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農業と科学 平成27年12月
本号の内容
§バーク培地におけるコチョウランの効率的施肥管理技術
栃木県農業試験場
研究開発部 花き研究室
主任研究員 小玉 雅晴
§中華めん用小麦「ラー麦」における穂揃期追肥の省力化の可能性
福岡県農林業総合試験場 豊前分場
石丸 知道
§2015年本誌既刊総目次
栃木県農業試験場
研究開発部 花き研究室
主任研究員 小玉 雅晴
コチョウランの栽培管理は,メリクロン苗を2.5号鉢に鉢上げした1次育苗から始まり,鉢サイズを一回り大きくした2次育苗,そして低温管理による花芽誘導から開花までの3つのステージに分けられる。通常,鉢上げから開花株の出荷までは,約2年の栽培期間を必要とする。栽培用の植え込み培地は,従来ミズゴケが利用されてきたが,価格高騰などの理由から,近年ではニュージーランド産のバークチップ(以下バーク)が全国的に普及している。バークは,ミズゴケに比べ植え込みが容易で,作業効率が優れるメリットがある一方で,保水性が低いことから与えた液肥の大部分が排液として流出し肥料のロスが懸念されている。さらに,ミズゴケと同様の液肥管理では,生育遅延や開花輪数の減少が生じやすいなどの問題が報告されている。そこで,本試験ではバーク培地におけるコチョウランの効率的な施肥技術を確立することを目的に,肥効調節型肥料を用いた施肥管理法の可能性について検討したので紹介する。
培地の理化学性を明らかにするため気相率,液相率,pH,ECおよび硝酸態窒素の吸着特性を調査した。pHとECは,培地と蒸留水を重量比1:10で混合し,30分間振とうした後に測定した。また,培地の硝酸態窒素吸着特性は,風乾させた培地10gを50mLの液肥(ピータースライト窒素20%-リン酸10%-カリ20%の2,000倍液)中に入れ, 25℃暗黒下に静置した状態で溶液中の硝酸態窒素濃度の経時的な推移を測定した。
供試品種は,白色大輪系‘ナポレオン’のメリクロン苗(葉数3~4枚)を用いた。苗は2009年9月20日にバークを培地として,2.5号深底鉢に鉢上げした。施肥処理は,過去に栃木農試で明らかにしたコチョウランの養分吸収量を参考に,肥効調節型肥料ロング424の270日溶出タイプ(以下L270)およびエコカリコート2038の180日溶出タイプ(以下K180)を組み合わせた。鉢上げ1か月後に1鉢あたりL270を0.8gおよびK180を0.2g置肥し,6か月後にK180を0.2g追肥処理する区を基準とし,その1/2倍,2倍,3倍量の施肥区を設定した。肥料は培地表面に置き,かん水管理は5日間隔で300mL/鉢の水を培地上部から与えた。
調査は,鉢上げから10か月後の葉数,茎葉重および葉の大きさを測定した。
2010年7月20日に1次育苗で生育の優れた施肥区の苗を4号深底鉢にバークを用いて定植した。
施肥処理は,定植1か月後に1鉢あたりロング424の360日溶出タイプ(以下L360)を2.0gおよびK180を0.4g置肥し,6か月後にK180を0.4g追肥処理する区を基準とし,その2倍,3倍量の施肥区を設定した。かん水管理は,試験(ア)と同じとした。
調査は,定植9か月後の2次育苗終了(花茎誘導開始)時の葉数,茎葉重,葉の大きさ,葉色を測定した。また,開花形質として,開花輪数,第1小花の開花期間を調査した。
なお,温度管理は,試験(ア)および(イ)の育苗期間は昼温を32℃で換気,最低温度を27℃設定とした。また,花茎誘導開始の2011年4月20日以降は,低温処理として終日20℃設定とした。日射管理は,日射量が0.5kW/㎡を超えた場合は外部遮光(70~75%遮光)を展張し,0.7kW/㎡を超えた場合は,さらに内部遮光(50%遮光)を展張した。
前述の施肥量検討において適当と判断した施肥処理について実証栽培を行った。品種は,白色大輪系’ナポレオン’およびピンク色大輪系’ヴィーナス’を供試した。各品種のメリクロン苗(葉数3~4枚)をバーク培地で,2012年8月28日に2.5号深底鉢に鉢上げ,2013年6月5日に3.5号鉢に定植した。ただし,肥料は商品変更に伴いロング413を用いた。対照は液肥区とし,5日間隔のかん水を兼ねて液肥(ピータースライト 窒素20%-リン酸10%-カリ20%の2,500倍液)を300mL/鉢で与えた。温度管理は,前述試験に準じ,花茎誘導のための低温処理開始日は2013年4月20日とした。
調査は,栽培期間中の植物体の養分吸収量および植え込み培地であるバークの窒素吸着量を測定した。また,2次育苗終了時の葉数,根数,茎葉重,葉面積を測定した。開花形質は,開花輪数,第1小花の開花期間を調査した。
植え込み培地の気相率は,バークが46.4%でミズゴケの4.4倍であった(表1)。液相率は,バークがミズゴケの1/3程度と低かった。pHは,ミズゴケが4.9で,バークは5.1であった。ECは,ミズゴケが0.19dS/mで,バークは0.13dS/mであった。

