Search Icons

Site Search

Search within product

第701号 2018(H30) .06発行

Click here for PDF version 第701号 2018(H30) .06発行

農業と科学 2018/06

本号の内容

 

 

「ロング」肥料の溶出特性
−とくに浸漬1週間の変動−

桝田 正治・小野 綾介
(元 岡山大学 自然科学研究科)

Introduction.

 肥効調節型肥料は水溶性の肥料を樹脂等で被覆したもので,成分の溶出速度の違いにより種々のタイプに分けられている1) 。近年,この溶出特性を利用して野菜の局所施肥法や全量基肥施肥法の試験が進められ,追肥の省力化と肥料利用率の向上が図られつつある2, 3) 。筆者らは,少量隔離培地耕の一つである「防根給水ひも」栽培において肥効調節型肥料の全量基肥施肥による肥培管理法を検討してきた。トマト7〜8段収穫の栽培では定植後の栽培期間が4〜5か月と短いこと,またメロンでも2.5か月と短いため,肥料の利用率を高めようとすると,施肥設計は,おのずと溶出タイプの短い種類の組み合わせになる。しかし,エコロングトータル40タイプや70タイプを25℃溶出曲線に準じて施用したとき,定植直後にときおり萎れ症状が観察された。そこで,ポーラスカップで土壌溶液を減圧採集しEC値を測定したところ,それらの培地では少なくとも溶液のEC値が5dS/mを超えていることから,萎れ症状は水ポテンシャルの低下に伴う根の吸水阻害によると考えられた。このような場合でも,定植後3週を過ぎると生育は解消され,この時に土壌溶液のEC値は0.5dS/m前後まで落ちる4, 5, 6) 。以上の試験結果から,「ロング」肥料を主体とした全量基肥施肥栽培では定植当初の養分溶出量を極力抑さえることが望ましいと考えられた。なお,培養液管理法では,このような萎れは観察されず問題は生じない。
 そこで本稿では,定植1週間における苗の活着と生育を安定させるため,「ロング」肥料の浸漬1週間の溶出実態を詳細に調査し全量基肥施肥の栽培に資することを目的とした。「ロング」肥料の溶出日数は200ml水中に浸漬した10gの肥料が25℃条件下で保証成分の80%が溶出する日数として表示され,溶出量は一定時間経過毎に養液濃度を比色法等で分析している。図1はエコロング413−40タイプにおける温度依存窒素成分の溶出率を示した想定図である。これは10日毎の積算値をグラフ化したもので,まさに同一人物(エネルギーは一定)が腰をかがめて前のものを取ろうとするとき,暖かいほど手を伸ばさないで早くに取れる姿を連想させるものである。本研究では,溶液の電気伝導度(EC値)を測定することにより肥料全体(粒子)の溶出特性を把握しようとした。なお,上述の萎れ症状が,施用直後の急速な肥料成分の溶出に起因すると予想されたことから,経時的な溶出,とりわけ肥料の初期溶出を重点的に調査した。

材料と測定法の概要

 肥効調節型肥料は「エコロングトータル313」の溶出タイプ40,70,100,140および「ロングショウカル」の溶出タイプ70,100,140,「エコカリコート」の溶出タイプ70,100,140の溶出タイプを用いた。それらを200mlの水を入れたガラス瓶に10g投入し,それぞれ15℃(低温) ,25℃(中温) ,35℃(高温)に調整した人工気象機内に静置した。水を取り換えない区と毎日溶液を捨て,再び同温度の新水を200ml入れる区を設定した。この操作は9日間とし,2週目からは1週間毎に水を取り換えた。また,エコロングトータル40タイプと70タイプについては肥料を茶袋に入れ,1日あるいは3日間浸漬した後,その茶袋を40℃オーブンで乾燥させ再び浸漬して再溶出パターンをEC値でグラフ化した。また,浸漬5日間に溶出したNPK成分はCNコーダーとイオンクロマトにより分析し溶出率を求めた。

Results and Discussion

 窒素成分の溶出想定図(図1)は10日毎の溶出量の積算値をもとに示されたもので,このパターンを前もって確認した上で,詳細にEC値を1日毎にプロットして描いたのが図2である。

