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農業と科学 平成21年3月
本号の内容
§牧草の収量と窒素吸収に対する被覆窒素肥料の効果
畜産草地研究所 山地畜産研究チーム
主任研究員 山田 大吾
§福島県浜通りにおける乾田直播栽培の省力施肥法
Fukushima Prefectural Agricultural Center
主任研究員 吉田 直史
§CAF全量基肥・接触施肥法による不耕起デントコーン栽培の環境負荷軽減効果の強化
東北大学大学院 農学研究科附属
複合生態フィールド教育研究センター
伊藤 豊彰
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所
井上 博道
畜産草地研究所 山地畜産研究チーム
主任研究員 山田 大吾
放牧は畜舎等での飼養管理方式と比較して省力的である。しかし,近年は労働力の減少等の理由から,放牧地においてもより省力的な管理技術が望まれている。また,我が国の放牧地は本州を中心に傾斜~急傾斜地に位置することが多く1),同地形面で想定される肥料成分の流亡や作業の危険性を軽減させる施肥管理が必要である。このような観点から,被覆窒素肥料を用いた放牧地の施肥管理方法の有効性を検討した。放牧地への被覆窒素肥料の施用に関する研究例は極めて少なく,三枝らの報告2,3)以外にはほとんど見当たらない。被覆窒素肥料が広く利用されている稲作や畑作と異なり放牧地での施肥は表面施肥となるため,その肥効について基礎的な知見を得る必要がある。そこで,草地表面施用条件下における被覆窒素肥料からの溶出の特徴と,牧草生育への効果を明らかにすることを目的として試験を行った。

試験は浅間山麓南斜面に位置する畜産草地研究所御代田研究拠点内のオーチャードグラス優占草地で行った。同草地は標高1000m付近の傾斜角5度の緩傾斜面に位置し,土壌は普通黒ボク土に分類される。放牧牛の排植物の影響を排除するために,同草地では試験前3年間と試験期間中は放牧を行わなかった。
同拠点内では5月上旬から11月まで放牧を行っている。この放牧期間中に化成肥料を2回,等量ずつ施用している。この放牧草地の主要草種である寒地型牧草は春に生育が旺盛となるスプリングフラッシュを生ずる。そのため,施肥による余剰草の増加を抑制する目的で,1回目の施肥を6月上~中旬とし,2回目を8月上~中旬に設定している。
試験処理区は1区当たり5m×5mとし,表1に示した試験処理区を乱塊法により5反復で設定した。

慣行区は先述した拠点内放牧草地の施肥管理を参考にし,6,8月の刈り取り調査後に施肥を行った。被覆窒素施肥区では省力化を考慮して,放牧期間内に通常2回行われる施肥を放牧前の4月に1回のみ行い,窒素施用量を慣行区より2割削減する施肥設計を行った。被覆窒素肥料は積算温度によって溶出量が変化する。使用した被覆窒素肥料は,拠点の気温データを基に溶出シミュレーションを行い,施肥目的に合うタイプを選定した。即ち,放牧期間を通して緩やかな窒素供給を行うLPコート40と70(以下LP40,LP70)の組み合わせ(LP区)と,4月上旬に施肥した場合に拠点内放牧草地の施肥時期である6月上~中旬と8月上~中旬にそれぞれ溶出ピークを示すLPコートS40とS60(以下LPS40,LPS60)の組み合わせ(LPS区)である。また,施肥窒素利用率を算出するために,慣行区及びLP,LPS区に対応する無窒素区(慣行無N区,LP(S)無N区)を設定した。これら各試験処理区内において,5~10月までの間,1ヶ月間隔で1m正方枠内の地上5cm以上の牧草を刈り取り,乾物収量及び窒素吸収量を測定した。また,試験処理区内の牧草はロータリーモアで同高さまで掃除刈りを行い,人力で持ち出した。
施肥試験に使用した全タイフの被覆窒素をメッシュバッグ(10cm×10cm)に充填し,被覆窒素区の施肥日に合わせ,試験区に隣接する草地に設置した。設置方式として,草地表面への施肥効果を検討するための表面設置方式と比較対象として表層への埋設方式を用いた。表面設置は,飛散防止と草地表面への接触性向上のために,針金を用いて作成したピンでメッシュバッグを草地表面に押さえつけた。このメッシュバッグを牧草採取時毎に3反復で回収し,残存窒素量と初期窒素量から溶出量を推定した。
図1にメッシュバッグの埋設と表面設置による窒素溶出の推移を示した。