培地を液肥に浸潰した時の溶液中の硝酸態窒素の変化は,ミズゴケが60mg/L程度で、安定していたのに対し,バークは5日後から低下し,25 日後には12mg/Lまで低下した(図1)。

1次育苗終了時の葉数および根数は,施肥量が多いほど増加する傾向がみられ
た(表2)。葉数は基準区の5.9枚に対し,1/2倍区は5.1枚と少なく,2倍および3倍区は7程度と多かった。

また,葉の大きさは施肥量が多いほど上位葉が長くなったが,3倍区では長大化による草姿の乱れが発生した(表3)。草姿バランスを含めて良好に生育した施肥量2倍区が,1次育苗時の生育に適すると判断した。そのため,2次育苗以降の試験には施肥量2倍区を供試した。

2次育苗終了時の葉数は,基準区の11枚に対し,2倍および3倍区が2枚程度多かった(表4)。生体重は,茎部が2倍および3倍区で基準区より重かったが,根部は3倍区が他より軽かった。葉色は,2倍および3倍区に比べ基準区が淡かった。また3倍区では上位展開葉が反転する障害がみられた。開花輪数は基準区の8.7輪に対し,2倍区が10.3輪,3倍区が11.1輪であった(表4)。また,第1小花の開花期間は,基準区の123日に対し,2倍区が134日,3倍区は127日と差は認められなかった。

栽培期間中の肥効調節型肥料の窒素溶出率は,概ね各肥料タイプの日数に応じた溶出パターンを示した。1次育苗時のL270の溶出率は,置肥120日後に44.1% , 180日後に63.5%,240日後には71. 6%であった。2次育苗時のL360の溶出率は,置肥120日後に33.0%,2次育苗終了となる240日後に76.5%,開花期となる360日後には82.5%であった。また,K180の溶出率は,60日後が33.3%,120日後が約88.9%であった(図2)。

栽培期間中におけるバークの窒素吸着量の推移は,施肥前の200mg/100gに対し,1次育苗終了時の270日後は肥効調節型肥料区が350mg/100g,液肥区は340mg/100gとなった。その後,定植で新たにバークが加わったことに伴い低下したが,経過日数とともに再び上昇した(図3)。

2次育苗終了時の生育は,葉数が肥効調節型肥料区においていずれの品種も13枚で,液肥区より多かった(表5)。根数は,肥効調節型肥料区が液肥区より多かった。開花輪数は,肥効調節型肥料区のナポレオンが10.3輪,ヴィーナスが8.7輪で,液肥区より1輪程度多かった。植物体の乾燥重量は,いずれの品種も肥効調節型肥料区が重かった。

