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第561号 2005(H17).02発行

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コシヒカリの8葉期中干しが根系生育に及ぼす影響

金沢大学教育学部
教授 鯨 幸夫
今村恵理
JA入善町 営農生活部
部長待遇 辰尻 幸彦

 富山県入善町におけるコシヒカリ栽培では,1995年から8葉期中干し実施を栽培指針(入善町農業協同組合 1995)として採用し,今日に至っている。近年の温暖化傾向に伴い,水稲の生育が促進されているため,中干しの実施が早くなっているが,この対応が水稲根系への影響を考慮したものであるとは考えられない。本研究ではモデル実験を通して,8葉期中干しがコシヒカリの根系生育に及ぼす影響について検討した。

材料および方法

 2002年に金沢大学教育学部角間農場のガラス室内にて,根箱(25cm×25cm)を用いた実験を行った。2枚のガラス板(厚さ3mm)の間にゴムホースを挟んで根箱を作り,市販の床土(トヨコード:土壌3.5kgあたりにN,P2O5,K2Oを各々7g含む)を充填した。根箱は大型のコンテナー(40cm×60cm,深さ30cm)内に立て,倒れないようにべにや板で固定した(10個/コンテナー)。試験区は,8葉期中干し区,10葉期中干し区および中干しなし(常時湛水)の3区とし,2反復による実験を行った。

 5月15日,慣行法で育苗したコシヒカリ苗を1株ずつ根箱に移植し,その後コンテナー内を湛水状態に保って管理した。8葉期中干し開始時期は6月11日で,10葉期中干し開始は6月24日である。中干し実施期間を終了した後はコンテナー内の水を抜き,土壌の乾燥状態を観察しながら各根箱に適宜散水したが,湛水状態にはしなかった。中干し処理が終了した7月8日にすべての処理区の根箱をはずし,根系形態が移動しないように丁寧に水洗いをして,各生育量を調査した。

 根系調査は根の伸長角度別に3分割し,0~30°,30~60°,60~90°の伸長角度内に含まれる根系を調査した(第1図)。土壌中の根の伸長角度の測定にあたっては,調査株の中心を基準として根と土壌下6cmの水平線との交点と土壌面(水平)との角度を伸長角度とした(Pinthus 1967,鯨・松崎 1998)。

結果および考察

 中干し実施直前の各試験区における茎数および第8葉葉身長に,試験区の違いによる有意差は認められなかった。この時点での生育は試験区を問わず同じであったと判断した。8葉期または10葉期に達した時期に中干し処理を開始し,その後中干し処理が終了した7月8日の草丈,茎数,株あたり地上部乾重,葉面積,葉身乾重および比葉面積(SLA=葉面積/葉身乾重)には,試験区の違いによる有意差が認められなかった。

 株あたり平均1次根総数,総根重および平均1次根重を第1表に示した。8葉期中干し区における1次根総数および総根重は10 葉期中干し区より有意に大きい値を示した。平均1次根乾重は常時湛水区と比較して中干し実施区で有意に大きかった。

 土壌中における伸長角度別の1次根数および伸長角度別1次根数/総根数比を第2表と第3表に示した。8葉期中干し区と比較して10葉期中干し区では各伸長角度別1次根数が有意に少なく,伸長角度別1次根数/総根数比は60~90°の伸長角度を除いて有意に小さかった。

 根の伸長角度別の株あたり総根乾重を第4表に示した。0~30°および30~60°の伸長角度内に含まれる総根乾重は8葉期中干し区で大きく,試験区の違いによる有意差が認められた。60~90°の伸長角度内に含まれる根乾重には,試験区の違いによる有意差が認められなかった。60~90°の伸長角度内に含まれる1次根重/総根重比には試験区間で有意差が認められ,10葉期中干し区が最大であった(第2図)。

 圃場におけるコシヒカリ栽培では,生育中期の水管理として適期の中干しを実施したのち間断灌水で管理すると,根の発育が促進され根の活力も高くなり倒伏耐性が向上して登熟歩合および玄米千粒重の増大が期待できる(今井ら 1979,成保ら 1984)として,中干しの重要性が指摘されている。コシヒカリは草丈が長く倒伏しやすい品種であるため,上位葉や下位節間の短い稲を作る必要がある。

