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農業と科学 平成19年6-7月
本号の内容
§被覆尿素肥料の全量基肥施肥による早播に適した小麦の省力施肥技術
九州沖縄農業研究センター
九州水田輪作研究チーム
上席研究員 土屋 一成
§苗箱まかせによる育苗箱全量施肥の水田雑草抑制効果
秋田県立大学
教授 金田 吉弘
九州沖縄農業研究センター
九州水田輪作研究チーム
上席研究員 土屋 一成
国内産麦は品質改善や生産性向上を図るなど需要に応じた生産を推進するため,民間流通を主体とし,生産者と実需者の間に銘柄や品質などに応じた取引が行われている。九州の稲麦二毛作地帯においても,麦類の需要に対応した高品質化のための施肥管理技術の開発が求められている。国内産めん用小麦については,原麦の子実タンパク質含有率の品質基準は現在,9.5~11.5%の範囲になっているが,田谷(1999)によれば,九州北部の小麦については全国的にも含有率が低く,特に,灰色低地土地帯では年次により8%台になることもある。
その原因として,和田(2000)によれば,多雨による湿害や窒素の溶脱が挙げられている。子実タンパク質含有率を高めるには,出穂期前後の窒素追肥が有効とされている(木村ら(2001),高山ら(2004),谷口ら(2001))。例えば,高山ら(2004)によれば,小麦の出穂後10日目に実肥を行うと,追肥窒素1kg/10aについて0.4~0.6%,子実タンパク質含有率が上昇するとの報告があるが,施用方法が散粒機などで行うため,作業性及び追肥の労力等の点で問題があり,省力的な施肥法の開発が求められている。
これに対し,武井・池田(2004)は小麦品種「農林61号」に対し,速効性窒素肥料とリニア型30日溶出とシグモイド型30日溶出の被覆尿素肥料を等量混合した全量基肥栽培は慣行分施栽培に比べ同等以上の収量が確保され,子実タンパク質含有率も0.2~0.6%上昇し,9.5~10.5%の適正範囲に収まったとしている。また,北浦ら(2003)も「農林61号」に対し,速効性窒素肥料とリニア型30日溶出とシグモイド型40日溶出の被覆尿素肥料を4:3:3の割合に混合した全量基肥栽培は慣行分施栽培に比べ同等以上の収量が確保され,子実タンパク質含有率は0.3~0.7%上昇し,9.7~9.8%に収まったとしている。
さらに熊本県農業研究センター(2003)でも多湿黒ボク土で小麦「シロガネコム
ギ」及び灰色低地土で小麦「チクゴイズミ」に対して,溶出期間が30~40日のリニアタイプとシグモイドタイプの被覆尿素を速効性肥料と組み合わせて全量を基肥施用すると,収量は慣行と同等以上であり,子実のタンパク質含有率は増加し,追肥作業を省略できるとしている。しかし,これらは,いずれも,普通期播種の小麦を対象としており,早播適性のある品種を対象としていない。
そこで,九州沖縄農業研究センターでは,西南暖地の九州北部の灰色低地土において,11月5日~15日播種の早播に適する小麦品種「イワイノダイチ」について,被覆尿素肥料の配合割合を変えた省力的な全量基肥施肥栽培試験を実施し,小麦の収量および品質に及ぼす影響を慣行分施体系と比較検討した。
灰色低地土で早播に適しためん用小麦品種「イワイノダイチ」について,基肥速効性窒素施用量を慣行白のN5kg/10aに対し,3~6.6kgとし,リニア型30日溶出の被覆尿素肥料(LP30)及びシグモイド型30日溶出の被覆尿素肥料(LPS30)の配合割合を変えた栽培試験を実施し,小麦の収量及び品質(タンパク質含有率,粉色,うどんの食味等)に及ぼす影響を慣行分施体系と比較検討した。
九州沖縄農研センター(筑後)の細粒灰色低地土で,2002年11月7日,2003年11月14日,2004年11月10日に小麦品種「イワイノダイチ」を4kg/10a播種し,それぞれ,2003年5月22日,2004年5月24日~28日2005年5月25日に収穫した。窒素施肥処理は表1に示したように基肥で速効性窒素と被覆尿素肥料のLP30,LPS30を組み合わせて行った。なおP2O5,K2Oはいずれも11kg/10aを基肥で全層施用,Nは基肥の場合,全面全層,追肥は硫安で表面施用した。

