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§北国から見た肥料の違い
北海道農業試験場畑作研究センター
畑作研究センター長 西宗 昭
§被覆肥料を用いた畝内条施肥によるハクサイの施肥改善試験
茨城県農業総合センター農業研究所
Soil Fertilizer Laboratory
主任 池羽 正晴
§薬用植物栽培の現状と薬用植物園の役割
富山県薬事研究所付設薬用植物指導センター
副主幹研究員 寺西 雅弘
北海道農業試験場畑作研究センター
畑作研究センター長 西宗 昭
熊澤先生の「豊かなる大地を求めて(1989)」に,「肥料」は明治以後の造語で,もとは「こやし」であり,土壌を肥沃にするものとされている(熊澤喜久雄 1989)。今の土づくり資材や有機物のイメージである。一方,「施肥の理想は作物の必要な時に,必要な養分を供給すること」といわれ,この場合の肥料は化学肥料のイメージになる。
21Cに入ろうとする時に19Cの話で大変恐縮だが,約160年前,肥料の科学的基礎は,急速に展開する近代化学を駆使した「植物の生育に必要な構成成分とその補給法」の追求により構築され,以後,西欧における肥料の考え方は腐植説から無機栄養説ヘ転換して化学肥料の時代へと進んだ。
一方,工業が発展途上にあった日本,特に北海道では,約130年前の開拓から戦前までは自給肥料と有機質肥料に依存した肥料不足の時代が続いたといえる。戦後の化学工業の発展が,尿素を始め,今日の多様な化学肥料の潤沢な供給を可能にしたが,30年ほど前から多肥化の問題が顕在化してきたといえる。
例えば,北海道のてん菜でも1961年から1971年の10年間に窒素施肥標準は堆肥2~3t/10a施用の前提で1.6倍のN16kg/10aに高まり,有吉佐和子の複合汚染の出された直後の農家施肥実態調査によるてん菜の最高窒素施肥量はN40kg/10aの多肥が記録されている。また,30年前の米の生産調整の始まりとともに有機栽培指向が進み,昨年,JAS法に「有機農産物の認証制度」が盛り込まれるに至っている。
時代とともに肥料の意義や肥料への期待の違いが続いており,農業への要求もこの60年の間に[食糧増産→多収→高品質→高収益→計画生産→安全・機能性]といったように大きく変わってきている。
しかし,化学肥料を否定するだけでは食糧生産の維持は極めて難しく,新農業基本法に盛り込まれた「肥料の適正な使用の確保」は,問題点は反省するとして必要以上の施肥を改め,肥料の違いに留意した「上手な環境保全型施肥技術の開発の期待」を意味すると理解している。
入省直後,新肥料の肥効試験を担当しながら,植物の生活における窒素(プリヤニシニコブ:1865-1948)」に次のようなことを学んだ。錬金術の時代から硝石(硝酸-N)は「肥沃の塩」として広く知られていたが,肥料の科学的基礎が確立しつつあった19世紀に,チリ硝石がはじめてハンブルグに着いた時,買い手が現れずに海に投げ捨てねばならなかった。
また,当時,農場では作物生産に対する硝石の効果が認められていたが,土壌の有機物が硝石をアンモニアに還元するからであると説明された。理由は,植物が利用できる窒素はアンモニアであるとの学説が当時の主流だったことにある。逆に,19世紀後半の硫安を用いた水耕栽培の結果から,植物はアンモニア-Nを利用できないと結論づけられたりした。理由は,生理的酸性肥料の考えが確立されておらず(図1),アンモニアが吸収された後に残った硫酸により水耕液が酸性になって植物の生育を妨げたからである。

当時も農場では作物生産への硫安の施用効果が石灰の施用により高まることが既に知られていたが,水耕栽培でアンモニア-Nも硝酸-NもpHを調節することにより植物に有効利用されることが科学的に定着したのは20世紀直前である。
生理的酸性の被害回避の必要性は今日の圃場にも当てはまり,畑地ではアンモニアが硝酸に変化して作物に吸われることは現在ではごく普通の考えであるが,生理的酸性や硝酸化成の考えが成立する以前には,これとは反対の解釈が常識として定着していたわけである。
また,入省当時,十勝の乾性火山灰土壌の生産力が低い要因の一つに土壌からの肥料成分の流亡,特に降雨による表層からの硝酸-Nの急速な消失が問題視されていた。そこで,硫安とチリ硝石を単独で施用し,窒素の土壌中の移動とてん菜の施肥窒素利用率との関係を調べてみた。
硝酸-Nはアンモニア-Nより施肥位置から下ヘ,作土層から下層土ヘ確かに早く移動したが,てん菜の最終的な施肥窒素の利用率は両窒素間に大差がなかった。この場合の根の伸張をみると,根は下層に移動する両窒素を追うように伸びていた。一方,硝酸系の肥料をとうもろこしに施用した場合,特に低温時の生育初期の茎葉がリン酸欠乏の症状に似た赤紫色を呈し,低収になる現象をしばしば観測した。
実際に圃場に施用される肥料の作物生育への影響の程度は,気温や降水量の気象条件,土壌のpHに限らず養分や水の保持能,作物の根の伸張や栄養特性によって左右され,肥料の違い,特に窒素利用率に関する違いは環境保全の面から極めて今日的問題でもある。その参考に,15年ほど前に集めた資料であるが,各地における施肥窒素の作物による利用率の違いを紹介しておきたい(表1)。

