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§天然ゴムプランテーションにおける施肥管理が土壌のメタン酸化ポテンシャルに及ぼす影響
国立大学法人 東海国立大学機構
名古屋大学 大学院生命農学研究科
村瀬 潤
§「苗箱まかせ」に関わる研究を振り返って(5)
-疎植栽培を前提としたプール育苗条件での育苗箱内施肥量の検討-
宇都宮大学農学部附属農場
高橋 行継
国立大学法人 東海国立大学機構
名古屋大学 大学院生命農学研究科
村瀬 潤
メタンはCO2に次ぐ重要な人為起源の温室効果ガスであり,その発生源・吸収源や陸上生態系によるガス交換の役割を正確に把握する必要がある。空隙に富んだ好気的な土壌はメタン酸化細菌による酸化を通じた大気メタンの重要な吸収源であり,全球で年間11~49Tgのメタンが土壌で好気的に酸化されると推定されている。そのうち,森林土壌の推定メタン吸収量は年間8~22Tgであり,陸上におけるメタン吸収源として必須の役割を果たしている。中でも温帯および熱帯の森林土壌が主要な吸収源であり,森林生態系全体のメタン吸収の84%を担っている(Feng et al., 2023)。
森林から農地への転換は土壌のメタンシンク機能を弱めることが知られている(Aini et al., 2020)。特にアジアで拡大しつつある森林のゴム農園化は,土壌細孔空間の水分増加や農業機械による土壌圧縮を通じてメタン生成を促進し,メタン酸化を抑制する可能性が指摘されている。しかし,メタンの動態に関連するこれらのプロセスが土壌断面内でどのように作用するかについては,未だ理解が不十分である。
無機態窒素(アンモニウムイオン,硝酸イオン)は土壌のメタン酸化を制御する最も重要な環境因子の1つであり,多くの土壌生態系で無機窒素の添加がメタン放出を促進したり,メタン吸収を減少させたりすることが報告されている(Bodelier, 2011)。ただし,その影響は窒素濃度や生態系の特性によって異なり,熱帯地域のプランテーションでは土壌のメタン吸収が窒素制限を受けているとの報告もある(Hassler et al., 2015)。ゴム農園における施肥が土壌のメタン酸化に及ぼす影響の詳細解明は,天然ゴム生産と土壌のメタン酸化機能の維持を両立させる上で重要である。
本稿では,熱帯林の土地利用変化と施肥管理が土壌のメタン酸化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,パラゴム農園土壌を対象にした室内培養実験の研究成果(Murase et al., 2025)を紹介する。これまでほとんどの研究では,森林土壌におけるメタン酸化は主に表土で起こると想定されてきたが,本研究では,深層土壌も大気メタンの酸化に関与する可能性を調査するとともに,施肥が土壌のメタン酸化活性に及ぼす影響は土壌の深層にまで及ぶという仮説を検証した。


本研究は,タイ南部プラチュアップキリカン県のカセサート大学附属Sithiporn Kridakorn Research Station(SKRS)と中部チャチューンサオ県のChachoengsao Rubber Research Center(CRRC)の 2 つのゴム農園を対象に,施肥管理と土地利用の違いが土壌メタン酸化に与える影響を比較した。SKRSでは無施肥(Tr1)~高施肥(Tr4)までの4段階の施肥区が4つの反復ブロック(Block A~D)に無作為配置されており(表1),近接する森林およびアブラヤシ農園(施肥管理のデータなし)も比較対象として調査した。両サイトは熱帯モンスーン気候に属するが,土壌特性は異なり,SKRSは砂質で保水性が低く,CRRCは粘土質である。

