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第448号 1995(H7).03発行

Click here for PDF version 第448号 1995(H7).03発行

 

 

根深ネギのポット育苗における被覆肥料の施用効果

新潟県園芸試験場
研究員 根津 潔
専門研究員 長井 隆
専門研究員 小野 長昭

 ネギは中国が原産地と思われる多年生の植物で,日本でも古くから食用野菜として栽培されている。20℃前後が生育適温であるが,品種によって気候耐性に差があり,酷暑,酷寒地で生育するものもある。土壌適応性は広く,pH5.7~7.4の間であればあまり土性を選ばない。

 新潟県におけるネギの作付面積は800ヘクタール強で,微増加傾向にある。主産地は新潟市を中心とした砂丘地帯と下越地方の海岸沿いであるが,新潟県のネギ栽培は,春まき秋冬どりが一般的な栽培方法であり,2~4月に播種し,9~12月に収穫をおこなう。栽培期間は7~10カ月と,園芸作物としては長く,栽培にかかる労力も,非常に大きい。

 ネギ栽培は,育苗と本ぽでの栽培の2つの段階があり,おおむね育苗が2~3カ月,本ぽでの栽培が4カ月である。育苗は苗床で行い,選別の後本ぽに定植する。

 しかし近年定植労力の軽減や効率的な育苗という面から,ペーパーポットなどを利用した育苗法が取り組まれている。これは,プラスチック製の苗箱を使いハウス育苗する方法で,育苗期間の短縮や,それに伴う作型の多様化などの利点がある。また定植方法についても定植機の導入などの機械化が見込めるため,労力の軽減ができる。

 しかし近年定植労力の軽減や効率的な育苗という面から,ペーパーポットなどを利用した育苗法が取り組まれている。これは,プラスチック製の苗箱を使いハウス育苗する方法で,育苗期間の短縮や,それに伴う作型の多様化などの利点がある。また定植方法についても定植機の導入などの機械化が見込めるため,労力の軽減ができる。

 しかし,育苗ほでの育苗とちがい苗を選別することができないため,均一な育苗が必要になる。定植時の苗質の差は,収穫まで響くため,良質の苗を得ることが非常に重要である。慣行では数回の追肥を行い,管理している。

 著者らは育苗期間中に行う数回の追肥を,緩効性の肥料を用いることにより省略できるものと考えこれを検討した。

<材料および方法>

 試験場所:新潟県園芸試験場内ガラス温室(無加温)
 供試肥料:マイクロロング40タイプ,70タイプ,100タイプ
      ロングM70タイプ,100タイプ
      ロングトータル70タイプ,100タイプ
      慣行施用肥料(燐硝安加里)計8種類
      すべて,は種時に1回施用
 施用量:水稲育苗箱1箱当り(6ℓ)窒素成分2g,4g,6g
 供試品種:ネギ品種「東京夏黒2号」のコート種子
 は種日:1993年3月18日220穴のペーパーポット1穴当たり,4粒ずつを播種
 育苗培土:市販の物についても検討はしたが,価格面のことを考慮して水稲育苗培土を用いた。これは電気伝導度0.03 pH4.25と,そのままでは使用できなかったため,緩衝曲線をつくり苗箱1箱当たり苦土石灰を40g添加し,pH6.5に調整した。

 育苗期間中はいずれも灌水のみとし, 追肥は行わなかった。

<結果及び考察>

(1)被覆肥料の種類のちがいとネギの生育

 マイクロロングは,ロングM及びロングトータルに比べ1箱当たりの苗立ちがよく,苗のそろいもよかった。これは培土調整時には均一に肥料が混和されていても,小さなポットに充填されるため,肥料の1粒が入るか入らないかで大きくちがいがあらわれるものと思われた。そのため,混和均一性の優れるマイクロロングのほうが苗立のそろいが良かったと思われる(表1)。

 播種後53日目の溶出タイプ別苗生育は,溶出期間の短いほうが優れる傾向にあった。実際にポット育苗をする場合,育苗期間は50~60日程度であるため,溶出タイプも40もしくは70タイプがよいものと思われた(表2)。