肥料が不足した時代には少ない肥料を作物に効率的に吸収させるために,肥料が潤沢になると肥料をより十分に吸収させるために,品質が求められると必要以上の肥料を作物に吸収させないように,作物の顔色,空の気まぐれ,土壌の力をうかがいながら様々な施肥技術が工夫されてきた。多肥化の過程では濃度障害の回避,品質重視の過程では収穫物の糖,窒素化合物,水分の調節が必要となる。
何れも「作物の必要な時に,必要な養分を供給する」ための工夫であるが,これらの施肥法を「分散施肥」といった考えで表2に整理してみた。これを大まかにみれば,本州の野菜作ではより分散度の大きい全面施用を,北海道の大規模畑作では集中度の大きい作条施用を基本にした分散施肥がとられてきたといえる。

しかし,26年前の第二次オイルショックの年,大根の芽が出なくて困っている内地の野菜農家を訪れたことがある。理由は肥料代を節約するために施肥量を若干減らして種子近くに作条施用したとのことであり,濃度障害であった。「普通,肥料を作条施用する場合,全面施用の1/3~1/5の施肥量で全面施肥の生育・収量が確保でき,それも種子から3~5cm程度の側方に離して施肥しないと発芽障害が起きる」といった情報を提供したことがある。
第6項で被覆肥料による質的分散の新しい事例を紹介するが,第1項で紹介したように低コストで高品質・健全な作物を環境への負荷を抑えて生産するシステムの構築が求められる今,施肥の分散度と集中度を組み合わせる方式を検討する意義は高いかもしれない。
現在,北海道の畑地のpH低下が問題になっている。理由は,基幹作物のばれいしょのそうか病やてん菜のそう根病が多発し,高pH圃場でこれらの被害が大きいので,石灰施用が控えられているからである。加えて,pH5~6が適するばれいしょでは酸度調節資材(硫酸第1鉄など)と硫安の局所多用よるpHを下げる対応が検討されている。逆に,pH6~8が適し,カルシウムを必要とするてん菜では石灰資材の局所施用の対応が検討されている。GPS(衛星位置測定システム)を用いて作付け畦を固定し,ばれいしょへの塩安やてん菜への硝酸カルシウム等を同じ位置に数年間続けて施用するのも効果的かもしれない。
この対応は,アンモニア-Nも作物に利用されるとの考えが定着する以前に繰り返された混乱現象の主因(生理的酸性肥料)の逆利用である。しかし,ある意味では「土壌を肥沃にするもの」としての肥料を否定することになり,低pH化による畑作全体の収量低下も懸念されている。
現在の対応が「緊急避難的対応」と位置づけられているように,最近開発された両病に強い抵抗性を持つ品種を用いたり,肥料の違いをうまく使い分けて収量水準を維持するとしても,早期に健全な輪作に戻ることがこれからの持続的畑作には重要となる。
1964~65年の農業技術研究所による「緩効性窒素肥料と硝酸化成抑制剤」の連絡試験を担当した。当初,硝酸化成抑制剤は施肥されるアンモニア-Nを土壌に保持させる上で有利と思われた。しかし,当時の硝酸化成抑制剤はアンモニア-Nの硝酸化成を極端に遅らせ,畑作物の初期生育の遅延による減収を招いた。硝酸化成抑制剤が水稲の乾田直播用に開発されたためか,乾性火山灰土壌はもともと硝酸化成能が低いこと,十勝の春先の温度上昇が遅いこと,全量作条基肥施用の畑作では全面施肥の水稲より多肥条件で,窒素が局所的に集中されていること等が影響した結果と考えられている。
一方,緩効性窒素肥料の中でも肥効発現に微生物作用を強く受けるクロトニリデン2尿素(CDU)は低温の十勝では最も不利と思われた。しかし,窒素肥沃度の低い乾性火山灰土壌で慣行施肥水準にCDU-Nを上積みすることによる増収効果が各作物でみられ,1971年度の北海道農業試験会議に提案し指導参考事項に採択されている。
CDU-N10kg/10a上積みにより窒素肥沃度の高い湿性火山灰土壌の慣行施肥とほぼ同レベルの窒素吸収量になるという,多肥・増収を求めた時の試験結果である。当然,CDUより肥効発現が早く,当作に対して有利な緩効性窒素肥料もあった。しかし,CDUは,窒素利用率が40~50%と低いがその無機化が作物の土壌窒素の吸収パターンに類似したことは大変興味あることであり,その後の研究で,土壌の窒素肥沃度の違いを考えるための多くのヒントを与えてくれた。
現在,粒状の速効性肥料を樹脂膜等で被覆し,肥料分の溶出を調節する被覆肥料が環境に優しい肥料として注目されている。被覆肥料の開発の歴史も古く,ちょうど30年前,3日で8%の窒素が溶出する条件の被覆チリ硝石を試験的に製造してもらった。この被覆硝酸-Nで標準施肥N12kg/10a(硝酸-N4kg/10a+アンモニア-N8kg/10a)のアンモニア-Nの半量を置き換え(表2の特効性肥料による分散施肥),てん菜を全量作条基肥施用で栽培して約10%の増収効果を見た(表3)。

