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第492号 1999(H11).02発行

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家畜排泄物堆肥によるキャベツ栽培
-堆肥でキャベツ栽培-

鹿児島県農業試験場大隅支場 土壌改良研究室
室長 上村 幸廣

Introduction.

 本県の畑地はシラス台地上の黒色火山灰土壌が約7割を占めている。シラス台地畑土壌は保肥力,保水力が小さく,養分の下層土への溶脱が大きい。したがって,土壌による養分の低濃度化,浄化能力も小さい。一方,本県で産出される家畜排泄物を全農耕地に還元すると,窒素で10アール当たり40kg以上に達する。

 このような実態から,一部の地域では水系を含めた環境汚染が発生している。そこで,家畜排泄物を主体とした露地野菜の省施肥体系技術を確立することによって,河川水,地下水,井水の硝酸態窒素濃度を低減することが急務となっている。

 一方,野菜の高品質化を図るためには,有機物を主体とした養分供給であっても,野菜の生育に好適な高濃度の養分供給を必要とする時期がある。また,有機物の養分は1作では,その一部しか有効化せず,野菜栽培だけで,高品質生産と系外流出を少なくすることの両立は困難である。そこで,残存した養分を効果的に吸収する作物と組み合わせ,系全体として野菜の高品質化生産と物質循環のクリーン化を図る必要がある。

 ここでは,冬作キャベツの養分供給を家畜排泄物で代替し,夏作甘しょで残存養分をクリーニングしつつ高収量を維持し,生態系に調和した野菜の高品質・安定生産システムを構築する。

1.家畜排泄物だけでキャベツを栽培し,夏作物でクリーニング

 牛ふん堆肥,豚ぷん堆肥,鶏ふん堆肥だけでキャベツを栽培し,夏作の甘しょで残存した養分をクリーニングする方法で,3か年試験を継続した(表1)。なお,窒素肥効率を牛ふん堆肥4割,豚ぷん堆肥5割,鶏ふん堆肥を6割として,キャベツを栽培し,夏作甘しょには対照区の半量の化学肥料を施用して栽培した。

 土壌条件は厚層多腐植質黒ボク土(久米川統)で,キャベツ品種は金系201を供試した。

 育苗は128穴のセルトレイを用い,培養土は与作N-150にマイクロロング40で窒素250mgL-1に調整した。

 家畜排泄物堆肥の窒素肥効率を勘案して施用したために,牛ふん堆肥のカリウム施用量は結果的に多くなった。また,鶏ふん堆肥は採卵鶏を供試したためにカルシウム含有率が高いものを施用した(表2)。

 3か年の平均キャベツ結球重では,家畜排泄物堆肥だけで栽培したものが対照区(化学肥料栽培区)を上回った(図1)。なかでも,鶏ふん堆肥区はその効果が大きく,6%程度増収した。このなかで,牛ふん堆肥区の結球収量は連用2年目までは他の家畜排泄物堆肥区を下回ったが,3年目になって増収した。

 このことは,牛ふん堆肥は他の家畜排泄物堆肥に比べ,窒素肥効が遅効性で,当然単年度の窒素投与量が多くなる。それに伴い,土壌蓄積量も多くなり,連用が相乗効果となって,土壌からの窒素無機化量も多くなったためと考えられる。

 収穫時の結球中全窒素含有率は家畜排泄物だけで栽培したものが低くなったが,牛ふん堆肥,豚ぷん堆肥で栽培した結球中のカリウム含有率は対照区を上回った(図2)。一方,結球中の硝酸態窒素含有率は鶏ふん堆肥区で若干高くなったが,問題になる程度ではなかった。

 また,結球,外葉ともに対照区の全窒素吸収量が最も多く,家畜排泄物堆肥施用区のなかでは,豚ぷん堆肥区が低くなる傾向であった(図3)。

 つまり,家畜排泄だけで栽培したキャベツが収量は高く,全窒素含有率,全窒素吸収量は低くなる結果になった。このことは,農作物の全窒素低濃度化に寄与したことはもちろん,一時期に高濃度の窒素が供給されなかったこともうかがえる。