 1箱当たりの窒素施用量のちがいと苗の生育は,箱当たりの窒素成分が6g,4g,2gの順によかったが,4~6gが適当と思われた(表3)。

 対照として燐硝安加里を施用した区では苗立が悪く,苗質についても窒素施用量に比例してよくはならなかった。これは,速効性である燐硝安加里の窒素成分が利用されることなく流亡したためと考えられる。

(2)培土の電気伝導度の推移

 育苗期間中,電気伝導度を測定したところいずれの区でも播種後30日程度までが溶出のピークと思われた。なかでもマイクロロングは電気伝導度が初期から高く,その後も他の区と比べ高い値を示した。また,施用量の増加に伴い電気伝導度値も上がっており,ロングMやロングトータルに比べ混和均一性に優れていることがわかる(図1)。

 ロングMやロングトータルでは溶出期間の短い70タイプのものがマイクロロング並みの値を示した。また,電気伝導度だけでいえば燐硝安加里も高い値を示したが,生育調査の結果とあわせて考えると被覆肥料の方が効率的に肥料成分を吸収していると推察される。

 以上のことからポット育苗においてそろった良質のネギ苗を得るには,下記のような条件が考えられる。

①育苗床土との混和均一性を考えて普通被覆肥料よりも細粒被覆肥料の方がよい。
②溶出期間は40もしくは70タイプで,1箱当たり施用量は窒素成分4~6gがよいと思われる。

 なお今回供試した肥料はいずれも高度化成であったが,成分含有率が低くなれば混和均一性もより高まるものと思われる。

<今後の課題>

 今回の試験では,生育調査にあわせ,培土の電気伝導度値も測定したが,緩効性肥料は速効性のものとちがい測定中にも培土に存在するため,扱いには注意が必要と思われた。

 また培土に使用した水稲育苗土は,非常に粒子が細かく野菜用培土としては物理性に多少問題があるため,ピートモスなどの混合も検討課題である。

 

 

異常気象下のLP肥料の溶出と水稲生育

愛知県農業水産部農業技術課
専門技術員 北村 秀教

Introduction

 愛知県では,水田農業経営体の育成を図るため,経営規模の拡大を進めており,規模拡大に伴う省力技術の一つとして,追肥作業を省略した全量基肥栽培を押し進めています。これに用いる全量基肥肥料は,愛知農総試と愛知経済連で構成される愛知県施肥防除改善協議会で,肥効パターンの種類が多く安定した肥効を示すLP肥料を用いて開発を進めてきました。

 1992年にシグモイド型の溶出を示すLPSS肥料とLP肥料及び速効性の窒素肥料を配合し,コシヒカリ等の極早生品種用とあいちのかおり等の中生品種用の全量基肥肥料の展示を行い収量,品質とも良好な結果を得ました。この結果をみて現場の強い要請もあり,翌年から本格的に販売され,第1図に示したように1994年度の普及面積は5,000ha強と水稲作付け面積の約15%にまで急速に普及しました。

 全量基肥栽培は,LP肥料を用いるため,水稲移植時の落水に伴う窒素の流出が少なく,環境保全型農業の確立にも寄与し,穂肥の適正施用時期を見誤らないため,経営規模拡大には今後不可欠になると考えられます。

 しかし,第2図に示したように,愛知県で普及が始まった1993年は低温寡照,1994年は高温寡雨と近年にない異常気象に見舞われました。これまでの異常気象下の施肥管理は,穂肥時期の移動や穂肥量の増減で対応してきましたが,全量基肥栽培では穂肥による対処が不可能で,現場では,肥効が水稲の生育の促進及び遅延に合致するか否かという不安に駆られました。

 このような不安感にもかかわらず,両年の水稲の生育,収量結果からみますと,第2,3表のように,異常気象下においても水稲の生育に大きな影響を与えず,また,穂肥時期の見誤りからくる収量,品質低下を示すことなく, 安定した生育,収量をもたらせました。この2年間の全量基肥肥料の溶出の変化が,何故水稲の生育を狂わせなかったのか,検討した結果を紹介したいと思います。

2.検討の方法

 水稲施肥窒素量診断プログラムにより5日毎のLP肥料窒素の溶出と,水稲の生育時期の変化から検討を行いました。用いた気温,水稲の生育時期は愛知農総試弥富農業技術センターの作期試験から得ました。また,生育,収量結果は,中生品種のあいちのかおりについては全量基肥栽培の普及が80%を超えた愛知県海部郡十四山村の結果を用い,極早生品種コシヒカリについては現地展示ほの結果を用いました。