十分な解析調査をしていないが,被覆硝酸-N区では移植後40日までの茎葉の生育は標準区に劣るが根の生育は標準区に優り,その後は茎葉の生育も逆転して増収に結びつくパターンであった。てん菜に特効性の硝酸-Nの割合を高めた影響も反映されていると思われるが,移植後は極めて高温・乾燥条件下で推移したため,施肥窒素の1/3を被覆肥料に置き換えたことが塩類濃度の上昇を抑えて根の生育に有利に働き,施肥効率を高めた可能性が高いと考えている。何れにせよ,多肥によらない増収の可能性が示唆された貴重な体験であった。
一方,最近,当センターでは直播キャベツを速効性化成(速-N)と40日で窒素が溶出するタイプの被覆化成(緩-N)の全量作条基肥施用で栽培し,移植キャベツの慣行施肥(速-N22kg/10aの半量を全面基肥・追肥)に対して施肥量を大幅に減らしても球の肥大を確保でき,90%に近い施肥窒素利用率になることを確認した(表4)。

速-N4kg/10aと緩-N4kg/10aの作条基肥施用の球肥大が慣行施肥を上回った結果は,作条施用では全面施用の1/3程度に減肥しても施肥効率が高まって生育・収量水準を維持することが可能とのこれまでの知見を肯定するものである。なお,作条の緩-N施用量を増やすと球肥大はさらに進むが,施肥窒素利用率は低下する。
目標にある程度の我慢も加え,「肥料の違いも使いよう」であることを意識し,色々の作物に対する被覆肥料の上手な活用方法を考えることも環境保全型施肥体系の構築に重要であろう。
当センターでは,1976年から十勝芽室の乾性火山灰土壌で,1958年からオホーツク海沿岸の紋別の重粘土壌で,窒素,リン酸,加里の単用あるいは欠如処理をした三要素試験を続けている(1976~1881年の芽室では湿性火山灰土壌と沖積土壌でも実施)。この試験では土壌養分供給力と作物養分反応特性を知ることができるが,両者を総合すると肥料を使わなければどの程度の作物生産になるかをイメージできる」(表5)。