土壌試料は2023年~2024年にかけて乾季と雨季に採取した。主に表層(0-10cm)を対象としたが,いくつかの土壌サンプリングでは最大60cmまでの深層土壌も何層かに分けて採取した。SKRSでは施肥処理ごとに複数の反復を設け,森林・アブラヤシ農園では無作為に選んだ複数地点から採取した。CRRCでは施肥実験が行われていないため,栽培管理記録をもとに農園内の施肥地点と無施肥地点の土壌を採取した。
土壌の潜在的メタン酸化速度(Potential Methane Oxidation Rate, PMOR)は室内培養実験により測定した。一定量の土壌(<2mm)をガスクロバイアルに入れ,初期濃度が約50ppmとなるように気相にメタンを添加後,暗条件で培養し,FID付ガスクロマトグラフで気相のメタン濃度の減少を経時的に追跡した。得られた濃度変化からPMORを算出するともに,土壌の密度と層厚を用いて単位面積あたりのメタン酸化速度に換算した。深層土壌を含む場合は,各層位毎のPMORを積算して単位面積あたりのメタン酸化速度を求めた。
SKRSでは,土壌メタンフラックスをチャンバー法で測定し,施肥処理間の実際のメタン吸収・放出の違いを評価した。また,pH,電気伝導度,有機炭素,全窒素などの基本的な土壌理化学性も測定し,メタン酸化との関連を検討した。
本研究ではまず,従来の知見に基づき,大気メタンの酸化が最も活発と想定される表層(0-10cm)に焦点を当てた。乾季(2023年2月)に採取したSKRSゴム農園の表層土壌では,全体的にメタン酸化は非常に弱く,無施肥区(Tr1)でのみわずかなメタン濃度の低下が確認された(図1)。雨季(2023年8月)には,全処理区で乾季よりも明確なメタン酸化が確認されたが,Tr1が最も高い酸化速度を示し,施肥量が増えるほど酸化が抑制される傾向が示された。これは,化学肥料がメタン酸化を阻害するという森林土壌の先行研究と一致している。

パラゴム以外の土地利用とのメタン酸化速度を比較してみると,森林土壌は大きな空間変動を示し,4地点中2地点は全試料の中で最も高いPMORを記録した(図2)。アブラヤシ農園の土壌もゴム農園土壌に比べて変動が大きく,リター被覆の影響は認められなかった。CRRCゴム農園では,施肥地点より無施肥地点の方が高い酸化速度を示し,施肥がメタン酸化を抑制する傾向が本地域でも確認された。

2023年8月の表層土壌のPMORは0.02~1.23ng CH4 g-1 h-1の範囲で,SKRSのゴム農園では0.02~0.17ng CH4 g-1 h -1と特に低かった。これはヨーロッパの森林土壌で報告されたメタン酸化活性(Täumer et al., 2021)の最低レベルに近く,ゴム農園化によるメタン酸化能力の低下を示唆した。森林・アブラヤシ土壌は変動が大きく,今後より大規模な調査が必要である。
ゴム園土壌の理化学性(pH,EC,有機炭素,水分)とPMORsの間には明確な関係は見られず,唯一,全窒素との弱い正の相関が検出された(図3)。これは,無機態窒素が酸化を抑制するという知見と対照的であり,無施肥土壌で有機態窒素がメタン栄養細菌に対して緩やかな窒素供給源として働くため,酸化を阻害しない,もしくは促進する可能性が示唆された。無施肥土壌で全窒素が高くなるメカニズムについては現在のところ不明であるが,ゴム林の生育が劣り林床の光量が高いことにより生長が促進されたマメ科を含む下草雑草が土壌に還元されたのかもしれない。

現地のメタンフラックスは乾季に大気メタンの吸収を示す負の値を記録したが,施肥量の多いTr3,Tr4では吸収が抑制された。雨季にはTr3,Tr4で土壌から大気へのメタン放出を示す正の値が観察され,土壌におけるメタンの生成が酸化を上回る状況が生じたと推察された(表2)。

表層10cmの土壌のPMORsをもとに推定した面積あたりのメタン酸化速度は,多くの場合,実測した負のフラックス(見かけ上のメタン酸化速度)に比べて小さく,表層土壌だけではメタン吸収の実態を捉えられない可能性が考えられた。
上記の結果を受けて,次に深層土壌がメタン酸化に寄与する可能性を検証した。乾季(2024年2月)に採取した深層(>10cm)土壌では,Tr1で表層よりもはるかに高いメタン酸化が観察された(図4)。Tr2でも同様の傾向が見られ,深層がメタン酸化に大きく寄与する可能性が示された。一方,Tr3,Tr4では深層のメタン酸化活性は低く,施肥量が増えるほど深層土壌のメタン酸化も抑制されるという明確な傾向が確認された(図5)。