基肥に施用したリニア型被覆尿素肥料のLP30は初期の溶出が早く,1月上旬には溶出率が2003年~2004年は50%程度,2002~2003年と2004~2005年は60%程度まで達した。これに対し,シグモイド型被覆尿素肥料のLPS30は冬期間の溶出率が低く,特に,2002~2003年は2月上旬まで溶出せず,収穫期には70%程度,2003~2004年,2004~2005年は1月中旬以降,溶出率が高まり,収穫期には90%程度にまで達した(図1)。

被覆尿素肥料の積算溶出率から判断すると,LP30は施用直後から2月中旬にかけての溶出が多いことから,基肥と分げつ肥の役割を果たし,LPS30は主に2月中旬以降に溶出するため,穂肥及び実肥の役割を果たしていると考えられた。なお,各試験年次の11月11日から翌年の1月10日までの深さ5cmの積算地温が755℃と高く,降水量も128mmと多かった2004~2005年は1月10日頃までのLP30の溶出量が多く,LPS30の溶出開始も早く,地温は731℃とやや高いが,降水量が85mmと少なかった2003~2004年はLP30の溶出量がやや少なく,LPS30の溶出開始もやや遅かった。地温が589℃と低いが,降水量は103mmと中庸であった2002~2003年は,LP30の溶出量がやや多く,LPS30の溶出開始は2月10日過ぎと遅かった。
早播に適した小麦「イワイノダイチ」についても,従来から提唱されている出穂後6~10日目に窒素2kg/10aの実肥を行うと,子実重は変わらないものの,千粒重,容積重が大きくなり,子実タンパク質含有率が2004年には10.0%から11.0%まで,2005年には8.4%から9.8% まで1.0~1.4ポイント向上し(表4,表6),高山ら(2004)と類似の結果が得られた。
1)2003年の被覆尿素肥料施用区では,茎数,茎葉乾物重,窒素吸収量とも穂揃期に慣行施肥体系の5-4-2-0区より少なく,止葉の葉色も低かった(表2)。
6.6+LP2.2+LPS2.2区の収量は慣行施肥と同等で,千粒重も大きく,子実タンパク質含有率も慣行施肥の5-4-2-0区の8.9%から9.5%へと0.6ポイント向上した。これに対し,6.6+LP4.4区の子実タンパク質含有率は同程度で,収量が8%減少した。6.6+LPS4.4区や4.4+LPS6.6区では子実タンパク質含有率は0.5~0.9ポイント高まったが,10%程度減収した(表2)。

なお,検査等級はシグモイド型被覆尿素肥料を施用した区でやや低下する傾向にあった。6.6+LP4.4区や6.6+LPS4.4区のように被覆尿素肥料の割合の高い区では,うどんの食味官能性で色の点数が低めであった。しかし,6.6+LP2.2+LPS2.2区のように速効性窒素肥料とリニア型溶出,シグモイド型溶出の肥料を3:1:1配合すると,色や粘弾性の点数が高く,合計点が慣行施肥の5-4-2-0区を上回った(表3)。