肥沃度の低い乾性火山灰土壌における標準施肥に対する無肥料の収量指数は,豆類が20~41,秋小麦が17~43,てん菜が4~22,ばれいしょが8~16で,13年平均で約25となる。各要素欠如の影響は,4年目までは無リン酸の収量指数が無窒素より高いこと,無リン酸の大豆および無カリのばれいしょの収量低下の大きいことが特徴である。
しかし,重粘土壌での無肥料,無カリの収量指数は23,35であり,肥沃度が低いなりにもカリ供給能が高いといわれるこの土壌の特徴がうかがえる。なお,腐植層の厚い湿性火山灰土壌や肥沃度の高い沖積土壌での無肥料の収量指数は各作物を通しておよそ50~100の範囲にあり,肥沃度の高い土壌では肥料が無くても標準施肥の70~75%の収量水準を維持できることになる。このように,肥料の違いは土壌でも異なり,土壌の養分供給量を考慮した施肥がだいじになる。
一方,厩肥2t/10aのみを施用した場合の標準施肥に対する収量指数は,乾性火山灰土壌が38~97,湿性火山灰土壌が60~108,沖積土壌が49~97で,それぞれ平均で70,90,80となる。乾性火山灰土壌では厩肥によってかなりの生産水準を維持できることになるが,当然のことに,肥沃度の高い土壌では厩肥の効果も大きくない。ただ,なお,厩肥の利用にはいくつかの問題点があることを忘れてはならない。濃厚飼料依存度の高い酪農での厩肥は海外資源とみることができ,移動・集積・散布のためには機材や施設への投資,エネルギー,労力を要し,作業競合や雑草対策も考慮しなければならない。
また,厩肥の窒素の肥効は極めて緩効的で,その利用率は10~15%と低い。厩肥に依存し過ぎて生育・収量水準を高めるために多量に連用すると,化学肥料の多用以上に環境への負荷を大きくする可能性があり,バレイショのでん粉やてん菜の糖含量を下げることになる。新農業基本法に盛り込まれている「家畜排池物等の有効利用」を進めて行くには,多面的なコスト収支を計算した上で上手な厩肥の施用法式を検討していく必要があるといえる。
これまでに,実に多用な有機物が各作物に利用されており,各地で多くの試験事例がある。数年前にマレーシアで日本における有機質肥料と化学肥料の組み合わせ利用の事例紹介をする機会を得た。その一つとして緯度的に約20度離れた南の鹿児島と北の十勝で実施された下水汚泥の施用結果の比較したので,有機物の有効利用を考える上での参考に紹介してみたい。
鹿児島は十勝より,夏期の積算温度より1000℃高く降水量が3倍あり,土壌の全窒素含量が2.5倍である。鹿児島における南国の豊かな農業環境がうかがえる。こうした条件の鹿児島で,夏作のサツマイモを1t/10aの下水汚泥を標準施肥に上積み施用して栽培すると,標準施肥に対して窒素吸収量は2倍高まり,収量は約20%増となるが,これ以上の下水汚泥多用の効果はみられない。
逆に冬作のキャベツで下水汚泥を標準施肥に上積みしていくと,標準施肥に対して,窒素吸収量は汚泥0.5t/10a施用で15%増の頭打ちとなるが,結球は汚泥2t/10a施用まで増収する。この反応の違いを,汚泥では,サツマイモのいもの生育に必要なカリを十分に供給できないこと,キャベツの要求度の高い石灰を十分供給できることが上げられている。さらに,他の野菜類では汚泥施用により減収する場面がありそうである。
一方,十勝における作物の生育期間の積算温度は表6に区分した鹿児島の冬期より実際には若干高いと考えられるが,十勝でもてん菜の収量は汚泥1.5t/10a施用で頭打ちになる。しかし,十勝の汚泥施用による増収率は鹿児島の2~4倍と高いのが特徴であり,減肥をした場合の汚泥施用効果も高く,麦稈との汚泥堆肥の効果が安定的に高い。

鹿児島と十勝の1000℃の積算温度差が汚泥の効果の違いにどの程度反映されているかを詳細に論じることはできないが,汚泥1tの施用により全窒素として16kgが投入され,鹿児島での分解実験から汚泥の分解・無機化がかなり早いことが推定されるので,汚泥の施用限界を知る上で大変興味ある地域間の違いかもしれない。
気温の高い地域での有機物の分解,肥効が早まるのは当然のことだが,どの程度の違いがあるのか?CDU-Nの肥効発現を明らかにする過程で石橋,尾和,金野氏らが検討した温度変化による窒素無機化の推定数式を用いて,専門家に緑肥えん麦の全窒素の50%が分解(無機化)する期間(半減期)を表7のように試算してもらった。

このような見方をすると,冷温帯の十勝の半減期は5ヶ月,暖温帯の鹿児島の夏期で3ヶ月,冬季で6ヶ月と試算され,亜熱帯の冬季では4~5ヶ月と十勝の夏期,鹿児島の冬季なみの半減期であるが,亜熱帯の夏期および熱帯の全期では半減期が2~2.5ヶ月と短くなる。つまり,南方ではえん麦のような緑肥は6ヶ月以内に分解されてしまい,有機物による土づくりなどは期待できないことになる。逆に,このことは南方では有機物中の緩効性成分の速効性がかなり高まり,分解し易い有機物の速効性肥料的な利用の有利性を示唆することになる。
例えば,図2のようなビニール袋を果樹園に点在させている光景をマレーシアで見た。ビニール袋の中には食品加工の副産物が有機質肥料として入っており,袋の上部が開かれている。従って,潅漑や降雨により水が満たされれば,分解・抽出された肥料分を含んだ液肥が果樹園に流れる仕組みの,自然に任せた肥培潅漑システムようなものである。また,同じ有機質肥料がビニールハウスのバラや野菜にも使われていた。化学肥料のコスト高もあろうが,それ以上に,有機物の分解速度の早さ,集中降雨による養分溶脱の大きさに上手に対応した施肥技術を見た感であった。

