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農業と科学 平成22年5月
本号の内容
§トマトの促成長期どり栽培における省力・安定生産技術
栃木県農業試験場 園芸技術部 野菜研究室
主任 根岸 直人
§飼料稲の有望品種と栽培法
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
Tohoku Agricultural Research Center
低コスト稲育種研究東北サブチーム長 山口 誠之
東北飼料イネ研究チーム主任研究員 関矢 博幸
栃木県農業試験場 園芸技術部 野菜研究室
主任 根岸 直人
栃木県の施設トマト栽培は,平成10年頃までは9月に播種し,翌年2月から6月まで収穫する促成栽培が一般的であった。しかし,平成12年に平均kg単価が前年までの300円台から250円まで急落し,トマト農家の経営が厳しい状況に陥った。これを契機に所得向上を図るため,作型の前進化が検討され始めた。その結果,高軒高施設で3mの誘引線を利用したハイワイヤー誘引栽培の開発などにより,徐々に作型の前進化が図られ,年内から収穫開始となる促成長期どり栽培が普及してきた。
現在,県内の促成トマト栽培の作付面積は約225haであるが,その1/4の約60haが促成長期どり栽培となっている。促成長期どり栽培で最も早い作型は,7月に播種し,10月から翌年6月頃まで収穫し,収量は促成作型の12t/10aに対し,1.7倍の20t/10a程度得られている。また,夏季の育苗管理や定植作業の省力化を図るためセル成型苗(本葉2.0~3.0枚)を直接ほ場に定植する栽培方法も普及している。
促成長期どり栽培は,作期が夏から翌年初夏までの11か月間と長期間にわたり,気象条件も大きく変わることから草勢コントロールが難しく,特に厳寒期の草勢低下による減収,品質低下が問題となっている。その対策のひとつとして肥培管理があげられるが,これまで生産現場では基肥+追肥という管理が一般的であり,追肥施用のタイミング遅れや量の過不足が草勢低下の原因になっている。また,追肥回数も多くなることから,省力化が求められている。
そこで,促成長期どり栽培における省力化・安定生産技術としてセル成型苗直接定植法での被覆尿素肥料を利用した全量基肥栽培について検討した。
7月上旬に128穴セルトレイに播種し,7月下旬に本葉2.5枚程度のセル成型苗をほ場に定植した。収穫は,10月から翌年6月上旬まで行った。供試品種は,穂木がマイロック,台木はブロックを用いた。栽植密度は畝間180cm,株間25cm(220本/a)の1条振り分けとし,誘引は3mの誘引線を用いたハイワイヤ一つる下ろしで行った。ほ場管理は,7月上旬に牛糞おがくず堆肥を0.3t/a投入し,肥料は7月下旬に施用した。


促成長期どり栽培におけるセル成型苗直接定植法で,溶出率の異なる被覆尿素肥料を組合わせた全量基肥栽培について検討した。表1のように,供試区の基肥窒素成分量は4.0kg/aとし,そのうち半分を被覆尿素肥料(LPS120~200),残り半分を有機質肥料とした。慣行区の窒素成分量は,基肥で2.0kg/a施用し,追肥として2.0kg/aを分施した。

各花房の開花日及び収穫日は,いずれの区も慣行区と同程度で生育スピードに差は見られなかった(表2)。

茎径は,第3花房までは溶出期間が短い組合せの区ほど太くなった(表3)。

可販果収量及び1果重は,いずれの区も慣行区と同程度であった。外観品質は,いずれの区も慣行区と同程度であった(表4)。

ハウス内の平均地温(地下15cm)は,定植時の8月上旬に約28℃と最も高くなり,12月下旬から2月下旬にかけて約15℃と最も低く推移した(図1)。

被覆尿素肥料の窒素溶出率はLPS120区及びLPS120+160区で栽培終了時に80%以上となり,ほぼ目標とする値になった。特に,LPS120+160区は栽培期間を通して溶出率が安定していた(図2)。

栽培終了時の土壌分析結果は,LPS120>LPS160>慣行>LPS120+160>LPS160+200の順に硝酸態窒素が多かった(表5)。

トマト促成長期どり栽培におけるセル成型苗直接定植法で,溶出率の異なる被覆尿素肥料を組合せた全量基肥栽培は,慣行栽培(基肥+追肥)と比べて生育,収量・品質は同程度であり,全量基肥になることで追肥作業の省力化が図られた。
被覆尿素肥料の組合せは,窒素溶出率が栽培期間を通して安定しており,栽培終了時の硝酸態窒素が少ないLPS120+160が適していると考えられた。