開花株の窒素吸収量は,ナポレオンの肥効調節型肥料区が597.5mg/株,液肥区が315.5mg/株,ヴィーナスの肥効調節型肥料区が519.9mg/株,液肥区が175.7mg/株で,肥効調節型肥料が優れた(表6)。

与えた肥料の窒素成分に対する植物体の保有率は,肥効調節型肥料区のナポレオンの71.8%,ヴィーナスの62.5%に対して液肥区はナポレオンが6.9%,ヴィーナスが3.9%であり肥効調節型肥料が大幅に優れた。
バーク培地を用いて,コチョウラン大輪系の品種を鉢上げから開花まで2年間栽培を行う作型において,肥効調節型肥料を置肥し,水のみを与える方法により,開花時の葉数12枚,小花数10輪程度の良品生産が可能であった。
バークの特性として,液肥溶液にバークを浸潰した場合,経過とともに溶液中の硝酸態窒素濃度が低下すること,また,栽培期間中にバークによる窒素吸着量が徐々に高まる液肥ことから,一般に問題となっているバーク培地での液肥施用における生育遅延は,バークへの養分吸着ならびに保水性が劣ることによる根からの吸収阻害が原因と考えられた。
肥効調節型肥料によるバーク培地を用いた栽培については,水のみの管理でも施肥量が増加するほど,生育量が増加する傾向がみられたことから,液肥の施用無しでも肥効調節型肥料のみで生育をコントロールできることが示唆された。適正な施肥量は,養分吸収量の2倍程度と考えられた。肥効調節型肥料は,水分が肥料の周辺に存在する条件下で僅かずつ溶出するため,鉢外への流出が少なく,バークへの吸着分を考慮して施肥することで,植物体への供給が十分に行われると考えられた。実証栽培試験において,開花時の株が保有する窒素は52~597mg/株であり,与えた肥料窒素成分の61. 5%~7 1. 8%に相当した。さらに,バークに吸着される窒素量は,施肥量の31%に相当することから窒素に関しては施肥成分量のほぼすべてが植物体またはバークに保有あるいは吸着されることが示唆された。液肥を施用した
場合,与えた窒素成分は肥効調節型肥料の約5倍であるのに対し,植物体の保有率はわずか3.8 %~6.9 %であることから,肥効調節型肥料は効率的な施肥方法と考えられた。
以上から,バーク培地における肥効調節型肥料を利用したコチョウランの施肥管理法は,養分吸収効率が極めて高く,液肥と比較して大幅に優れた方法といえる。これにより,コチョウランの栽培期間に与える施肥量の大幅な低減が可能となり,本施肥法は生産コストの削減につながる施肥管理技術として期待できる。
福岡県農林業総合試験場 豊前分場
石丸 知道
福岡県で育成された中華めん用小麦「ちくしW2号(登録商標名:ラー麦)」はラーメン適性が良好であることから,実需者から生産拡大が望まれ,2014年播の作付面積は1,250ha(福岡県内の小麦作付面積の8%)と2008年に一般栽培が始まってから徐々に面積が増加している。その一方で,良好なラーメン適性を保つため,子実タンパク質含有率12%以上を有する「ラー麦」の安定生産と供給が実需者から強く求められている。子実タンパク質含有率12%以上を確保するために,福岡県では穂揃期に,窒素成分で5kg/10aを追肥する新たな基準を設けた。しかし,穂揃期の追肥は生産者にとって重労働であるため,省力化が望まれている。ここでは,穂揃期後の追肥時期が子実タンパク質含有率に及ぼす影響を明らかにすることで,緩効性肥料を用いた穂揃期追肥の省力化の可能性について知見を得たので,紹介する。