一方,北方では半減期が長くなり有機物施用の効果も低く試算されることになるが,このことは有機物中の緩効性成分を土壌にストックする上での有利性を意味し,日本あたり,特に北海道の気候くらいが有機物を土づくり的に有効利用するのに最も適しているのかもしれない。であれば,高品質で健全な作物を低コストで環境保全的に生産するためには,土壌と有機物の関係を温度変化を軸にもう少し定量的,高精度に評価する必要があるといえる。その上で,肥料の違いを上手に利用した施肥メニューを作物別に構築していく努力が必要である。
新農業基本法の「肥料の適正な使用の確保」に過去に経験した肥料の違いを重ね合わせ,変化を定量的に扱いやすいCDUや被覆肥料の有効利用を見直す意義は高いと思いながら。
茨城県農業総合センター農業研究所
Soil Fertilizer Laboratory
主任 池羽 正晴
茨城県における秋冬ハクサイは作付面積・生産量とも全国第1位と非常に重要な作物である。そのほとんどが県西部で生産されており,ハクサイ産地ではメロン,レタス等野菜類との輪作により,長年にわたって多肥集約栽培が行われてきた。そのため,肥料成分の土壌への集積や浅層地下水への流出が懸念されるようになり,環境にやさしい施肥技術が求められるようになってきた。
そこで,農業研究所では,平成11年から被覆肥料を用いた全量基肥とトラクター装着型畝内条施肥機を組み合わせて秋冬ハクサイの環境保全型省力施肥試験を行ってきた。今回は,その結果を中心に紹介する。
条施肥は,肥料を根の近傍に施肥することにより,肥料の利用率を高め,施肥量を削減し,環境保全,省力低コスト化に寄与するものであるが,対応する施肥機が一般的でないこと,施肥量の多い葉菜類では,使用する肥料によっては濃度障害が懸念されることから現場では普及していない。
今回の試験で用いた畝内条施肥機は農業研究所で開発した試作機で,ロータリ,モータ駆動型肥料繰り出し装置(横溝ロール式),3畝成型機,畝内施肥オープナから構成されている。繰り出した粒状肥料を畝内中央部に吐出しながら畝を立ててゆくので肥料散布行程を一括できる(図1)。

ほ場試験での施肥精度は投入目標量の95%,作業能率は0.67hr/10aと農家慣行体系の0.99hr/10aと比較して,大幅な省力化が可能な機械である(表1)。

畝内条施肥幾で粒状肥料を施肥した場合を慣行である全面全層施肥の肥料の分布について比較すると,全面全層施肥では,畝内だけでなく,作物吸収への寄与が少ないと思われる畝間にまで施肥されている。一方,畝内条施肥幾を利用した場合は深さ0~15cm(任意設定可能),幅5cm前後の部位に集中して施肥される(図2)。

9月中旬定植11月下旬収穫の秋冬ハクサイに対して被覆肥料,ロング424(40日タイプ)を畝内条施肥機を用いて株直下7cmに窒素レベルを変えて局所施肥し,全量基肥栽培法の適応性,減肥の可能性を検討した。試験ほ場は普通作が中心の農業研究所畑ほ場,土壌は表層腐植質黒ボク土で行ない,対照は農家慣行,基肥窒素18kg/10a(全面全層)+追肥窒素5kg/10a(畝間施肥後カルチベータ)の施肥体系である(表2)。

定植後1ヶ月までのハクサイの生育は,慣行の全面全層区が畝内条施肥区を上回るが,結球開始期には差が認められなくなり,収穫期には全面全層区を上回った。
収穫時の全重は,施肥窒素レベル(kg/10a)で5<23(慣行)<10<15=20の順であり,調整重もこれと同様の傾向であった。
ロングを用いることにより,全重,調製重ともに個体間の分散が小さくなる傾向がみられた(表3,図3)。


施肥窒素量と収穫時ハクサイの窒素吸収量には相関関係がみられ,ロングN10,N15,N20の窒素吸収量は,慣行以上の値を示し,見かけの窒素の利用率は2.7~3.2倍程度高くなる(表3,図4)。

