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農業と科学 平成22年11-12月
本号の内容
§畝内表層施肥同時畝立て成型マルチャを用いるレタス施肥の減量・省力化
Hyogo Prefectural Agriculture, Forestry and Fisheries Technology Center
淡路農業技術センター
主任研究員 小林 尚司
§被覆尿素を用いたニガウリの全量基肥栽培
沖縄県農業研究センター
主任研究員 比嘉 明美
§被覆肥料のチャ樹冠上施用が新芽の生育,品質に及ぼす影響
ジェイカムアグリ(株) 富士営業所
技術嘱託 岩橋 光育
課長代理 荒木 利明
§2010年本誌既刊総目次
Hyogo Prefectural Agriculture, Forestry and Fisheries Technology Center
淡路農業技術センター
主任研究員 小林 尚司
世界的な人口の増加による未開拓地の大規模な開墾や化石燃料の代替えとなる穀物のバイオ燃料としての利用技術の開発により農作物の生産が増大し,それに伴い肥料需要が急増したたため,2008年には,国際的に肥料価格が高騰した。これを契機として肥料の減量化技術の開発が求められている。また,開発される減肥技術は,降雨による肥料成分の河川への流出や,地下水の汚染など周辺の環境負荷の軽減が期待されるものとなる。
淡路地域のレタス生産は,秋作から翌年の春作まで、延べ栽培面積1,300ha,年間36.1千t(2008年度全国第3位)を出荷する大産地を形成している。このレタス生産においても,効果的な肥料の施用による減肥栽培技術の開発が求められている。また,同時に生産量がなお増加している産地において,経営規模の拡大に伴う省力的技術であることも必要条件となる。
そこで,レタス生産において従来の畝立て成型マルチャに施肥機を取り付け,マルチ被覆作業と同時に畝内の局所に効率的に施肥することにより,施肥の減量化と省力化を図った。
小型トラクタ(12.5ps)に畝立て成型マルチャを装着し,トラクタの安全フレームに施肥機を固定して,肥料の散布位置を調節することにより,畝立てしながら畝内の目的とする局所に施肥し,同時にマルチ被覆も行えるようにした(図1)。

本装置を用いて,畝立て成型マルチャのロータリの後方から肥料を散布し,畝の表層5cmに混和するよう考案した(図2,3)。


表層施肥法は,マルチ内の植え付け位置付近の表層に肥料が混和されるため,全面全層施肥や側条施肥に比べ,初期から肥効が現れ生育が旺盛となり,その後も肥効が安定する。施肥量は,慣行の全面全層施肥の窒素成分量30kg/10aに比べて20kg/10aに減量しても,結球重が大きく,球の変形度も全面全層施肥に比べて全体に小さく,球の形状も安定する(図4)。

慣行の全面全層施肥では,土壌全面に肥料を散布しロータリで全層に撹拌するため,表層施肥に比べて肥料の分布密度が低く生育が遅れるものと考えられる。また,側条施肥は施肥位置が植え付け位置から離れているため根が施肥位置に到達するまでに生育が遅れることになる。
現地実証試験において,慣行の全面全層施肥に比べて表層施肥で球の肥大性が良好となり,2L・L球の出荷数量が全面全層施肥の271箱/10aに対し,表層施肥20%減肥では325箱,同40%減肥では321箱となった。総出荷球数に対する2L・L球の割合では,全面全層施肥の85.7%に対し,表層施肥20%減肥では98.1%,同40%減肥では100%となる(図5)。冬期の2LとLの球当たり単価の差は小さく,M球は安価となるため,2L・L球の割合が高いほど収益は高くなる。