「ラー麦」を供試し,2010~2011年の2ヵ年(播種年,以下同じ)に福岡県農業総合試験場豊前分場(福岡県行橋市)の灰色低地土,埴壌土の水田圃場(水稲後作)において試験を実施した。2010年は11月24日,2011年は11月28日に目標出芽本数を150本/㎡とし,1区8.3㎡に播種した。播種方法は畦幅150cmの4条の条播で,施肥は両年とも,基肥は化成肥料を窒素,燐酸,カリの成分でそれぞれ5,5,5kg/10a,追肥は化成肥料を1追(1回目追肥,1月下旬施肥)4,0,4kg/10a,2追(2回目追肥,3月上旬施肥)2,0,2kg/10aとした。穂揃期後の追肥時期は,穂揃期,穂揃期後7日, 14日,21日,28日の5時期とし,窒素成分で5kg/10aを粒状の硫安で追肥した。踏圧および土入れは両年ともに1月~3月にそれぞれ2回行った。各試験区ともそれぞれの成熟期頃に収穫し,乾燥,脱穀後に2.2mmの縦目篩いで選別した子実を供試して,収量構成要素および子実タンパク質含有率を測定した。作物体の窒素含有率はセミ・ミクロケルダール法,子実タンパク質含有率は近赤外多成分分析装置(FOSS社製,インフラテック1241)で測定し,水分含有率13.5%の換算値として示した。
供試品種,試験実施場所,栽培法は1)と同様とし, 2011年11月28日に1区0.15㎡に播種した。窒素肥料は基肥以下2追までは15N非標識硫安(以下,硫安)とし,施肥量は1)と同様とした。穂揃期後の追肥には15N標識硫安を用いて,穂揃期,穂揃期後7日,14日,21日,28日の5時期に窒素成分で5kg/10aを追肥した。なお,各追肥日とも対照として同量の硫安を処理する区を設けた。また,各区ともに基肥時に燐酸,カリを成分量で5kg/10a施肥した。成熟期に試験区の全株を抜き取り,根を切除後,穂と茎葉の部分に分けて窒素分析に供した。作物体の窒素含有率はセミ・ミクロケルダール法によって測定した。15N濃度(atom% excess)は安定同位体質量分析計(Integra CN,Sercon)により測定した15N存在比(atom%)より自然存在比0.366を減じることで算出した。追肥窒素寄与率は,算出された試料の15N濃度(atom% excess)を15N標識硫安から自然存在比を減じた値で除し,100を乗じて算出した。
穂揃期後の窒素追肥時期が「ラー麦」の生育,収量および品質に及ぼす影響を表1に示した。成熟期は,穂揃期追肥に比べて,穂揃期後7日で同日~1日遅く,穂揃期後14日では1日遅く,穂揃期後21日および28日では1~2日早まった。稈長,穂長,穂数,容積重および収量に,追肥時期の違いによる差はみられなかった。千粒重は追肥時期と栽培年次の違いで異なり,穂揃期~穂揃期後14日追肥で重く,穂揃期後21日以降の追肥では軽かった。