以上のことから考察すると,本方法による最適な施肥窒素レベルは15kg/10aと考えられた。
作付期間の平均気温は,一日毎に0.2℃気温が下がる条件で,試験ほ場で計測した積算地温は基準温度(25℃)で49日に相当し,ロング40日の理論溶出率は80%以上と推察された。しかし,ハクサイ収穫後ほ場から採取したロングの溶出率は77%とやや低かった。
被覆肥料を畝内条施肥機を用いて株直下7cmに局所施肥してハクサイを栽培し,全量基肥の適応性と減肥の可能性を検討した。慣行なみの収量を維持しつつ,施肥窒素量を慣行より35%程度削減ができ,追肥作業も省略することができた。本方法は新たな機械装備が必要となるものの,環境保全,省力化,低コスト化に寄与する技術として期待できる。
適用に際しては,
①セル苗育苗の機械定植を前提とし,作型は秋冬作
②作業精度を高めるため,畝内条施肥機はロータリ耕転後に使用
③ほ場でりん酸およびカリの不足が心配されない場合は窒素にあわせて減肥可能であること
が留意点としてあげられる。
また,現在はこの方法を連年続けた場合,技術の持続性を検討するため,重窒素標識ロングを用いて試験を継続している。
富山県薬事研究所付設薬用植物指導センター
副主幹研究員 寺西 雅弘
全国の薬用作物の栽培状況については,日本特殊農産物協会が調査しており,平成9年度の栽培面積は1,913haである。この中には健康食品原料の作物の栽培面積も含まれており,この面積を除くと医薬品原料となる薬用植物の栽培面積は1,113haとなり,栽培面積は,年々減少の傾向にある(表1,2)。


平成8年度の輸入生薬(薬草を乾燥し,薬の原料になったものを生薬という)の数量は64,491tに対して,国内生産量は3,094tで,自給率は4.6%と推定される(1)。富山県においては,平成9年度の栽培面積は13品目,14.3haで,生産量10.6t,県内の生薬消費量は3,206tで,県内自給率はわずか0.3%である。
薬用植物の消費のバロメーターと考えられる漢方薬の生産額は1976年の健康保険の薬価適用を契機に増加を始めたが,1992年をピークに減少に転じ,1997年にはピーク時の59%,1,092億円まで落ちこんでいる。漢方薬の副作用問題がマスコミに報じられ,最近は更にその傾向は強まっていると予想されます(6)。
このように見てくると,薬用植物の将来は暗いものにしか映りません。しかし,明るい兆しが見えるのは,最近の医学会における新たな動きとして,世界の伝統医学に対する見直しの機運が高まっていることです。渥美和彦氏は,現代の西洋医学は,外科的治療,感染症,早期ガンの治療に有効であるが,進行ガンには必ずしも,有効ではないと述べています。
また現在どの医学も進行ガンに対しては明快な治療効果を有するものがないけれども,健康の保持増進や疫病の予防,アレルギー性疾患,ストレス性の病気には西洋医学よりも,中国医学(漢方),アーユルヴェーダ,イメージ療法などの伝統医学(あるいは代替医学・・渥美氏の考えによると現代医学以外は全て代替医学となる)が有効であり,今後はこれらの医学を統合した,第三の医学ともいうべき医学の確立の必要性を唱えています(表3)(2) 。

これらの伝統医学の理念は,生命現象における自然界のバランスを重視して,自然の治癒力に依拠しながら,薬草や食事,生活のあり方を替えることによって,健康を保持することが主体となっています。ただし,自然治癒力の数量化には,まだ数十年必要であり,伝統医学の科学化には相当の年限が必要とも述べています。いずれにしても,今後伝統医学が医学の場で注目されることは間違いありません。
現にアメリカのNIHの調査では,医療費にしめるカイロブラクティックなどの代替医学のウェイトは,現代医学の医療費をはるかに上回っています。アメリカの国民は自分の健康を保つには現代医学よりも,代替医学に頼る性向が強いということです。世界の医療に占める,代替医学のウェイトは,今後益々増大するものと考えられます。漢方薬の原料の主体は薬用植物であり,薬用植物にたいする需要も当然高まってくるものと期待されます。
現在,現代医学では,臓器移植や遺伝子治療が脚光を浴びていますが,国民の自然志向は根強く,できれば自然物によって体の健康を保ちたいというのが本音だと思います。また伝統医学の根底に流れる医食同源の考え方が,近代医学,栄養学の面からもその重要性が立証されつつあります。
以上のことから薬用植物の健康に関する役割が益々重要になってくると思われます。