 最近,有機農産物で,ある種の病気が治癒したとかアトピーの症状が軽減されたとかの話題を良く耳にする。

 ここで,有機栽培されたキャベツの総ビタミンC,抗酸化能,Brix等を検討した(図4)。

 牛ふん堆肥で栽培されたキャベツの結球中の総ビタミンCは増加する傾向で,これは還元型ビタミンCの上昇に起因することが判明した。

 また,抗酸化能は低いほど良いとされているが,これも牛ふん堆肥で栽培されたキャベツ結球が低くなった。これらの現象は試験反復数を今後増やさないと一概に結論づけられないが,有機栽培農産物が化学肥料栽培のものと内容成分が異なるとすれば興味ある結果である。

 家畜排泄物施用に伴う養分溶脱状況を把握するために写真1の装置をほ場内に埋設した。

 キャベツ生育期間中の窒素溶脱量をみると,鶏ふん堆肥区が多く,牛ふん堆肥区,豚ぷん堆肥区の順で,対照区が最も低い傾向であった(図5)。これらの傾向はポーラスカップで採取した土壌溶液中の硝酸態窒素含量の動態と同様の傾向であった。

 収穫後の土壌では,全炭素,全窒素含量が家畜排泄物堆肥の連用で上昇するのは当然であるが,トルオーグリン酸含量もかなり増加した。また,交換性カリウム,マグネシウム含量は牛ふん堆肥区での増加が顕著に認められた(表3)。

 ここで,1995年から3か年間のみかけの施肥窒素収支をみてみると,残存窒素は牛ふん堆肥が最も多く,対照区が低い傾向であった(表4)。このことは,牛ふん堆肥は吸収窒素以外(作物生産に寄与しない窒素)のものが多く,牛ふん堆肥だけで作物生産する際には投与量が多くなり,結果的には将来的にわたって環境負荷につながることが示唆された。

Summary

 牛ふん堆肥,豚ぷん堆肥,鶏ふん堆肥だけで窒素肥効率を勘案し,冬作キャベツ栽培を行い,残った養分を夏作甘しょでクリーニングしつつ,高生産を維持するシステムを検討した。

 その結果,家畜排泄物堆肥だけでのキャベツ栽培は十分可能であった。しかし,カリウム吸収量の高い甘しょでクリーニングしたにも関わらず,牛ふん堆肥の土壌への全窒素,交換性カリウムの蓄積量等は多かった。このことは,牛ふん堆肥はもともとカリウムを多く含有する資材であるが,窒素肥効率が低いために牛ふん堆肥だけで栽培しようとすると多量に施用しなければならない。そのことが,これらの現象を引き起こすことが明らかになった。したがって,今後は作物吸収特性に合致した有機物のブレンド施用,あるいは化学肥料とのブレンドが重要と考える。

 

 

ケイ素の生物学-2-

京都大学名誉教授
高橋 英一

予備知識としてのケイ素の化学

 生物とケイ素の関わりをみてゆく前に,「ケイ素の化学」の中から参考になると思われる知見を紹介しておきます。

存在量

 ケイ素(silicon)は炭素族に属しており,周期表では炭素の下,ゲルマニウムの上に位置しています。ケイ素は地球表層には酸素についで二番目に多い元素で,全体の約26%(酸素は約50%)を占めています。ケイ素はこの酸素と親和性が極めて強く,常に酸素と結びついて,二酸化ケイ素(silica)またはケイ酸塩(silicate)として存在しています。これらは岩石や土壌の主要成分になっており,ケイ素はまさに「無機界の王」と呼ばれるにふさわしい元素です。ちなみにケイ素の英語名のsiliconは火打ち石(成分はほとんどがシリカ)を意味するラテン語のsilexに由来しています。

 一方炭素は,量的には0.08%とケイ素の300分の1ですが,これなしでは生命が成り立たない元素として「有機界の王」の地位を占めています。またケイ素の弟分に当たるゲルマニウムは極微量(0.00065%,ケイ素の40,000分の1)存在するに過ぎませんが,後で述べるように生物による吸収の面ではケイ素とよく似たところがあります。

溶解度と溶存形態

 自然界には多量のケイ素化合物が存在しますが,水には僅かしか溶けません。水に溶けるとケイ酸)silicic acid)になりますが,その濃度は常温で約0.01%(2mM)です。ケイ酸は解離常数(pK1)9.8のきわめて弱い酸で,pH9以下ではほとんどイオン化せず単量体の分子状で存在します。そして濃縮によって溶解度を越えると,ケイ酸分子の水酸基(シラノール基)から水分子を放出して重合がはじまり,ゾル状を経て最後にはゲル(無定形シリカ)となって沈澱する特性があります。一方pH9以上のアルカリ性溶液中では解離してケイ酸イオン(silicate anion)の形になり,溶解度も増加します(図1,2)。