但し,表層施肥40%減肥では,現地試験の委託先生産者が,肥料不足を心配するあまり草勢をつけるためトンネルの裾を閉めて管理したことにより,球の形状が乱れA品が多くなった。
本技術を導入することにより畝立て成型マルチ被覆と施肥が同時に行え,その作業時間は2.0h/10aとなり,個別に行う作業体系に比べて作業時間を2/3に短縮できる。
マルチ畝内の表層施肥は,レタスの年内どり栽培や春どり栽培でも適用可能である。しかし,マルチをしない裸地での栽培の場合は,定植後に多量の降雨があると植え付け位置付近の肥料が急激に溶け出し,根痛みによる生育抑制を受ける場合がある。そのため,マルチをしない裸地栽培の場合は,安全策として,表層施肥ではなくロータリの前方から肥料を散布し畝内の全層に肥料を混和するのがよい。この場合でも,慣行の全面散布に比べて,2割程度の減肥は可能である。
レタス以外のキャベツやハクサイなど他の露地野菜でも同様なことが考えられ,定植後の乾燥時に畝間に水を貯めるような急激に土壌水分を高める管理は避ける必要がある。
1)事前に,肥料の種類に応じて施肥機の時間当たり繰り出し量を調べ,トラクタの走行速度に応じて,目標の施肥量になるよう繰り出し量を調節する必要がある。
2)肥料の種類は,マルチ栽培での元肥に用いられる緩効性肥料とする。
3)本技術を導入するには,既に所有のトラクタ型や歩行用テーラ型(図6)の畝立て成型マルチャに加えて,新たに装備する施肥機に15万円程度のコストを要する。

畝立て成型マルチャに施肥機を搭載し,マルチ被覆と同時に5cmに肥料を混和する畝内表層施肥を行うとレタスの定植位置周辺に肥料が分布し,効率的な施肥が可能となる。このため,レタスの生育は初期から旺盛となり,施肥量は慣行の全面全層施肥の窒素成分30kg/10aに比べ2/3の20kg/10aに減肥しても結球重や球の形状が優れる。さらに,現地実証試験において,慣行の全面全層施肥に比べて表層施肥は2L・L球の出荷数量が増えることが明らかとなり,減肥によるコスト低減効果だけでなく増収に結びつく技術であると言える。
沖縄県農業研究センター
主任研究員 比嘉 明美
沖縄県では,亜熱帯の温暖な気候を活かした冬春季のサヤインゲンやゴーヤ一等施設の野菜が盛んに生産されている。台風常襲地帯である本県では,近年耐候性ハウスの導入により,ゴーヤーの周年栽培が可能となり生産拡大が続けられている1)。しかし,耐候性のハウスは周年ビニールが展帳され雨水を遮断しているため肥料の下層土への移動溶脱が少なく,作物に吸収されなかった肥料や堆肥中の肥料成分が表層に残存し,塩類集積を招いている2)。そのため原因不明の生理障害や黄化症等の要素欠乏症が発生しており問題となっている。さらに,生産拡大が進む一方栽培管理に手が回らず施肥のタイミングを逸し,思うような収量を上げられない農家も少なくない。
そこで,速効性の肥料に比べ作物に対する効率的な養分供給が可能な肥効調節型肥料(被覆尿素)に期待される全量基肥による労力の軽減,施肥窒素の利用率の向上による増収,及び環境負荷軽減を現地農家圃場で検証したので報告する。
現地試験の糸満市では大きく分けて二つの栽培体系がとられている。秋季定植(9月~11月)で約半年間長期取りするものと,冬春期定植(2月~3月)で2~3ヶ月収穫で終わる短期取りである。このような栽培体系を勘案し,供試する被覆尿素肥料はLP100とLP140の2タイプを用いた。供試肥料2.5gを詰めた繊維網を9月と3月に深さ10cmにそれぞれ埋設し,2週間毎に掘り取り窒素溶出率調査を行った。
ニガウリの栽培は島尻マージ(磯質石灰型暗赤色土)にクチャ(島尻層群泥岩)を客土したパイプハウスにおいて,2006年10月上旬に牛糞堆肥400kg/aを畦部分に条施土壌混和し,11月上旬に農家慣行区とLP140被覆尿素区を設けビニールマルチを施した(表1)。

農家慣行区と被覆尿素区の違いは,肥料形態が異なるだけではなく施用成分量も異なり,被覆尿素区は窒素,リン酸,カリ施用総量が農家慣行区に比べてそれぞれ,約35%,55%,20%減となっている。栽植密度14株/a(畦巾160cm,株間300cm),1区160㎡の2区制とし,定植を2008年11月19日,収量調査を2009年1~5月に行った。
9月埋設は地温が最高30℃に達し,溶出が速やかであった(図1)。窒素80%の溶出に要した日数はLP100で90日,LP140で120日であった。