 葉齢指数が69~93の頃を窒素制限期間とする効果(佐藤 1995)が報告されている。コシヒカリでは,出穂前45~50日(早植えでは6月10日~15日)が葉齢69の目安となることから,6月上旬に目標とする有効茎数の80%を確保し,溝切りをすることが重要とされている(佐藤 1995)。

 また,6月上旬に早期の中干しを実施することでLAI(葉面積指数)をやや減少させ過繁茂を抑制して群落内の受光体勢を改善することができる(佐藤
1977)など,生育中期における中干しが物質生産に及ぼす効果が報告されている。

 砂質浅耕土壌水田においては,中干しを実施することによって葉身の窒素濃度を調節することが可能である。葉身窒素濃度は中干し開始後11日目頃には5%低下し,そのまま低く推移したのち中干し終了時の葉色は湛水処理と比較して葉色板で0.5~0.8程度淡くなり,草姿は直立して受光体勢が向上することで,穂数で7%,地上部乾重は5~10%減少するが登熟歩合は向上する,等の効果が認められており,また,中干し処理によってうわ根が発達して根量,根重が重くなる(石原ら 1981,佐藤ら 1981)との報告もある。

 常時湛水区より中干し区で,中干しよりも間断灌水を行った方がうわ根の形成が促進される(副島ら 1969,川田ら 1977)など,中干しの実施により根系生育が促進され根の活性が向上する報告があるが,中干し実施時期の違いが根の伸長角度および生理活性にどのような影響を及ぼすかについての報告は行われていない。

 根箱を用いたモデル実験の結果,中干しの有無および中干しの実施時期の遠いによって,コシヒカリの根系生育は影響を受けた。10葉期中干し区では根系生育が劣り,8葉期の中干し実施によって根数は有意に増加することはないものの,時期の遅い中干しの実施は根数の増加にマイナスの影響を及ぼすことが示唆された。

 本研究の一部は,文部科学省科学研究費補助金(課題番号:11660015)により実施した。
 また,この報告は「農業及び園芸」(養賢堂)(79:1094-1098,2004)に発表した内容の一部を基本としている。

works cited

●今井良衛ら 1979.新潟農試研報 28:53~60

●石原信一郎ら 1981.北陸作物学会報 16:59~64

●川田信一郎ら 1977.日作紀 46:24~36

●鯨幸夫・松崎薫 1998.北陸作物学会報 33:106~109

●成保俊一ら 1984.新潟農試研報 33:31~36

●入善町農業協同組合,入善町,入善町農業技術者協議会,1995.
 ”食味向上に向けて”,入善町:1~21

●Pinthus, M. J. 1967.Crop Science 7:107~110

●佐藤勉 1977.石川農試研報9:66~79

●佐藤勉ら 1981.北陸作物学会報6:65~71

●佐藤勉 1995.
 ”コシヒカリ”,日本作物学会北陸支部会・北陸育種談話会編,農文協,東京:250

●副島増夫ら 1969.日作紀 38:442~446

 

 

葉たばこ栽培における
育苗ポット全量施肥技術の検討

福島県たばこ試験場
研究員 二階堂 英行

Introduction

 育苗箱又はポット全量施肥技術は,水稲,キュウリ及びキャベツ等で実用化されており,施肥の省力と施肥量の削減に貢献している。しかし,有用な技術でありながら,葉たばこ栽培での育苗ポット全量施肥技術については知見がなく,当試験場で1998年から試験を行った。これまでの試験から①ポットの地積に対し10%の被覆肥料を用いると根鉢形成が劣り,②移植時に培養土とともに肥料がこぼれる危険性があり,③解決法として生分解性ポットの利用を指摘した。