 河川水や土壌溶液中のケイ酸濃度は0.1~1.0mM程度で単量体ケイ酸の限界濃度よりずっと低く,また一般の土壌や生体のpHからみて,ケイ酸は電荷をもたない単量体の分子状で生体に吸収されると考えられますが,このことには大きな意味があります。

 表1は1ミリモルのケイ酸のみを含む溶液およびこれに等ミリモルのリン酸を共存させた溶液のpHを,それぞれ6.0(100%分子状ケイ酸),9.7(50%分子状+50%イオン状),11.0(4%分子状+96%イオン状)の三段階にかえて,これらの溶液からのイネ苗によるケイ酸およびリン酸の吸収を比較した結果です(図3参照)10)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 ケイ酸単味液からのケイ酸の吸収は,全部あるいは大部分が分子状で存在していたpH6.0系列およびpH9.7系列(試験終了時のpHは7台に低下しており,大部分が分子状で吸収されたと思われる)は,ほぼ同様の旺盛なケイ酸吸収(リン酸の4倍)を示しましたが,試験期間中大部分がケイ酸アニオンで存在したpH11. 0系列における吸収は半分に低下しました。これに対してリン酸の場合はいずれのpHの系列もほぼ等しい吸収量になっています。

 ケイ酸吸収に対するリン酸共存の影響はpH6.0およびpH9.7系列では養分としての効果のためかやや促進的ですが,ケイ酸がアニオンとして存在するpH11.0系列では顕著な吸収抑制がみられます。

 このように陰電荷をもったイオン状ケイ酸は,分子状ケイ酸にくらべて吸収が劣り,また共存するアニオンの競合をうけます。イネのケイ酸吸収力が著しく大きいのは(これについては後で詳しく述べます),一つには根のまわりに溶けているケイ酸が電荷をもたない分子状ケイ酸であることによっています。わが国の水田土壌がアルカリ性でないことは,イネがケイ酸を吸収するのに好都合であるといえます。

 なお日本語では二酸化ケイ素もケイ酸と呼ぶことが多いですが,まぎらわしいのでここでは二酸化ケイ素に対してはシリカという用語を使います。

ケイ酸と重金属との反応

 ケイ酸は三価の鉄やアルミニウムイオンと反応することが知られています。

 たとえば微粉末シリカの水に対する溶解度はアルミナの粉末を加えると激減し,同様にアルミナ粉末の懸濁液にシリカを加えるとアルミナの溶解度も低下します。これは固相のシリカあるいはアルミナの表面に,極めて難溶性のケイ酸アルミニウムが生成するためと見られます。

 この反応は,両者が骨格成分になっている土壌からのケイ素あるいはアルミニウムの可溶化に影響します。そのため土壌の有効態ケイ酸を弱酸可溶性のケイ酸の量だけで表すのは不十分で,同時に可溶化するアルミニウムとの量比で示した方がよい場合があります。また最近,酸性化した水域に溶け出したアルミニウムに共存ケイ酸が作用してhydroxyaluminosilicateを生成し,生体(魚など)によるアルミニウムの吸収やその毒性を軽減する効果のあることが注目されています11)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 ケイ酸は水に溶けている鉄と反応して鉄の酸化沈積を妨げることも知られています。地下水の中には多量の二価鉄を含むものがあり,この鉄は空気中に放置すると酸化されて三価の水酸化鉄として沈澱しますが,共存するケイ酸が多いと沈澱を生じないことがあります。これは酸化生成した三価の鉄がケイ酸と複合体をつくり,安定化するためです。ケイ酸と鉄の反応は生理的pH(pH7.4)でも起こるので,生体内での鉄の利用や生理作用への影響が考えられます。

ケイ酸と有機物との反応

 自然界に有機ケイ素化合物(C-Si 結合をもった有機物)が存在する証拠は得られていませんが,生体成分とケイ酸との結合については以前から知られていました。たとえば皮革なめしや紙の湿潤力増加のためにケイ酸溶液処理が行われたことがありますが,これはケイ酸と生皮のコラーゲンあるいは紙のセルロースとの反応を利用したものです。

