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第575号 2006(H18).05発行

Click here for PDF version 第575号 2006(H18).05発行

農業と科学 平成18年5月

本号の内容

 

 

北海道における施肥(2)
-大正期-

(財)北農会
会長 関矢 信一郎

最初の三要素試験

 北海道における農業試験場の歴史は古い。明治2年(1869)に設置された北海道開拓使は翌3年,函館に七重開墾場(函館官園)を設け,適作物の試作を始めた。これは我国の農業試験場の嚆矢とされている。

 以後,札幌官園(明治4年),板室官園(同7年)と続き,北海道庁になってからは,上川(同19年),十勝(同28年)に試作場を設けた。これらは現在の道南,上川,十勝の道立農試の前身とされている。

 これらの試作場でどの様な肥料試験が行われていたかは不明である。肥料三要素を意識しての肥料試験は明治26年(1893),札幌官園,上白石試験地の「三成分の要否,実用に供せられる肥料の適否」試験が最初であろう。

 試験区の構成を表1に示した。人糞が窒素,木灰が加里に相当する。過燐酸石灰が一般に使用されるのは明治30年代,鰊粕は大正に入ってからである。

 試験は3ヶ年続いたが,表2の結果は28年分である。試験区の面積は不明であるが,区間に地力差が大きく,担当者は解析に苦労している。また土壌が肥沃で差が出にくかったともしている。

 結果の主なものは,
①無肥料区の収量は年々低下する,
②窒素の効果は更に検討を要する,
③過石の効果は大きく,特に登熟に有効である,
④木灰は当面不用,数年後は必要となろう,
⑤石灰の単用は無効だが,燐酸の効果を高める,
⑥鰊粕の効果が低い理由は不明,
⑦窒素・燐酸の組合せが最適,
⑧青草は木灰の効果と同様,
などである。この試験は更に継続されることになっている。

 因みにこの試験の担当者は,当時道庁の課長であった酒匂常明*で,後に「北海道稲作論」を著わし,北海道の稲作の技術的基礎を示した。

*駒場農学校(東大農学部の前身)出身の農芸化学士,後農学博士

農業試験場の肥料試験

 札幌に北海道農事試験場が設立されたのは,明治34年(1901)である。

 この頃,開墾以来無肥料栽培を続けていた北海道の耕地は,地力の低下が著しくなって来た。そこで,国内でようやく流通する様になった過燐酸石灰が施用され始めた。設立当時の農事試験場の肥料関係の試験項目を以下にあげる。

水田関係:過燐酸石灰用量試験
畑地関係: 燐酸加用試験(秋播小麦)
     人糞尿追肥試験(秋播小麦)
     三要素試験(全作物)
     肥料同価試験(大麦・大豆)
     厩肥用量試験(大豆・馬鈴しょ)
     三要素適量試験(大麦)
     窒素肥料比較試験(大麦)
     燐酸肥料比較試験(大麦)
     鰊粕施用法試験(大麦)
     厩肥取扱い試験(大麦)
     燐酸肥効試験(たまねぎ)

と多岐にわたっており,当時の肥料状況を示しているものと思われる。

 これらの試験成績は随時「殖民公報」などで農家に公表されたが,試験場の職員や農会の技師が各地に出張し,「講話」によって普及を図った。
 明治末迄に取りまとめられた成績をいくつか揚げる。

無肥料耕作による反収低下

 試験場は明治36年(1903)から無肥料試験を続けている。図1に7年間の結果を示した。年次や作目により差があるが,いずれも漸減の傾向を示し,7年目には,大豆・馬鈴しょ以外は3分の1以下となった。

三要素試験

 明治36年(1903)に開始した三要素試験の成績は43年に取りまとめて報告された(表2)。この圃場は既墾地で,以後種々報告される三要素試験の結果と大きな差はない。

 これらの試験成績を基に大要,次の様な施肥指針を示している。

1.北海道の土壌は加里については天然供給量は未だ豊富であるが,窒素と燐酸が不足している。
2.燐酸分の補給には過燐酸石灰が適しているが,他の有効成分は含んでいない。更に強い酸性を呈するので,単用は漸次土壌の悪化を招く。
3.厩肥との併用によって,有機物及び窒素を供給できるので,合理的である。