2006年では表面設置のLP40,LPS40とLPS60は初期溶出の立ち上がりが早かった。試験終了時においては表面設置のLP40とLPS60で溶出率が低くなったが,表面設置でも各肥料とも80%以上の良好な溶出を示した。2007年では両設置方式ともLP40を除いて前年より溶出が遅くなった。2007年は2006年と比較して6月下旬から7月上旬にかけての気温が低く推移し(図2),溶出に影響を及ぼす積算温度が低下したためと考えられる。試験終了時では両設置方式ともLP70の溶出は70%台と前年より劣ったが,他は前年並みの高い溶出率が得られた。

これらの結果から,今回使用した被覆窒素肥料は表面設置でも埋設と同等の窒素溶出が得られることが明らかとなった。
次に,牧草の刈り取り間隔毎の窒素溶出量を表面設置方式による溶出データから試算した(図3)。LP区では試験期間内を通して2gN/㎡を上限とした緩やかな窒素供給が行われた。LPS区では2006年は6/14~7/13に,2007年は7/9~8/7に窒素溶出が集中する結果となった。このピークの発生時期の違いは前述の気象条件を反映している。また,LPS区では慣行区の施肥に完全に一致したピークを示すことは難しかったが,両年とも6~8月に窒素の大部分が供給されており,窒素溶出シミュレーションによる選定結果を反映した溶出が行われた。

乾物収量と窒素吸収量の経時変化は類似した傾向を示した(図4)。従って,ここでは収量と窒素吸収量について一括して経時変化の特徴を検討する。

2006年:慣行区の収量と窒素吸収量は2回の施肥に関して施肥翌月の採取時に増加し,その後減少する傾向が認められた。LP区の収量と窒素吸収量は6月採取時から増加し,7月に最大値を示した後は減少した。また,6月までの窒素溶出量がLPS区より多いこと(図3)を反映して,収量と窒素吸収量の増加はLPS区より早く進行した。LPS区の収量と窒素吸収量はLP区と同様に6,7月まで増加を続けた。また,窒素吸収量は7月に急激に増加しており,この刈り取り前の6~7月の窒素溶出量が多いこと(図3)を反映していると考えられる。そしてLPS区では7月から9月まで一定の収量を保ち,窒素吸収量も大きく減少することなく推移した。
2007年:7月採取時までは全ての試験処理区で2006年と推移傾向は類似したが,より低収量で推移した。特に7月採取時は慣行,LP,LPS区ともに2006年ほどの増加は認められず,大きく異なった。これは6月下旬から7月上旬に2007年より気温が低く推移し(図2),慣行,LP,LPS区ともに相対的に牧草生育が劣ったことと,特にLPS区ではそれに加えて窒素溶出量が低下したこと(図3)が原因として考えられた。その後の8月採取時では収量と窒素吸収量はLP,LPS区で慣行区より高い水準を示した。LPS区では8月の収量と窒素吸収量の増加が著しく,2006年と同様に刈り取り直前の窒素溶出量が多いことを反映する精慕となった。そして,9月採取時は2006年と異なり,慣行,LP,LPS区ともに収量と窒素吸収量は大きく減少した。この原因は寒地型牧草に多く見られる夏枯れのためと考えられた。夏枯れは高温になりやすい夏季に乾燥条件等の影響を伴って牧草の生育が停滞または枯死する症状が発生する。2006,2007年ともに夏季の7月下旬から8月中旬まで寡雨の状態が続いたが,2007年はこの寡雨状態前の積算降水量が120mm少なかったこと,8月中旬に気温がより高く推移したことにより(図2),夏枯れが発生,または促進したと考えられた。
年間の合計乾物収量と窒素吸収量を表2に示した。2006年ではLPS区と慣行区は同等の乾物収量と窒素吸収量を示した。LP区では慣行区よりやや低くなるが,有意な差は認められなかった。2007年はLP,LPS区とも乾物収量と窒素吸収量は慣行区と同等であった。

これらの結果から被覆窒素肥料を用い窒素を2割減肥しても,慣行区と同等の乾物収量と窒素吸収が得られることが明らかとなった。
年間の合計窒素吸収量を用いて施肥窒素利用率を示した(表3)。2006,2007年ともLP,LPS区で慣行区より高くなる傾向にあった。特に牧草生育が良好であった2007年はLP,LPS区で94.6,112.7%と高い利用効率を示した。