2)2004年の被覆尿素肥料区では生育途中の草丈,茎数,茎葉乾物重が多めに推移し,総窒素施肥量の多い5+LP4+LPS4区と3+LP8+LPS2区で窒素吸収量が多く,子実重がやや高めであった(表4)。
また5+LP4+LPS2区では子実重がやや低かったが,残りの区は慣行施肥区とほとんど収量差がなかった。なお千粒重は3+LP6+LPS2区で高めであった(表4)。
子実タンパク質含有率は被覆尿素肥料区でいずれも高まり,特に,5+LP4+LPS4区や3+LP6+LPS4区のようにLPS30の割合が高い区や3+LP8+LPS2区や5+LP6+LPS2区のように生育途中のLP30の施用量が多い区は10.8~11.0%と高くなった。なお,検査等級は実肥や被覆尿素肥料を施用した区ではやや低下する傾向にあった(表4)。

一方,粉色では5+LP4+LPS4区のL*値が低く,a*値が大きく,うどんの食味官能性でも色の点数が低かった。しかし,LP30を4~6kg,LPS30を2kg施用した区の食味官能性の合計点数は高かった(表5)。

3)2005年の被覆尿素肥料区では,2004年と同様に生育途中の草丈,茎数,茎葉乾物重がやや多めに推移し,穂揃期の窒素吸収量及び止葉の葉色も高めであった。3+LP6+LPS4区,3+LP8+LPS2区,4+LP5+LPS2区,4+LP5+LPS4区,4+LP7+LPS2区で窒素吸収量が多く,子実重が高めであったが,3+LP6+LPS2区,4+LP5+LPS2区では子実重が慣行施肥区とほとんど同じであった(表6)。

千粒重は子実重が高い区でやや低めであったが,容積重は被覆尿素肥料の施用によりやや高まった。子実タンパク質含有率は被覆尿素肥料の施用でいずれも高まり,特に,LPS30を4kg/10a施用した区やLP30の施用量が7~8kg/10aと多い区は高い傾向であった。なお,検査等級は2004年度と同様に実肥や被覆尿素肥料施用区でやや低下する傾向にあった。
一方,粉色では4+LP5+LPS2区のCGV値が低く良好で,うどんの食味官能性でも全ての項目で点数が高く,合計点も慣行施肥に比べ著しく高かった(表7)。