 また動物の支持組織(結合組織,軟骨組織,骨組織,血管組織など)の成分であるムコ多糖類のヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸や,植物の細胞間接着物質であるポリウロナイドのアルギン酸(褐藻),ペクチン(陸上植物)には数百ppm以上のケイ素が含まれているという報告があります12)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 このケイ素は透析されず,うすい酸,アルカリにも安定で,強アルカリ処理によってはじめて離れるので,これらの中ではケイ酸の水酸基(シラノール基)と多糖の水酸基の間にR1-Q-Si-Q-R2のようなシロキサン結合が生じ,架橋によってムコ多糖やポリウロナイドの構造が強化がされていると考えられています。このような生物組織強化へのケイ酸の利用は動物,植物に共通していることが分かります。

 ケイ酸は生物体内で濃縮されると脱水縮合してケイ酸ゲルになりますが,生成ゲルの表面は生体の膜壁成分によってコートされて溶けにくくなっています。ケイ酸ゲルは炭酸塩のように結晶化せず,無定形でどのような形にもなるので,ゲル化が起こる場所の組織構造をよく反映します。ケイ藻被殻の見事なケイ酸の骨格の文様はその良い例です。また植物種の同定が可能なプラントオパールやケイ化木が存在するのも,このようなケイ酸の性質によっています。

 自然界に普遍的に多量に存在するケイ素は,水に溶けると水酸基を四つもったケイ酸になりますが,このシラノール基はpH2からpH9近くまでの広い範囲にわたってイオン化せず,ケイ酸は分子状の単量体として存在し,溶解度も殆ど変わりません(25℃で約2mM)。

 そして溶解度を越えて濃縮されると重合し,最後は無定形のシリカゲルとなって固化します。このようなケイ素の性質は,生物による吸収や生体内での作用にみられるケイ素の特性に関わっています。

References

10)高橋英一,日野和裕:ケイ酸の溶存形態がイネのケイ酸吸収におよぼす影響について,日土肥誌49,357-360(1978)

11)J. B. Birchall, C. Exley, J. S. Chapell & M. J. Phillips:Acute toxicity of aluminium to fish eliminated in silicon-rich acid waters, Nature,338,146-148(1989)

12)K. Schwarz:A Bound Form of Silicon in Glycosaminoglycans and Polyuronide, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 70(5),1608-1612(1973)

 

 

JA十和田市の水稲箱育苗におけるロング424-M100
及びロング入り苗箱専用肥料の導入経過と現状について

JA十和田市藤坂支所 経済課
調査役 杉山 久

1.はじめに…JA十和田市の概要について

 JA十和田市は青森県の東南部ほぼ中央部に位置する,県都青森市へは北へ60km,八戸市へは東へ30km,県南部の空の玄関三沢空港へは20kmのところにある十和田市にあり,昭和47年2月1日に市内8JAが合併した,農家戸数3,573戸,耕地面積10,023ha,1戸あたりの耕地面積2.8haの自然豊かな純農村地帯のJAです。恵まれた自然条件を利用し『米,やさい,畜産』を3つの柱にした複合経営によって新たな地域農業の振興が図られている。

 米については,冷涼な気候を十分に生かし,農薬散布回数の少ない【安全良食味米むつほまれ】を約2万トン,やさいについては,ナガイモ3,500トン,ニンニク1,500トン,ボケシラズの愛称で夏秋ネギ2,000トンと根ものを主にキュウリ,トマト,ピーマン等果菜類まで作付けは多種にわたっている。

 畜産については,雄大な放牧場で黒毛和牛,日本短角種,三本木和種など2,000頭が飼育され,生産される堆肥は,やさい栽培に利用されている。

2.水稲育苗箱の慣行施肥の状況と問題点について

 水稲苗箱の施肥については基肥を施し,生育状況に応じ追肥をするパターンで育苗作業が行われてきた。

 しかし,水稲の育苗期間は,水田への施肥,耕起,代掻き作業,また越冬やさいの管理,各種露地やさいの蒔きつけ,植付準備等,水稲苗代管理以外の作業が大きな比重を占めることから,水稲苗の追肥時期の見極め,追肥,追肥後の水洗といった1連の作業が困難になってきた。

 さらに10数年前より水稲育苗ハウスの跡地利用として,各種葉菜類の作付けが行われはじめ土改剤として石灰類が施用されたことから,水稲苗箱の置き床が水稲の育苗に適さないアルカリ性に傾き苗質の低下を招くこと,また,栽培者の老齢化,兼業農家の増加による労働力不足から,田植時の水稲苗箱起こし作業軽減が大きな課題となった。