一方地温が平均20℃と低く推移した3月の埋設では,両タイプとも80%溶出に120日以上を要した(図2)。

以上の結果から溶出タイプの適応性を推定すると,秋季定植の3ヶ月未満の短期取りには100タイプが,5ヶ月以上の長期取りには140タイプが適当と考えられる。
ニガウリの初期生育は被覆尿素区に比べて農家慣行区で優り,株当たりの葉数は若干多く,葉色(GM値)は高い値を示し,蔓長も長かった(表2)。これは基肥の速効性窒素施用量が農家慣行区で多いことの反映と思われる。

収量は両区とも600k/a以上で高水準にあった。被覆尿素区は初期生育が緩慢で初期収穫量の低下が懸念されたが慣行区との間に差はなく,2月の収穫量は約100kg/aであった(図3)。3~5月の収量は両区とも月当たり170kg/aあり,県目標の100kg/a/月を超えていた。

施肥窒素量が多いことを反映して,農家慣行区の葉中窒素濃度は被覆肥料区を常に上回っていた。収穫最盛期における葉の養分濃度はカルシウムが最も高く,次いでカリ,窒素,マグネシウム,リンの順であった(表3)。生育初期から中期にかけて葉中カルシウム濃度が非常に高いのが特徴的であり,土壌中のカルシウム含量が高いことに起因するものと推察される。

ニガウリ果実1t当たりの窒素吸収量は処理区に差がなく約2kgであった。果実以外の茎葉部でも同量の窒素吸収があるため3),0.6t/aレベルの収穫量がある場合の窒素吸収量は1.2kg/aとなる。見かけの窒素利用率は農家慣行区で約50%,被覆肥料区で約80%と推定され,被覆肥料区では施肥窒素の利用率の向上が期待できる。
ニガウリ果実1t当たりの養分吸収量はカリが最も多く約3kgで,窒素吸収量より多くなった。次いでマグネシウム,リン酸,カルシウムで窒素吸収量の約10%程度であった。

本試験で用いた圃場は,元々中性~弱アルカリ性を呈し耕転が容易である反面,礫が多く土層が浅いため,水持ちが悪く干ばつの害を受けやすい島尻マージと呼ばれる石灰型暗赤色土からなっていたが,10年以上前クチャ(島尻層群泥岩)を客土した造成圃場である。クチャはジャーガル(軟岩型陸生未熟土石灰質)の母材でアルカリ性を呈し島尻マージより保水性に富むため,沖縄県では島尻マージの中で土層の浅い礫質石灰型暗赤色土の客土材として,よく利用されている。栽培前土壌の交換性カルシウム含量が非常に高いのは,そのためである(客土材であるクチャ由来)。更に,本圃場は10年間の耕作に伴う堆肥や肥料の施用で,可給態リン酸40mg/100g,交換性カリが80mg/100g以上ある養分の蓄積している圃場であった。栽培前土壌のECが0.9mS/cm,水溶性硝酸態窒素が30mg/100g以上と高いのは土壌のサンプリングを堆肥施用後に行ったことによるものと考えられる(表5)。

栽培後の肥料の残存量の指標となるECおよび硝酸態窒素は,被覆尿素区では窒素施用総量が農家慣行区に比べて約35%減となっているにもかかわらず,処理の差が判然としなかった。その理由として栽培前の硝酸態窒素が被覆尿素区の方が農家慣行区より高い傾向にあったことが考えられる。しかし,両処理区とも栽培前より減少した。
ニガウリの初期生育は基肥に高度化成肥料,追肥に液肥3回という速効性肥料を用いた農家慣行区が優る傾向にあった。被覆尿素区は初期生育が緩慢で初期収穫量の低下が懸念されたが時期ごとの収量および全収穫期間をとおした商品果収量は同等であった。このように速効性肥料と被覆尿素肥料の間に収量差はないものの,追肥の省略による省力化,減肥による低コスト化および環境負荷低減等,被覆尿素を用いる施肥体系のメリットは大きいものがある(表6)。