富山県で栽培している薬用植物は,19種類になるが,栽培普及の主体は漢方薬や家庭薬原料となるトウキ,シャクヤクである。これらの作目の一日当たりの家族労働報酬は,トウキで7,678円,シャクヤクで6,386円であり,しかも10aあたり労働時間はトウキで276時間,シャクヤクで582時間(一年当たりでは146時間)で所要労働時間がきわめて長い(表2)(7)。
その上,トウキもシャクヤクも根を薬用にするので,掘取の労働がきつく,規模拡大をはかるには,大型の掘取機が必要となります。富山県の山間にある細入村庵谷地区では,トウキの一戸あたり作付面積は50㎡ていどで,きわめて小規摸である。この程度の規模ならば,機械の装備もいらないし,お年寄り,ご婦人一人の管理でも栽培が可能です。薬草を5a~10aも作ると,掘取機械が必要になるし,作業の労働がきつく,雇用労働も必要になります。栽培普及の原則は大規摸栽培,低コストが常道であるが,こと薬用植物に関してはそうも行かないのが現実である。
西礪波郡福光町というところがある。かの地で元東京都薬用植物閑におられた今は亡き小林正夫さんに薬草講演をお願いしたことがある。このときにご自身が提唱されている「一坪薬草づくり」の話もしていただきました。これを契機に役場と老人会が協力して一坪薬草づくりが始まりました。ハトムギ,エビスグサ,トウキのほか,はやりのモロヘイヤ,ハーブ等も入れて,毎年,希望をとり,種苗を配布しています。これは,自分で作った薬草を,自分で利用して健康に役立てようとの考え方に立っています。薬草は市場には出てきませんが,薬草文化の定着には良い方法だと思っています。この種苗を当センターで準備しています。
シャクヤクは園芸種の栽培が一般的であります。この園芸種の根の成分は,当センターでも調査しているが,系統によって成分の変化が相当あります。奈良県では,かつては「楚天」種が薬用として栽培されていましたが,この種はペオニフロリンとアルビフロリンがある程度合まれる系統になります(4)。国立医薬品食品衛生研究所北海道薬用植物栽培試験場で育成された「北宰相」はペオニフロリンが多く,アルビブロリンは殆どありません(3)。実際には他の切花種も市場に出ているわけですから,シャクヤクの市場品の成分のバラツキはもっと多くなる可能性があります(図1)。

これらが芍薬として一般的に流通しているのが現状です。芍薬の薬効は鎮痛,鎮痙作用といわれており,当然薬効の現われ方も異なってくると推察されます。起源植物を明確にすることが,医薬品の品質の安定には欠かせません。
生薬は根を乾燥して利用するものが多く,水洗乾燥するものの,かなりの微生物の付着があります。富山県薬事研究所でトウキの微生物について調査したことがありますが,掘取直後水洗したものと乾燥調製後と比較すると,乾燥過程によって若干減るものの,大幅な減少はありませんでした。ただ,掘取時に皮去りしたものは微生物は少なくなっていました(表4)(5)。

現在トウキの調製過程で,皮去りの工程はしていませんが,微生物汚染が問題となるならば,調製加工法の変更も考える必要があります。今までは天産品だから微生物汚染はしかたがないと諦めていましたが,この微生物が体内に取り込まれることは明らかで,人体にとって何らかの負担になることが多分に予想されます。
生薬の農薬残留については,厚生省はニンジン,センナについて総BHC,総DDTの農薬残留基準を0.2ppmに設定しました。これらは毒性を対象にしたもので,食品の基準に準じています。最近騒がれている環境ホルモン様作用となると,0.2ppmはいかにも多い量となります。輸入品が多いだけに,厳重な監視が必要であろう(6)。
現在公開されている薬用植物園は都道府県,市町村・組合立含めて23県30カ所に設立されています。薬用植物の植栽数は,東京都薬用植物園は1200種を植栽しているが,平均的には100種~500種のところが多い。この中,栽培試験圃場を有する施設は東京都と当センターだけで,他は植物見本園が主体となっています。
都道府県薬用植物園は,各県が協力して,薬用植物の栽培研究を始めるなど,情報交換を始めています。薬用植物目録の統合化をはかるなど,全国レベルでの情報交換が可能となりつつあります。この事業は始まったばかりですが,将来の薬用植物園の有り方について,私なりに提言を述べてみます。
生薬の使われた医薬品の品質の安定,向上には栽培化が不可欠であります。後述する和産の薬用植物資源については,国内の自給率を上げるためにも栽培化をはかり,普及のために薬用植物園が支援すべきでありましょう。
世界の伝統医学に使われている薬用植物は極めて多岐にわたります。これらの栽培技術を確立するとともに,県民の要望に応じて提供できるような体制を整える必要があります。このためには種苗業者とも協力して種苗生産体制を確立し,適地適作で栽培化をはかり,原種圃,種苗圃,栽培圃計画を全国レベルで構築する必要があります。
伝統医学は独特の言い回しがあり,難解な表現が多い。漢方薬が注目される割には,身近なものとはなっていません。昨年,とやま薬草同好会(会員数146名)でとったアンケートでも,薬用植物の利用は,薬用酒や民間薬が殆どで,漢方薬を飲んでいる人はほんのわずかでした(図2)。薬草に関心が深いと思われる同好会員にしてこの程度ですから,一般県民には,漢方薬は更に縁遠いものとしか映らないと思われます。