 検討に使用しましたほ場は,弥富町内の一般的な肥沃度を示す土壌で,30℃4週間湛水静置培養発現窒素1.48mg/100g,全窒素0.107%の中粗粒グライ土です。

 LP肥料の溶出は,金野の反応速度論に従うとし,肥効タイプ,Q10=2という特性から反応速度,活性化エネルギーを導いて推定しました。

 水稲生育時期の変化にLP肥料の溶出の変化が追従できるか否かについては,穂肥に相当するシグモイドタイプのLP肥料の溶出の立ち上がり時期が,基準年(1987年)と比較して,また,通常の穂肥施用時期と比較して大きくはずれるか否かから検討しました。

3.全量基肥肥料の溶出変化と水稲生育時期の変化

(1)5月1日移植コシヒカリ

 コシヒカリの生育時期の変化とLP肥料の溶出時期の変化を重ね合わせて第3図に示しました。図の中の点線はLP肥料及び土壌窒素の累積溶出量を示し,棒グラフは白抜きの部分がLP肥料,黒塗りの部分が土壌窒素の5日毎の溶出量を10倍に拡大して示しています。また,小さい丸印と縦棒は各生育時期における適正な水稲窒素吸収量とその範囲を示しています。

 この図から読みとったシグモイドタイプのLP肥料の溶出の立ち上がり時期が出穂期の何日前に当たるかを第1表に示しました。

 水稲の出穂時期,LP肥料の溶出は共に気温が高まると早く,低いと遅くなりましたが,水稲の生育は,窒素の溶出の変化のように単純に気温や地温により決まるものではないため,LP肥料の溶出の変化と歩調を異にし,低温年(1993年),高温年(1994年)共にシグモイドタイプの溶出時期は,出穂期の25日前,16日前と基準年(1987年)の27日前に比べて出穂時期側にシフトしています。

 このようなズレにもかかわらず,第2表の全量基肥1(現在販売されている全量基肥肥料)の収量は基準年と類似した気温を示す1992年の収量と大差なく,3年間を通して28kg/10aの差でありました。一方,分施では38kgと年による収量変化は全量基肥より大きくなっています。

 この原因として次のように考えられます。一般的に穂肥適期を幼穂形成期頃としていますが,現実には,幼穂形成期はここに示した出穂期前何日と一定しているものではありません。高温年では,幼穂形成期から出穂期までの期間が短縮されることから,穂肥適期に相当する幼穂形成期は第3図に示した時期より出穂期側にシフトしていたと思われます。

 そのため,1994年のように一見してシグモイドタイプのLP肥料の溶出の立ち上がりが,穂肥施用適期よりかなり遅い年でも,実際にはそれほどズレは生じていなかったものと思われます。また,分施では穂肥適期を間違えると2kg/10a程度の窒素が水稲の生育に影響しますが,全量基肥では1日当たり0.12kg/10a程度の影響しか及ぼしません。

 このように,LP肥料の溶出は従来の速効性肥料と比較して,肥効が緩慢で水稲の生育の攪乱を大きく起こすことがないため,速効性肥料による穂肥がうまく水稲の生育に合致したときのような爆発的な増収はありませんが,常に安定した生育収量を現すものと思われます。

(2)5月25日移植あいちのかおり

 あいちのかおりについてコシヒカリと同様に第4図に生育時期の変化とLP肥料の溶出の変化を示しました。1987年の立ち上がり時期は,出穂前37日,1993年は34日前,1994年は38日前になると推定できます。

 水稲の生育が気温の影響を大きく受けるとすれば,1994年の出穂期は早まり,コシヒカリと同様に,穂肥に相当するシグモイドタイプのLP肥料の溶出の立ち上がり時期は出穂期側にシフトするはずですが,水稲が高温による生育遅延,日照等の影響も受けるため,出穂期は1987年と変化がなく,それに呼応するように,シグモイドタイプのLP肥料の立ち上がり時期も1987年の出穂期前の日数と変化がありませんでした。立ち上がり時期に影響を及ぼさなかったのは,立ち上がり時期に影響する6~7月の気温が,平均すれば1987年と大差ないことに依ると思われます。