1)沖縄の農林水産業 平成22年3月沖縄県農林水産部:p20
2)平成10年度土壌保全対策事業成績抄録沖縄県農業試験場:p17
平成20年度試験成績概要書沖縄県農業研究センター土壌環境班:p60~61
3)久場峯子:九州・沖縄の農業と土壌肥料,p200~p201
ジェイ力ムアグリ(株) 富士営業所
技術嘱託 岩橋 光育
課長代理 荒木 利明
静岡県では施肥窒素の溶脱による周辺水系の汚染防止を目的に,施肥基準の年間窒素施用量の上限を2002年3月54kg/10aに,さらに2010年4月原則的に40kg/10aと改定され,生育,品質を保つためにさらなる施肥の効率化技術が求められている。
茶園への施肥は面積の1/5~1/6に相当するうね間に施用されており,このことが吸収根域の局所限定,根の濃度障害,肥料成分の溶脱などにより肥料の吸収率が上がらないという問題点を抱えており,樹冠下への施用などによる利用率の向上が期待されている。
樹冠下への施肥管理については,寿江島ら1),志和2),野中ら3)による施用の効果,また木下ら4)による樹冠下への点滴施肥など利用率向上の報告がなされている。
前報5)においてチャ中切り更新年における被覆肥料(360タイプ)の樹冠上からの施用により,慣行のうね間施用に比べ更新処理後の生育が良好で,N吸収量も多く,翌年からの新芽の生育も良好であるが,施用した被覆肥料の次更新年(4年後)までの安定した肥料成分の溶出供給に課題が残ることを報告した。
そこで,冬季の樹冠上からの被覆肥料の施用効果試験,さらに樹冠上施用とうね間施用の組み合わせ試験を実施,新芽の生育,品質への影響と施肥量削減を検討したので報告する。
慣行の管理が行われている菊川市高橋の農家ほ場で実施した。単条25年生の’やぶきた’成木園で,土壌は残積性未熟土(暗褐色)掛川1統で土性はLiCである。
試験区の構成は表1に示したとおりであり,被覆肥料であるロングを樹冠上に施用する樹冠上施用区,うね間に施用するうね間施用区の2区を設けた。処理区の規模は1区92㎡,2反復で,2007~2009年の3年間(但し2009年は一番茶調査まで)実施した。

供試する被覆肥料は1年間での溶出を予測して’エコロング426-140’(N-P2O5-K2O=24(アンモニア態窒素11.4,硝酸態窒素12.6)-2-6,以後「ロング」と表記)を用いた。ロングは毎年1月中旬に窒素として24kg/10a施用した。樹冠下に落下したロングは土と混層せず,うね間の施用時のみ混層した。なお,ロング施用後,両区とも慣行施肥として窒素54,リン酸17,カリ30kg/10aをうね間に春肥Ⅰ・Ⅱ,芽出し肥,夏肥Ⅰ・Ⅱ,秋肥Ⅰ・Ⅱの計7回分施した。
一,二番茶摘採期に枠摘み調査(20×20cm,1区4ヶ所)による新芽調査,生葉収量調査を行った。新芽は乾燥後,近赤外分光光度計(静岡製機(株)製)による測定(全窒素,遊離アミノ酸,テアニン,粗繊維,タンニン,カフェイン)を行った。
各茶期のー,二番茶生葉収量に各々0.23,0.25を乗じて荒茶量を産出し,さらにN含有率を乗じてN吸収量の推定を行った。
樹冠上施用したロングからのN溶出量調査を行った。溶出調査は施用済みのロングを樹冠下から定期的に回収し,残存N量と初期N量からN溶出率を算出した。
県内で新芽の生育が比較的早い静岡市駿河区日本平の農家ほ場で実施した。単条22年生の’やぶきた’成木園であり,土壌は黒ボク土(黒褐色)日本平統で土性はLiCであった。
試験区の構成は表2に示したとおりであり,樹冠上ロング施用(N15kg/10a)とうね間施用(N54kg)を組み合わせたⅠ区(樹冠上・うね間N69kg増肥区),同量の樹冠上施用とうね間施用(N39kg)を組み合わせたⅡ区(樹冠上・うね間N54kg区),慣行に対しN2割減肥を目的として同量の樹冠上施用とうね間施用(N28kg)を組み合わせたⅢ区(樹冠上・うね間N43kg減肥区),慣行区としてうね間施用N54kgのⅣ区(うね間N54kg慣行区)の4区を設けた。処理区の規模は1区72㎡,2反復で,2008~2010年の3年間実施した。