西南暖地の九州北部の灰色低地土で,11月5~15日播種の早播した小麦「イワイノダイチ」に対して,速効性窒素肥料3~6.6kg/10a,溶出期間が30日のリニア型被覆尿素肥料2.2~6kg/10aと溶出期間が30日のシグモイド型被覆尿素肥料2kg/10a程度を組み合わせて全量基肥施用すると,収量は慣行栽培と同等以上となり,子実タンパク質含有率は0.3~1.0%程度増加し,うどんの食味官能性も遜色なく,同等以上となり,省力的施肥法であった。
配合割合としては,収量,子実タンパク質含有率,うどんの食味等から総合的に判断すると速効性窒素肥料3~7kg/10aとリニア型30日溶出被覆尿素肥料6~2kg/10a及びシグモイド型30日溶出被覆尿素肥料2kg/10aを総窒素量が11~13kg/10aとなるように組み合わせて施用するのがよいと判断された。
なお,被覆尿素肥料を全量基肥施用することにより,肥料代は慣行の1.3~1.4倍になるが,2~3回の追肥作業を省略でき,追肥の労働費を考慮すると,コスト的に見合うので,今後の普及が期待される。
1)北浦裕之・小久保信義・鳥塚智・吉岡ゅう・忠谷浩司:
小麦「農林61号」の被覆尿素入り複合肥料を用いた全量基肥施肥技術,近畿中国四国農業研究成果情報(2003)
2)木村秀也・志村もと子・山内稔:
出穂後施用窒素がコムギの子実タンパク質に及ぼす影響,土肥誌,72,403-408(2001)
3)熊本県農業研究センター・生産環境研究所・土壌肥料研究室:
被覆尿素肥料の全量基肥施用による小麦子実タンパク質含有率の向上,九州沖縄農業研究成果情報(2003)
4)高山敏之・長嶺敬・石川直幸・田谷省三:
コムギにおける出穂10日後追肥の効果,日作紀,73,157-162(2004)
5)武井真里・池田彰弘:
小麦のタンパク質含量適正化のための全量基肥施用技術,愛知農総試研報,36,1-6(2004)
6)谷口義則・藤田雅也・佐々木昭博・氏原和人・大西昌子:
九州地域におけるコムギの粗タンパク質含有率に及ぼす穂孕み期追肥の効果,日作紀,68,48-53(2001)
7)田谷省三:西日本における低蛋白小麦の改善方策,
麦類種子貯蔵蛋白質制御技術の現状と展望,48-61(1999)
8)和国道宏:栽培技術による小麦タンパク質の制御,
米麦改良(8),24-35(2000)
秋田県立大学
教授 金田 吉弘
稲作りは雑草との戦いと言っても過言ではない。理由のひとつに,水田雑草と水稲間の土壌養分競合があげられる。繁茂した雑草は水稲が必要とする土壌中の養分を奪い,太陽光を遮り水稲の生育空間を狭める。そのため,除草で手を抜くと水稲
の生育・収量に悪影響を及ぼすことは良く知られている。
除草作業は,水田の規模が大きくなればなるほど農家にとっては重い負担となる。これまでは,除草剤による化学的防除が慣行となっていたが,除草剤への依存が高まるにつれ農薬散布者への毒性ばかりでなく,抵抗性雑草の出現による除草効果の低下や環境汚染などの問題が懸念されている。そのため,近年,より安全な食料を求める消費者ニーズや環境保全型農業に対する社会的ニーズの高まりのなかで除草剤の使用を低減する技術が求められている。現在,乗用型除草機による機械除草が実用化されているものの,機械の購入費がかさむことから利用は一部の大規模農家に限られている。さらに,機械除草だけでは完全ではなく,減農薬栽培圃場では手取り除草の光景がよく見られる。
雑草は,水稲との肥料,土壌養分の奪い合いの中で生長する。したがって,水稲がこれらの養分を独立的に吸収できるようにすれば,雑草の生長を効果的に抑制することができるはずである。この報告は,このような視点で実施した試験結果である。
試験は,秋田県農業試験場内にある大型ライシメータ水田で行った。ライシメータ(縦5m,横3m,深さ2m)には,灰色低地土の水田土を充填している。このライシメータに,それぞれ化成肥料の全層施肥区と苗箱まかせによる育苗箱全量施肥区(以下箱施肥区)を設けた。圃場来歴は,2000~2001年は畑状態裸地,2002年は枝豆であり,2003年から水田に転換し,品種あきたこまちによる水稲栽培を開始した。
両圃場とも施肥は,基肥のみとし全層区は化成肥料(硫加燐安11号)により5.0gNm-2,2.2gPm-2,4.2gKm-2を耕起前に施用しロータリで全層に混和した。箱施肥区では苗箱まかせ(60日タイプ)を育苗箱に施用し5.0gNm-2相当量を苗と接触させて施用した。箱施肥区は窒素単体の接触施肥であり,リンとカリウムは施用しなかった。また3カ年とも除草剤を施用せず,輪換3年目(2005年)には両区において,手取りによる完全除草区と無除草区を設置し,雑草による水稲の生育や養分吸収に及ぼす影響を検討した。
窒素は,植物の生長を最も強く支配する養分である。そこで,水田土壌中の吸収形態であるアンモニア態窒素の分布を見てみよう。肥料を作土全体に混和する全層施肥区と箱施肥区では作土中のアンモニア態窒素の分布は大きく異なる。図1に示すように,分げつ期における条間作土中央部の深さ15cmまでのアンモニア態窒素は,いずれの位置においても箱施肥区に比べて全層施肥区で多かった。これにより,箱施肥区では水稲への独立した窒素供給が行われ雑草が作土から吸収できる肥料成分は,全層施肥区に比べて少なくなり雑草の生育を抑えることが期待できる。

