後期まで稲体窒素濃度が維持され,㎡当たり同化能力が増進される。このため,全量基肥施用でも追肥を伴う慣行栽培と同等以上の収量をあげうるし,20%減肥してもほぼ同等の収量が得られる。

 したがって,LPコート肥料による全量基肥不耕起直播栽培は,省力かつ低コスト化が可能である。また,従来問題とされた砂質田や漏水田でも不耕起栽培が可能であると思われる。

 一方,水稲の生育相を改善してより安定多収をねらう場合には,基肥としてLPコート100を全施用量の70~80%とし,生育診断や気象の状況により穂肥期に溶出速度の速いLPコート40を20~30%程度施用するのがより効果的であると思われる(暖地では基肥としてLPコート140,追肥としてLPコート70の組合せが考えられる)。

 また,穂肥時に施用するLPコート肥料の肥効が葉色に現われるまでに,LPコート40で10日,LPコート70で14日かかるので,穂肥の時期はその分を見込んで早めに施用することが必要である。さらに最近,水稲の吸収パターンに合わせ,25℃の積算地温で30日あるいは45日経過後に急速に肥効が高まるSタイプあるいはSSタイプのLPコート肥料が開発されており,不耕起直播栽培への導入が今後期待される。

5.LPコート肥料全量基肥不耕起直播の栽培管理

 目標収量600kg/10aを達成するためのLPコート肥料を用いた全量基肥不耕起直播栽培では,条間を30cmとし,10a当たり3~5kgの種子を点播または条播し,㎡当たり苗立ち数を75~150本とする必要がある。苗立ち密度が小さくなったところは周辺の株の生育が旺盛になって補うが,苗立ちが不均一だと生育ムラを生じ,穂揃い不良や倒伏の原因となるので,適正な苗立ち数を確保するように努めることが重要である。

 水管理としては,生育量が少なく,穂数の確保が容易でない寒地では苗立ち後ただちに湛水し,生育初期の保温効果を高めるとともにLPコート肥料の肥効を高めるようにする。初期生育が旺盛で,過繁茂になりやすい暖地では,水稲の生育量が不足するときや雑草の発生が多くなるときは3~4葉期に湛水する。

 生育初期が高温のため肥効が発現して過繁茂となるときは間断灌漑や中干しを行って生育調節をする(中干しはLPコート肥料の溶出を遅らせる効果もある)。また,後期凋落しやすい水田では,LPコート肥料の肥効が登熟中・後期まで発現するように,早期落水をさけるなどのきめ細かい水管理が必要である。

 次に,LP肥料利用上今後検討すべき技術課題について述べる。

 LPコート肥料の全量基肥栽培または穂肥を含めた2回施肥栽培で,過剰生育や後期凋落,倒伏,登熟不良といった現象を最小限に食い止めて安定多収をねらうためには,それぞれの地帯の品種の特性や気象変動あるいは土壌型に適応できるょう,きめ細かい溶出パターンを検討する必要がある。

 また,不耕起直播水田では,土壌窒素の発現力が劣るばかりでなく,表層以外の土層の養分が経年的に脊薄になり,地力の低下が懸念される。その対策として,LPコート100とともに全量基肥に地力代替的な肥効を示す超緩効性のSタイプやSSタイプのLPコート肥料の混用効果を明らかにする必要がある。

 肥効調節型被覆肥料は緩効的で,肥料やけが少ないので,窒素のみならずリン酸,カリも種子と接触させながら全量基肥施用が可能である。一般に窒素とカリの吸収は拮抗的に働らくが,被覆カリを併用するとLPコート肥料の肥効が助長されることが考えられるので,初期生育確保の面から検討する必要がある。

 さらに,不耕起直播栽培における窒素の施肥法として,LPコート肥料の単独施用あるいは速効性肥料との併用の是非についても詳細に検討する必要がある。

 このように,まだ利用上の技術課題が残されているが,肥効調節型被覆尿素LPコート肥料を用いた水稲の全量基肥不耕起直播栽培は,農作業の省力化,低コスト化とともに肥料による環境負荷を著しく軽減させることが可能であり,21世紀へ向けた環境にやさしい農業形態としてきわめて有望な栽培法と思われる。