 40,70両タイプとも,温度依存の溶出パターンは類似しており,かつ40タイプは70タイプに比べてEC値が常に高く推移し,経時的にも溶出量の多いことが分かる。とりわけ8日までは傾きが大きく,その後は緩やかな傾きでほぼ直線となる。このことは1週前後に溶出速度の変曲点が存在する事を示唆する。被膜により肥効が調節されているとは言え,この1週間,つまり定植直後から活着までの肥料の効かせ方が培地の少ないトマトやメロンの紐栽培では重要で,肥料のブレンドはこの点を十分考慮して行う必要があるといえる。
 図3においては1日毎に水を取り換えて溶出量の違いを棒グラフにてより詳細に示した。40タイプの値は浸漬1日後で特に高く70タイプの約2倍,2日目には40タイプの値が1日目の6割程度に落ちるため変化の小さい70タイプとの差は小さくなる。その後,徐々に両タイプの差は縮まる傾向を示す。図3も図2と同様に定植時1週間程の肥料の効かせ方が重要であることを示している。なお,40タイプと70タイプの成分量は同じだから,このまま進めば40タイプは70タイプよりも限りなく早くにゼロ値に向かうことになる。なお,トマトの底面給水砂育苗では以上の点を考慮して低温期には40タイプを,適温期には70タイプを鉢当たり3g混和するのが良いとした7) The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 図2における浸漬5日後の残存量を求め,養分溶出率を示したのが表1である。エコロングトータル40タイプは,全窒素で31%,カリ28%と全量の約3割前後が5日間で溶出する。これらに比しリン酸は少なく5%弱でゆっくりと溶出してくることが分かる。ここで溶出速度は,T−N>K2O>MgO>P2O5と示される。この傾向は70タイプでも同様に認められるが,全窒素とカリの溶出量は40タイプの約半分となり溶出タイプの差が歴然としていることが分かる。しかし,リン酸については溶出量が少ないこともあり両タイプ間にあまり差は認められない。エコロング肥料における総窒素(アンモニア性窒素と硝酸性窒素の含量) ,リン酸,加里の溶出速度の違い,そのパターンはジェイカムアグリの研究史1)の44ページに表示されているので参照されたい。

 エコロングトータル40タイプ,70タイプとも浸漬7日間の溶出量が多いこと(図2) ,40タイプにあっては1〜3日において特に多い事(図3)が分かったので,二つの溶出タイプで安定した溶出を確保するにはどうすればよいかとの観点で,1日,あるいは3日間浸水した後に一端乾燥させ,再び浸漬して調査したのが図4である。

 1日浸水後の再溶出量は40タイプでは乾燥させない時の値(図3の1,2,3日が図4の2,3,4日に相当する)の1.3〜1.5倍程度に高くなる。これは,いったん乾燥させたことにより被膜の強度が弱まるからではないかと推測される。一方,70タイプでは,そのような傾向は40タイプほどには見られない。3日浸水後の再溶出EC値は両タイプとも日毎の変動が少なく非常に安定していることがわかる。以上の結果から,定植直後の急激な肥料溶出を抑え,安定した溶出を確保するためには3日間浸水した肥料を一端乾燥させ,それを所定量ブレンドすればよいと考えられる。この場合,3日間浸水した溶液はECメーターでチェックし,表1で述べた養分溶出率から成分含有比を念頭に「液肥」として使用することができる。
 これまで述べてきた手法で約5週間にわたって水を取り換え測定したEC値の変化を図5に示した。エコロングトータルについてみると,溶出タイプの温度依存性は明らかに認められ,いずれの水温でも浸漬2週目までに溶出タイプによる溶出量の差は明確に出ること,2週間を過ぎると溶出量にほとんど差がなくなり溶出は安定域に入って続く。40タイプは浸漬直後から多く溶出し70タイプとの差は歴然としており(これは図3からも確認できる) ,かつ,この二つは他の二つ(100タイプと140タイプ)に比べて2〜3倍量溶出することが分かる。100タイプと140タイプの間には35℃区を除いてはほとんど差が認められない。ロングショウカルは15℃では当初ほとんど溶出せず3週を過ぎる頃から立ち上がり差が出始める。25℃と35℃では当初から溶出するが,とくに1週を過ぎる頃から多くなる特徴がみられる。エコカリコートはエコロングトータルによく似て浸漬当初の溶出量が特に多い。また,エコカリコートは70と100のタイプ間にほとんど差がなく,この二つに比べ140タイプでは浸漬当初から70タイプ,100タイプの約半量と溶出が強く抑制され長期持続型の特徴が明確に現れている。