次に,穂揃期後の窒素追肥時期が成熟期の子実タンパク質含有率と茎葉および子実の窒素含有率に及ぼす影響を表2に示した。穂揃期および穂揃期後7日の追肥では,2ヵ年ともに子実窒素含有率が2.4%前後で,子実タンパク質含有率が13%以上と高かった。穂揃期後14~28日の追肥では,子実窒素含有率および子実タンパク質含有率に年次間差があり,2011年播では子実窒素含有率が低く,子実タンパク質含有率が12%以下であった。各播種年で穂揃期追肥の影響をみると,2010年播では,穂揃期と比べて穂揃期後21日および28日では子実の窒素含有率および子実タンパク質含有率が低かった。一方,穂揃期後7日および14日では子実の窒素含有率および子実タンパク質含有率に差はなく,子実タンパク質含有率は13%以上と高かった。2011年播では,穂揃期と比べて穂揃期後14日で子実窒素含有率が低い傾向があり,穂揃期後21日および28日では低く,3時期ともに子実タンパク質含有率は12%以下であった。しかし,穂揃期後7日では2010年播と同様に,子実の窒素含有率および子実タンパク質含有率には,穂揃期追肥との間に差はなかった。

穂揃期後の追肥時期が成熟期における子実および茎葉の窒素含有量に及ぼす影響を図1に示した。子実の窒素含有量は,穂揃期追肥で11.4g/㎡であったのに対し,穂揃期後14日では9.8g/㎡,穂揃期後21日および28日では7.9,6.9g/㎡と少なかったが,穂揃期後7日では11.7g/㎡と同程度であった。一方,茎葉の窒素含有量には,追肥時期による差はみられなかった。穂揃期後に追肥した窒素の吸収量(15N含有量)は,穂揃期追肥が3.4g/㎡であったのに対し,穂揃期後14日では1.8g/㎡,穂揃期後21,28日では0.6g/㎡以下と少なかったが,穂揃期後7日では3.3g/㎡と穂揃期追肥と同等であった。茎葉においては穂揃期後に追肥した窒素の吸収量は,いずれの追肥時期においても差はなかった。

次に,穂揃期後の追肥時期と子実における追肥窒素の利用率および寄与率を図2に示した。穂揃期後に追肥した窒素の大部分は子実ヘ転流されるため, ここでは茎葉を含めず子実の窒素含有量のみから追肥窒素利用率を算出した。その結果,追肥窒素利用率は穂揃期後および穂揃期後7日の追肥で60%以上と高く,穂揃期後14日では32.5%と低下し,穂揃期後21日および28日ではそれぞれ10.3,3.1%と著しく低下した。穂揃期後の追肥時期と追肥窒素利用率との間には負の関係が認められた(r=-0.971**)。同様に,成熟期の子実窒素含有量に占める穂揃期後追肥由来の窒素含有量の割合を示す追肥窒素寄与率は,穂揃期および穂揃期後7日では30%程度と高く,穂揃期後14日以降については窒素追肥が遅れるほど低下し,穂揃期後の追肥時期と追肥窒素寄与率との間において負の相関が認められた(r=-0.964**)。

子実タンパク質含有率について,本試験で供試した「ラー麦」のラーメン適性が良好となる子実タンパク質含有率は12%以上(古庄ら2013)であることから,12%以上を窒素追肥時期の適否として判断する。試験を実施した2カ年ともに子実タンパク質含有率が目標とする12%を上回った穂揃期後の追肥時期は,穂揃期と穂揃期後7日で,いずれの年においても13%以上が確保された(表2)。15N標識硫安を用いて穂揃期後に追肥した窒素の吸収動態を2011年播でみると,穂揃期および穂揃期後7日の追肥では窒素利用率が60%以上と高く,15N標識硫安由来の子実窒素含有量が約3.4g/㎡と多かった。また,追肥窒素寄与率は両追肥時期ともに30%程度と高かった(図1,図2)。以上のことから,穂揃期と穂揃期後7日の追肥で安定的に12%以上を確保できた理由としては,穂揃期後に追肥した窒素の吸収量が多かったことがあげられる。したがって,子実タンパク質含有率が12%以上となるための有効な追肥時期は,穂揃期から穂揃期後7日である。
穂揃期後14日の窒素追肥では,子実タンパク質含有率は,2010年播では12%以上であったが,2011年播では12%以下であった。2011年播の15N標識硫安の吸収動態をみると,成熟期における15N標識硫安由来の子実窒素含有量が穂揃期および穂揃期後7日の追肥と比べて50%程度と少なかった(図1)。また,追肥窒素利用率は33%で,追肥窒素寄与率も18%と低かった(図2)。このことから,穂揃期後14日追肥では,麦体の窒素の吸収量が少なく,追肥窒素利用率が低下したことがうかがえる。この年次による違いは,追肥後の降雨の影響が考えられる。本試験において穂揃期後14日追肥の後に1mm以上の降雨があったのは,2010年播は追肥した翌日であったのに対し,2011年播は追肥後11日(穂揃期後25日)を要した(図3)。このため,2011年播の穂揃期後14日追肥で子実タンパク質含有率が低かった理由として,追肥した硫安の溶解が遅れたことによる麦体の窒素吸収の減少にともなう追肥窒素利用率の低下に起因すると考えられる。穂揃期後21日および28日の窒素追肥では,穂揃期施用と比べて2カ年ともに子実タンパク質含有率が低く,特に2011年播では約10%で目標値である12%には到達することはできなかった(表2)。これは,追肥窒素利用率が著しく低く,子実窒素含有量が極端に少なくなったためである(図1,2)。また,穂揃期後14日以前の施用と比べて千粒重が軽かったことからも,穂揃期後の追肥効果(高山ら2004,山下ら2005)が低いことが示唆され,コムギの窒素吸収能は穂揃期後21日以降では低下していることが推察される。したがって,子実タンパク質含有率向上からみた穂揃期後21日および28日の窒素追肥は,時期が不適と判断される。