樹冠上施用したロングは毎年冬季の1月中旬にNとして15kg/10aを施用した。ロング施用後,慣行肥料をうね間に各試験区の構成に基づいた量を春肥Ⅰ・Ⅱ,芽出し肥,秋肥Ⅰ・Ⅱの計5回分肥した。施用後の近層は試験1)と同様,うね間施用時のみ行った。
調査は一,二番茶期に生葉収量調査を行った。また樹冠上施用に伴う経済的効果を試算した。荒茶量は生葉収量に一番茶は0.23,二番茶は0.25を乗じて求めた。荒茶価格は生葉加工後の販売価格(2008年一番茶4,900円/kg,二番茶1,000円,2009年一番茶4,650円/kg,二番茶950円,2010年一番茶5,400円/kg,二番茶1,150円)を利用した。また各年の慣行施肥の肥料代金(それぞれ63,130円,64,000円,61,600円/10a/年)を基に各区の肥料代金,ロングの肥料代金(15,590円/現物62.5kg/10a・年),樹冠上施用作業賃金(3,500円/1回/10a)を利用し,計算した。
表3に試験2年目を迎える2008年の新芽の生育調査結果を示した。一,二番茶新芽ともに樹冠上施用区の新芽数がうね間施用区を有意に上回ったが,その他の項目では明確な差は見られなかった。外見的には樹冠上施用区の生育が良好に見えるが,新芽数の増加に伴い摘芽長,新葉数,出開度など他の項目では差は少なかった。

表4に2008年の一,二番茶新芽の成分分析結果を示した。ー,二番茶新芽ともに処理間で有意な差は認められなかった。

表5に生葉収量調査結果を示した。一番茶では2008年,2009年の樹冠上施用区の生葉収量がうね間施用区を有意に上回り,二番茶においては2008年のみ有意な差が認められた。生葉収量は一番茶では3年間を通じ樹冠上施用区がうね間施用区よりも平均43kg/10a(うね間施用区100に対して108),二番茶では2年間であるが平均44kg(同108)多く,樹冠上施用区がうね間施用区に対して一番茶,二番茶ともに8%程度の生葉増収の効果をもたらすことが認められた。樹冠下への肥料施用の効果について,寿江島ら1)は樹冠下施用がうね間慣行施用に比較して被覆肥料,化成肥料ともに全茶期を通じて生葉収量が多くなることを報告している。今回の試験でも樹冠上施用がうね間施用に比べ生葉収量が増加するという同様な結果が得られた。

一番茶のN吸収量は,樹冠上施用区の吸収量がうね間ロング施用区に比べ3年間で8%程度,二番茶においては9%程度多く,冬季の樹冠上施用がうね間施用に比べN吸収量が多いことが認められた。(データ未記載)N吸収量のから指数から樹冠上施用による一番茶と二番茶への効果を比較するとほぼ同程度であることが認められた。茶樹では年間を通して吸収したN成分が貯蔵,再分配され一番茶新芽の形成に用いられ,二番茶新芽の生育は摘採当年に施肥されたN成分の吸収に依存する割合が大きいとされている。今回の試験においても当初樹冠上施用による年間を通じたN成分の供給に伴い一番茶への寄与が二番茶よりも大きいと予測したが,結果的には同程度のN吸収であった。村井6)は全面施肥区(N40kg/10a)がうね間慣行区(N69kg)に比べ遊離アミノ酸吸収量(生葉収量,遊離アミノ酸含有率から試算)で一,二番茶ともに10%程度増加することを,報告しており,今回の試験も同様な結果が得られた。
図1に樹冠上施用したロングからのN溶出状況を示した。N溶出率は施用後130日目34%,210日目72%,340日目86%であった。今回の試験では供試肥料が1月から12月にかけて肥料成分が溶出することを期待したものであり,当初の目的は達成されたものと考える。