 以上のことから,これらの対策として置き床と水稲育苗箱を,不織布によって隔てる,いわゆる置床遮断水稲育苗がほとんどの農家で行われるようになった。この結果,従来の育苗法では,置き床から水分と一緒に肥料の供給が期待できたが,置床遮断水稲育苗では,根が置き床の土まで入り込むことがないので,置き床から水分,肥料養分の供給がなされないこととなり,追肥作業が省略できないものとなった。

 このようなことから追肥時期の判断の不適切,追肥量の間違い,追肥むら,追肥をした後の水洗いの遅れによる肥料ヤケや,追肥作業を省くため苗箱への元肥を多投したことによる発芽不良や徒長による苗質の低下等の問題も多くなった。

3.ロング肥料を使用した水稲箱育苗への取組みと現状について

 すでに述べた理由から水稲苗代期間における追肥作業を省略した育苗方法が模索された結果,慣行法にロング424-M100肥料を追加使用する方法並びに,ロング入りの苗箱専用肥料を使用した追肥不要の水稲育苗法が試みられ,結果も良いことから急速に普及した。

ロング施用の効果とメリット
(平成4年2月1日農業と科学より抜粋)

(1)追肥不要の省力的育苗ができる。
   育苗床土にロングを混合使用することにより,育苗期間中苗の養分吸収に合った肥料分の供給が可能となり追肥不要の省力的育苗ができる。

(2)苗の養分含有を高められる。
   育苗期間中ロング肥料分が序々に安定して溶出するため,苗は,必要とする養分を必要なだけ無理なく吸収でき,それによって苗の養分含有量が安定し且つ,高めに保持できる。

(3)田植え後の活着が良い苗ができる。
   上記(2)の苗の養分含有量が高いことに加えて,苗体の硝酸体窒素含有量が高くなることと相まって,苗の発根力が強くなり,その結果として田植え後の活着が良くなる。

(4)本田への弁当肥としての効果
   育苗期間中のロング424-M100肥料分の溶出率は,約30~35%程度であり,残りの約65~70%は,本田に持ち込まれ且つ,苗の根元に施用された状態となる。それ故,局所的な施肥となり,弁当肥としての効果によって,上記(3)の効果と相まって初期の生育を良くする。

(5)追肥作業実施場での間違いの防止
   慣行施肥を行う場合,追肥時期の判断の不適切,追肥量の間違い,追肥むら,肥料ヤケの問題があるが,ロングの床土混合施用によって解決できる。

 当地での実際の使用法については,①ロング424-M100タイプを使用する場合,1箱あたり窒素成分で1gの育苗肥料とロング424-M100を50g施用。②ロング入りの苗箱専用肥料の場合は,1箱あたり90g施用という2通りの体系で行われている。

 生育状況については,
①ロング424-M100タイプの場合,苗代期間が低温に推移すると,ロング肥料から肥料溶出が少ないことから,硬めの苗質に仕上がるものの,草丈が若干短いという生育相となる。
②ロング入り苗箱専用肥料の場合は,苗代期間が高温に推移すると草丈がのびすぎ,やや軟弱になり田植後の低温,強風により植痛みの発生もみられる。

 しかしながら①,②いずれの場合も致命的なものではなく経験を積み重ねることにより,それぞれの施用量を増減することで,良苗確保が十分可能となっている。

 先に述べたとおり,当地域において年間を通して最も忙しい時期における水稲育苗箱追肥作業省略の意味合いはきわめて大きいものがある。

 下記に示す通り,苗箱に関わる肥料代金がロング肥料を使用した場合,慣行施肥法に比較し高価になるという問題を残すものの,取り組む農家が年々多くなり,平成10年春の段階では,ロング424-M100肥料で約1,000 袋,ロング入りの苗箱専用肥料で約1,700袋の供給があり,水田面積に換算すると約1,000ha分の育苗に使用されていることになり,当地域の水田面積の約20%に相当する。

 ロング肥料を使用した苗は移植後の活着も良好なことから,今後さらに使用されていくものと思われる。

 

 