ここでは,畑後の輪換水田において無除草区を設置し,箱施肥区と全層施肥区における雑草の生育を追跡した結果を紹介する。一般に,畑後の輪換1年目水田では水田雑草の発生は少なく水田年数の経過とともに増加する。本試験でも,輪換1年目の移植直後のタイヌビエなどの発生は少なく区間で違いは認められなかった。図2には,輪換1~3年目における雑草乾物重の経年変化を示した。

7月上旬の雑草乾物重は両区とも輪換年数の経過に伴って増加したが,全層施肥区の増加程度は箱施肥区に比べて明らかに高かった。輪換2年目の全層施肥区では,輪換1年目に比べて3.7倍と大きく増加したのに比べて,箱施肥区では1.1倍とほぼ同等であった。輪換3年目における7月上旬の雑草乾物重は,1年目に対して全層施肥区が15.7倍,箱施肥区10.2倍であった。また,輪換3年目の7月における全層施肥区の雑草量は箱施肥区の2.9倍と多かった。さらに,雑草は,同じ年の後半まで生長し続ける。8月下旬から9月上旬では,両区とも7月上旬に比べて増加し,その増加量は輪換3年目が2年目に比べて多かった。また,輪換3年目9月上旬における全層施肥区の雑草乾物重は,箱施肥区に比べて著しく多く7月上旬からの増加量も多かった。このように,水田雑草の生育には施肥法の影響が極めて大きいことがわかる。
肥料の形態や施肥位置は雑草の種類にも影響を及ぼす。図3には,輪換2年目,3年目における種類別雑草乾物重を示した。

全層区における雑草は,輪換2,3年目ともそれぞれ8月下旬,9月上旬になるとイネ科のタイヌビエ(Echinochloa oryzicola Vasing.)が98%以上を占めた。また,箱施肥区では,7月上旬にはカヤツリグサ科のタマガヤツリ(Cyperus difformis L.)やマツバイ(Eleocharis acicularis Roem.),広葉のオモダカ(Sagittaria trifolia L.),コナギ(Monochoria νaginalis Presl)が観察され,イネ科のタイヌビエはほとんど認められなかった。輪換3年目の箱施肥区では,9月上旬になるとタイヌビエが増加したが,その割合は全層区に比べて明らかに少なかった。全層区のタイヌビエは生育が旺盛で生育後半には水稲を覆ってしまうほど繁茂し,光環境にも大きな悪影響を与えた(写真1)。

特に,タイヌビエはC4雑草であり,養分吸収力が強いこと,根域や光の利用域が水稲と競合しやすいことが明らかにされている。さらに,タイヌビエは前年の残草により次年度以降の発生が増加することから,輪換3年目の全層施肥区においてタイヌビエの生育量が増大したのは前年の残草の影響が大きかったものと考えられた。
一方,箱施肥区に多いカヤツリグサ科のマツバイは田面上3cm程度の生長にとどまるため,水稲の光環境に及ぼす影響は小さかった。
雑草の生長は水稲の生育にも悪影響を与える。図4に示すように,輪換3年目における6月下旬から7月上旬の茎数は全層施肥・除草区に対して箱施肥・除草区および無除草区がやや少なかった。

穂数は,箱施肥区で全層施肥・除草区と同等かやや優ったが,いずれも有意な差は認められなかった。しかし,全層施肥・無除草区の茎数は,他区に比べて著しく少なく6月下旬以降から出穂期にかけて大きく減少した。このように,全層施肥・無除草区における水稲生育は,雑草により著しく抑制された。そのため,全層施肥・無除草区の精玄米重は除草区に対して16%と著しく低い収量であった(図5)。