表6に生葉の収量調査結果を示した。一番茶については,2009年のⅠ区(樹冠上・うね間N69kg増肥区),Ⅱ区(樹冠上・うね間N54kg区)でⅢ区(樹冠上・うね間N43kg減肥区)及びⅣ区(うね間N54kg慣行区)よりも有意に多かった。うね間慣行Ⅳ区を指数100とした3年間での生葉収量指数は,一番茶ではⅠ区110,Ⅱ区107と生葉収量の増加が認められたが,Ⅲ区は101とⅣ区と同程度であった。
二番茶においては,2009年のⅠ区,2010年のⅠ区,Ⅱ区の生葉収量がⅢ区及びⅣ区よりも有意に多かった。二番茶における3年間の収量指数は,Ⅰ区108,Ⅱ区107,Ⅲ区99であった。ー,二番茶ともに生葉の収量は概ねN施用量が多いⅠ区が最も多く,次にⅡ区であり,施肥量が最も少ないⅢ区とうね間慣行区あるⅣ区はほぼ同等の収量であった。

表7に樹冠上施用に伴う経済的効果の試算を示した。10a当りの一,二番茶の荒茶売上高合計は3年間で,うね間慣行であるN区(うね間N54kg慣行区)に比べ,N施用量が最も多いⅠ区(樹冠上・うね間N69kg増肥区)で119,530円増,Ⅱ区(樹冠上・うね間N54kg区)で89,909円増,Ⅲ区(樹冠上・うね間N43kg減肥区)4,230円増といずれの区も増加した。また,一,二番茶の売り上げの増加額は各処理区ともに一番茶で80%以上を占めていた。さらに肥料代・散布賃金を差し引いた所得でもN区に比べⅠ区62,260円増,Ⅱ区85,061円増,Ⅲ区37,825円といずれの区でも増加し処理区の中では,Ⅱ区の所得が最も高かった。Ⅲ区は,Ⅱ区,Ⅳ区より窒素が2割減肥区であるが,Ⅳ区よりも若干上回る所得,経済性が得られた。この区の施肥管理法は,施肥基準がN40kg/10aに削減された現在,従来と同様な収量,品質に対応可能なひとつの技術であると考える。