芝草管理における肥効調節型肥料の利用

篭坂ゴルフクラブ
富士高原ゴルフコース管理部
部長 薗部 博

Introduction

 ゴルフ業界がバブル崩壊と共に「冬の時代」を迎えて久しい。景気は相変わらず低迷状態,そしてゴルフビジネスを取り巻く経済情勢も一層厳しさを増している。そして大多数のゴルフ場では経営体質の健全化が大きな課題となっており,管理と運営コストの低減や売り上げを拡大するための新機軸の導入など生き残りを掛けたリストラや合理化に懸命である。

 これまで日本のゴルフ場におけるコース管理の歴史は「いかに高品質のコースを提供できるか」であった。しかしこのような厳しい環境の中,ゴルフ場間の競争を勝ち抜いていく上で来場者に満足感を与えるメンテナンスの実現はもとより,経営体質の改善を進める上で不可欠な省力・低コスト管理の達成,加えて現在世界的に大きな流れになっている環境保全型管理の実践が至上命題となっている。

 そこで本稿では,低コスト・省力化に有効で且つ環境への影響が少ない施肥管理技術の一つの方法として,肥効調節型(コーティング)肥料の利用について紹介したい。

2.ティーグランド省力施肥試験

 静岡県JA御殿場ではJA経済連及び関係各社協力のもと御殿場ゴルフプロジェクトチームを結成し,年1回管内のゴルフ場19箇所を対象に芝草管理に関係する各種新製品の紹介や外部講師を招いての研修会の開催,また定期的な土壌分析による診断などを行なっている。そのような中,私どものゴルフ場が位置する北郷地区では10年以上前よりJA北郷支所を中心に北郷地区芝草研究会を発足,対象となる7箇所のコース管理責任者と前述したプロジェクトチームとの協同で,直接管理に関連する各種試験を行ない知識や技術の向上を図っている。

 コーティング肥料を利用してのティーグランド省力施肥試験もその中の一つであるが,すでに(財)関西グリーン研究所の嘉門保彦氏によりコウライシバ・フェアウェイでのモアによる粒のカット率とスイーパーの施行による粒の収奪される量の試験がなされている。そのため1994年から2年間に渡って行われた試験では慣行施肥との生育比較を目視で行ない,その裏付けとして両者の刈り草中に含まれる葉中チッソ量の比較を行なった。

 この試験に使用したコーティング肥料は,チッソ旭肥料株式会社のロング424(14-12-14)100日夕イプである。1回目施肥日を慣行施肥と同時期の4月初旬としたため,初期溶出を補う意味で高度化成を同時施用した。試験では本コースのティーグランド(ペレニアルライグラス)1面を2分割し,一方を慣行施肥区もう一方を試験区とし生育の比較を行なった。

 表1は試験区及び慣行施肥区の施肥実績である。ゴルフ場のティーグランドでは,一般に生育シーズン中チッソ換算で㎡あたり年間20~30gの成分を10回以上の頻度で分施している。そのため慣行区では年間12回の施肥回数となっている。これに対し試験区では,省力施肥という目的上施肥回数を減らしたいとの理由で年2回とした。慣行区に対し試験区の年間施用成分量が少ないが,これは溶出シュミレーションで1回目の施肥量が規制を受けたためである。

 表2は第1回施肥後の刈り草中に含まれる葉中チッソ量の推移を半月ごとに調査したものである。年間を通して試験区が若干低めに推移しているものの,両者に大きな違いは見られない。それを裏付けるように試験区の施用養分が低いにも関わらず,目視による評価でも慣行区と同様の生育を示していた。

 また試験区では晩秋頃より慣行区に対して密度が高まり,更に翌春のグリーンアップ(生育開始時の緑色)では慣行区に対し目視でもはっきりと緑色度の高い事が確認された。これは10月4日に施肥した2回目の肥料の初期溶出によって新しい分けつ茎の生育が促進されたこと,さらに春先の地温の上昇に伴い溶出した養分が根の活動開始と共に吸収されたことが緑色度のアップにつながったと思われる。これについては千葉農試主任研究員青木氏の試験により,春施肥による早春の緑色度の向上(コウライシバ)が確認されている。

 以上のことから,試験の目的である肥効の持続性の評価において,ティーグランドでのコーティング肥料の利用は十分可能との結果を得ることができた。また,秋に施用した成分の残りが春の地温の上昇とともに溶出するため,施肥のタイミングをはずさないという結果も得ることができた。