大正初期の施肥実態

 道庁は全道の施肥実態を調査し大正3年(1914)産業調査報告として公表している(表3)。

 これによると,燕麦や大豆の様に未だ無肥料のものがある反面,稲や菜種などには魚粕や大豆粕を使用する様になり,作目や地域の差が大きくなっている。堆厩肥は200~300貫/反,過石は5~10貫/反程度である。

 これよりやゝ後の大正8年(1919)の水稲施肥法を明治末と対比して表4に示した。下肥に替り,魚粕が使われる様になっている。一方過石の量,加里の無施用などは両者共通している。

 水稲の施肥法試験は更に続き,大正11年(1922)各要素の用量試験を取りまとめている(表5)。

 これにより,水稲の成分適量は,貫/反で,窒素1.5~2.5,燐酸2.0~3.0,加里0.5~1.5としている。この場合,窒素源としては堆肥・厩肥・緑肥・下肥・販売肥料のいずれでもよく,販売肥料の対無窒素の収量指数として,石灰窒素141,硫安143,大豆粕156,鰊粕151(人糞尿199)をあげている。

 購入肥料の増加に伴い,肥料費の全生産費に占める割合が問題となる。表6に大正9年の調査例を掲げた。これによると堆肥を含め10~20%台で,府県の30~40% に比べると未だ低い。

第1次世界大戦と施肥

 大正3年から7年(1914~19)の第1次世界大戦は,北海道農業に未曽有の好況をもたらした。輸出農産物となった菜豆や豌豆や馬鈴しょ(澱粉原料)は投機的とも云ヘる作付拡大がみられた。

 この期間の畑作の全作付面積の延びは132%,これに対し菜豆は313%,豌豆は214%,馬鈴しょ219,亜麻203%などとなった。

 一方,全道の肥料販売量は過石188%,大豆粕836%,調合肥料695%と大幅に増加したが,戦後の9年以降急速に低下する。これは大戦中の作付面積と反当施肥量の急増と戦後の面積・施肥量の急落を示している。

 しかし,施肥量の増加にも拘らず,反収は延びず菜豆や馬鈴しょではむしろ低下した。

 北海道の地力は開墾後漸次低下し,数年後からは過石の施用によってようやく保たれていた。大戦時の肥料の増投も反収増とはならず,地力の更なる低下を示唆するものとされた。

 道庁や農業試験場は,堆厩肥の施用を奨励したが,5町歩を越える経営に1~2頭の馬による厩肥では不足は明らかである。

 

 

「あまおう専用肥料」による生産改善

福岡県農政部農業技術課
専門技術指導員 重松 秀行

 本県のいちごは年間産出額が180億円を超え,県農業の重要な品目となっています。

 いちご栽培の歴史は古く,明治末期に博多の万屋酒屋の主人が裏庭に植えたのが起源とされています。経済栽培が始まったのは大正初期で,その後,昭和24年に’宮崎’,’紅鶴’が導入されたことから県下全域に栽培が広がり,昭和35年に’ダナー’,40年代に’はるのか’’宝交早生’,59年に’とよのか’が導入され,生産は順調に伸び平成5年にはイチゴ生産日本ーとなりました。しかし,いちご振興の大きな牽引役となった’とよのか’も,導入から約20年を経過したこと,他県の相次ぐ新品種導入により価格形成力が弱くなっていました。

’あまおう’の育成

 平成8年,福岡県農業総合試験場では,糖度が高く食味が優れる’久留米53号’(旧野菜茶試久留米支場育成系統)を子房親,果実が大きく着色が良好な’92-46’(福岡県農総試育成系統)を花粉親とした交配組合せから,果実が大きく,着色や食味が優れた系統を選抜しました。その後,現地適応性を調査した結果,促成栽培用として有望と判断されたことから,平成13年11月に’福岡S6号’として品種登録申請(17年1月登録)を行いました。’あまおう’は平成14年10月に商標法に基づき,販売等のために登録された’福岡S6号’の名称で,あかい,まるい,おおきい,うまいの頭文字を取って命名されています。