深層を含めた単位面積あたりの酸化速度は,Tr1,Tr2で高く,Tr3,Tr4で低かった(図6)。この結果は,土壌表面に施用した肥料成分が深層まで浸透し,少なくとも60cmの深さまで土壌のメタン酸化を抑制したことを示唆している。施肥の影響が深層にまで及ぶという結果は,従来の「メタン酸化は主に表層で起こる」という前提を覆す発見だと考えている。肥料中のアンモニウムはメタン酸化酵素(メタンモノオキシゲナーゼ)をめぐってメタンと競合し,硝酸塩も森林土壌で酸化を強く阻害することが知られている。本研究でも,これらの無機窒素が深層まで移動し,長期的にメタン酸化を抑制している可能性が高い。特にTr3,Tr4では施肥回数が多く,阻害効果が高いと考えられた。

深層を含めた土壌のメタン酸化速度ポテンシャルから推定した単位面積当たりの推定メタン酸化速度は表層10cmを対象とした値よりもはるかに大きくなった。このことは,SKRSのゴム園におけるメタン酸化機能に果たす深層土壌の潜在的な重要性を示唆した。一方で,その値は,実測したフラックス(表2)よりも大きく,両者には乖離があった。これには以下の理由が考えられる。
- 培養条件の違い:室内培養では土壌が均一なメタン・酸素濃度に曝されるが,現地では両者のガス成分に濃度勾配が存在する。深層では酸素供給が限定され,培養条件は実際より酸化を過大評価する可能性がある。
- フラックスの特性:現地で観測したメタンフラックスは土壌における酸化と生成のバランスで決定するため,メタン酸化が高くても生産が同時に起きていれば負のフラックス(見かけの吸収速度)は小さくなる。
以上,本研究では,
- 高施肥が表層・深層の両方でメタン酸化を抑制する
- 深層土壌がメタン酸化に大きく寄与する可能性がある
- 表層だけを測定する従来の方法ではメタン吸収の実態を捉えられない
ことを明らかにした。
さらに,有機窒素がメタン酸化活性と弱く正に関連していたことから,有機肥料の利用が化学肥料による酸化阻害を緩和する可能性も示唆された。ゴム農園の施肥管理は,熱帯土壌のメタンサイクルを大きく変化させる可能性があり,持続的な土地利用の観点から慎重な検討が必要である。
本研究は,科学研究費補助金国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))およびカセサート大学大学改革プログラム2023の財政支援を受けて行われました。現地調査にご協力いただいたカセサート大学およびCRRCのスタッフに感謝申し上げます。
●Aini, F. K., Hergoualc’h, K., Smith, J. U., Verchot, L., and Martius, C. (2020)
How does replacing natural forests with rubber and oil palm plantations affect soil respiration and methane fluxes?, Ecosphere, 11, e03284.
●Bodelier, P. L. E. (2011)
Interactions between nitrogenous fertilizers and methane cycling in wetland and upland soils, Curr Opin Environ Sustain, 3, 379‒388.
●Feng, H., Guo, J., Peng, C., Ma, X., Kneeshaw, D., Chen, H., Liu, Q., Liu, M., Hu, C., and Wang, W. (2023)
Global estimates of forest soil methane flux identify a temperate and tropical forest methane sink, Geoderma, 429, 116239,
●Hassler, E., Corre, M. D., Tjoa, A., Damris, M., Utami, S. R., and Veldkamp, E. (2015)
Soil fertility controls soil‒atmosphere carbon dioxide and methane fluxes in a tropical landscape converted from lowland forest to rubber and oil palm plantations, Biogeosciences, 12, 5831‒5852.
●Murase, J., Sajjaphan, K., Dechjiraratthanasiri, C., Duangngam, O., Chotiphan, R., Rattanapichai, W., Azuma, W., Shibata, M., Kasemsap, P., and Epron, D. (2025)
Methane oxidation potential of soils in a rubber plantation in ailand affected by fertilization, SOIL, 11, 457‒466.
●Täumer, J., Kolb, S., Boeddinghaus, R. S., Wang, H., Schöning, I., Schrumpf, M., Urich, T., and Marhan, S. (2021)
Divergent drivers of the microbial methane sink in temperate forest and grassland soils, Glob Change Biol, 27, 929‒940.
宇都宮大学農学部附属農場
高橋 行継
「苗箱まかせ」はこれまで紹介してきた通り,水稲栽培の省力・低コスト栽培に大きく貢献できる肥料である。一方,水稲疎植栽培(以下,疎植)は,移植時の栽植密度を低くし,移植時に必要な育苗箱数を少なくすることで省力・低コスト化を目指す技術である。
両技術の同時導入を考えた場合,疎植に伴う必要育苗箱数の減少によって1箱当たり施肥量が大幅に増加することになる。本肥料の標準的な1箱当たり施肥量は10a当たり25枚使用する場合で400~800g,同20枚では500~1000gとされている。一方,栽植密度11.1株/㎡の疎植栽培で必要な育苗箱数は10枚程度であり,標準施肥量に対して2倍程度の肥料が必要になる。
そこで,宇都宮大学農学部附属農場において,プール育苗条件で疎植を前提とした育苗箱内多肥条件下での育苗箱全量技術について検討を行った結果を報告する。
試験は2010年~2012年の3か年,「コシヒカリ」を供試して実施した。年次ごとの試験区および調査方法については表1~3に記載している。
2010年は育苗箱内施肥量の限界点を探ることを主眼とし,播種を5月6日に実施した(表1)。供試肥料として「苗箱まかせ」NK301-100を用いた。最大施肥量とされる1000g/箱を基準とし,その約1/3の施肥量を減量させた試験区と標準量対比で2/3増量した区を設定した。施肥位置は,床土面の直上に施用する上層施肥,その反対の下層施肥,培土と肥料を混合した区を設けた。加えて床土を全量肥料とした2500g区,対照として粒状培土のみとした培土区を設けた。