 本稿では,肥料のこぼれを回避するためシグモイド溶出型被覆肥料と生分解性ポットを併用した栽培法について検討した結果を紹介する。

 なお,この試験は,チッソ旭肥料(株)の協力及び助言をいただきながら行った。

2. Testing Method

 育苗ポット全量施肥技術が慣行栽培と同等であるか否かを確認するために,以下の調査を行った。品種は第2バーレ一種みちのく1号を供試した。期間は2002年から2004年の3カ年で行った。慣行栽培区は,基肥としてたばこ用有機入り複合肥料専バーレ一新737(7-13-17)を現物で200kg/10a施用した。ポット施肥区は,基肥としてLPコートS60(40-0-0)を慣行栽培と同じ窒素量となるように育苗培土1ℓ当たり140g混和した。リン酸及びカリウムの基肥施用量は,各試験区ともリン酸はP2O5として26kg/10a,カリウムはK2Oとして34kg/10aとした。慣行栽培区は25穴ビニポットを,ポット施肥区は12連結生分解性ポット(いずれも1穴当たり容積100mℓ相当)を用いて仮植した。育苗培土の組成は表1に示す。

 また,潅水は10時と14時の1日2回ホースにて散水し,追肥は両区とも尿素人り複合スイヒゲン(17-13-16)400倍希釈液を坪当たり8ℓで3回処理した。作期は表2に示す。畦間120cm,株間33cmで移植した。調査は,生育(移植時,移植後30日,開花期)及び収量とし,2反復とした(ただし,2002年の収量は反復無し)。肥料の窒素溶出率は,新潟県農業総合研究所の簡易推定法により2003年と2004年に調査した。

Results and Discussion

1)LPコートS60の溶出

 溶出は埋設後45日頃から始まるが,シグモイド溶出型の特性により,それ以前の溶出はほとんど認められなかった。45日以降は,溶出が急激に進み,心止時期に相当する埋設後87日頃で約53~63%の溶出率であった。溶出率80%に達したのは,埋設後105日頃でそれ以降の溶出は緩やかであった。2003年と2004年では2004年の溶出率がやや早い傾向がみられ,心止時期で約10%の差が生じた(図1)。これは,2004年は2003年に比べ高温に推移したため,温度依存性である窒素溶出に差が生じたと考えられる。

2)苗の生育

 年次間は,すべての項目で有意差がみられた。施肥法間はしぼり丈,葉長及び葉幅で有意差がみられ,ポット施肥区は慣行栽培区に比べ,しぼり丈が短く,最大葉が小さかった。交互作用は施肥法間と同様にしぼり丈,葉長及び葉幅で有意差がみられた(表3)。これは,2004年のポット施肥区の生育が慣行を上回ったことによる。

 2002年と2003年のポット施肥区の苗は,移植や栽培上は問題がなかったものの,慣行栽培区のそれに比べやや生育が劣り小柄になる傾向がみられた(図2,表3,4)。この理由は,LP コートS60施用の生分解性ポットが慣行ポットに比べ乾燥しやすいことから,10時と14時の1日2回の潅水では十分でないことが考えられた。そこで,2004年は,生分解性ポットに対し適宜に十分な潅水を行った。これによって,ポット施肥区の苗生育が慣行栽培区のそれとほぼ同等になったものと考えられた(表3)。

 以上のことから,ポット施肥区の苗は移植や栽培上からは問題はないが,潅水量不足によって小柄になる可能性があることから,潅水量と回数についてさらに検討する必要がある。

3)移植後30日の生育

 年次間は,地上葉数,草丈及び最大葉の葉長で有意差がみられた。施肥法間は,最大葉の位置を除く項目で有意差がみられ,ポット施肥区は慣行栽培区に比べ葉数が少なく,草丈が短く,最大葉が小さく葉色が淡かった(表5)。移植後30日(埋設後50日頃)は,溶出の開始時期に近く,タバコに十分な窒素を供給できなかった(図1)ためと考えられる。交互作用は地上葉数で有意差がみられた(表5)。

4)開花期の生育

 年次間は,上位葉の葉色を除く項目で有意差がみられた。施肥法間は草丈,幹径,下位葉の葉長及び葉幅に有意差がみられたが,地上葉数及び上中位葉に有意差はみられなかった(表6)。ポット施肥区は慣行栽培区に比べ,草丈が短く,幹径が小さく,下位葉は小さかった。下位葉は下から11~13枚目の全葉数に相当し,移植時には葉芽の分化が終了している。このため,葉の展開と窒素の溶出量が少ない期間(図1,埋設後45日頃)が重って影響を受け,上中位葉は,埋設後45日以降の溶出率の急激な増加により,葉の展開に影響を受けなかったためと考えられる。また,地上葉数は,移植後30日の生育で有意差がみられたが(表5),開花期では有意差はみられなかった(表6)。ポット施肥区は,移植後30日頃に終える花芽分化に影響せず,移植後30日の地上葉数の有意差は生育遅延により葉の展開が遅れたためといえる。草丈及び幹径についても,埋設後45日までの窒素溶出率の抑制(図1)のためと思われる。交互作用は,草丈及び下位葉の葉幅に有意差がみられた(表6)。