また健康食品や民間薬の情報はあふれんばかりにありますが,体験,経験の積み重ねにより正しい方向に整理すべきものと思われます。このためには各地の薬用植物園が,より多くの情報を集積し,交流をはかりながら整理していく他に,方法はありません。
富山では6年前に同好会組織ができ,その体験交流を重ねる中で,ドクダミやヨモギ,ゲンノショウコ,カワラケツメイなどの民間薬草の利用法でユニークな体験例が生まれています。カワラケツメイも飲み過ぎると神経興奮作用が出たり,ドクダミは寒性の薬草で,冷え症の人には合わないことがあるなど,民間薬草といえども,必ずしも完全とは言えない現実があります。これらの経験知は総合的に検証されるべきでありましょう。そのために地方の薬用植物園が中心になるべきだと思います。
薬用植物園が単に生薬原料の陳列見本園にとどまるのではなく,薬用植物園を訪ずれた人が,薬草と健康の関わりが自然に学べるようにすべきではないでしょうか。理想的にいえば,一巡すれば病気が軽快するような,あるいは,自分の病気を治す薬草がわかるようなそんな薬用植物園になったら良いと思っています。このような園づくりのためにも,各国の情報交換が大切となります。
現在,輸入生薬に圧されて,国産の薬用植物は減少しています。かつては輸出もしていた重要薬草があります。薬草分化の継承のためにも栽培を続けたい作目について,いくつかを紹介します。なお,詳しい栽培法については文献(8)を参照してください。
キンポウゲ科の多年草。根茎を黄連と称し,苦味健胃薬とする。樹陰の半日陰のところに生育し,畑地栽培,樹陰栽培の両用がある。収穫までは畑地栽培では5年,樹陰栽培では10年を要し,成長が極めて緩慢である。かつてはスモン病のキノホルムが薬害として問題になったときに,高騰したが,今は安い中国産品に圧されて,価格が低落し,畑地栽培は殆どなくなった。
ボタン科の多年草。根を芍薬と称し,鎮痛,鎮痙薬にする。耕土の深い日当たりに適し,収穫までに4年~8年要する。新潟や長野,和歌山では切花種の栽培が盛んである。富山では薬用種として「楚天」種を中心に栽培してきたが,これはヤマトシャクヤクの原料になった系統である。当センターでは切花種の薬用成分について一連の調査を行っており,薬用種と切花種の併用できる品種を選抜している。
セリ科の多年草。根を当帰と称し,補血,浄血強壮作用を有し,婦人薬,駆血薬として,漢方の要薬である。移植栽培が普通であるが,直幡栽培も可能である。大和当帰と北海当帰の二種の栽培種がある。北海当帰は大和当帰より涼しいところに適する。
ウコギ科の多年草。根を人参と称し,強壮薬とする。日本に自生はなく,チョウセンニンジンの名で有名。収穫までに4~5年要し,かつては輸出品の代表であったが,今は輸出はわずかとなっている。病後の体力回復や,虚症の体質改善薬として欠かせない。
セリ科多年草。近年栽培面積が最も拡がった作目である。漢方では解熱,解毒,鎮痛の要薬としている。漢方製剤,小柴胡湯の原料である。大平洋岸の府県では一年生のもの,富山では二年生のものを収穫している。

(1)日本特殊農産物協会 薬用作物(生薬)関係資料平成11年
(2)日本の科学者1999.10.Vol34.No 10 渥美和彦相補,代替医療の現状と問題点
(3)第7回薬用植物栽培技術フォーラム講演要旨集(1997)
(4)富山県薬事研究所年報(1988)シャクヤクの栽培研究
(5)富山県薬事研究所 所報 昭和57,58年合併号(1982,1983)
(6)21世紀の生薬,漢方製剤 日本防菌,防黴学会編 新日本法規
(7)日本特殊農産物協会 北陸地域特産農作物振興対策情報交流会議報告書 平成11年1月
(8)薬事日報社 薬用植物栽培品質評価指針Ⅰ~Ⅷ
(9)薬用植物採集と栽培 森田直賢著 主婦の友社