出芽は育苗ハウス内で平置き出芽法(高橋2003)を用いた。被覆資材には水稲育苗専用シートを使用し,べたがけとした。出芽長が概ね1cmに達した時点で被覆資材を除去,露地プール育苗(飯塚ら 1978,高橋ら 2006)に移行し,播種後7日目に出芽状況の良否,その後経時的に草丈,葉齢,葉色(SPAD-502)を調査した。
播種後30日目に苗の乾物重を測定し,充実度や地上部/地下部比を求めた。マット強度は農業生産工学研究会(1992)により引っ張り強度(N)を測定した。
2011年は4月26日に播種を行った。初年度の結果に基づき3つの試験区を設定した(表2)。設定栽植密度はそれぞれ11.1,18.1,24.2株/㎡とし,「コシヒカリ」の標準的な基肥N0.6kg/aに追肥N0.2kg/aを含む本田投入N量0.8kg/aの50%減から箱当たり施肥量を算出した。既報(高橋ら2009)から箱全量に適正な減肥率は40%前後であることが明らかにされているが,本年は施肥量を少なく抑えるために50%減とした。移植は5月19日に行い,翌日に欠株等の移植精度を調査した。

2012年は4月24日に播種を行った。前年の50%減肥では収量が減少気味であったことから,本田投入N量0.8kg/aの40%減として箱当たり施肥量を算出し,施肥量を1600,980,730g/箱の3水準とした(表3)。5月17日に移植し,翌日に移植精度を調べた。

出芽は施肥量の多い1670g各区と2500g区で遅れた。播種後28日目の2500g区の草丈は22.2cmで培土区の20.2cmに次いで低くなった。670g区から1670g各区の草丈は32.8~35.8cmとなり,同14日目以降28日目調査の間に急激に伸長した。葉齢には差はほとんど認められなかったが,同28日目の培土区とそれ以外の区で有意な差が生じた。葉色は670g区から1670g各区までの葉色よりも培土区が有意に低くなった。

充実度は2500g区と培土区以外は1.0mg/cmを下回った。地上部乾物重は培土区が最小22.2mg/本となり,箱全量区との間に有意な差が生じた。裏面出根乾物重は培土区が13.5g/箱で箱全量区を上回った。一方,マット強度は培土区が43.1Nと最大で,施肥量増加に伴い徐々に低下する傾向を示し,670g区で31.3N,2500g区では8.8Nしかなかった。