5)収量

 年次間及び施肥法間とも中葉系で有意差がみられたが,本葉系では有意差はみられなかった。ポット施肥区は慣行栽培区に比べ,中葉系の収量が少なかった(図3)。開花期における下位葉の展開が劣ったこと(表6)が原因と考えられる。

Summary

 以上のことから,LPコートS60と生分解性ポットの組み合わせによる葉たばこ栽培は,
(1)育苗では,移植に問題はないが,潅水が不十分な場合は慣行に比べ生育がやや小柄になること,
(2)移植初期では窒素溶出率の抑制による生育遅延がみられること,
(3)収量では,初期生育の遅延による収量の減少がみられること
が明らかとなった。

 今回の検討により,移植初期の窒素供給が抑制されていることがわかった。生育及び収量の改善には,①LPコートS40等の溶出が早い被覆肥料の利用,②上中位葉の展開に利用されるLPコートS60と溶出パターンの異なる肥料との組み合わせが考えられ,タバコの生育に適した施肥量の検討が必要である。

 

 

肥効調節型肥料による露地温州ミカンの省力的施肥法

Kumamoto Agricultural Research Center
果樹研究所病虫化学研究室
室長 土田 通彦

Introduction

 熊本県における普通温州ミカンの栽培面積は,2000年には1,844haであり,これはカンキツ類の全栽培面積の約22%に相当する。温州ミカン栽培においても,収量,果実品質を確保しながら,環境負荷を軽減するとともに,省力的な施肥法の確立が望まれている。水稲,野菜,茶等においては,その窒素吸収特性に応じた被覆尿素等肥効調節型肥料が使用されているが,果樹では,その年の果実を生産しながら,翌年の結果母枝の発育,花芽の分化,発達等を促進する必要があり,肥効調節型肥料の実用化の例が少ない。

 ここでは,普通温州ミカンに対する最も合理的な施肥法の開発を目的に,窒素溶出特性の異なる肥効調節型肥料を用いて温州ミカンの生育,収量および果実品質と土壌中無機態窒素濃度,葉中窒素濃度等を調査し,温州ミカンに対する肥効と環境保全的効果を検討した結果を報告する。

2. Testing Method

 試験は,熊本県果樹研究所内のほ場(土壌名:細粒赤色土)で,1993年1年生苗定植の温州ミカン”白川”を用いて1995年から実施した。樹形は,開心自然形ではなく,パイプ曲管に誘引した2本主枝形とした。収穫は12月上旬,栽植密度は74樹/10aで,施肥は高畝栽培の畝上に表面施用した。

 試験区の構成及び供試肥料の種類は次のとおりである。

1)肥効調節型肥料施用区(11月上旬年1回施肥)

 リニア型とシグモイド型のLPコートを用いて,溶出パターンの異なる3区を設け,それぞれの年間窒素施用量を15.0kg/10a(標準量区)と10.5kg/10a(7割量区)とした。

①年間均等溶出型:LPコート40:30%,LPコートS40:20%,同100:20%,同160:30%
②春秋重点溶出型:CDU555:30%,LPコートS40:50%,同80:20%
③夏重点溶出型:CDU555:10%,LPコートS40:20%,同80:40%,同160:30%

2)対照区

 有機配合肥料(N-P2O5-K2O:9-7-7,有機率55%)を年間窒素施用量:5.0kg/10aとなるように,次のように施用した:11 月上旬:40%,4月上旬:40%,5月中旬:20%の年3回施肥

 なお,肥効調節型肥料施用区では,リン酸資材として苦土重焼リンを,カリ資材として被覆カリをそれぞれ全量使用し,混合したのちに施用した。春秋重点溶出型,夏重点溶出型および年間均等溶出型はN-P2O5-K2O:17-12-12となるように被覆尿素やCDU555,苦土重焼リンおよび被覆カリを混合した。そのため,肥効調節型肥料・7割量区では,窒素だけでなく,リン酸,カリもそれぞれの溶出型の標準量区の7割施用である。