福岡県では実需者の要望に応えるために,穂揃期追肥を前提とした「ラー麦」,「ミナミノカオリ」等の中華めん・パン用品種の作付拡大を誘導している。しかし,現行の施肥体系で必須となっている穂揃期追肥は生産者にとって重労働であることから,省力化の要望が多い(田中ら2008)。このため,出穂後にも十分な窒素吸収を促進させるための省力施肥技術の確立が重要である。北部九州においては,省力施肥技術として日本めん用品種で緩効性肥料の活用が実用化されているが(田中ら2008),中華めん・パン用品種では子実タンパク質含有率の目標値が日本めん用品種よりもさらに2~3%高い水準であるため,未だ実用化されていない。本試験において,子実タンパク質含有率を安定的かつ効率的に高める追肥時期は穂揃期~穂揃期後7日であったが,穂揃期後14日でも追肥後の降雨により速やかに硫安が溶解した場合,穂揃期追肥と同等の効果を期待できることが示唆された。つまり,緩効性肥料を利用した省力施肥体系を構築していくにあたっては,緩効性肥料の性質上,窒素の溶出期間を要するため,穂揃期~穂揃期後14日の間に,追肥窒素利用率が60%以上となるような溶出タイプのものを選定していくことで,実用化が可能と考える。
●古庄雅彦・馬場孝秀・宮崎真行・石丸知道・大野礼成・高田衣子・浜地勇次2013
日本初のラーメン用小麦品種「ちくしW2号」の開発と高品質生産技術の確立
日作紀81(別号1):518-521
●高山敏之・長嶺敬・石川直幸・田谷省三2004
コムギにおける出穂10日後追肥の効果
日作車己73:157-162
●田中浩平・宮崎真行・内川修2008
肥効調節型肥料を利用したコムギの省力追肥法
日作九支報 74:36-38
●山下幸恵・西岡贋泰・横尾浩明2005
パン用コムギ品種「ニシノカオリ」の子実タンパク質含有率に及ぼす穂揃期追肥の効果
日作九支報71:20-22
<1月号>
§「和食」の文化遺産登録に思うこと
ジェイカムアグリ株式会社
取締役 斎藤 久登
§根粒菌生態機能を活用した環境保全ダイズ生産技術の開発に向けて
国立大学法人 宮崎大学 農学部
教授 佐伯 雄一
§苗箱施肥における本田生育の特徴と留意点
ジェイカムアグリ株式会社 東北支店
技術顧問 上野 正夫
<2月号>
§ソラマメしみ症の発生に影響を及ぼす土壌要因について
鹿児島大学 農学部
准教授 樗木 直也
§(トピックス)
Nutricote 宇宙に行く!
ジェイカムアグリ(株) 海外部
§S寒冷地における水稲育苗管理の勘どころと苗箱施肥のすすめ
ジェイカムアグリ株式会社 東北支店
技術顧問 上野 正夫
<3月号>
§肥効調節型肥料を用いた局所施肥による生産性の高い茶園管理技術
静岡県農林技術研究所
茶業研究センタ一 生産環境科
松本 昌直
§野菜に対する樹脂系被覆肥料の効果的な利用技術
その1 樹脂系被覆肥料の特徴と施肥の原理
ジェイカムアグリ株式会社 九州支店
技術顧問 郡司掛 則昭
<4月号>