本試験により,(1)窒素溶出シミュレーション結果から,選定された被覆窒素肥料は草地表面への施用においても埋設と同等の溶出を示すこと,(2)被覆窒素肥料を用いた1回のみの施肥で,窒素を2割減肥しても,慣行区と同等の乾物収量と窒素吸収量が得られること,(3)被覆窒素肥料の施用により施肥窒素利用率が向上することが明らかとった。現在これら試験データを基に放牧草地での実証試験に取り組んでいる。
メッシュバッグ設置による残存窒素の分析はチッソ株式会社水俣研究所肥料開発グループ及びチッソ旭肥料株式会社富士肥料研究所で行っていただいた。ここに記して,厚く感謝の意を表します。
1)農林水産省畜産局:草地管理指標-草地の土壌管理及び施肥編-,3-4(1996)
2)三枝正彦・瀧典明・渋谷暁ー:肥効調節型肥料による放牧草地の窒素施肥法の改善,日草誌,47,151-156(2001)
3)三枝正彦・瀧典明・渋谷暁ー:模擬放牧草地における施肥窒素の形態と牧草の窒素吸収,日草誌,47,184-190(2001)
Fukushima Prefectural Agricultural Center
主任研究員 吉田 直史
水稲の直播栽培は,省力的で低コストな栽培技術であり,福島県では1996年から積極的に推進し,直播面積は2007年で1080haとなっている。水稲の直播栽培には,湛水直播栽培と乾田直播栽培とがあり,乾田直播栽培は代かきやカルパー粉衣等の春作業が少ない点で、湛水直播栽培より省力的である。また,冬場の積雪が少なく春の耕転作業等が可能な地域に向いていることもあって,福島県では太平洋側の浜通り地域を中心に普及している。
図1に示したとおり,福島県の浜通り地域における乾田直播栽培は,播種後1ヶ月程度乾田状態で栽培し,稲が2~3葉期になる6月上旬に入水し始め,その後湛水状態で栽培するという体系である。従来の普通化成肥料を使った慣行施肥では,乾田期間中や入水直後の漏水等により窒素の溶脱がおこり,移植栽培に比べて施肥効率が悪く,施肥量や追肥回数が多いことが問題であった。

1996年以降これらの施肥体系の改善を図るため,肥効調節型肥料(LPコート)を用いた省力施肥法について検討した。ここではひとめぼれを使った場内栽培試験の結果と現地での大規模圃場栽培試験結果について紹介する。
図2に,福島県相馬地域の気温によるLP100の溶出シミュレーションの結果を示した。期間毎の溶出率は各年次ともゆるやかに上昇し,100日程度で約10%となり100日をピークに減少した。

乾田直播栽培をしたひとめぼれの生育期間は播種から成熟期まで150日~160日程かかる。入水時追肥が必要となる2~3葉期になるのは播種後約40日~50日で,穂肥が必要となる幼穂形成期になるのは約90日前後であり,LP100を基肥に用いることによって,追肥を省略することが可能と考えられた。
表1に示した試験区において,LP100を用いた省力施肥について検討した。省力施肥では施肥位置を全層施肥と接触施肥として,LP100を基肥に施肥し追肥は行わなかった。

全層施肥は,従来の施肥位置で肥料を圃場内に均一に施肥した。図3,4に示すように,草丈,茎数とも,ほぼ慣行施肥と同様に推移した。


図5に示した収量についても,全層施肥は慣行施肥と同等以上で,肥効調節型肥料のLP100を用いた省力施肥が可能であり,追肥を省略できることを示唆している。

接触施肥は種籾の播種溝と同じ溝に施肥する方法である。表1に示したように,接触施肥の施肥量は0.8kg /aに減らしているが,図4に示すように茎数では,接触施肥が慣行施肥や全層施肥に比べ生育初期の茎数が多く推移し,有効茎を早く確保した。
4カ年の平均収量と年次間差を図5に示した。接触施肥の収量は,ほぼ慣行施肥や全層施肥並であった。また,慣行施肥や全層施肥では,気象条件等による収量の年次変動が大きかったのに対し,接触施肥では気象条件による変動が少なかった。生育量や収量とも慣行施肥と同等かそれ以上で,接触施肥の場合,肥料が種籾の近くにあるため,施肥効率が向上したと思われる。施肥効率の向上について施肥窒素利用率から検討した結果,図6に示したように施肥窒素利用率は,生育ステージ全体を通して接触施肥が最も高く,次いで全層施肥,慣行施肥の順となった。特に,生育前半の分げつ初期では,接触施肥は慣行施肥や全層施肥の約2倍の効率であった。