(独)農業・食品産業技術総合研究機構
Tohoku Agricultural Research Center
低コスト稲育種研究東北サブチーム長 山口 誠之
東北飼料イネ研究チーム主任研究員 関矢 博幸
2009年8月に公表されたわが国の2008年の食料自給率は,熱量ベースで41%であった。これは,主要先進国の中では最低の水準であり,飼料自給率に至つては26%と,さらに低いのが現状である。農林水産省では,新たな「食料・農業・農村基本計画」(2005年策定)の中で,飼料自給率を2015年までに35%に上げる目標を掲げている。
一方で,わが国の米の消費量は1962年以降,食生活の欧米化とともに年々減少し続けている。その結果,食用米の作付面積は大幅に減少し,麦,大豆等への転作が進められている。しかし,水田での生産には水稲が最も適していることから,近年,飼料自給率の向上につながる飼料稲生産に期待が高まっている。
飼料稲は,牛用に子実と茎葉の全てを利用する「稲ホールクロップサイレージ(稲WCS)」と,主に豚,鶏用に子実のみを利用する「飼料米」に分けることができる。ここでは,現在までに育成された稲WCS用,飼料米用の飼料稲品種の特性を紹介するとともに,飼料稲品種の省力的で低コストな栽培法について報告する。
わが国の飼料稲品種改良の歴史をさかのぼると,当初は農林水産省が1982年から実施した「超多収プロジェクト」の中で食用,加工用を視野に入れた多収米として品種改良が進められていた。それ以降,いくつかの多収品種が育成された。2000年以降,本格的に稲WCSの生産が始まり,それと連動するように乾物収量が高く,倒れにくい専用品種が次々に育成された。さらにこれらの多収品種,稲WCS用品種の中でより玄米収量が高いものが飼料米用として利用されるようになった。
2009年までに育成された主な飼料稲品種を図1に示した。北海道向けから九州向けまで,育成品種数は20を超え,今後も収量性などが改良された新たな飼料稲品種が育成される見込みである。

ここでは,特に東北地域で普及している3品種「べこあおば」,「べこごのみ」,「ふくひびき」について詳しく紹介する。
東北地域中南部で「ひとめぼれ」と同熟期の”中生の晩”に属する。玄米は極大粒で,主食用品種との識別性がある(写真1)。倒伏に強く,直播栽培に適している(写真2)。


稲WCSとして,黄熟期のTDN(可消化養分総量)収量は「ふくひびき」よりも1割程度多収である。飼料米として,粗玄米収量750~800kg/10aが期待できる。2007年に秋田県大仙市で1,014kg/10a(施肥量:窒素成分で基肥9kg/10a,追肥6kg/10a)を記録した。家畜ふん堆肥を多量に施用した極多肥条件でも倒れずに,乾物重が多くなることから,家畜ふん堆肥を利用した多肥栽培にも適している。
東北地域中南部で「アキヒカリ」より早く,”早生の早”に属する。倒伏に強く,直播栽培に適している(写真3)。

稲WCSとして,黄熟期のTDN収量は「アキヒカリ」より移植栽培で6%,直播(表面散播)栽培で5%多収である。玄米は中粒で,品質は劣り,”下上”である。飼料米として,粗玄米収量は650~700kg/10aの期待ができる。
東北地域中北部では,主食用品種の「あきたこまち」よりも黄熟期が早く稲WCSとして収穫が可能で,食用品種の収穫作業との分散が期待できる。
主に加工用の多収米品種として育成された。東北地域中南部で”中生の中”に属する。倒れにくく,直播栽培も可能である。玄米は中粒で,品質は”中中”である。飼料米として,粗玄米収量700~750kg/10aが期待できる。1994年に福島県猪苗代町で1,000kg/10a(施肥量:窒素成分で基肥8kg/10a,追肥4kg/10a)に達した事例がある。
飼料稲栽培の基本は食用水稲と同じであるが,食用水稲に比べて収益性が劣ることから,飼料稲専用品種の多収性を活かし,多肥栽培としながら省力・低コスト化に努めることがポイントとなる。そのためには,耐倒伏性や苗立ち特性に優れた飼料稲専用品種が育成されており,省力,低コストにつながる直播栽培を積極的に導入することが大切である。また,飼料稲では多収のために窒素供給量を食用米品種の1.6~2倍とする必要があるので((独)農研機構2009),家畜ふん堆肥を活用した資源循環型の肥培管理を行うことが,経営上合理的である。特に稲WCS用稲のように地上部全体を圃場外に持ち出す場合は,有機物の還元が不十分となる(住田ら2005) 。従って,堆肥の還元により地力保全に努める必要がある。さらには堆肥の肥効を利用しながら省力的な肥培管理を行うために,緩効性の被覆尿素を活用することが有効な手段となる。
被覆尿素を利用した省力的な湛水直播(以下,湛直)栽培については,本誌12月号に紹介されているので御覧頂きたい(佐藤2009)。ここでは,作業能率に優れ輪作体系に適した乾田直播(以下,乾直)について,湛直と対照させつつ,家畜糞堆肥連用と被覆尿素の施肥体系による「べこごのみ」の稲WCSおよび飼料米栽培試験を紹介する(関矢ら2009)。
2007年に東北農業研究センタ一大仙研究拠点水田圃場(灰色低地土)において,家畜ふん堆肥連用条件下で「べこごのみ」の湛直および乾直栽培試験を実施した。湛直ではカルパー粉衣種子で乾籾44kg/haを5月10日に播種し,10日間の落水管理後に入水した。乾直では催芽籾で乾籾53kg/haを4月27日に播種し,25日後に入水した。湛直圃場は堆肥連用5年目,乾直圃場は連用4年目で,牛豚鶏3種混合(6:3:1)の完熟堆肥現物36t/haを毎年施用した。窒素施肥は,湛直で硫安分施,乾直で被覆尿素主体の施肥とした(表1)。出穂後の積算気温800℃を目安に黄熟期坪刈り調査,および成熟期に坪刈り調査を行った。