 収量については,12月上旬の収穫時に調査樹(1区3樹2反復)の果実重をすべて調査した。糖度,果皮の着色については,各試験区の反復ごとに樹冠の赤道部から,果実の大きさ,着色の平均的な果実を20果選んで採収し,着色(果梗部,果頂部の達観による平均値)調査の後,その中から10果の果肉部をジューサーにかけ屈折計で糖度を測定した。葉中窒素濃度については,7月,9月,11月に各試験区の反復ごとに樹冠の赤道部から平均的な長さの発育枝の中位葉約80枚を採取し洗浄の後,葉身部を乾燥,粉砕し,ケルダール法で分析し,乾物あたりの窒素濃度で示した。主幹周については,3月に,地際の接ぎ木部(カラタチ台)から約10cm上の部分を測定し,樹体容積は,12月に,枝の横幅×厚み×主枝の地際からの長さ×0.7で算出した。また,土壌中無機態窒素濃度については,樹冠周縁部下の深さごとの土壌または深さ10cmまでの土壌を10%塩化カリウム液を用いて浸出し,微量拡散分析を行い,乾土当たりの値で示した。

3. results

1)肥効調節型肥料の窒素溶出率

 園地ほ場の深さ1cmに埋込んで被覆尿素中の残留尿素を定量し,月別の溶出率を算出した。ただし,CDU555については分解無機化の実測値がないため,11月に50%,12~4月に1ヶ月あたり10%づつ無機化すると仮定して計算した。その結果,11月上旬に施用した肥効調節型肥料の溶出パターン(実測値)は,春秋重点溶出型では11月と4月に,夏重点溶出型では6月に溶出のピークを示した。春秋重点溶出型の溶出時期は従来の施肥法に近く,夏重点溶出型は6,7月に溶出を高くし高糖度系普通温州ミカンの隔年結果是正をねらったものである。

2)収量

 収量は,肥効調節型肥料の7割量施用では年により傾向が異なるが,4年間の累計収量(対照区を100とする)は,夏重点溶出型区(100)がやや多く,次いで均等溶出型区(94),春秋重点溶出型区(92)の順であった(図2)。春秋重点溶出型・7割量区は隔年結果の傾向が他の区より大きく,低収量なので,窒素量不足であると推測された。一方,夏重点溶出型・7割量区は隔年結果の傾向が小さく,7割量区の中では最も累計収量が高かった。肥効調節型肥料の標準量区の累計収量は,いずれの溶出型においても対照区の累計収量を上回っていた。特に,春秋重点溶出型・標準量区は累計収量が多かった。

3)果実品質

 果実の糖度は,夏重点溶出型の肥効調節型肥料7割量を施用した区は有機配合肥料の対照区より高かった。果皮の着色は,春秋重点溶出型の肥効調節型肥料7割量を施用した区が有機配合肥料の対照区より優る傾向にあった。肥効調節型肥料・標準量区は,糖度は対照区より全般的に高いが,着色は春秋重点溶出型が優り,夏重点溶出型が対照区と同様の着色程度であまり良くない傾向であった。

4)葉中窒素濃度

 葉中窒素濃度(9月)は,有機配合肥料の対照区で年次変化が大きく,1997年,1998年,1999年では夏重点溶出型の肥効調節型肥料7割量を施用した区が有機配合肥料の対照区より高かった。肥効調節型肥料・標準量区では,全般的に葉中窒素濃度が対照区に比べ高かった。

5)樹体の生育

 7割量区の樹の生育では,主幹周,樹容積ともに春秋重点溶出型が大きかった。しかし,春秋重点溶出型の1995年での樹容積,主幹周が他の区よりわずかに大きいものの,2000年/1995年の比では樹容積は対照区でやや大で,主幹周は処理による差はほとんど認められなかった。標準量区の主幹周,樹容積もほぼ同様の結果であった。