3.コーティング肥料利用による省力・低コストの成果

 以上の結果を踏まえコーティング肥料の採用は問題がないと判断し,1996年は18 ホールのティーグランドで一年間試験的に採用,翌1997年からは36ホールのティーグランドでコーティング肥料を主体とした施肥設計に移行した。またノシバを採用しているフェアウェイ・ラフにおいても,基幹肥料として設計に組み込み現在に至っている。

 ’95の慣行施肥,’96の一部採用,’97以降の本格的な採用と移行していった当コースに於るティーグランドとフェアウェイ・ラフの年間施肥回数及び金額,そして作業時間の比較を行なったのが表3と表4である。

 表3のティーグランドでは’95の慣行施肥と’98を比べた場合,年間の金額は変わらないが施肥回数は1/3に,延べ作業時間は2/3に減っている。作業時間が1/3にならないのは,ティーグランドへの施肥を行なうときに肥料が外へ飛散しないようにベニヤ板を持つ補助の者が一人計算に入っているからである。また表4のフェアウェイ・ラフでは,同じく’95と’98を比べると施肥回数は約1/2に,作業時間は1/3,金額は2割減となっている。

 以上のように,コーティング肥料を主体に置いた施肥管理での省力・低コストの効果は非常に大きなものとなっている。また,現段階での施肥計画は慣行施肥での施用成分量を基準として立てているため,今後は当コースの環境に合ったコーティング肥料の適正施用量を見つけだすことが課題となってきた。

4.コーティング肥料利用の注意点

 コーティング肥料は速効性の肥料を被膜によって包み込み,中の成分が被膜に空いた穴から徐々に溶け出して植物に吸収される一種の緩効性肥料である。

 ゴルフ場の場合,一度植え付けた芝生には耕転などの作業が行なえないため表層施肥が基本となる。また省力施肥という目的上施肥回数が少ないため,1回の投下成分量が40日から100日分と相当量になる。したがってコーティング肥料を施用する際の注意点としては,施用後の肥料が機械や踏圧によって破損されて起こる異常溶出,また刈り込みやスイーパ一作業による粒の収奪に注意しなければならない。

 これらの対処としては,
※施肥の前にコアリング(芝生に穴を空ける作業)を行ない,少しでも穴に肥料が入るようにする。
※施用後は通常より目土を厚めに施す事により粒を埋め込み,破損と収奪を少しでも防ぐようにする。
※施用後は少なくとも1ヶ月間スイーパーの施行を控える。
※施用した粒が少しでも地際に沈むように,中粒もできれば細粒を使用する。また必要に応じて施肥後にブラシ或いはマットなどで擦り込む。

 以上のような方法があげられる。

 次に今回の試験で使用した100日夕イプとは,地温25℃でチッソ成分の80%が溶出するのに100日を要するタイプのことである。他に40日から360日までの溶出タイプがあり,三要素成分の内容も山型からV型肥料まで各種ある。使用するタイプと施肥日そして地温のデータをチッソ旭肥料株式会社に送ると,チッソ成分の80%以上が溶出するまでの日数及び10日単位の溶出率についてシュミレーションのサービスが受けられる。

 そして,これらを組み合わせて施肥計画を立てることになるのだが,注意点としてはシュミレーションの基となる気象データはあくまでも地温ということである。

5. Conclusion

 ゴルフ場での施肥の理想は「芝草が要求する時期に要求する量を満たすこと」である。一般農作物と違いゴルフ場の芝草における施肥は多収量を目的とせず,スポーツグランドとしてのダメージからの回復や密度の維持,また見た目の美しさに主眼を置いている。

 そして施用した肥料を芝草が吸収する割合は一般にそれほど高くない。肥効を高め施肥効率の改善をすることは,経費の節減ばかりでなく環境保全の面から見ても極めて重要である。

 コーティング肥料(肥効調節型肥料)の利点としては,チッソの流亡・脱室の軽減,過剰吸収の抑制,肥効の持続性,濃度障害の回避,施肥回数の節減などが挙げられる。肥料成分の溶脱・流亡を抑制することは,環境への影響を配慮する上で重要と考えている。

 以上のことから,これからのゴルフ場における施肥技術の一つの方法として,コーティング肥料の利用は緩効性肥料とともに今後ますます注目される技術になると確信している。

 最後になりましたが,今回の試験にご協力頂いた御殿場プロジェクトチームの皆様に感謝致します。