summary

 水温15℃,25℃,35℃における浸漬当初の溶出パターンを調査した。「エコロングトータル」では,40,70いずれのタイプにおいても浸漬開始1日目の溶出量が最も多く,その後徐々に低下し,1週前後には安定する傾向にあった。この溶出量は40タイプの方が顕著で5日間の溶出率は全窒素で31%,カリ28%,マグネシウム13%,リン酸で4%であった。 3日間浸水し一端粒子を乾燥させたのち再度浸漬した場合,溶出量は原粒子のそれの半量程度に落ち,日々低下しつつ一定域に入った。「ロングショウカル」は,いずれのタイプも水温の影響を受け易く,とくに水温15℃では溶出が強く抑制された。一方,「エコカリコート」はエコロングトータルと同様な温度依存パターンで溶出し,ロングショウカルとは明らかに異なる溶出波形を示した。以上の結果より,育苗段階あるいは3〜6リットルの少量培地で全量基肥施肥するには,とりわけ当初1週間の溶出特性を理解したうえで施用することが肝要と考えられた。なお最後に,本稿は販売される肥料を使用する研究者や栽培者を念頭に記述したものであることを付記しておきたい。

引 用 資 料

1.ロングとLPコートの開発,その特性と施肥技術−理想の肥料を追い求めた45年−.
  庄子貞雄 監修,ジェイカムアグリ株式会社.2011.

2.ネット入り肥料を用いた育苗ポット内局所施肥法によるスイカ全量基肥栽培.
  佐藤之信・安達栄介・中西政則・齋藤謙二・安藤隆之.
  土壌肥料学会誌 77:87−91.2006.

3.肥効調節型肥料を用いたトマト育苗鉢内全量施肥法.
  小杉 徹・中村仁美・若澤秀幸.
  土壌肥料学会誌 78:207−211.2007.

4.促成トマトの防根給水ひも栽培における肥効調節型肥料の適用.
  木下貴文・桝田正治・渡辺修一・中野善公.
  園芸学研究 9:39−46.2010.

5.ネットメロンの防根給水ひも栽培における肥効調節型肥料の適用.
  川原雅規・村上紗代・桝田正治.
  岡山大学農学報 100:9−15.2011.

6.肥効調節型肥料の紐上置肥によるトマトの防根給水ひも栽培.
  今野裕光・桝田正治・村上賢治.
  園芸学研究 10:41−47.2011.

7.ソーラーポンプを利用したNFT式底面給水砂育苗装置.
  小野綾介・桝田正治.
  農業及び園芸 86:993−99.2011.

 

 

静岡県における育苗箱全量施肥用資材
「苗箱まかせ」の実用性の検討

静岡県農林技術研究所・作物科
白鳥 孝太郎
(現 静岡県畜産振興課 畜産技術班)

★はじめに

 静岡県の水田農業経営体の数は24,693戸から19,354戸(平成22年から平成27年)に減少している※。一方,10ha規模以上の大規模な経営体の数は165戸から208戸(平成22年から平成27年)へと増加している※。大規模な経営では,作業の効率化が最大の課題となっており,今後も大規模な経営体は増加することが予想されるため,省力技術の開発・導入を進める必要がある。
 近年の水稲作においては,施肥作業の省力化のために全量基肥資材の施用が主流となっている。本研究では,さらに省力化を推進する可能性の高い育苗箱全量施肥用
資材「苗箱まかせ」について,県内の主要な品種で栽培試験を行った。
※出典:平成27年農 林業センサス

●早生品種

Purpose

 近年,水田農家の大規模化に伴い,労力の低減が求められている。全量基肥資材の導入拡大により労力の軽減が図られているが,さらにこれを推進する可能性が高い育苗箱全量施肥用資材「苗箱まかせN400−100B30」(ジェイカムアグリ(株))の実用性を検討する。ここでは,早生品種用に配合された資材について,県内の主要品種である「コシヒカリ」の早期から早植栽培で検討する。

2. Methods

(1)試験場所 静岡県農林技術研究所三ヶ野圃場(細粒質グライ化灰色低地土)
(2)供試品種 「コシヒカリ」
(3)試験構成
 試験資材 (試験区):苗箱まかせN400−100B30
   N:P2O5:K2O=40:0:0
   緩効性N100%(S60,S100)
   ※播種前日に育苗箱の床土下に均一に施用
 比較資材 (対照区):エコゴールド
   N:P2O5:K2O=18:15:15
   緩効性N62% (L100)※移植時に側条施肥
(4)試験規模 1区約190m2 2反復(H27,28)3反復(H29)
(5)栽培概要(月/日)
 移植(H27,28,29):5/14,5/13,4/25
 栽植密度:約30cm×約19cm
 植付本数:約3.6本/株(試験区)
      約3.8本/株(対照区)
 その他管理は慣行
(6)調査項目
 苗質調査,生育調査,成熟期調査,収量調査,分解調査,登熟歩合,玄米品質,食味調査等