6)深さごとの土壌中無機態窒素濃度

 春肥施用直前の3月下旬において,有機配合肥料標準量施用(対照)区では肥効調節型肥料7割量区に比べ,土壌中無機態窒素が高い濃度であった。一方,肥効調節型肥料7割量区では,冬季には土壌中無機態窒素濃度が低い値で推移したことが推測された。なお,この時点での11月上旬の秋肥施用後の累計降水量は400mmであった。また,肥効調節型肥料・標準量区では,年間均等溶出型が高く,次いで,対照区,春秋重点溶出型で,夏重点溶出型が最も低かった。

7)深さ10cmの土壌中無機態窒素濃度の推移

 1998年6月中旬から1999年8月上旬における深さ10cmの表土中無機態窒素濃度の推移では,1999年の5月下旬は4月,5月前半の少雨のため対照区が高かったが,ほかの時期は夏重点7割量区と対照区がほぼ同程度で推移した(データ略)。

Consideration

 露地栽培の普通温州ミカンにおいて,肥効調節型肥料の夏重点溶出型・7割量の年1回施肥(11月上旬)は,有機配合肥料を用いた慣行の年3回施肥と収量および果実品質で同等となり,施肥量の削減と施肥の省力化に寄与できる。夏重点溶出型区では,温州ミカンの窒素吸収量の多い5月,6月,7月に窒素溶出率が高く,7割量でも9月の葉中窒素濃度が安定して高く,窒素不足になりにくいことも一因と考えられる。

 一方,春秋重点溶出型では窒素の溶出のピークが4月と早いので,7割量区は夏季に窒素不足となり,隔年結果が大きく低収量となるが,標準量区は窒素溶出量が7割量区より多いので窒素不足とならず,また,7月の葉中窒素濃度の高いことが累計収量が多い一因と推測される。このため,春秋重点溶出型では窒素施用の削減率を30%より少なくする必要がある。

 温州ミカンの着果量の多かった1998年11月に葉中窒素濃度を測定したところ,春秋重点溶出型・7割量区では2.72%と低いが,標準量区では3.04%であり,また,1999年7月,2000年7月では春秋重点溶出型・標準量区の葉中窒素濃度が肥効調節型肥料区の中で高かった。なお,この試験期間においても,年による降水量等がかなり変動したが,適度に降雨があった2000年よりも気象変動が大きかった1997~1999年の果実の糖度,9月の葉中窒素濃度等において肥効調節型肥料の施用効果があったと推測される。

 このように,肥効調節型肥料は,継続的に窒素を供給することができることから,果樹栽培においても環境負荷低減,省力化等の観点から有効であると考えられる。なお,肥効調節型肥料は地温により窒素の溶出速度が強く影響されるので,11月上旬施用の時期を厳守し,施肥時期を逸した場合は,肥効調節型肥料ではなく有機配合肥料を施用する。また,肥効調節型肥料施用の場合は,土壌条件は問わないが,土壌が過乾のときは窒素の溶出やその根群域への浸透が遅れるおそれがあるので注意する。

 肥効調節型肥料の溶出時期と樹体の栄養管理のマッチングについて,春秋重点溶出型と夏重点溶出型のそれぞれの特徴を活かした新たな組み合わせを試験するとともに,中晩柑,ナシ等の落葉果樹でもその窒素吸収時期に応じた肥効調節型肥料の検討を実施している。

 また,この試験期間においても,年による降水量の変動がかなりあるので,気象変動にも耐えうる肥効調節型肥料の配合内容となるよう,重ねて検討する。

Summary

1)収量は,肥効調節型肥料の7割量施用では年により傾向が異なるが,累計収量は対照区(累計収量指数100),夏重点溶出型区(100)がやや多く,次いで均等溶出型区(94),春秋重点溶出型区(92)の順であった。春秋重点溶出型区は隔年結果の傾向が他の区より大きかった。

2)果実の糖度は,夏重点溶出型の肥効調節型肥料7割量を施用した区は有機配合肥料の対照区より高かった。

3)果皮の着色は,春秋重点溶出型の肥効調節型肥料7割量を施用した区が有機配合肥料の対照区より優れる傾向にあった。

4)葉中窒素濃度の年次変化(9月)は,有機配合肥料の対照区で大きく,1997年,1998年,1999年では夏重点溶出型の肥効調節型肥料7割量を施用した区が有機配合肥料の対照区より高かった。