§特別栽培米への苗箱まかせの利用
岩手県立遠野緑峰高等学校
教諭 木田 深
(現 岩手県立花巻農業高等学校)
§野菜に対する樹脂系被覆肥料の効果的な利用技術
その2 樹脂系被覆肥料を用いた局所施肥の効果と今後の課題
ジェイカムアグリ株式会社 九州支店
技術顧問 郡司掛 則昭
<5月号>
§タマネギのセル成型苗における緩効性肥料の培土混和技術
富山県農林水産総合技術センター
園芸研究所 野菜課
主任研究員 浅井 雅美
§<産地レポート>
「JAあしきたサラたまちゃん部会」の早出したまねぎにおける機械化・施肥低減技術確立への取組
熊本県県南広域本部芦北地域振興局
農林部農業普及・振興課 寺本 伸子
§農家とともに114年-JA花咲ふくい坂井農場の歩み
花咲ふくい農業協同組合 営農指導課
坂井農場
場長 長谷川 彰
<6月号>
§水稲苗の苗床への竹粉末の利用-利点と問題点-
九州大学院 農学研究院
山川 武夫
§飼料用米「べこあおば」に対する肥効調節型肥料の減肥効果
元 農研機構 東北農業研究センター
水田作研究領域
土屋 一成
<7月号>
§アスパラガスの露地長期どり栽培での緩効性肥料を用いた省力施肥技術
長野県野菜花き試験場 環境部
齋藤 龍司
§熊本県における地下水保全に向けた土づくりの取組み
ジェイカムアグリ株式会社 九州支店
技術顧問 郡司掛 則昭
<8月・9月合併号>
§気温データによる肥効調節型肥料の溶出推定の精度改善法
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
東北農業研究センター
西田 瑞彦
§竹粉末の特性を利用した生ゴミ堆肥の製造とその利用の可能性
山川 武夫 九州大学院 農学研究院
小川 真季 九州大学院 生物資源環境科学府
松下 正壽 松下建設株式会社
平川 博 多良木町役場
<10月号>
§被覆肥料のセル内施肥による年内どりレタスの窒素減肥栽培
長崎県対馬振興局 農林水産部 農業振興普及課
大津 善雄
(前 長崎県農林技術開発センタ一 環境研究部門 土壌肥料研究室)
§「人を健康にする施肥」発行に際して
兵庫県立農林水産技術総合センター・農業大学校
渡辺 和彦
<11月号>
§CDU入り肥料の芝生サッチ分解効果試験
一般財団法人 関西グリーン研究所
所長代理 森 将人
§<産地レポート>
「JAおおいがわ吹木茶農協」の良質深蒸し茶栽培における施肥体系レポート
JAおおいがわ湯日支店
係長 樋澤 禎行
§サトウキビに対する緩効性肥料の効果
沖縄県農林水産部
南部農業改良普及センター
主任技師 友利 研一
(旧所属:宮古農林水産振興センター)
<12月号>
§バーク培地におけるコチョウランの効率的施肥管理技術
栃木県農業試験場
研究開発部 花き研究室
主任研究員 小玉 雅晴
§中華めん用小麦「ラー麦」における穂揃期追肥の省力化の可能性
福岡県農林業総合試験場 豊前分場
石丸 知道
§2015年本誌既刊総目次