出芽の良否は1320g区で3となり,他区よりも揃いが遅れた。播種後20日目では,草丈は980g区の14.5cmが最高,600g区が13.6cmで最低であった。葉齢は3.2~3.3と箱全量各区間で有意な差はなかった。また葉色にも有意差はなかった。

充実度,地上部乾物重に差はなく,地下部乾物重は培土区の7.0mg/本に対して箱全量各区では4.0~5.1mg/本となり,有意に低下した。地上部/地下部比は1320g区が6.2,980g区が5.8となり,培土区との間に差が認められた。箱裏面出根乾物重は980g区が6.0g/箱で最大となり,1320g区と共に600g区の2.3g/箱を上回った。マット強度は培土区の58.9Nに対して箱全量各区で28.0,42.2,53.5Nと施肥量の増加につれて低下したが,有意差はなかった。

移植精度の調査では,植付深度は1320g区が2.1cmで,980g,600g区の2.4,2.5cm,培土区の2.3cmに比べてやや浅かったが,実用的には問題がなかった。植付本数は3.2~3.4本/株の範囲で差がなかった。欠株率は培土区が最も低く0.7%,1320g区が3.6%と培土区に対して箱全量各区で移植精度がやや低くなる傾向を示した。

出芽良否は1600g区で2となり,揃いが遅れた。播種後21日目の草丈は箱全量各区の15.8~15.9cmに対して培土区が11.2cmと有意に低かった。葉齢は3.3~3.4,葉色は31.1~32.7と箱全量各区で差はなかったが,葉色は培土区が28.2と低かった。

充実度,地上部乾物重には有意な差はなく,地下部乾物重は培土区の8.0mg/本に対して箱全量各区で4.5~4.7mg/本と低下した。地上部/地下部比は箱全量各区で4.2~4.5で培土区と有意な差が認められた。箱裏面出根乾物重は730g区が最大の1.5g/箱で,1600g区,980g区を上回った。マット強度は培土区の41.5Nに対して箱全量各区では21.9~23.4Nとなり,有意な差が認められた。

移植精度の調査結果では,植付深度は1600g区が2.5cmで培土区の2.4cmとほぼ同等であった。欠株率は培土区で5.8%,1600g区が14.6%と高かったが,有意な差ではなかった。概して2012年は前年より移植精度の低下が大きくなる傾向にあった。