現地の1haの大規模岡場において表2に示した区を設定し,その結果を表3に示した。


省力施肥区では肥料不足となり,稈長と穂長はやや短く,㎡籾数は省力施肥区が慣行施肥区に比べ少なかった。しかし,登熟歩合や千粒重が高くなり,収量は慣行施肥区並となった。また,慣行施肥区で倒伏が見られたのに対し,省力施肥区ではほんど見られなかった
LP100を使うことにより,追肥を省いても慣行施肥並の生育パターン及び収量が得られることがわかった。しかし,表4に示したように全層施肥,接触施肥とも年次によって,登熟歩合や検査等級の変動だ大きく,品質の点で不安定な傾向が見らねた。

データーとしては示していないが,品質の良かった平成11年は高温年次で,逆に品質の悪かった平成10年と12年は,低温年次で初期生育が劣り,また倒伏が見られた年次であった。このことは,年次によってLP100の肥効が減数分裂期以降の生育後半まで残っていたのではないかと考えられた。また現地での乾田直播栽培の場合,播種時期が4月中旬から下旬頃であり,気温が低いこともあり,生育前半はLP100だと窒素の溶出がほとんどないのではないかと考えられた。そこで,乾田直播栽培圃場に,LP40,LP70,LP100,LPS60,LPS80をそれぞれ埋設し,実際の窒素溶出量を測定して,期間ごとの窒素溶出率を求めた。
図7にそれぞれの溶出パターンを示した。80%の窒素が溶出するのにかかる日数は,LP40は70~80日,LP70は95~120日,LP100は110~120日,LPS60は90~100日,LPS80は110~120日で明記されている日数よりも長くなる傾向が見られた。特に,LP100は8月中旬ころまで肥効が残っている可能性が考えられた。

図8の結果から初期生育の確保と品質の安定化を図る観点からLP40を主体とし,穂肥効果として,シグモイドタイプのLPS60もしくはLPS80を組み合わせるのが良いのではないかと考えられた。そこで,LP40とLPS60もしくはLPS80を組み合わせて表5のような試験区を設けて,試験を行った。


表6に示したように,LP40を使うことにより,LP100単用やLP70よりも茎数の増加量が多かった。

表7に示したように,リニア型のLP40,LP70とシグモイド型のLPS60,LPS80を組み合わせることにより,玄米タンパク含有率がLP100や穂肥をする区に比べ年次を通して低かった。また検査等級もLP100に比べ組み合わせた区の方が,安定していた。収量については,穂肥を実施した区には及ばなかったものの組み合わせた区は,LP100を使った区と同等であった。

乾田直播栽培において肥効調節型肥料を基肥に用いることにより,入水時追肥やつなぎ肥を省いた省力施肥法が可能であること,気象条件等によっては全く追肥を行わない全量基肥施肥も可能であることが明らかとなった。また,施肥位置を全層施肥から接触施肥に変えることによって,施肥効率が向上し,施肥量を減らすことが可能となり,図9のような施肥法を提示することができた。