 全量基肥によるあいちのかおり栽培が,水稲作付け面積の80%前後である十四山村の収量を第3表に示しました。両極端の異常気象であった1993年と1994年を通して収量変化が10%程度であったことから,現地ではこれまで抱いていた肥効と生育変化のアンバランスを生じないかという不安も解消しました。

 この原因として,コシヒカリで述べたように,水稲の穂肥適期が実際には出穂期がいつになるかによって決まり,分施で穂肥を施用している時期が必ずしも適期とは限らないこと,また,従来の分施では,適期をはずした場合に水稲の生育に与える影響が大きいことに比べて,全量基肥ではLP肥料からの溶出が穏やかであるため,影響も少なくなることが考えられます。

 このようにLP肥料を用いた全量基肥栽培は,穂肥前に極端に窒素を中断することなく,常に窒素の供給が行われ,幼穂形成期前後に肥効が高まるという過程を経ること,肥効の高まりも一時期ではなく,出穂期頃までに亘って続くこと等から,省力技術でありながら,気象変動による水稲の生育変化に対応しやすい合理的な施肥技術であるといえます。

4.次年度に向けて

 全量基肥肥料の開発に当たっては,倒伏させない,収量・品質の低下を防ぐことを第一義としました。そのため,コシヒカリではシグモイドタイプの溶出を極力遅くしました。しかし,1992年からの3年間の生育をみて,徐々に溶出するLP肥料のような緩効性肥料では,穂肥適期前から肥効が現れても倒伏を起こしにくいことがわかってきました。

 また,現在の極早生品種用の全量基肥肥料は,初期過繁茂を防ぐことを狙いすぎ,現場では茎数不足を感じるあまりに過剰施肥が行われ,かえって倒伏を助長する事例も現れました。

 そのため,初期の生育確保を図り,成熟期の肥効を速めて食味向上を狙った成分割合を検討しました。その溶出パターンを過去のコシヒカリの生育時期の変化と重ね合わせて第5図に示しました。

 この図から読みとりますと,1987年ではシグモイドタイプのLP肥料の溶出の立ち上がりは出穂期の36日前,1993年は39日前,1994年は22日前となります。この数値は,これまであいちのかおりで良好な生育・収量を示してきた中生品種用の全量基肥肥料の出穂期に対する相対的な立ち上がり時期に類似しています。

 第3表の全量基肥3が新しく採用する肥料による生育結果ですが,穂数も従来の肥料より増加し,収量も高まっています。1994年の成果だけでは早急な結論は出ませんが,1993年や1987年の気温で推定した場合も,あいちのかおりで見られる肥効と同様な肥効が推測され,1994 年以外の気象でも,この肥料により成果があがると考えられ,これまで伸び悩んでいたコシヒカリの全量基肥の普及が期待されています。

 また,全量基肥栽培を取り入れたいとの要望が現場で高まっており,施肥量を決める場合,土壌の窒素肥沃度の把握が必要なため,面的な広がりを持った土壌実態の把握が農業改良普及センター,農協で進められようとしています。このように面的に土壌を把握する気運が高まってきていること,第2,3表に示したように施肥窒素量も削減できることから,今後の環境保全型農業の定着に向けて大きな期待が寄せられています。

 元々環境保全機能の高い水田ばかりでなく,露地野菜等の畑作地帯において緩効性肥料を用いた全量基肥栽培を普及させ,肥料の利用効率を高めることに依る環境保全型の施肥技術を広めることが必要となっています。このためにも,水稲作経営の安定に全量基肥栽培が大きく寄与したという事実が必要であり,今後とも肥料の肥効,作物の生育に科学のメスを入れていき,より良い全量基肥施肥技術を確立する必要があります。

 全量基肥栽培がこのように現場の農業に科学の目を持ち込み,多くの人に科学の目を与えたことは,農業の発展,農学の進歩に対して大きく貢献したものと思われます。

5.参考文献

1)北村秀教・今泉諒俊:水稲への窒素供給からみた全量基肥施肥法,愛知農総試研報,22,51~60(1990)

2)北村秀教・今泉諒俊:土壌窒素発現簡易予測法を用いた水稲施肥窒素の発現,土肥誌,62,439~444(1991)

3)金野隆光:土壌中の生物活性と温度,土壌の物理性,41,7~16(1980)