これは,全層・無除草区では他区に比べてタイヌビエとの養分競合や光競合による相対照度の低下の影響が強く現れたためである。一方,箱施肥・無除草区は総籾数や千粒重の低下が少なく,除草区に対する収量指数は83と全層・無除草区に比べて減収率が低かった。
図6に示すように,箱施肥区では全層施肥区に比べ,水稲に対して肥料窒素をより独占的に供給することができる。

したがって,箱施肥区の雑草(特に,タイヌビエ)は,初期生育のきっかけとなるスターターとしての肥料窒素の供給が少ないため,根張りが不良になり後半になっても天然供給窒素を十分に吸収することができない。一方,全層施肥区では,肥料由来のアンモニア態窒素が作土中に多く存在するため雑草の初期生育が促進され(写真2),後半には天然供給窒素を旺盛に吸収する。

本試験では,全層区,箱施肥区の完全除草区における茎数,草丈は大きな違いはなく光環境はほぼ同等であった。このことから,雑草の生育には水稲生育による光環境の変化よりも土壌中の肥料成分の存在位置が大きく影響したものと考えられた。
ここでは,水稲と雑草が土壌から吸収する養分量について見てみよう。図7には,輪換3年目の成熟期における水稲養分吸収量を示した。

窒素(N)は,全層施肥・無除草区が除草区の23%にとどまった。箱施肥・無除草区は除草区に比べて少なかったが,有意な差は認められなかった。リン(P)吸収量は,窒素と同様に全層施肥・無除草区において少なく,除草区の23%であった。箱施肥・無除草区の吸収量は除草区の71%に低下したが,全層施肥・除草区よりわずかに低い程度であった。カリ(K)吸収量については,窒素,リンと同様に全層施肥・無除草区で少なく,除草区の26%であった。箱施肥・無除草区の吸収量は除草区の78%であった。
このように,全層施肥・無除草区における水稲の養分吸収量は除草区の23~26% と大きく抑制されたのに対して,箱施肥・無除草区では除草区に対して71%以上の範囲に留まっていた。
次に,雑草が吸収した養分を調査した。図8には,輪換2年目(8月下旬)と3年目(9月上旬)の無除草区における雑草の養分吸収量を示した。

窒素,リン,カリ吸収量はいずれも輪換2年目に対して輪換3年目で増加した。しかし,箱施肥区の増加量は,全層施肥区に比べて顕著に少なかった。窒素についてみると,全層施肥区はタイヌビエの吸収量が多く,輪換3年目の吸収量は輪換2年目に比べて2.5倍程度増加した。箱施肥区の輪換3年目における全雑草の窒素吸収量は少なく,輪換2年目と有意な差は認められなかった。雑草によるリン吸収量は,箱施肥区に比べて全層施肥区の吸収量が多く,輪換3年目では2年目の2.5倍増加した。全層施肥区ではタイヌビエによる吸収量が大部分を占めた。
一方,箱施肥では輪換2年目と3年目では有意な差は認められず,輪換3年目でも全層区の18%に留まった。カリ吸収量についてみると,輪換2年目の全層施肥区および箱施肥区,輪換3年目の箱施肥区では有意な差は認められなかった。しかし,輪換3年目の全層施肥区におけるカリ吸収量は箱施肥に比べて5倍程度多かった。
このことから,作土全体に肥料成分が存在した場合,雑草の生育が旺盛になり養分吸収量が増加すると水稲との養分競合が起こり,水稲の吸収は著しく抑制されることがわかる。
近年,より安全な食料を求める消費者ニーズや環境保全型農業に対する社会的ニーズの高まりのなかで除草剤の使用を低減する技術が求められている。苗箱まかせによる箱施肥は水稲の窒素利用率を著しく向上させるとともに,水田雑草の生育を抑制する。
特に,除草作業が大きな負担となる大区画水田において減農薬栽培などの環境保全型農業を推進する場合,施肥による抑草効果は農家の負担軽減に大きく貢献すると思われる。今後,苗箱まかせによる箱施肥と機械除草の組み合わせにより,より効率的な除草体系が可能になる。