稲作の大規模化・省力化が進む中,乾田直播栽培を更に普及させるためには,安定した収量性と高品質化が求められる。
そのためには,土壌の種類や気象条件等を考慮して,肥効調節型肥料のタイプを上手に選びまた組み合わせることで,乾田直播栽培での施肥の効率化,収量や品質の安定化が図られていくものと考えられる。
東北大学大学院 農学研究科附属
複合生態フィールド教育研究センター
伊藤 豊彰
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所
井上 博道
不耕起栽培は耕転や整地を省略した栽培法であり,①土壌侵食の防止 ②耕転,整地作業の省略による省力・低コスト化,化石燃料の節減 ③土壌水分保持量の増加 ④ミミズなどの小動物や微生物の増加,などのメリットが挙げられ,さらに近年では温暖化対策のーつとして不耕起栽培における土壌の炭素貯留(隔離)機能が注目されている1)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
一方で,土壌が硬いために根の伸長が抑制されやすいこと,全面施肥では肥効低下や土壌表層の酸性化が起こりやすいこと,条施用では出芽時に濃度障害の可能性が大きいこと,土壌窒素の無機化量が少ないために収量が低下する可能性があること,さらに播種時の雑草処理のために非選択性除草剤の散布量が増加する,などのデメリットもある。
本稿では東北大学大学院農学研究科フィールドセンターで実施した研究2,3,4,5 )をとりまとめ,デントコーンの不耕起栽培における肥効調節型肥料(CAF)の全量基肥・接触施肥法6)の有効性を明らかにした。
東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター(非アロフェン質黒ボク土)に不耕起区と耕起区(ロータリー耕,ハローで整地)を設置し,デントコーン(Zea mays L. var. indentata STURT cv.パイオニア3352,RMl18)の栽培試験を1995~1998年の4年間同一圃場で継続した。
施肥処理としては,窒素肥料として硫安および肥効調節型肥料(ポリオレフィン被覆尿素)であるLP30とLP70(それぞれ50,100kgN/ha)を混合して全量基肥で種子と同じ位置に接触施用した。なお,耕起・慣行区では硫安100kgN/haを種子の5cm下方に施用し,草丈1mになった時期に50kgN/haを追肥した。1996~1998年にLP30+LP70区と硫安区に重窒素施用のサブプロットを設け,肥料窒素の利用率を求めた。リン酸,カリ肥料は全処理区で共通とし,リン酸肥料として被覆重過石30日タイプ(1995年)または粒状熔リン(1996~1998年),カリ肥料として被覆塩化カリ70日タイプを用いた。
デントコーンの播種は5月中旬に畦幅72cm×播種間隔18cmで播種し,最終的に1本立てとした。各処理は乱塊法で3反復とした。
図1に,出芽時の積算降水量の異なる4年間における不耕起区の被覆尿素および硫安(いずれも全量基肥・接触施肥)施用区の出芽率を示した。被覆尿素区では,種子と接触施用しでも種子近傍のECを高めないために,出芽率は81~93%と安定して高かった。一方,硫安を接触施肥すると濃度障害によって出芽率は22~95%と播種後の降水量により大きく変動した。また,不耕起栽培では硫安施用においても耕起栽培より出芽率が高くなる傾向があった。

これは,不耕起区では耕起による毛管切断がないために下層土からの水分供給により播種部位の水分含量が相対的に高いためと考えられた。
不耕起・被覆尿素30+70区のデントコーンの乾物収量(表1)は,耕起・硫安慣行区に比べて同等もしくは高く,耕起・被覆尿素30+70区とほぼ同等であった。また,不耕起・硫安区では気象により収量が左右されやすく,乾燥年(塩類障害による初期生育不良)および多雨年(肥料窒素の溶脱)とも収量が低下したのに対して,不耕起・被覆尿素30+70区では気象による変動は少なく,安定して高い乾物収量を得ることができた。

施肥窒素利用率(表2)は不耕起・被覆尿素30+70区で50~60%と最も高かった。これに対して,不耕起・硫安区では,窒素吸収量は気象により変動し,乾燥や多雨により施肥窒素利用率が26%~27%に低下し,また,耕起・被覆尿素30+70区では39~45%,耕起・硫安慣行区では27~30%と低い値を示した。

由来別窒素吸収量(表3)をみると,土壌由来窒素吸収量は耕起区より不耕起区で低い傾向を示した。これは,不耕起栽培では耕転しないために撹乱効果による土壌有機態窒素の無機化促進が起こらないためである。しかし,全窒素吸収は不耕起区と耕起区で違いが生じなかったのは,肥効調節型肥料の接触施肥と不耕起区のデントコーンの表層での養分吸収能が高いこと(後述)により,表層施肥窒素の吸収量が増加したためと考えられる。

上層(重窒素注入深さ2.5cm)における不耕起区のデントコーンは耕起区に比べ1.5~2.0倍の窒素吸収速度を示し,有意水準5%で差が認められた(図2)。

これは,根系発達の傾向(深さ0-5cmでは不耕起区は耕起区よりも総根量が多く,二次根(細根)の量は2.1倍であった。)と一致した。下層(重窒素注入深さ22.5cm)における窒素吸収速度は,不耕起区と耕起区に有意な差は認められなかった。このことは,不耕起では下層での根量が少ないが,不耕起区のデントコーンの体内リン酸濃度が高いために根の養分吸収活性が高まっていた可能性がある。
出液速度により,能動的吸水量の推定が可能である。図3は,不耕起区と耕起区で深さ0~15cm層の土壌水分張力に差が見られた時期(1999年6月11日,3~4葉期)のデントコーンの出液速度(水分吸収速度)を地上部乾物重との関係により示したものである。デントコーンの地上部乾物重あたりの水分吸収速度(出液速度)は,耕起区に比べて不耕起区で高かった(Inoue et al.,2001)。これは,不耕起表層土壌の土壌水分含量が高いことを反映した結果である。