2010年は健苗育成に支障がない苗箱専用肥料の上限値を明らかにすることを目的に,苗の生育とマット強度について調査した。
その結果,1670g各区と2500g区で出芽揃いが遅れ,特に2500g区で顕著であった(表4)。出芽揃いが遅れた各区は覆土を含む培土総重量が培土区対比で1670g各区は52%,2500g区では29%まで減少し,保水力のない苗箱専用肥料が増加した結果,育苗箱内の水分量が不足したために出芽が遅延したと考えられる。
2500g区は出芽揃い後も地上部および地下部の生育は抑制され,マット強度は8.8Nにとどまり,根張りマットもほとんど形成されないため,機械移植は明らかに困難であると考えられる。
板東(2009),鳥取県(2009)の報告では,N400-100タイプを1550g施用し,箱内の施肥位置を育苗箱内の最下部層状とすることで,実用上問題がない苗を育成可能であるとしている。1670gの3区は育苗箱内で異なる施肥位置にしたものである。標準施肥量とされる500~1000g/箱より施肥量を大幅に増加した結果,相対的に床土量が少なくなり,施肥位置を上層施肥や下層施肥に変更してみても両者に物理的な違いが生じにくかったためか,苗の生育に有意差は認められなかった。
移植時に必要となるマット強度は,高橋ら(2004)により30N以上であるが,15Nまでは苗取り板を使用することで移植作業は可能であったと報告している。そこで,本研究では苗取り板が不要なマット強度30Nの2/3に相当する20N以上を機械移植にほぼ支障がないマット強度としてよいのかについて実用面の評価を行った。
その結果,2010年に20N以上を確保できたのは培土区と670g区,1000g区,1330g区と1670g上層区であった(表5)。これに苗の出芽,生育状況等を勘案して,1330gまでの施肥量であれば移植に十分供用可能であると評価した。
この2010年の結果に基づいて設計,実施した試験の中で,特に2011年の1320g区と2012年の1600g区を中心に考察する。
2011年は減肥率を50%とした1320g区は出芽が遅れ気味であった。草丈も移植後13日目までやや低く推移した(表6)。その後の生育は他の箱全量区と何ら遜色はなく,地上部生育にも問題はなかった。マット強度は最も低い1320g区でも28.0Nあり,作業上の支障もなく本研究で評価基準としたマット強度20N以上に合致した(表7)。
移植精度は箱全量各区で培土区より劣る傾向にあり,欠株率は1320g(疎植)区で3.6%と最大であった。渡邊ら(2009),西山(1984)によれば欠株率5%までは減収しないとされており,特に問題がある欠株率ではなかった。以上の結果から,疎植を前提とした箱全量の育苗箱内施肥量は概ね1300gであれば育苗面で大きな問題はなく,移植作業や移植精度でも支障はないことが明らかになった。
2012年は減肥率を40%へ変更したため,施肥量が増加した1600g区で出芽,初期生育が他の箱全量区よりやや遅れたが,育苗終了時には980g区や730g区と遜色ない生育を示した。マット強度は22~23Nにとどまった(表10)。このため,マットの取り出しを苗取り板で丁寧に扱う必要はあったが,前出のマット強度基準である20N以上であり,実用面で問題はなかった。
移植精度では,1600g区では乱苗が2.5%と培土区の0.0%に対して有意な差が認められ,苗の掻き取りに問題のあることが明らかになった(表11)。
この要因として,培土区対比で1/2程度にまで低下したマット強度や粒状培土とは物性が大きく異なる苗箱専用肥料が混在したマットであることなどが考えられ,これらが移植機の掻き取り爪でマット片を上手に掻き取りしにくい要因と推察される。欠株率は1600g(疎植)区で14.6%と高い値であったが,培土区も5.8%に達しており,試験圃場全体の移植精度が低いと考えられた。培土区に対する1600g区の欠株率の比率をみると2.5倍で,2011年の5.1倍よりは低く,同一圃場試験の中で1600g区の移植精度がきわめて低いとはいえない状況であり,欠株率は許容できる範囲内であると判断した。
以上の結果から,箱施肥量1600gでは移植作業は可能であるものの,実用化技術として不安定な要素が認められる。これに対して,施肥量を減少させた1300g施肥であれば実用面での大きな問題はないが,より普及性の高い技術にするためには,移植精度およびマット強度の向上を図る必要がある。
その方策の一つとして,板東(2009),鳥取県(2009)が供試した肥料成分含有率の高い苗箱専用肥料N400-100タイプを用いる方法が考えられる。このタイプを用いて本研究と同様の施肥設計とした場合,施肥量は1600g/箱から1200g/箱となる。これにより箱当たり400g減量が可能で,培土量が増えることによる苗の出芽・生育改善,マット強度向上が期待できると考えられる。
●板東 育苗箱全量施肥栽培(箱底施用)と疎植の組み合わせ.農業技術大系,追録第31号,技488 農文協(2009)
●飯塚ら 水稲機械移植用箱苗の簡易育苗法.農及園 53(1978)
●北村ら 肥効調節型肥料による施肥技術の新展開1-水稲の全量施肥技術- 土肥誌 66(1995)
●西山 補植をしない稲作のすすめ 農及園 61-1(1984)
●農業生産工学研究会 乳苗稲作の実用化成績試験概要(1992)
●高橋 プール育苗における新育苗箱の適応性.日作紀 72-1(2003)
●高橋ら 水稲育苗箱の培土減量による軽量・低コスト化に関する検討 日作紀 73-4(2004)
●高橋ら 群馬県稲麦二毛作地帯における水稲育苗箱全量基肥栽培のプール育苗法に関する検討 日作紀 75-1(2006)
●高橋ら 群馬県の早植・普通期水稲栽培における育苗箱全量基肥栽培 日作紀 76-2(2007)
●高橋ら プール育苗及び晩植における水稲育苗箱全量基肥栽培の検討(第8報).日作紀 78別1(2009)
●鳥取県農林総合研究所 育苗箱全量基肥と疎植を組み合わせた米づくり 農業試験場成果情報(2009)
●渡邊ら 異なる栽培法による欠株が水稲の生育・収量に及ぼす影響 日作紀 78-1(2009)