今後の問題点として更なる利用率向上のために樹冠上施用する肥料の種類,施用時期及び施肥設計の中での樹冠上施肥の割合などについて今後検討する必要があると考える。また樹冠上施用法の普及のための関連技術として,パイプやビニールを装備した自走式の樹冠上散布機などによる施肥作業機械化の検討も必要である。
肥料の利用率向上と施肥量削減を目的にロング施用法として,試験1ロングの冬季樹冠上施用効果及び試験2冬季樹冠上施用とうね間施用を組み合わせた施肥法の効果を検討した。
試験1より,
(1)ロングの冬季樹冠上施用効果はうね間施用に比べ一,二番茶新芽の生育が良好で,生葉収量は一番茶,二番茶ともに8%程度の増加が見られること,
(2)冬季に樹冠上施用したロングからのN成分の溶出は年内にほとんど溶出してしまうこと,
試験2より,
(3)生葉収量は,Ⅰ区(樹冠上・うね間N69kg増肥区)>Ⅱ区(樹冠上・うね間N54kg区)>Ⅲ区(樹冠上・うね間N43kg減肥区)≒Ⅳ区(うね間N54kg慣行区),荒茶売上高はⅠ区>Ⅱ区>Ⅲ区>Ⅳ区の順であったが,荒茶売上高から肥料代・散布賃金を差し引いた所得はⅡ区>Ⅰ区>Ⅲ区>Ⅳ区の順であること,
(4)Ⅱ区の結果からは慣行施肥量の一部を樹冠上施肥に置き換える施肥法は経済的に優位であること,
(5)Ⅲ区の結果からは窒素を全体で2割削減してもうね間慣行区と比較し生葉収量では同等,所得・経済性では若干上回り,この施用法は施肥基準がN40kg/10aに削減された現在,従来と同様な収量,品質に対応可能なひとつの技術であると考える。
1)寿江島久美子 他
鹿児島県茶研報,13,12~55(1999)
2)志和将一
茶研報,100,83~85(2005)
3)野中邦彦 他
茶研報,106,53~62(2008)
4)木下忠孝 他
茶研報,100,89~91(2005)
5)岩橋光育
農業と科学,3/4,4~12(2010)
6)村井公亮
滋賀県農業技術振興センター研究成果情報,平成20年度,11~12(2008)
<1月号>
§変化にスピーディーに対応し農業に貢献を!
ジェイカムアグリ株式会社
取締役副社長 守能 祥吉
§元素濃度による果実の産地判別
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所
果実鮮度保持研究チーム
井上 博道
§六条大麦の被覆尿素を用いた全量基肥施肥法
福井県農業試験場 生産環境部
主事 細川 幸一
<2月号>
§シグモイド型溶出被覆尿素による水稲湛水直播栽培の全量基肥栽培
青森県産業技術センター 農林総合研究所
低コスト稲作研究部長 清藤文仁
§露地中晩柑’不知火’における肥効調節型肥料を利用した減肥栽培が収量と品質および硝酸態窒素溶脱量に及ぼす影響
熊本県農業研究センタ一 生産環境研究所
環境保全研究室
研究参事 柿内 俊輔
§肥効調節型肥料を用いた花壇苗類の高品質省力生産
群馬県農業技術センター 園芸部花き係
独立研究員 古屋 修
<3・4月合併号>
§ポインセチアの養分吸収量と肥効調節型肥料を用いた省力施肥管理技術
栃木県農業試験場 園芸技術部 花き研究室
技師 坂本 あすか
§チャ中切り更新園における被覆肥料の樹冠上施肥による肥料利用率の向上
ジェイカムアグリ(株) 富士営業所
技術嘱託 岩橋 光育
<5月号>
§トマトの促成長期どり栽培における省力・安定生産技術
栃木県農業試験場 園芸技術部 野菜研究室
主任 根岸 直人
§飼料稲の有望品種と栽培法
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
東北農業研究センター
低コスト稲育種研究東北サブチーム長 山口 誠之
東北飼料イネ研究チーム主任研究員 関矢 博幸
<6月号>
§水稲育苗箱全量施肥法における中生品種に対する適応性について
鳥取県農林水産部 経営支援課
農林技師 金川 健祐
§温度反応特性を考慮した水稲用被覆肥料の選定法
岡山県農業総合センター農業試験場
森次 真一
<7月号>
§育苗箱全量施肥と疎植栽培を組み合わせた米づくり
鳥取県農林総合研究所農業試験場 環境研究室
坂東 悟
§緩効性窒素肥料を用いた春キャベツの施肥効率向上
神奈川県農業技術センター
三浦半島地区事務所研究課
主任研究員 髙田 敦之
<8月号>
§ハイパーCDU(温度依存性の低い肥効調節型肥料)を利用したハクサイの減肥栽培
和歌山県農林水産総合技術センター 農業試験場
主査研究員 久田 紀夫
§強酸性バレイショ圃場におけるロングショウカルを用いた施肥改善
長崎県農林技術開発センター 馬鈴薯研究室
主任研究員 大井 義弘
<9月号>
§土壌診断に基づく被覆肥料施肥によるハウス栽培コマツナの減肥高品質化
埼玉県農林総合研究センター
農産物安全・土壌担当
主任 杉沼 千恵子
§肥効調節型肥料を用いた水稲「はえぬき」の全量基肥栽培
香川県農業試験場 生産環境部門
主席研究員 田辺 和司
主任研究員 阿部 政人*
(*現 香川県農業試験場 府中分場)
<10月号>
§肥効調節型肥料の連用がアスパラガス露地長期どり栽培の収量に及ぼす影響
山形県最上総合支庁産業経済部
農業技術普及課産地研究室
岡部 和広
§肥効調節型肥料とハンモック式栽培槽を組み合わせたイチゴ低温力ッ卜栽培
岩手県農業研究センター
技術部 南部園芸研究室
主任専門研究員 藤尾 拓也
<11・12月合併号>
§畝内表層施肥同時畝立て成型マルチャを用いるレタス施肥の減量・省力化
兵庫県立農林水産技術総合センター
淡路農業技術センター
小林 尚司
§被覆尿素を用いたニガウリの全量基肥栽培
沖縄県農業研究センター
比嘉 明美
§被覆肥料のチャ樹冠上施用が新芽の生育,品質に及ぼす影響
ジェイカムアグリ(株) 富士営業所
技術嘱託 岩橋 光育
課長代理 荒木 利明
§2010年本誌既刊総目次