以上の結果より,不耕起区では耕起区に比べて,表層0~5cmでのデントコーンの根量および細根が多いために個体あたりの窒素吸収活性が高く,さらに土壌水分保持量が多い不耕起土壌では降雨がない日が続いた場合に耕起土壌に比べ作物への水分供給量が多いことが,不耕起区における施肥窒素利用率の向上に寄与したと考えられる。
窒素吸収速度の測定方法:デントコーンの根系が下層まで充分発達したと考えられる出穂期(1996年8月12日,1997年は8月8日)に硝酸カルシウム(1996年,50.4 atom%),または硝酸カリウム(1997年,50.5 atom%)を用いて,耕起法の違いによるデントコーンの養分吸収能を比較した。デントコーンの株を中心とした半径5cmおよび10cmの同心円上のそれぞれ6地点,計12地点に硝酸態窒素溶液10mLを注射器を用いて均一に注入した(1個体に200mgN)。
調査個体として不耕起区,耕起区において草丈および稈基部の茎周が平均的な個体を選び(4反複),注入個体の両隣りの個体は刈り取り,注入した個体は5日後に回収した。注入深さは0-5cm層と15-30cm層の中心とした。
出液速度の測定方法:耕起,不耕起土壌の水分供給能を石原・平沢7)の出液速度によって比較した。不耕起区と耕起区で深さ0-15cm層の土壌水分張力に差が見られた,1999年の6月11日(3~4葉期)のデータを示した。デントコーンの地上部をカミソリで切断し,水分が蒸発しないようにラップフィルムで覆った脱脂綿で出液を1時間回収した。15個体について,出液速度が最大に達する午前9時から10時にかけて測定を行った。
播種後の選択的除草剤を散布しない場合,接触施肥では畦間に肥料が散布されないために,表面施肥に比べて雑草が畦間で少なく,畦で多くなった。そこで接触施肥と除草剤の畦のみ散布を組み合わせると,畦間の雑草の成長を抑制しつつ,畦に集中する雑草を効果的に防除できた(図4)。

除草剤畦散布と肥効調節型肥料を用いた接触施肥を組み合わせることにより,デントコーンへの養分供給効率を高めるとともに雑草との養分競合を緩和し,除草剤使用量を72%削減することが可能であった。
以上のことから,不耕起栽培においては肥効調節型肥料を用いた全量基肥・接触施肥が,出芽率を安定させ,表層での養水分吸収活性が高いために施肥窒素利用率をさらに高め,持続的に高い収量を得ると同時に,環境負荷(硝酸態窒素の溶脱,除草剤使用量の削減)を軽減するのに有効であると結論された。
1)R. Lal:Soil carbon sequestration to miti-gate climate change,Geoderma,123,1-22(2004)
2)伊藤豊彰・井上博道・三枝正彦:耕起法と窒素肥料種が全量基肥・接触施肥栽培におけるデントコーンの出芽に及ぼす影響
土肥誌,71,187-193(2000)
3)井上博道・伊藤豊彰・三枝正彦:全量基肥・接触施肥・不耕起栽培におけるデントコーンの養分吸収と収量性
土肥誌,71,674-681(2000)
4)井上博道・伊藤豊彰・三枝正彦:不耕起栽培における接触施肥と除草剤畦散布の組み合わせがデントコーンの収量に与える効果
土肥誌,71,682-688(2000)
5)H. Inoue,T. Ito and M. Saigusa:Notillage cultivation of corn using controlled release fertilizer,Proceedings of 12th International World fertilizer Congress(Beijing,China),Volume 1,1028-1034(2001)
6)Shoji,S. and Gandeza,A. T.:Controlled release fertilizers. Konno Printing Co .,Ltd .,Sendai,Japan(1992)
7)石原邦・平沢正:蒸散と吸水の測定,最新作物生理実験法,
農業技術協会,東京,106(1985)