3.研究期間を通じての成果の概

 「苗箱まかせN400−100B30」を施肥した「コシヒカリ」の早植栽培および早期栽培では,慣行の「エコゴールド」を側条施肥した栽培と比べて,次の結果が得られた。
・移植時の苗が長く,葉齢が進んでおり,葉色が濃かった(表2) 。一方,機械移植時の作業性や植付精度に支障はなかった。

・移植後は対照区の葉色が濃くなったが,移植後30〜40日頃から試験区の葉色が濃く推移した。
 出穂時の葉色に大きな差は見られなかった(表3) 。

・茎数の増加は緩慢であり,最高茎数は少なかった。一方,穂数は同程度からやや多く,有効茎歩合は高くなった(表4) 。

・千粒重は小さい傾向がみられたが,精玄米重は同程度となった。また,玄米の外観品質およびタンパク質含量に差はみられず,食味は同程度であった(表5) 。

4.研究期間を通じての成果の要約

 「苗箱まかせN400−100B30」を用いた「コシヒカリ」の早期および早植栽培は,慣行の側条施肥による栽培と比べて,最高茎数は少なくなったが,穂数は同程度からやや多かった。また収量,玄米品質および食味には差が見られなかった。以上の結果から,本資材は「コシヒカリ」の早期から早植栽培において,慣行の資材と同程度の実用性があると考えられる
〔キーワード〕「コシヒカリ」 ,育苗箱全量施肥,省力,低コスト,環境保全型農業
5.成果の活用面と留意点
 本資材にはリン酸およびカリウムが含まれていないため,土壌状態によっては別に施用する必要がある。

●晩生品種

Purpose

 近年,水田農家の大規模化に伴い,労力の低減が求められている。全量基肥資材の導入拡大により労力の軽減が図られているが,さらにこれを推進する可能性が高い育苗箱全量施肥用資材「苗箱まかせN400−120B30」(ジェイカムアグリ(株))の実用性を検討する。ここでは,晩生品種用に配合された資材について,県内の晩生品種である「あいちのかおりSBL」 ,「にこまる」 ,「誉富士」栽培で検討する。

2. Methods

(1)試験場所 農林技術研究所三ヶ野圃場(細粒質グライ化灰色低地土)
(2)試験構成
 供試資材 (試験区):苗箱まかせN400−120B30
   N:P2O5:K2O=40:0:0
   緩効性窒素100%(S60,S120)
   ※播種前日に育苗箱の床土下に均一に施用
 比較資材 (対照区):にこ・モチ一発244
   N:P2O5:K2O=22:14:14
   緩効性窒素70%(L50,S120)
   ※移植時に側条施肥
(3)試験規模 1区 約190m2 2反復
(4)栽培概要 移植(H27,28,29):6/9,6/10,6/13
 栽植密度:約30cm×約19cm
 植付本数:約3.6本/株(試験区)
      約3.8本/株(対照区)
 その他管理は慣行
(5)調査項目 苗質調査,生育調査,成熟期調査,収量調査,分解調査,登熟歩合,玄米品質

3.研究期間を通じての成果の概要

 「苗箱まかせN400−120B30」を施肥した晩生品種の栽培では,慣行の「にこ・モチ一発244」を側条施肥した栽培と比べて,次の結果が得られた。
・移植時の苗が長く,葉齢が進んでおり,葉色が濃かった(表7) 。一方,機械移植時の作業性や植付精度に支障はなかった。

・移植後は対照区の葉色が濃くなったが,移植後30〜40日頃から試験区の葉色が濃く推移した。
 出穂時の葉色に大きな差は見られなかった(表8) 。

・生育初期における茎数の増加は緩やかであり,最高茎数は少なかった。一方,穂数は同程度となり,有効茎歩合は高くなった(表9) 。

・千粒重は小さい傾向がみられたが,精玄米重は同程度となった。また,玄米の外観品質およびタンパク質含量に差はみられなかった(表10) 。

4.研究期間を通じての成果の要約

 「苗箱まかせN400−120B30」を用いた晩生品種の栽培では,慣行の側条施肥による栽培と比べて最高茎数は少なかったが,穂数は同程度であった。また,精玄米重は同程度であり,玄米の外観品質およびタンパク質含量に差はみられなかった。以上の結果から,本資材は慣行の側条施肥による栽培と同様に実用性があると考えられる。
〔キーワード〕「誉富士」 ,育苗箱全量施肥,省力,低コスト,環境保全型農業

5.成果の活用面と留意点

 本資材にはリン酸およびカリウムが含まれていないため,土壌状態によっては別に施用する必要がある。