’あまおう’の特徴

 果形はやや丸い円錐形です。果実の色は濃赤で果肉も赤く,果皮にはツヤがあります。

 果重は’とよのか’の1.2倍程度と重く,2L以上の大玉果実の発生比率は50%以上になります。果実の糖度・酸度は共に高く,食味は良好かつ濃厚で,多汁で粘質であるため食感も極めて良いものとなっています。

’あまおう’の普及

 平成14年,’あまおう’の試験栽培ほ場を県下全産地に設置しました。15年には系統共販面積の約50%まで,17年度には約380ha,系統共販面積の98%まで更新が進みました。

’あまおう’生産技術改善

 品種更新は順調に進みましたが,栽培に関してはいくつかの課題が発生しました。その中で最も大きな課題は,頂果房と第1次腋花房(以下2番果房)の間に出荷の谷が発生することです。特に11月から出荷を開始する早期作型では,その傾向
が強く,1~2月の出荷が減少していました。

 これは,2番果房を包む葉の数が増加しやすいこと,気温が低下すると展葉速度が低下するという’あまおう’の特性に起因するものです。

 2番果房の内葉数を少なくし,果房を連続させるためには,2番果房が花芽分化する10月上中旬頃の肥効を抑制しなくてはなりません。また,分化後は肥効を高め,生育をスムーズにしなくてはなりません。15年度までは,従来の「とよのか配
合」を用いて,基肥の減肥で対応をしてきましたが,思うように樹勢コントロールができませんでした。このことから,N施用量のみでなく肥効の時期を考慮した専用肥料が必要と判断し,従来の「とよのか配合」に替わる「あまおう専用肥料」を
試作することにしました(肥料別窒素無機化量グラフ参照)。

 試作に当たっては【有機主体】,【有機+緩効性肥料】,【緩効性肥料主体】の3つのタイプを検討しました。検討の結果,【有機主体】では,原料の構成を変更しでも初期肥効が高いことから,【有機+緩効性肥料】,【緩効性肥料主体】を試作することにしました。

 試作した肥料は,「FTE入り混合有機820」,「LPコートS120」,「リンスター」,「加里コート」などを原料に「有機820」57%+「LPコート」11%でN:P:K=8:6:5とした試作肥料1,「有機820」32%+「LPコート」26%でN:P:K =12:7:7とした試作肥料2です。

 16 年度,
①第1次服果房の花芽分化を促し(内葉数9~13枚を5枚程度ヘ),果房を連続させる。
②厳寒期の草勢を維持し,展葉速度を上げ果房を連続させる,
③収量向上を図る,
の試験目標を設定し,試作肥料2種をそれぞれ80袋作成し,県下の全産地で施用試験を実施しました。

 16年度は,台風が相次ぎ襲来し,土壌条件が整わないままでの定植や,定植遅れでの試験となりましたが,一定の傾向が得られました(アンケート結果参照)。

 試作肥料1は,「2番果房が連続しやすく,収量は慣行肥料と変わらない」との結果から17年度産からは,試作肥料1を「あまおう専用肥料」として,’あまおう’の基準肥料に位置付け,製造販売することにしました。作製した「あまお
う専用肥料」の最終的な内容は別表の通りです。

最後に

 ’あまおう’は,知事のトップセールスやテレビCMの放映,新聞や雑誌での広告など積極的に取り組んだことと,大玉で味がよいことからマスコミに取り上げられる機会が多く,市場・販売店からもいち早く認知されることとなりました。また,価格も他の品種と比較して約10%以上高い価格で取引されています。15年度からは,県・農業団体で,アジア向け輸出を開始し,「守りの農業」から「攻めの農業」ヘ転換を図ろうとしています。

 ’あまおう’は本格生産3年目で,まだまだ作りこなしている状態ではありません。今後も課題を克服し,’あまおう’の秘めた力を最大限に発揮させていきたいと考えています。