無窒素施肥における黄熟期窒素吸収量は,堆肥連用により湛直で1.7倍,湛直で1.6倍と大きく増加した(図2)。

作付け後の作土の窒素無機化量も堆肥連用により湛直で1.4倍,乾直で1.3倍と増加しており(図3),堆肥連用による地力増進効果が顕著であった。

堆肥連用の効果を反映し,湛直,乾直ともに堆肥連用条件で黄熟期乾物収量が増加し,湛直堆肥連用区で13.3t/ha,乾直堆肥連用多肥区で12.8t/haの黄熟期乾物収量を得た(表2)。

同様に,粗玄米収量も堆肥連用条件で増加し,湛直堆肥連用区で8.3t/ha,乾直堆肥連用多肥区で7.8t/haの粗玄米収量を得た。乾直ではやや茎数が少なかったので,適切な漏水対策や被覆尿素の側条施肥により茎数を確保できれば,追肥なしでさらに収量が増えると推測した。
以上の結果から,堆肥の活用と被覆尿素を利用した乾直を組み合わせることで,従来の湛直に比べて省力的で窒素施肥量を削減した稲WCS,飼料米栽培が可能である。
飼料稲専用品種は優れた多収性を示しており,この特性を生かして低コストで高い収量を得るためには,耕畜連携による堆肥活用が有効である。さらに被覆尿素を用いた湛直,乾直栽培と組み合わせることで,飼料稲の生産コスト低減が期待できる。また,生産現場では,圃場の団地化や機械の共同利用といった地域単位での生産コスト削減の取り組みが重要である。飼料稲生産を通じ地域内の稲作農家と畜産農家が連携し,新たな地域の営農戦略へと発展していくことを期待したい。
1)東正昭・斉藤滋・池田良一・春原嘉弘・松本定夫・井上正勝・小山田善三・山口誠之・小綿寿志・横尾政雄(1994)
超多収水稲品種「ふくひびき」の育成,東北農業試験場研究報告88:15-38
2)中込弘二・山口誠之・片岡知守・遠藤貴司・滝田正・東正昭・横上晴郁・加藤浩・田村泰章(2006)
直播栽培に適する稲発酵粗飼料専用品種「べこあおば」の育成,東北農研研報106:1-14
3)中込弘二・山口誠之・片岡知守・遠藤貴司・滝田正・横上晴郁・加藤浩(2008)
東北地域向けの早生の飼料イネ専用品種「べこごのみ」の育成,東北農研研報109:1-13
4)(独)農研機構(2009)
飼料用米の生産・給与技術マニュアル<第1版>
5)住田弘一・加藤直人・西田瑞彦(2005)
田畑輪換の繰り返しゃ長期畑転換に伴う転作大豆の生産力低下と土壌肥沃度の変化,東北農研研報B103:39-52
6)佐藤雄幸(2009)
飼料用「べこごのみ」の被覆尿素を用いた湛水直播栽培,農業と科学12:5-8
7)関矢博幸・西田瑞彦・吉田光二・河本英憲(2009)
飼料イネの湛水直播および乾田直播栽培における腐熟度の異なる家畜ふん堆肥の影響,土肥誌東北支部大会講要:6